外れ者たちのバラッド~死神オルクと笑わない魔導士~   作:宮塚慶

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第17話 どれだけ伝えても

「――以上が、あたしとオルクさんの出会いと旅の思い出です」

 

 セルピナさんに向けた過去話に一区切りつけると、あたしは息を吸い込んだ。

 

「セルピナさんに比べれば、あたしの過去なんて大したものじゃないですけど」

「いえ。良い話を聞けました」

 

 話を聞いている間、セルピナさんはとても優しい表情をしていた。

 だから、今の感想もお世辞ではなく本心だと信じられる。

 決して笑いはしないけれど、他人が嫌いなわけではない。彼女はそんな人だ。

 

「政治利用にしか価値がないと思っていたあたしの人生に、自由な冒険という日々をくれたオルクさんは()()だったんです」

 

 セルピナさんにとって、オルクさんの能力(スキル)は死という救済をもたらす福音だった。それは一つの答えだと思う。

 それでもあたしは命を尊ぶべきだと考える。彼と旅をした半年ほどの時間は、あたしに広い視野を与えてくれた。

 女神の加護を持つ勇者だからではなく、オルク・フェブルスという個人から貰った自分なりの結論だ。

 死にたいと思っている人に、生きろと伝えるのが無責任なのは分かっているけれど……。

 

「旅をした場所は、どこも今の世に困っていました。けど、みんな生きる力に満ちていたんです。それを知って、あたしは自棄になっていた自分を改めました」

「……たしかに、私はトリストリアから出たことはありません。世間のことも分かっていないでしょう」

「じゃあ!」

 

 一緒に旅をして欲しい。

 世界は広いのだ、こんなところで短い生涯を終える必要はないんじゃないか。

 しかし、彼女はこちらの言葉を待たずして結論を口にする。

 

「ですが、私の力は争いを呼びます。不死の存在はそれだけ強力なのです」

 

 あまりにも頑なな態度に、次の言葉が出てこない。

 何を言っても決意が変わらないほど、辛い経験をしてきたんだろう。

 死なない体ということは、どれだけ無茶をしても戦い続けられる。でも痛みが消えるわけじゃない。

 どんなに苦しくても、戦場に立ち続ける兵士。

 壮絶な人生だったことは容易に想像がつく。

 

「あたし。あたしは……」

 

 なんとか説得したいのに。

 結局、国から逃げ出した世間知らずのお姫様程度では、本当に死を望む人に寄り添うことはできないのだろうか。

 そう思うと、自然と涙が零れてくる。

 本当に泣きたいのはセルピナさんのはずで、自分の感情を優先するなんて自分勝手な感傷でしかない。

 分かっているのに、止められなかった。

 

「……ミンテ」

 

 セルピナさんが、そっとあたしの頭を撫でる。

 その手がとても温かくて、胸の奥が引き裂かれそうなほど苦しい。

 

「う、うぅっ……! あたし、セルピナさんに死んでほしくないんです……!」

 

 三日間の短い道のりだったけれど、ここまでの旅でセルピナさんは楽しそうにしていた。

 表情には出ない。でも確かに愉快な時間を共有できていたはず。

 それに、この人は悪い勇者じゃない。

 もちろん軍人だし、これまで沢山人を殺めてきただろう。エリバの件ではあたしもまざまざと見せつけられた。

 でも彼女は死を弄んだりしない。自分の出世や傲慢のために力を使ったりもしない。

 あたしが探し求めていた人だった。オルクさんの隣で、勇者の辛さを分かってあげられる人。

 色々な感情が綯い交ぜになって、結局あたしはワガママな言い方をすることしかできない。

 

「セルピナさん……! うわぁぁぁあっ!」

 

 時間切れ。

 与えられた猶予を活かすことはできなかった。

 

 ◇

 

 教会跡に戻ったあたしとセルピナさんは、長椅子の一つに腰を下ろした。

 此処には屋根がある。雨風が凌げるのでそのまま夜を明かすことになりそうだ。

 離れがたくて、あたしはセルピナさんにギュッとくっついてみる。

 

「ミンテ?」

「ごめんなさい。眠りづらいかもしれないけど、今日だけこうさせてください……」

「……分かりました」

 

 その体温はやっぱり温かい。

 セルピナさんに巡る血液の力強さを感じていると、彼女は唐突に言った。

 

「ミンテは、オルクのことが好きなんですね」

「……うぇ!?」

 

 急に何の話だろう。

 あたしは、別の椅子で目を閉じているオルクさんを見る。眠っているのか、ただ黙っているだけなのかは分からない。

 聞かれていたら嫌だな、と思いながら答える。

 

「好きですよ」

 

 誤魔化しのない言葉。

 いや、これだけだと誤解されそう。慌てて補足する。

 

「れ、恋愛とかじゃないですよ! ただオルクさんって、放っておけないんです」

「放っておけない?」

 

 セルピナさんが疑問を向ける。

 あたしは大きく頷いて、話を続けた。

 

「あの人は復讐に燃えているように見えて、本当はいつ死んでもいいと思っているんです。今はあたしがいるので多少抑えてくれてますが、きっと無茶な依頼を受けて死んじゃうつもりで」

「……」

「ホント、勇者って何なんですかね! みんなすぐ死にたがって、ヤダヤダ!」

 

 わざとらしく拗ねてみせる。隣のセルピナさんは何も言わなかった。

 オルクさんはずっと寂しそうにしている。村の人たちを守れず、自分一人だけ生き残ったことに負い目がある人だ。

 そしてセルピナさんも、どんな過去があろうと今は目の前で生きている普通の人間。

 共通しているのは、どちらもあたしに優しい良い人ということ。なんで良い人が死なないといけないのだろう?

 いや、二人だけじゃない。

 

「みんな、女神様から加護をもらって。最初は世界を救う希望を持っていたはずなのに」

 

 あたしと関わりのあった三人の勇者。その内二人をあたしは好きになった。

 きっと、他にも良い勇者がいるはずだ。この広い世界を旅していけば、様々な出会いが待っている。

 そんな旅へ、セルピナさんも一緒に……。

 今日は考え過ぎて疲れてしまった。思考が朧げになっていく。

 深い眠りの気配が迫り、意識が途切れる直前。セルピナさんの声が聞こえた気がした。

 

「ありがとうございます、ミンテ」

 

 それが何に対する感謝なのか、考える間もなくあたしは暗い闇の中に沈んだ。

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