ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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神輿

 辺境派幹線街道が完成した。着工から3年だ。3年ってお前。

 早すぎる……!

 そしてこの3年で生まれた子供はもう働き始めている。

 各地に建てた図書館に記憶魔法の石碑も結局は作ることにしたからな……

 そしてこの石碑の建て方自体も最初の一つを立てれば指数関数的に増えるわけで。

 

 あらためて悩ましいな……成長が早いのは良いことだ。

 だが早すぎる……!

 

 まあ、そういうわけで私は幹線街道完工パーティーを催すことになった。

 街道の行き着く先、ムジカの港町に街道を使っていく。

 

 馬車が進んで半日ごとくらいにラウレマートがあるし、その横には水路につながる巨大な池がある。

 水棲種族と、その子たちのダム都市だ。聞けば井戸を掘りまくってため池を作ったらしい。

 汚水は分けて別の所で浄化するシステムもあるそうで……

 これはヴェスパシアを笑えんぞ。

 

「しかしまあ、ラウレマートも美味くなったものだ」

「でしょう?ゼグラス侯には頭が上がりませんよ。安いなりの料理なんて儲からないでしょうに」

 

 リンが買ってきたテイクアウトを食べる。

 

「バーガークイーンってお前」

「母様の顔の焼き印もちゃんと再現できているでしょう?」

 

 自分の顔が印刷された物を食う身になってくれよ。

 何だこのデカいハンバーガーは。うっま。

 

「ファミリーチキンとやらもただの唐揚げではないか」

「でもこれゼグラス侯のところのスパイスレシピそのままですよ」

 

 うますぎる……なんだこのクオリティは。

 

「これ本当に合法か?ハーブってそういうやつじゃないのか?」

「本当にただのスパイスです」

 

 いつの間にか安い肉料理を極めている……!

 まあ我々にとって3年は赤ん坊から大人になるくらいの時間だからな……

 

「おお、良い所ですね!ムジカお姉さまの領地は!」

「……ああ、あいつにしては綺麗にしているな。これがトロピカルというものか」

 

 見えてきたムジカの領地は南国の白浜!白いビーチにあまりにも青い海。

 砂浜と港町の南国だった。

 

「おー!お帰りママ!」

「お前が楽しくやっているようで、私は安心したよ」

 

 何しろ板切れで波に乗って水路をさかのぼって現れたからな。

 

「まあくつろいでってよ。お祭りの用意は私がするからさ」

「一応私が目を通すからな。あまり無茶はするなよ」

「えー」

「まあまあ母様!私がそういうのはやっておきますから!」

「だから心配なんだよ」

 

 リンもこう見えて調子に乗るからな……

 

「だがいい領地だ」

「でしょ?」

 

 だが今はこの青空に澄み切った海、潮風に揺れる極彩色の街路樹を見ていようじゃないか。

 どうせ忙しくなるのだからな。

 

 そうして、祭りが始まった。

 ライブ、花火、野外パーティー。

 城下でも歓迎記念として祭りをしているそうで、屋台の灯りが見える。

 

「いやあ、なかなかロマンチックなところだねえ!魚もおいしいし、港も広い!これは期待できるよ!」

 

 ヴィクトル伯は洒落者らしくド派手で薄着のシャツに、三角帽をかぶっていた。

 あのうところでそれはランドルフがつけてたやつでは。

 なんか……ちょっと化粧したら同じ顔なのでは?

 

「あのう、その三角帽はどこかで見覚えがあるのですが」

「はははっ、いつ気がつくのかなーって思ってたよ!」

「これは失礼しました。……しかし、なぜです?」

「何が?」

 

 辺境伯が海のように真っ青なカクテルを飲み干す。

 ぞっとするほど静かな真顔だ。

 

「お忍びでお出かけになるのは理解できます。ですがなぜ私たちを見つけ、そしてここまで引き立ててくれたのですか?」

「ああそれね!君たちを見つけたのは本当に偶然だよ。縁があったねえ。支援については最初から言ったじゃん。面白そうだからだよ。あの時で終わったらもったいないだろ?見なよこの風景!」

 

 私は夜に浮かび上がる港町を見る。

 ……暖かな灯りと、祭りの活気がここまで伝わってくる。

 

「……ええ、たしかに辺境伯なしではここはありませんでした。あらためて感謝を」

 

 辺境伯は空のグラスをウェイトレスに返しつつ、あらたな皿をもらう。

 

「はは、僕は放蕩貴族だからね。面白い人をコレクションしてパトロンになるのは嗜みなのさ。じゃあ、グレイスちゃんも楽しみなよ」

 

 貴族の嗜み、道楽と趣味の高じた先が国家転覆か~!これが貴族……!あまりにも貴族……!

 

「……ありがとうございます」

 

 とはいえ間違いなく感謝の心はある。

 さて、私も外交をせねばな。貴族として。

 

「辺境伯にも困ったものですね。ですがだからこそついていきたくなる魅力があるのですが。私にはああいった離れ業はできません」

「おや、オズワルド伯。楽しんでおられますか?」

 

 私は相手を見上げる。何しろオーク族だからな。

 筋骨隆々としたガタイを海軍服で包み、豚鼻の下に口ひげを蓄えた穏やかそうな偉丈夫。

 それがオズワルド・ジョン・クロムガルド伯爵だった。

 

「ええ、ラウレミル港の豊かさを実感しています」

「いえいえ、クロムガルド領の工業地帯の巨大さ、そして農村地帯の雄大さには及びません」

 

 クロムガルド領もパーティーで行ったが、あのレンガ造りの工場には圧倒された。

 郊外の農村地帯も極めて規格化されてあまりにも広大……

 クロムガルドだけで辺境派の食料自給と重工業を支えているのは伊達ではない。

 

「しかし、その生産力も届けられねば腐るだけですからね。街道が通ったのは僥倖ですよ」

 

 オズワルド伯爵は目を細める。これは何か悩んでいる目だ。

 

「なにか懸念が?」

「懸念というほどでもありませんが……」

 

 ここでオズワルド伯は少し遠くの港を見るような眼をした。

 この目だ……こういう時の伯爵はかなりマジな話をする。

 数字ベースの容赦ない事実を臆さず言う方だ。

 

「食と娯楽のドラン領、先端技術のヴェスパシア領、生産力の我が領。これは今まで独立していました」

 

 そういえばゼグラス侯のドラン領もすごかったな。

 山岳地帯だが鉱山業と食文化、娯楽が狂ったように咲き誇る街だった。

 

「ですが、これらが人口のラウレミルにより王都との接続ができるルストヴァルドとつながった。我々は一つの経済圏となりました……もはや、王都がなくとも回るでしょう。いえ、放っておけば10年以内に我々の経済圏は王都圏を超えます」

 

 あー、そういう話か。国家転覆はもうするしないではなく既定路線なのだな。

 

「ならば、その日は近いと?」

「ええ、少し小耳に挟んだのですが……アルドリック王子の即位が近いと聞きます。……王都の様子はご存じですか?」

 

 アルドリック。たしか武断派で現実主義のまっとうな王子、だったか。

 

「寡聞ですが、腐敗貴族が多いと」

 

 鼠人からかなり話は聞いている。

 マジでろくでもないスラムがあるとか、違法娼館だの薬物だの。

 腐りきった修羅の巷があるとかないとか。

 

「ええ。ですがあれは半分ほど意図的なものです。王子の即位後の花道として王があえて泳がせているのですよ……我々も含めてね」

 

 あっ、そうか。王都から見れば私たちも腐敗貴族か。 

 国家転覆を企んでるしな。

 

「あちらも察知しているというわけですか……粛清するかされるか、だと?」

 

 つまり武断派の王子にあえて残しておいた腐敗貴族を粛清させて支持を得ようとしているのか。

 現王は老獪だと聞く。まあ母の頃のラウレミルが潰れたのはあの人の責任もあるだろう。

 ダークエルフの血が混ざっているとも聞くしな。

 

「バレないとお思いではなかったでしょう?いずれ来るのは必然でした」

 

 まあ経済規模でこっちが確実に上回るとなれば王都は面白くなかろう。

 

「……そうですね。しかしヴィクトル辺境伯はずいぶんとはしゃいでおられるが……この調子で王になるのでしょうか?」

 

 ヴィクトル伯爵はなにやらゼグラス侯と盛り上がっているなあ。

 楽しそうでなによりだ。

 そこで、オズワルドは声を低くして静かに言った。

 

「……辺境伯は、あなたこそ適任と思っているかもしれませんよ」

 

 真顔だ。これはマジの声だ。ウッソだろ勘弁してくれ!

 今のうちに否定せねばマジでエライことになる!

 

「はっはっは、悪い冗談だ。そうでしょう?辺境伯。この派閥の盟主はあなただ!」

 

 私は少し声を大きくして辺境伯にグラスをあげてウインクを送った。

 いま私はかなり面白い顔になってたと思う。

 辺境伯はスッと真顔で答える。真顔やめてくれよ!

 

「盟主はね。でも王かあ。いやー俺より君の方が向いてるって!なあゼグラス!」

 

 目がマジなんだよ。その笑顔やめてくれ。

 

「ええやん!グレイス女男爵がやったらよろしいわ!」

「だろう?!」

 

 いかんこいつらマジだ。マジで笑い話のまま私を担ごうとしている!

 ハメたなお前ら!?

 

「お二人とも、酒が過ぎるのではありませんか?」

 

 ま、まだゴネる余地がある!ほらだって酒の席だろう!?

 そんなところで神輿にされても受け取れんわ!

 

「いやだって、見てごらんよこの街道を!君たちが作ったんだよ?ラウレミルはこれからどんどん伸びる!なら今のうちに君が女王になっておくの自然じゃない?なあ、皆どう思う?誰が王にふさわしい?」

 

 辺境伯はおもったより大きな声で演説をぶった。

 おいお前らご清聴するな!なんで私を見る!笑顔だけど目が笑ってないぞお前ら。

 そこにゼグラス侯が笑顔で現れた。目が笑ってない!

 

「ほら、こうやってみんな認めとるやん!つまりみんなが君を選んだんや!……君には答える義務があるで。ほんでも僕からひとつ言うなら……人口比で最後に責任取れるのは誰やろうね?」

 

 そしてしゃがんで私にささやく。声が低い!圧が高い!

 

「ていうか、なんで僕らがここまで君に投資したと思ってたん?」

 

 くそっ!カネの話を持ち出されるとな~!!

 そうかそういうことか!最初からか!

 ほとんど最初からこういうつもりで!?

 くそっ!ハメられた!だが、それだけの投資は……確かに受けている。

 なにより、人口問題を持ち出されればこちらも多大な借りがある……!

 

「……グレイス女伯爵。あなたも薄々いつかこうなると解ってたんじゃないかしら?流れには乗っておくものよ。ああ、私は応援するわ。賛成に一票」

 

 借りがある人の筆頭にそう言われればなあ……わかった。もう腹をくくるしか無かろう。

 

「わかりました……ヴィクトル伯が玉座をいらぬと、期待の人が私だというのであれば……謹んで受けましょう」

 

 い、言ってしまった……!もう戻れない。

 まあ、ラウレミルで戴冠式をしたときから遅かれ早かれではあるんだが。

 こうして私は拍手の中で神輿となった。

 ウソだろオイ。

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