外れ者たちのバラッド~死神オルクと笑わない魔導士~   作:宮塚慶

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第31話 圧倒的な力

 玉座の間があるという城の上階を目指し、俺は駆け抜ける。

 警備兵と思われる人間は割と呑気にしていて、こちらに何者かと問いかけては来るもののいきなり襲ってきたりはしない。

 俺は話しかけてくる相手をすべて無視してひたすら突き進んだ。

 地図を頭に叩き込んできているので、城の構造自体は分かっている。

 あとは一直線に進むだけ――

 

「待て! 貴様、何用だ!?」

 

 ――というほど簡単ではなさそうだ。

 流石に兵士たちの中にも差があって、最初からこちらを敵視してくる者もいる。

 城を守る人間としては正しい反応だが、今の俺に関わっている時間はない。

 

「どいてもらうぞ!」

 

 俺は大剣を手にして、向かってくる兵士に斬りかかる。

 が、直前でミンテの言葉が頭をよぎった。

 

 ――あの、なるべく殺さないようにしてくださいね?

 

 あいつの見ていないところで律儀に約束を守ってやる義理はないが、俺も鬼ではない。

 事情を知らないであろう一般兵には眠ってもらおう。

 剣の腹でぶん殴って相手を気絶させる方法で、なんとか切り抜けることにした。

 

「がァっ!?」

 

 相手が完全に戦う構えをとるより前に昏倒させる。

 これはこれで可哀想な気もするが、まあ死ぬよりマシだろう。

 その後も道中の兵士を三人ほど相手したところで、いよいよ玉座の間が見えてきた。

 玉座にしては警備の数も少ない気がしたが、よくよく考えるとそろそろ時間は深夜に差し掛かっている頃。

 王様の生活は知らないが、おそらく今の玉座には誰もいないんだろう。……本来は。

 

「ヘリオの存在は、一般兵にも知られていない……か」

 

 情報屋にも存在を認識されていなかった勇者、ヘリオ。

 城内で周知の事実なのであれば、自ずと外にも噂が漏れているはずだ。

 となれば、彼のことはクレニスやセルピナといったごく一部の人間しか知らないと見るのが正しい。

 勇者様ともあろう人間が、随分と用心深いことだ。

 

「いよいよ、決着の時だ」

 

 玉座の間に繋がる扉の前に辿り着き、俺は気持ちを整える。

 長かった復讐の旅に終止符を打つ。あの男を倒すことが、俺のたった一つの目的。

 それに今はセルピナの過去も背負っている。俺と同じように故郷を焼かれた彼女の痛みも分かってやれるつもりだ。

 あとは、ミンテも。勇者の善性を誰よりも信じていたあいつは、ヘリオの所業を耳にして何を思っただろう。

 すべてがここで終わる。俺の手で終わらせる。

 意を決して、俺は扉を開いた。

 

「……へえ。これは驚いたな」

 

 どっかりと玉座に座って書物を読み耽っていたヘリオが、俺を見て声をあげる。

 勇者たる者、自分の能力(スキル)には自信があったはず。その力を使った相手が生きていたのだから驚くのは当然だ。

 それでも、ヘリオは本を閉じると極めて冷静に話す。

 

「僕の邪毒災禍(ヴェノムディザスター)をどうやって突破したのかは分からないけれど……わざわざ逃げずにここまで来たんだ?」

「俺の目的は、最初からアンタの始末だ」

「村の復讐ってわけかい? 無謀だね」

 

 言いながら、ヘリオはゆっくりと立ち上がった。

 自身の剣を抜き放ち、静かに臨戦態勢をとる。

 

「言ったはずだよ。すべては平和のために必要なことだったと」

「それで納得できると思ってんのか?」

「してもらわないと困る。それが勇者の言葉なのだから」

「あいにく俺は勇者ってのが嫌いでね。アンタのせいでもあるが」

「それは残念。君は優秀な戦士みたいだし、嫌われてなければトリストリア王国で働いてほしかったけれど」

 

 どれだけ話してもすかした態度の男だ。

 のんびりお喋りをする必要はない。俺は相手の出方を窺いながら構える。

 ヘリオもこちらに踏み込もうと剣の切っ先を向けた。

 一瞬の静寂。

 そして。

 

「やろうか、侵入者くん!」

 

 言いながら、ヘリオが飛び込んできた。

 とんでもない速度で俺の間合いに入ってくる。慌てて剣を動かし攻撃を防ぐが、すぐさま二撃目の刺突。

 俺は寸でのところでそれを回避して、返しの一撃を振るった。

 

「ふむ、筋は悪くないけれどうちで働くには一枚落ちるかもね」

「黙れ!」

 

 余裕ぶった発言と共に、攻撃を弾き返すヘリオ。

 そのまま返す刀で強襲してくる。俺は急いで飛び退いた。

 

「勇者に立ち向かう胆力は褒めてあげよう」

「チッ!」

 

 ヘリオの動きはとにかく素早い。こちらへの狙いも正確だ。

 今のやりとりだけで、手数の差や太刀筋の鋭さを見せつけられている。

 少なくとも奴は今の立場に驕らずに鍛錬を積み重ねてきた人間の動きをしていた。

 癪に障る野郎だ。

 

「さて、と……じゃあ終わりにしようかな」

 

 ヘリオは剣を指揮棒のように振るう。

 先ほど地下でも見せた動き。邪毒災禍(ヴェノムディザスター)を発動させようという動作だ。

 これはチャンス。向こうが俺の能力(スキル)に気づいていないうちに不意を突ければ。

 様子を見ているうちに周囲が毒霧に包まれていく。

 

「暇つぶしにはなったよ、ありがとう」

 

 濃い瘴気が部屋に充満し、視界が塞がれていった。

 相手の姿すら覆い隠すほどの靄。見えなくなる直前、ヘリオは嗤っていた。

 これで俺が死ぬと分かっているのだから下手に動いたりしないだろう。相手はまだ正面にいるはず。

 充分にタイミングを見計らってから、油断したところを斬る。

 数瞬だけ俺は動きを止めた。

 ……今!

 

「喰らえ!」

 

 前に踏み込んで、ヘリオに斬りかかる。

 だが、俺の攻撃は空振りで終わった。

 

「何!?」

 

 その瞬間、背中側に敵の気配。

 振り向く間もなく、俺は縦振りの一撃で斬りつけられる。

 

「ぐあッ……!」

「ふーん」

 

 攻撃しつつ、何の感慨も無さそうに声をあげるヘリオ。

 斬られて倒れ伏せる俺を見る冷たい目つきに、ここに来て恐怖を感じ始めていた。

 奴は命のやり取りを何とも思っていない。侵入者の襲撃も、奇襲を仕掛けられても、逆に自分が上手く出し抜いたとして動揺も感慨もない。

 化け物だ。常に笑顔を見せている癖に、感情を持たない化け物。

 

「どういうワケか知らないけれど、君は僕の能力(スキル)が効かないみたいだね」

「……クソったれが」

 

 背中に鋭い痛みと熱を感じる。血が出ていることは分かるが、実感がない。

 それよりも、俺の力ではこいつに一泡吹かせることすらできなかったという事実に打ち震えている。

 ヘリオは動揺すらしていなかった。

 

「あの地下牢から無傷でここに来た時点で変だと思ってたんだ」

 

 読まれていた? そんな馬鹿な。

 

「セルピナが脱走したと聞いた時にね、もしかしてと思っていたんだよ」

「……何?」

「あの子は自身の呪いから逃げられない。決して死なないという呪いからね」

 

 セルピナ自身も言っていた。

 逃げ出したところで、不死の力は争いを引き寄せるものだと。

 その考え方はヘリオにも共有されていたということか。

 

「だから彼女が逃げ出すなら、自分の命を終わらせる方法が見つかったんじゃないかと考えたんだ。死なれては困るから急いで回収したんだよ」

 

 セルピナが軍に背くというのは、それだけの異常事態だったわけだ。

 そしてこいつは頭が回る。セルピナの能力《スキル》を超越した何らかの方法があるのでは、と考えていた。

 最初から、俺の存在は読まれていたのか。

 

「さあどうする? 女神の加護を無効化できるらしい侵入者くん」

「クッ……」

「いや、侵入者くんなんて他人行儀は止めようじゃないか」

 

 倒れる俺に向かってしゃがみこんでくるヘリオ。

 そのまま髪を掴まれ、顔を引き上げられる。

 眼前でなおも笑顔を崩さない相手に、俺は憎悪と恐怖でおかしくなりそうだった。

 ヘリオは告げる。

 

「君だろ? 各地で勇者を狩ってる<死神オルク>とか言うのは」

 

 ああ、そうか。

 全部バレていたんだ。

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