外れ者たちのバラッド~死神オルクと笑わない魔導士~   作:宮塚慶

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第24話 王宮の再会

 ――今から一時間ほど前。

 

 宿を出た俺は、ミンテの足取りを軽く調べ始めた。

 あいつは普段質素な服を着ているが、元々王族だったこともありそれなりに見栄えが良い。その上、10歳の少女が治安の悪いトリストリア下層を一人でうろついていれば嫌でも目立つ。

 おかげで、聞き込みを始めると案外あっさり動きが見えてきた。

 中でも気になったのが、上層行きのエレベーターに乗ったという目撃証言。

 普通、下層の人間はあのエレベーターを使えない。権限が必要なわけではないが、見張りの兵士が独断で間引いているのが実情だ。

 しかし、聞いた範囲だとミンテは特に揉めることなくそこを突破していったらしい。

 そこで俺は思い当たった。

 

「あの馬鹿、ザグレーンの姫だと名乗りやがったのか……?」

 

 ザグレーン第二王女、ミンテ・ザグレーン・メリーノ。

 その名を使えばあそこを通過できる可能性は大いにある。

 上層に向かったとすれば目指す先は一つ、セルピナが連れ戻されたというトリストリア王宮だろう。

 いくら無鉄砲なやつとはいえ、まさか城の中にまでは入っていないと思うが……。

 

「城の周囲で不審者として捕まってたりすると面倒だな」

 

 捕まっていたところで助ける義理はない。

 ないが、あいつが俺の名を口走る可能性は否定できないわけだ。

 仕事柄、現在の居場所が露呈するのは厄介極まりない。なのでミンテは回収しておくべきだろう。

 それだけ。ただそれだけの理由で、俺はあのお転婆娘を探している。

 

「とりあえず、上に向かうか……」

 

 ミンテと違い、俺にあのエレベーターを使うことはできない。

 別ルートとしていくつか裏口も把握しているが、どれも回り込むには時間が掛かったり、特別な伝手を頼る必要がある。

 帰ってこないミンテのことを思うと、最悪を想定して早めに動きたい。

 

「ちょっと荒っぽい手で行かせてもらうか」

 

 判断するや否や、早速俺は下層を巡回している兵士の一人に詰め寄った。

 

「一人で警備は迂闊じゃねーか?」

「なっ!? 貴様、何を――」

 

 有無を言わさず、そいつを人目につかない裏手に連れ込む。さっさと首を絞めて意識を失わせた。

 殺さなかっただけありがたいと思ってほしい。

 俺は装備を拝借して全身に着込む。末端の兵士だったのか、手持ちの軽装では顔すら隠せていないが……バレないことを祈るしかないだろう。

 

「お疲れ様です」

 

 エレベーターに向かい、何食わぬ顔で兵士に挨拶をした。

 不愛想な兵士は眠そうな目でこちらを一瞥すると、確認もせずに通してくれる。とんだザル警備だ。

 だからこそミンテも簡単に突破できたんだろう。

 今は不真面目な彼に感謝。エレベーターに乗り込み、上層へと辿り着く。

 

「王宮は……あっちか」

 

 周囲を確認。金持ち共の匂いがする厭らしい街並みに辟易する。

 それでも兵装のおかげであまり目立っていないようだ。周囲の目を気にせず歩いていく。

 とはいえ、流石に正面から城に入るのは警戒されるだろう。

 そもそもミンテが城の外にいてくれればそれで解決なのだが、辺りを見回してもそれらしい人物は見当たらない。

 

「王族を名乗って、パーティにまで参加してたら笑い者なんだがな」

 

 いくらミンテと言えどそこまでの行動力はあるまい。

 俺は自身の想像を鼻で笑いながら、万が一を想定して城の外周を確認し始めた。

 

 ◇

 

「よう。こんなところで何やってんだ? クソガキ」

 

 城の排水口らしき水路を抜けると、そこは中庭だった。

 静かに降り立って辺りを見る。すると、低木の影に隠れる見知った人物に出くわした。

 いきなり正解を引けたのは上々か。

 半ベソを掻いた少女――ミンテが俺の顔を見て破顔する。

 

「オルクさん!」

「デカい声を出すな。……って、なんだその恰好は」

 

 ミンテはオレンジ色の眩しいドレスに身を包んでいた。いかにも社交パーティ参加者然とした恰好だ。

 まさか本当にパーティまで潜入していたのか? その行動力には驚かされる。

 とりあえず、何から隠れるにしてもその服だと目立ち過ぎるだろう。俺は元々着ていた自分の服を適当に当てがってやる。

 

「ありがとうございます。……これはその、色々ありまして」

「そうかよ」

「って、オルクさんもなんでトリストリア兵の姿を? というか、どうしてここに?」

「あー……。たまたま拾った服で散歩してたら、城に迷い込んだだけだ」

 

 何も考えていない曖昧な言い分で話を終える。

 するとミンテはクスクスと笑い始めた。この状況で何がおかしいのやら。

 

「ふふっ。オルクさんって、本当に素直じゃないですよね」

「あ?」

「いえ、なんでもないですよー」

 

 なおもニヤニヤしているミンテ。

 なんというか、思ったよりも元気そうで拍子抜けである。

 こんなところまで勝手に出歩いていたことを叱ってやりたかったが、先に状況把握をしたい。

 俺はミンテの隣にしゃがみこんで、周囲を警戒しながら聞く。

 

「で、ミンテは何に追われてるんだ?」

「クレニス卿と、その部下の人たちです……かね」

「待て。お前、セルピナを連れて行ったあの男と接触したのか?」

 

 コクりと頷くミンテ。

 いくらなんでも大胆過ぎるだろう。セルピナを探しに来て、連れ去った当人と邂逅したのか?

 聞きたいことがどんどん増えていくが、なおさらこんなところで話し込んでいる場合ではない。さっさと宿に戻るべきだ。

 

「とりあえず脱出するぞ」

「あの、オルクさん! セルピナさんが近々拷問を受けるそうなんです、なんとか助けてあげられませんか?」

 

 拷問。これまた、トリストリア王国では随分と非人道的な所業をしているんだな。

 しかし、セルピナを救うかどうかは今も慎重にしなければならない。

 

「今すぐとはいかない。セルピナの捕まっている場所は?」

「そこまでは……聞けてません」

「なら助けるにしても、城の構造を理解しないといけない。一度話を整理すべきだ」

「うぅ。分かりました」

 

 渋々立ち上がったミンテを連れて移動を開始する。

 が、そこで一人の兵士に見つかった。

 

「おいお前、そんなところで何をしている? どこの所属だ?」

 

 ギリギリ、まだ俺を軍の仲間だと思っている質問だ。疑われているとはいえ、隙を突くなら今しかない。

 相手は一人。時間を掛ければ他の仲間が出てくるかもしれないし、ここは即断即決でいこう。

 

「ミンテ、ちょっと離れてろ」

「は、はい! ……あの、なるべく殺さないようにしてくださいね?」

 

 そんな余裕があるかは知らないし、約束はできない。

 俺は黙って剣を抜き、すぐさま相手に斬りかかった。

 

「ぐっ!? 何をする!」

 

 驚きながらも、腰に下げていた剣を取り出してすぐさま応戦してくる兵士。

 流石に城内を護っているやつは反応速度もそれなりにあるか。今日は王族や貴族も集まっているし、しっかりと警備しているのは腐っても大国だと言える。

 鍔迫り合いを押し切って、相手を弾き飛ばす。

 

「賊だ! 至急応援を――」

 

 相手が叫び声をあげようとしたので、俺は慌てて接近。

 そのまま刃を向け……ミンテの言葉がよぎって、大剣の面部分で殴りつけた。

 くぐもった声をあげて兵士は気絶する。

 

「よし、さっさと逃げるぞ」

「お願いまで聞いてくれてありがとうございます、オルクさん」

「こんなところで無駄に足がつくと困るだけだ。いいから走れ」

「ふふっ。はい!」

 

 だから、何を余裕ぶって笑ってるんだこいつは。

 俺は元来た水路を逆走し、ミンテと共にさっさと城外へと脱出することにした。

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