ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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原罪

「母様、やりました!やりましたよ!皆、殺してやりました!」

「……よく、やりました……グレイス」

 

 これが私の起源。

 母に習った魔力刃の魔法はゴブリンの村全体を一刀両断する長大な刀身となり。

 それを横薙ぎに動かせばそれだけで「父」たちはすぱりと輪切りになった。

 数秒にも満たない鏖殺。

 私たち母子が自由を得たのはそこからだった。

 

「さあ、母様……体をお拭きします」

「グレイス……」

 

 それをする自由すらなかった。

 女らしく体が育ってきた私は、明日にでも犯されるはずだった。

 だからこそ今夜殺した。母様を穢す「兄」と「父」たちを、全員。

 水で濡らした布切れで体をぬぐっていくと母様はやがて寝息を立て始めた。

 

「母様……大丈夫ですからね。きっと……これから生まれてくる妹も……!」

 

 私は声を押し殺して泣いた。

 自由への産声だった。

 それがゴブリンエルフの王朝、歪んだ黄金樹の血塗られた始まりだった。

 

 ■

 

 それから、母様の枷を外すと母様は失った四肢を魔力で作った義肢で補う。

 やがて、新たな家を少し離れた場所で作り直した。

 魔力の義肢の伸びる爪は森を切りひらき。

 母様が唱える魔法は切り株になった木々を家の形に伸ばし。

 あっという間に複数の木々が寄り集まってできた巨大な木の洞の家ができた。

 

「さあ……帰りましょう。ここが私たちの家になるのですよ……」

「はい!母様!」

 

 母は身重の大きくなった腹を撫でながら私の手を引いた。

 母様は何でも教えてくれた。

 粘土をこねて、それを魔法の火で焼き固めて鍋や壺を作ること。

 繊維の多いツルを煮出して糸を作ること。

 その糸を編んで布を作ること。糸繰りの歌も懐かしそうに。

 

「上手よグレイス……あなたはきっと良い母となるわ」

「母、ですか……?」

「ええ。あなたは良い相手を見つけて幸せになるの。こうやって……温かい家を築くのよ」

「……はい、母様」

 

 そう、魔法での狩りも教えてくれた。

 

「魔力を練って、形にして、飛ばす。すごいわ、覚えるのが早いわね」

「ありがというございます、母様。この鳥はどうやって食べればよいのですか?」

「大丈夫よ、狩りは貴族のたしなみ。あなたは最後のラウレミル家の娘。料理もちゃんと教えるわ」

 

 鳥の羽をむしり、魔力刃でさばき、火魔法でじっくりと焼く。

 それはやがて、薬草や山菜の見分け方も母に習い。

 森の恵みは優しい味のスープになった。

 

「もうすぐ、生まれますね」

「ええ、大丈夫よ。この子も『祝福』を授けたから……あなたのように美しいエルフの姿を持て産まれるはず」

「でも母様。この肌は……この、緑は」

「グレイズ、大丈夫。強く生きるのよ。強く、強く育つの。文句をいう者が誰もいなくなるほど」

「……はい、母様」

 

 そして、ある朝妹が生まれた。

 

「おぎゃああ!」

「ああ、妹よ……お姉ちゃんが産湯に浸からせてやるからな。生まれてきてくれてありがとう……!」

「グレイス……アウレリアの姿を見せて。ああ、なんて可愛い娘……」

 

 妹もまたエルフの姿、ゴブリンの肌をもって生まれた。

 産湯に浸からせ、この日のために編んだ産着に包み。

 母の介抱をして……そして、月日はあっという間に過ぎた。

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!ご本よんで!」

「うむ、あと1ページ書いたらな」

 

 家は賑やかになった。

 家具も増え、食料の貯蔵も行い余裕ができた。

 母は紙漉きを私に教え、ひもで紙を綴じてノートを作った。

 そこにエルフの物語や今まで教わった魔法や家事の教えを書いていく。

 墨や果実の汁を使いアリアにも楽しく読めるように色鮮やかに。

 

「では続きを読もうか。勇者エルデはドラゴンに剣を向け……」

「うん、うん!」

「グレイス、アリア。ご飯ができたわ」

「わーい!」

「ああ、ありがとう母様。今日は体調は大丈夫なのか?」

「ええ、今日は大丈夫よ」

 

 この頃から、母は時折体調を崩した。とくに天候の悪い日に。

 無理もない。四肢を落とされ、ゴブリンに痛めつけられ。体にガタが出ない方がおかしいのだ。

 

「グレイス、アウレリア……本当に良く育ったわね……愛しているわ……」

 

 それでも、10年は保った。

 そしてその10年で私たちはエルフの寿命とゴブリンの成長性を持っていることもわかった。

 私たちは小柄な緑肌のエルフに育った。

 この10年で母は持てる全てを私たちに教えた。

 どうも察するに、母はエルフの中でも相当な傑物と言える魔法使いらしい。

 そして、とても有力な貴族だったのは母が繰り返し教えてくれた。

 

「これから……起こることは……あなたたちは何も悪くないわ……あなたたちは、栄えるの。私の、ラウレミル家の子が……せかいじゅうのだれが……あなたたちを否定しても……私は……」

「お母さま!」

「母様。大丈夫です……私たちは、お母様の娘として産まれてよかったです」

 

 母は安心したような顔で微笑んだ。

 

「何があっても、あなたたちをあいしてる……いきなさい……つよく、いきて……さかえるの……わたしの、むすめたち……ふふ……」

 

 アリアは母の手をぎゅっと握り、そしてそれは握り返されることはなかった。

 

「お母さま……お母さま!うう……!」

「どうか安らかに……」

 

 母のもう動かない目を閉じさせようとしたその時。

 下腹部に、ずくん……と熱く甘い熱が走った。

 そして、陰茎に初めて感じる快感と力強さが!!

 そう、私たちはふたなりエルフゴブリンである。両方あるのだ。

 

 これから起こる事ってこれか~!!

 母様……私たちの性欲を封印していましたね!?

 どうする、どうすればいい!とにかく、母様の瞼を……閉じて……!よし!

 

「ねえ、姉さま……」

 

 アリアの息が涙ではなく別の興奮で荒くなっているのがわかる。

 私もそうだからだ。

 

「私の部屋に行きましょう。姉さま。今すぐに……」

「あ、ああ……そう、だな……」

「ねえ、姉さま……これが何か姉さまは知っているのよね?姉さま……私に教えて……何を母様と姉さまが隠していたのかを……」

 

 アリアが私の耳に口を近づけて囁く。

 その吐息がいかに熱く甘いか私は初めて知った。

 とりあえず、後から振り返ってアリアの部屋まで待てた自分を褒めてやりたい。

 それだけは確実なことだ。

 




いつもの感じです。
いつもの味をお出しする街中華のようなものとお考えください。
あと今回はnoteにも投稿しています。
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