行商人が主に売ってくるのは布と紙だ。
私が母様から教わった布づくりは麻の一種のラミーという草から繊維を取って織るものだ。
ラミーはほぼ雑草でほっておいてもバカみたいに増えるので原材料の入手がたやすい。
今でもこのラミーによる麻布はラウレミルの主要な衣服だが……
この麻布、ごわごわするのだ……繊維も荒いしな。
頑丈で良いんだがな。
そこに行商人が持ってくる絹に毛糸、綿!
それはまあ飛ぶように売れるはずだ。
私も買ったしな……ふかふかの布団と着心地のいい服には抗えん。
ちなみにそれ以前にどうしていたかというと、私やアリアのドレスは魔法で魔力から織り上げていた。
ベッドは燻したワラにラミーの麻布を張ったやつだったよ!
ネブラ伯は『器用なことをするわね。私も余裕のない時はそうしていたけど、大変よね』といいつつその月のうちに布を大量に送ってくれた。
泣けるよ。
だが今のラウレミルには買う余裕がある!
こうして金を使い、経済を回すことで余所の領にも利益を回せる。
それはこの王国の社会で認められ、経済に組み込まれるということだからな。
ため込んで狙われるよりはずっとマシだろう。
「母様、図書館を作ろう。それと教育機関も」
私がそうした輸入品の一つの魔導書を読んでいたら、城の書庫にやってきたロゴスが対面に座った。
「そうだな、印刷所も欲しい。印刷職人もランドルフかヴィクトル伯経由で指導を頼まねば……」
「うん、今はとにかく自力で本を作り、誰でも読めるようにしないと後々が不味いからね」
「うむ、図書館を今のうちにたくさん建てておかねばな。書店も欲しい」
私は机の小棚から手紙用の和紙を取り出した。これはゼグラス侯領からの輸入品だ。
なんでも特殊な木の皮を叩いてミンチにして水に溶かして作るそうだ。
しかしその木の苗はきっと売ってはくれまい……
再利用が精いっぱいなんだよなあ……
そうだ、ゼグラス侯領から廃棄されたクズ紙も再生資源として買わねば。
「ありがとう、でも大事なのは教育機関だよ。いい加減に家庭の口伝に任せるのはどうかと思う」
う~む、それか……確かにそうではあるが……
「とはいえだな、公で教えるようになれば家庭で教える仕組みが無くなってしまうのではないか?」
「その可能性はあると思うよ。でも、家庭で教育を受ける機会がないならおしまいは福祉としてまずいよ」
「ふーむ、つまり偶然による不幸を公で救済する制度か」
「あとは、家庭ごとの教育のばらつきをある程度そろえる意味もあるね」
「意義は……理解するが……ううーむ……」
いやしかしだな、私たちは生後一か月で立ち歩き言葉を喋りだす種族だ。
お前は生後半年で連立方程式を解いていたんだぞ?
ならば読み書きくらい家庭で教えないか……?
学校に頼り切りになる可能性は領主としてはなあ……
「とはいえ、読み書きくらいは家で教えないか……?私はお前にそうしただろう」
「母様が不安に思うのはわかるよ。教育を技術や制度じゃなくって生態として残しておきたいんだろう?」
「そうだ。生き物の機能と言うのは使わねば衰える。子を産み、育てることは公がやるべきではない」
「わかっている。だから学校はあくまで知識や技術を教える場に限定するよ」
ほんとか~!?初志貫徹できるのかお前~!?
絶対あとで教えが変質していくと思うぞ私は。
「だが時がたてばその初志も薄れるだろう。人は世界に爪痕を残したがるものだからな。初志が理想的で手を加える必要がなければないほど改悪したくなるものなのだ」
「……制度だけならそうなるね」
「つまり他に手があると?……お前まさか」
「そう、私たちには魔法があるんだよ。母様」
ネブラ伯爵が好きそうな方向性だ~!
お前の口からそういう話が出るとは思わなかったよ。
だがまあ道理ではあるが……
いいのかそうホイホイと生命の禁忌に手をだして。
あっ、私がその禁忌の結果なんだったな。
「……今度の街道開通記念パーティーはネブラ伯爵のヴェスパシア領だ。そこでネブラ伯に聞くがいい……」
「あー……これはそっち方面になってしまうのか」
「なる。当たり前だ。考え直せ」
今気づいたのかお前。考え直せって。
「話だけ聞いてみたいんだけどな、母様」
「お前マジか」
は~!うちの領がどんどんヤバい領になっていかないかこれは?
とはいえ、娘の自主性は理解したい……!
うーむ、ネブラ伯にガツンと言ってもらえんか!?
いや、娘への説得は母である私の役目だ。他人の手を借りるわけにはいかん。
問題はこの話がどっちが正しいか私にもまったくわからんことだ。
将来の危険性は考えられるが、本当にそうなるかはやってみないとわからんのだ。
「私たちで話し合って結論が出ないんだ。第三者の話を聞くのは良いと思うよ母様」
「お前なあ……わかった、聞いてみるよ……。もし学校を作ることになるなら参考にさせていただきたいしな」
「ありがとう母様」
「おめかしして行けよ。そうだ私がドレスを作ってやろうか?」
裁縫くらいできるんだよ、じゃなきゃ娘たちに教えられんだろう。
「そうだね、たまには城下に買いに行かないかい母様」
「ああ、それはいいな……」
もう少しロゴスと触れ合うべきだからな。
なお、その後リンとアリアもついていくと言い出してけっこう大騒ぎになった。
しかしヴェスパシア領か……
とんでもない魔境になっている予感がひしひしとする……!