会議はもう少し続く。
わずかな休憩をはさみ、再び皆が円卓に着いた。
「じゃあさ、実際戦うことになるんだけど、兵士に魔法を覚えさせるなら何がいいかな?ほらせっかく魔法の専門家が二人いるんだからさ」
おっ、私か。
ネブラ伯も笑っている。
うーむ、夢が広がるな。何を教えたものか……
「迷いますね。あれもこれも教えてやりたい」
「でも時間は有限よ。3つ4つが限界ね」
そこでオズワルドが挙手した。
「では、私からは兵法の観点から何が必要かを提案させていただきます。該当する魔法がすでにあるのであればご教授願います」
「あら、新開発じゃないのね。あなたらしいわ」
「ある程度の簡略化で十分です。信頼性の高い既存魔法を優先します」
そういえばこの方はかなり真面目に練兵をされていたな……
あまりにも工業軍事国家なんだよクロムガルド領。
「まず、兵法から要求される魔法は工兵です。一にも二にも土を操れねば話になりません。戦争とは建築です。砦を作り、堀を作り、道を作る。つまり遮蔽です。遮蔽の有無が兵の生存率をあげます」
「つまり英雄ではなく一兵卒が家に帰れるように、ね……グレイス女男爵が好きそうな話ね」
むっ、確かにな……娘たちが生きて帰れるのが第一だ。
「そして遮蔽に必要なのは光量のコントロールです。たとえば照明魔法や、煙幕、習得が容易であれば幻術であってもかまいません」
ネブラ伯が黙って聞いているな……まあ要求が出そろうのを待つか。
「さらに忘れてはならないのは治療です。当然ですが兵は傷つきます。その時に回復魔法がありませんでは話になりません。数をこなせる回復手段が必要です」
「当然ね。まあ医療技術なら任せておいて」
「……まだあります。最後になりますが、索敵と情報共有が必要です。ポケットベルの携帯は必須ですが、索敵魔法もまた必要です。そのあたりはどのような使い魔が必要かはお二人に」
ふーむ、なんか引っかかるな。あるんだよ多分。その全部を一つで行けそうな何かが。
「あら、伝言魔法じゃダメなの?」
「ダメです。あれは頭の中に直接に声が響きます。兵の動揺が伝わりやすい。あっさりと壊乱しかねません」
「それも道理ね。ならポケットベルを量産しておくわ。千もあればいいかしら?」
「十分です。小隊長に持たせればいいのですから」
ネブラ伯を見ているとヴェスパシア領が妙に思い出させられる。
あの巨大な森……両親両方の血が騒ぐんだよな。
……!森!それだ!
「ネブラ伯、樹木魔法に『早き豊穣』がありましたね?ほかにも『大いなる樹海』など」
「樹木魔法?……なるほどね。続けて」
「確かヴェスパシア領には消毒や怪我を治す樹木や、木の実ひとつで腹いっぱいになる果実……そしてあの巨木の苗、そしてその巨木同士に強靭な糸を張れる蜘蛛も」
ネブラ伯はひどく面白がっている顔で笑った。
「ククク、たしかに容易に切り倒せない森を容易に生やせるならそれは工兵作業も、視界操作も、治療手段も、索敵用の使い魔を忍ばせるのも一つで可能ね」
「ええ。術式そのものはただ樹木を生やすだけでいいのです。用途により植えるタネを変えればいい」
「ええ、なんなら触れただけで色を変える木くらい造るのは問題ないわ。索敵だけで枠を一つ潰すのはもったいないわね」
オズワルドは静かにひげの生えた顎を撫でて言う。
「そのあたりは任せます。ですが、やはりそれでも土の操作、それから水の生成は必要です。あとは運輸が楽になる方法があればいいのですが」
「それならそのまま土操作と水生成で十分ね。土そのものを尖らせて足を貫けばいいい。水は氷に変えて撃ってしまえばいい。これでたった3つでとりあえず戦争はできるわね」
ゼグラスがおつまみの干しイカを嚙みながら笑う。
「土に水に、木を生やす……ええやん。戦後も無駄にならんスキルやで」
「確かに……我が領向きですね」
「ククク、森はあなたたちの故郷ですものね」
きわどいジョークを擦ってくるなあ~!
まあゴブリンもエルフも森に住むものだが。
とはいえだ。
そういった便利な作物がもののついでで手に入るのはデカいな。
こんな取引は戦時でしかできんだろ。
「……ええ、森は我々の庭のようなものです。そこで負けるつもりはありません」
「じゃあまあ、具体的な術式は専門家同士で語り合ってよ。教え方含めてね」
まあそう言う訳で、そこからネブラ伯と共に話し合った結果その日のうちに術式は決まり、作った術はすぐに図書館にある『記憶の石板』に焼き付けられ。
その石板をクロムガルドのオークの『研修指導官』が持ってラウレマートに『自衛研修』を行う。
……冬の間に『全軍』に『指導』が行き渡ったよ。
だいたい三ヶ月で訓練が終わる予備役って何!?
■
そして春が訪れ始めた。
いつの間にかラウレマート沿いの森は魔樹に植えかえられて要塞になっていた。
春の芽吹きに合わせてやったが、案外みんな気づかないものだな……
いやおかしいよ。気づけよ。
それは命令一つで殺人フルーツになるやつだぞ。
「母様、新聞読みましたか?」
「なんだまたそんな売国新聞をもってきて……この世で信頼できるのは東部スポーツだけだぞ」
王都の新聞は全部カスだ。いつも飛ばし記事ばかりじゃないか。
まともなのは産業新聞と娯楽新聞だけなんだよ。
この国の報道は終わってる。
「それは相手の仲間内で何が話題かわかるってことなんですよ。それよりこれです」
「どれどれ……」
アルドリック王子即位!か……
即位の最初の一言がこうだ。
『エンダールの大樹を守る大役、しかと承りました。しからばこの大樹の腐敗!責任をもって枝打ちすることをこの場で誓い、そして今すぐ実行いたしまする』
……と父王に誓って振り返ったその瞬間に以前から汚職が公然の秘密になっていた腐敗貴族や重臣全員に『魔力の剣』による剣の雨が降って15人を同時に串刺しに。
『エンダールを蝕む者共よ、これは宣告だ……俺が来た』
そしてごく一部の生き残った者が腰を抜かして逃げ惑うのを足を掴んで引き戻して頭を素手で握りつぶしたそうな。
その腰を抜かして逃げていた男は、この国の腐敗の始まりと言われる重臣中の重臣だ。
『これは無差別な暴虐ではない。俺はこれと見込んだ悪漢共を厳正に審査した名簿をすでに持っている。裁きが来るのが1秒後か10年後かなど考える必要はない。今すぐに容赦なく下されると思え』
はー、武断派だなあ。
しかも処断した相手がまあ的確なんだよ。
それはそいつは粛清されるわって面子だ。
えー何々続きは予告された殺害リスト、か……
『ヴェスパシアは殺す。倫理を外れたからだ』
まあそれはそうなるだろうよ!
『ドランは殺す。歴史を鼻にかけているからだ』
あ~、まあ。古い商売都市となればなあ。
『クロムガルドは殺す。裏切り者だからだ』
バレてるか~。意外に目が良いなこの新王。
『ルストヴァルドは殺す。俺を舐めているからだ』
まあ……舐めてなければ国家転覆はできないといえば、そう!
となるとまあ……
『ラウレミルは殺す。増え過ぎるからだ』
やっぱりか~!
「おいやっぱり我が家もか!?」
「当たり前でしょう!?国家転覆がバレてないと思ってたんですか!?森が殺人フルーツ塗れになっているのに!?」
はー、マジか……まあ覚悟はしていたが。
いよいよその時か~!
『このエンダール王国を蝕む者は殺す。すべては貴様自身の責と知れ』
だいぶ……思ったより苛烈なのが王になってしまったな……