TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──反乱都市//爆撃
その翌朝、私たちはガイウスに会った。
「決断されましたか?」
ガイウスはそう尋ねてくる。
「ああ。やろう」
ソフィアはそうはっきりと答えた。
ガイウスはその言葉を受けて満足げな笑みを浮かべる。
「そう仰ってくれると思っていましたよ。では、始めましょう」
「いや。攻撃に参加するのは私とリンクスだけだ。そちらは離れていてくれ」
「……よろしいので?」
「構わない」
ガイウスたち帝国軍に私の魔法のことを可能な限り知られないようにソフィアは気を配ってくれている。
実際に私が無詠唱であの爆発魔法を引き起こしたと彼らに知られれば、あまりいい結果にはならないだろう。
異端として迫害か、あるいは一生大砲替わりか。
「では、狙うべき目標を指示します」
ガイウスはそう言って地図を広げる。
そこには西部連合が立てこもる都市の図が描かれていた。
「まずはこの城門を爆撃で破壊していただきたい。城門を突破できれば都市の制圧は容易になります。それから──」
ガイウスが指さすのは都市中心部にある公園。
「この地点に敵魔法使いの布陣を確認しています。これを粉砕していただきたい。魔法使いが健在である限り、我々の側の損害は避けられませんから」
「都市の中央か……」
都市の中央には市庁舎や神殿などの施設が位置していると地図には記されていた。
そこに私の魔法を叩き込めと言われるのにソフィアは険しい表情を浮かべている。
「……分かった。善処しよう」
ソフィアはガイウスの指示に頷くと私と都市の方を目指した。
「リンクス」
ソフィアが都市からある程度離れた地点で私に声を掛ける。
敵のバリスタや魔法の矢が届かない距離の場所だ。
この地点からでも戦場に散らばった兵士の死体は見えるし、それが腐敗していく臭いも漂ってきた。
そんな死体の向こうに破損した城壁が見えた。
クイントゥス将軍の猛攻を退け続け、死体の山を作った城門も見える。
「……やれそうか?」
「はい」
ソフィアが最後の確認のように尋ねるのに私は頷く。
「なら、行こう」
ソフィアが先に飛び立ち、続いて私が飛行魔法で飛び立った。
上空に飛び上がった私たちにはまだ何の攻撃も飛んでこないが、それは単に射程の外にいるからだ。
これから接近すればバリスタや魔法による攻撃が飛んでくるだろう。
「敵の攻撃は私が防ぐ。お前は攻撃に集中しろ」
「了解」
ソフィアが私の前を飛んでそう言い、私たちは目標に接近する。
まず狙うのはは城門だ。
「敵の魔法使いはまだ気づいていないようだ。偵察だと思っているのか」
ソフィアは地上の様子を注視しながらそういう。
まだ地上で青白い光が生じる様子はなく、魔法使いの攻撃の気配はない。
しかし、バリスタなどの重装備は動き始めていた。
「リンクス。攻撃を急げ。敵の歓迎が始まる」
バリスタの動きに気づいたソフィアがそう言い、バリスタと私の射線の間に立つ。
そして、城壁のバリスタが私たちに向けて攻撃を放ってきた。
ソフィアの魔力装甲にそれが衝突し、青緑色のそれに波紋が生じる。
そうやってソフィアがそれを防ぐ中、私はしっかりと狙いを城門に定めた。
城門にはやはり守備隊の兵士たちがいる。無数の兵士たちがいる。
だが、それはソフィアを攻撃している人間だ。
私たちの敵だ。
敵は殺せ。そうしなければ私たちが死ぬ。
ソフィアは正しい。
「……えい」
私は城門に向けて爆轟魔法を放った。
爆発前の一瞬全てが静まりかえるような感触。
本当は静寂など全く訪れておらず、戦場は怒号と悲鳴で騒がしいままなのだが、私だけは音を感じなくなった。
不思議なほどに穏やかな空気──。
その直後に爆音が響いた。
オレンジ色の炎が瞬くと、それにやや遅れて鼓膜が破れそうなほどの爆発音が響き、爆炎が舞い上がる。
灰色の煙が衝撃波とともに広がり、その煙に覆われて城門が見えなくなった。
「やったか……」
ソフィアと私は灰色の煙が晴れるのを待つ。
煙はゆっくりと引いてゆき、それから見るも無残な様相になった城門が見えた。
城門はクレーターの中に沈み、城壁にはぽっかりと穴が開いた。
「上出来だ、リンクス。次の目標に移るぞ」
ソフィアはそう私を誉め、彼女が先行して都市上空に移る。
高度は落とさず、私たちは都市上空を飛行。
地上から投石や矢を射かける人間の姿が見えるが、私たちには届かない。
しかし、警戒しなければいけないのは敵の魔法使いだ。
彼らの攻撃は間違いなく私たちに通用する。
「来たぞ、攻撃だ。回避行動を!」
地上で青白い光が瞬き、それからすぐに魔力の矢が飛んできた。
私とリンクスはそれぞれ違う方向に回避し、魔力の矢を避ける。
当然と言うか敵は脅威に見えない私よりもソフィアの方を狙っていた。
魔力の矢はソフィアに向けて何発も放たれ、彼女は魔力装甲でそれを防ぎ、高速の飛行魔法で回避する。
私の方には少数の魔力の矢が飛んでくるだけ。
舐められている。
「師匠。こちらから攻撃する。いいですか?」
『……ああ。やらなければ私たちがやられる』
私の念話にソフィアはすぐに返答し、私は地上に向けて狙いを定めた。
狙いは都市中央の公園。
そこから魔力の矢は放たれ続けていた。
狙いはほぼソフィアに向けられている。
私はほぼノーマークであり、攻撃は容易だ。
「魔法使いの数は……12名」
魔法使いたちは木々の茂る公園に広く展開しており、確実に仕留めるには威力の高い爆発が必要になる。
大きな爆発、大きな爆発、大きな爆発……!
「えいっ」
私は掛け声にも満たない声を上げ、公園のちょうど中心部に炎が生じた。
そして──爆轟が広がる。
都市の中心部に生じた爆発は私の思った以上のものだった。
公園は確実に吹き飛ばせたが、それ以上に被害が広がった。
市庁舎が崩壊し、神殿が崩れ、その周辺の建物も飴細工のように吹き飛んでゆく。
私自身も衝撃に揺さぶられ、危うく落ちかけたほどに威力が高い。
衝撃波と煙に呑まれ、周囲が見えなくなった。
「師匠!」
もしかしたら、ソフィアも巻き込んだかもしれないと思い、私は念話で叫ぶ。
返事がない。
……まさか、私は本当に……。
『──リンクス、リンクス! 無事か!?』
しかし、大丈夫だった。
ソフィアからはすぐに答えがった。
向こうも私が爆発に巻き込まれたのではないかと心配していたようで、声には焦りの色が見られる。
「師匠。こっちは大丈夫です。師匠は?」
『無事だ。しかし……』
私が安堵する中、ソフィアが飛行魔法で私のそばにやってきた。
「これは……」
地上はクレーターに沈んでいた。
それはまるで大規模な戦略爆撃にあったあとのドイツの都市みたいな光景で、建物の窓はすべて吹き飛び、壁は破壊されて、今も炎上している。
……何人死んだんだろう。
人口2万人ほど都市は攻城戦と私の攻撃で半分以上が破壊されている。
ここまでの爆発を起こすつもりはなったが、完全に爆発が制御できなかったのだ。
「師匠。もしかして、私は……間違った……?」
あまりの被害に心配になって私はソフィアにそう尋ねた。
「……いいや、リンクス。お前は敵を倒しただけだ。大丈夫だ」
そんな私にソフィアは絞り出したような声でそう言い、私の頭をそっと撫でた。
「さあ、戻ろう。これで帝国軍もこの都市を奪還できるだろう。これ以上、無駄に人が死ぬことはない」
「……はい」
私は今も煙を上げる都市を背後に帝国軍の本陣に戻る。
その途中、ソフィアは私の手をずっと握ってくれていた。
スラムから私を連れ出してくれたときみたいに。
だから、私は不安にならずにいられた。
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