外れ者たちのバラッド~死神オルクと笑わない魔導士~   作:宮塚慶

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第28話 最終決戦

「……」

 

 セルピナは目を伏せたまま答えない。

 ただ俺の気のせいかもしれないが、いつも変わらない表情が少しだけ動揺しているように見えた。

 

「俺はやりたいようにやる。復讐だろうと何だろうとな。だから、お前も素直になったらどうだ?」

 

 彼女は自分の気持ちに嘘をついている。

 自分を殺してほしいと依頼してきた癖に、連れ戻される時はあっさりと身を委ねた。人生を諦めて、なるようにしかならないと決めつけている。

 だが、俺は他人に縛られる生活は御免だ。この復讐も正義感や勇者の使命ではなく、俺自身のために成し遂げる。

 そんな決意を胸に刻んだ発言だったが、セルピナの隣で話を聞いていたミンテが突然吹き出した。

 

「ぷぷっ」

「おい、何がおかしい?」

「い、いえ! オルクさんが、素直にって……! どの口が言って……いひひひ」

 

 堪えようとして変な笑い方をしているミンテに、俺は呆れかえる。

 別に変なことは言ってないんだが、何がおかしいんだこいつは。

 

「オルクさんって本当に不器用ですよね」

「何言ってんだお前?」

「あーはいはい。恥ずかしいならあたしが言ってあげますよー」

 

 訳知り顔で俺の疑問を受け流してくる。なんだか知らないが凄くムカつくぞ。

 ミンテはそのまま、セルピナの方へ視線を送った。

 

「セルピナさん。オルクさんもあたしも、セルピナさんに自由になって欲しいと思ってるんです」

「んなこと言ってねぇよ」

 

 代弁する振りをして、勝手に人の意見を書き換えないでくれ。

 俺は好きにすればいいと助言しただけだ。

 しかし、相変わらず強情なセルピナは首を横に振る。

 

「……前にも言ったはずです。私の力は争いを引き寄せる。逃げられるものではありません」

 

 やはり諦めムードの彼女に、俺は告げる。

 

「どうなるかなんて聞いてるんじゃねぇよ。どうしたいかだ」

「どう、したいか……?」

 

 思ってもみなかったという風に、意外そうな顔をしているセルピナ。

 彼女は物心ついた時から軍にいて、あのヘリオとかいうクソ勇者の言いなりで生きてきたはずだ。自分がどうしたいかという部分に頓着がないのも仕方ない。

 けれど一度は軍紀を破ってまで俺に依頼を出したんだ。一緒に故郷を見に行き、自分の命を散らす覚悟までした。

 それは間違いなく、セルピナ自身の意思だったはずだ。

 彼女は自分の気持ちを確認するように、胸に手を当てている。

 ついでに、俺はもう一つ考えていたことを伝えた。

 

「あと、セルピナからは勇者暗殺の前金だけ貰っているからな。……このまま見捨てたんじゃ寝覚めが悪いだろうが」

 

 俺にセルピナを助ける理由があるとすれば、既に報酬を貰っていること。

 このまま彼女を放置するのは仕事人としての義に反する。それだけだ。

 そう思って口にしたんだが、またしてもミンテがニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている。

 その顔のまま

 

「ね?」

 

 とだけ口を開いた。

 それを見て、セルピナも頷く。

 

「ですね」

 

 何が、ですね、なんだ?

 勝手に納得している二人を問い詰めようかと思ったが、そこで再び地下に向かってくる何者かの足音が響き渡る。

 俺は咄嗟に大剣を握り、牢の入り口側を警戒した。

 現れたのはクレニス。ヘリオの姿はない。

 

「何故生きている?」

 

 俺とミンテが健在なことに驚いたのだろう。

 こちらを凝視しているクレニスに、俺は不敵な笑みで返してやった。

 ミンテが叫ぶ。

 

「クレニスさん! お願いです、話を聞いてください!」

「ミンテさん……」

 

 こちらが生きているのを見て、クレニスは困惑の中に安堵が混ざったような複雑な顔をしている。

 ミンテに好意があるという話はあながち嘘ではないようだ。

 しかし、瞬時に表情が切り替わる。情念を振り払うように、彼はロクザの村で会った時と同じ軍人の顔つきになった。

 どうやら、やる気らしい。

 

「私自身の手で介錯するのは心苦しいですが……仕方ない」

 

 腰の鞘から剣を抜き、構えるクレニス。

 俺も大剣を相手に向けたまま、全身を視界に捉えて間合いを計る。

 相手はトリストリア王国の戦闘指揮を執る将軍だ。俺もここまで生きてきた剣の地力はあるつもりだが、戦争を生業としている人間に何処まで通用するのかは分からない。

 緊張感が体を包み込む。

 するとそこで、セルピナが前に出てきた。

 

「私がやります」

 

 言いながら、彼女はグッと拳を握り込む。

 牢屋で拷問を受けていたからか、今のセルピナは杖などの装備を持っていない。

 生身でクレニスに立ち向かうつもりだ。

 思わず問いかける。

 

「できるのか?」

 

 丸腰で敵う相手ではない。

 だがセルピナは、鋭い目つきの中に戦いの闘志を燃やしていた。

 

「杖がなくても、多少の魔法は使えます。……それに」

 

 彼女はこちらに振り向き、しっかりと頷いた。

 

「どうなるかではなく、どうしたいか。なのでしょう?」

「……そうだな」

 

 どうやら、こいつもやりたいようにやることを選んだらしい。

 ならば俺が口出しするのは無粋だな。

 

「ここは任せるぞ」

「はい。オルクはヘリオを追ってください。いつもと同じなら彼は王宮の上階、玉座の間にいるはずです」

 

 情報を聞き届ける。

 それにしても玉座を根城にしているとは、本当にこの国を治める影の支配者を気取っているらしいな。

 ならば、ふざけた鼻っ柱を折ってやるまで。

 が、その前に一つだけ確認しておかないといけない。

 

「ミンテはどうするんだ?」

「……あたしは、残ってクレニス卿を説得してみせます」

 

 話して聞くような輩には思えないが、ミンテは随分と相手に入れ込んでいるらしい。

 これも、ミンテがしたいようにすればいいさ。

 彼女ができると言っているからには、きっと説得できるんだろう。

 

「分かった」

 

 短く返事をして、そのまま俺は牢の出口目掛けて駆け出す。

 不意を突いた動き。クレニスの反応が遅れた隙に、その横を一気に潜り抜けた。

 慌てて剣を振るう敵の姿が視界の端に映る。そこで敵との間にセルピナが飛び込んできた。

 

「――光の守護領域(フォス・トイホス)

 

 短く詠唱が行われ、暗い地下空間に眩い壁が形成された。

 薄い壁はクレニスの剣によって即座に粉砕されるが、勢いを殺すことに成功する。俺はそのまま地下牢を脱出した。

 

「セルピナ! 貴様、主君を裏切るつもりか!」

 

 怒鳴るクレニスの声が背中に響く。

 

「急いでくださいオルク!」

 

 再び後ろで発光が起きて、剣がぶつかって壁が割れる音が轟いた。

 戦いの気配を感じつつ、俺は振り向くことなく地上へ向けて階段を駆け上がっていく。

 ここまで派手に動いた以上、もう失敗は許されない。

 俺はここで復讐相手――ヘリオを確実に討つ。

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