ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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収穫祭

 

 その日のうちにヴィクトル辺境伯とオズワルド卿からポケベル通信網で問い合わせがあった。

 

『その鐘をならすのはあなた』

 

 だそうだ。

 事前にこういう時のために決めていた私が開戦宣言をしろという暗号だ。

 そして我々はこの作戦の名前をあらかじめ決めていた。

 だから私はためらうことなく返信を返した。

 

『収穫祭を始めよ』

 

 そう、この計画の名前は『収穫祭』となっていた。

 私の城にある通信機でたった一文を返信するだけで辺境派全土がわずか数時間で戦時体制となった。

 

「リン、出来る限りの記者を集めろ。すぐに開戦の布告を始めねばならん」

「今からですか!?」

「あの方はおそらく例の会見をしたその足でこちらに攻め入るぞ。私ならばそうする」

 

 あの人柄で王として君臨するならば、そう振舞わざるをえまい。

 

「私は早いと思いますけどね……」

「そこは上手く私が言い訳する!急げ。戦場は待ってくれんのだぞ!?」

「母様やっぱり少し楽しみにしてるでしょう!?」

 

 リンはそう言いつつも通信機をあり得ない速さでポチポチ打っている。

 そしてその忙しそうにする顔は、ひどく私に似ていた。

 

「お前もそうだろう?」

「言われてみればワクワクする私もいますねこれ!めちゃくちゃ準備しましたからねえ!」

「ならさっさと集めろ。どの道、遅かれ早かれだ」

 

 そうしてリンの連絡網で集まった記者の数なんと20人!

 夜明け一番でこんなに集まるものなのか!?

 ちなみにその間に辺境派幹部とは打ち合わせが済んでいる。

 堂々と独立宣言をして女王になれと。

 

 そして、いま記者たちだけではなく近隣の子孫たちも私を見ていた。

 多いな……これ数千はいるんじゃないのか?

 なので、城のバルコニーから拡声魔法で一斉に言う事にした。

 

 一息吸って、覚悟を決める。

 

「諸君!お集まりいただいた記者、使者の方々、そして我が娘たちよ!」

 

 群衆が静まり返って私を見る。

 朝の静けさの中に私の声がどこまでも響き渡る。

 

「本日、エンダール王国の新王アルドリック陛下は我々を国家の敵と認められた!我々は増え過ぎるので殺すとのお言葉だ……」

 

 集まった千を超えるゴブリンエルフたちの顔を見る。

 これが全て私の子だ。領民全てがだ。

 そして今、私の心は我が子を絶対に守る、という闘志に満ちている。

 

「我々は長らく王国の一員として生き、ただ自領を発展させただけだ!それを腐敗と呼ばれるのであれば、よろしい……!開戦だ!」

 

 大歓声。

 お前たちを絶対守ってやるからな……!

 すべて母である私が守るからな!

 

「私は我が子たちを守るために戦う。何を置いてもお前たちを守る!」

 

 だが一人では成せないんだ。すまん我が娘たちよ。

 

「……だが私一人ではまだ足りん。すまん……母の願いを聞いてくれ!我が娘たちよ、我が友人たちよ!共に戦ってくれるか?王はこれを枝打ちと言われた。ならば我々は収穫祭を始めよう。勝利という果実を逆に収穫してやるのだ!」

 

 ……すさまじい歓声が沸き起こった。

 すまん、すまんな。お前たちを戦場に連れて行ってしまう。

 私は本当にまだ母でいられているのか……?

 

「本日をもってラウレミルはエンダール王国より独立する!我々はここに『ラウレミル連合国』の樹立を宣言する!」

 

 これで私が完全に主犯だが、もう怖くない。

 なぜならそれでも私は母であり、娘たちを守るために真っ先に戦う覚悟だからだ。

 

「そして諸侯の要請に従い、私、グレイス・インガイエル・ラウレミルは女王の責を負う!」

 

 ここでリンが諸侯の要請としてあらかじめ皆が書いておいた『推薦状』をバルコニーから見せる。

 これもあとで記者に公開する予定だ。

 

「……我々が世界に対して祝福であるように願う。ここにエンダール王国との開戦を宣言する!」

 

 そういうことになった。

 

 ■

 

 そう言う訳で私はアリアに戦支度として着付けを手伝ってもらっている。

 とはいえ、ヴェスパシア製の強靭な繊維の薄いローブに手甲や胸当てを軽くつけただけだが。

 この矮躯で鎧を着てもたかが知れているからな……それより動きやすい方がいい。

 

「……思えば、お前と二人であの小屋から始めたんだなあ」

「どしたのお姉さま。らしくないじゃない」

「出陣前だ。感傷的にもなる」

 

 アリアがため息をついて着付けの手を止め、水差しからレモン水をコップに注いで渡してくる。

 うむ、うまい……我が妹であり伴侶だ。

 こういう時の私の扱い方がわかっている。

 

「縁起でもないじゃない。でも、そうね。私たちの子は大きくなったわ」

「国になってしまったものな」

 

 二人して笑ってしまう。

 なにしろこれが永訣になることもあるからな。

 

「アリア、もし私に万一があれば……ロゴスと共に学院へ落ち延びろ」

「嫌よ」

「アリア……」

 

 勘弁してくれ。私らしくもなく涙が出そうだ。

 

「だって、そうなったら私が女王やるのが適任じゃない?」

 

 あっ、その通りだ。

 私と並んでもう一人の国母だしな……

 契約魔法というのも女王らしい伯付けになるだろう。

 いや~、でもアリアが?この牧歌的な妹にこの重責を?

 しかし、娘たちにはまだ母が必要だ……!

 

「……頼まれて、くれるか」

「ええ。でもきっと大丈夫よ。だってお姉さまは帰って来るでしょ」

 

 ……これは言わねばならんな。どれほどの重い代償があるかわからんが。

 

「ああ、『約束』する」

「約束よ」

 

 そういってアリアは私の額にキスをした。

 これ万が一死んじゃったらどうなるんだ私?

 こわいな~!魔法使いとしてはどうなるか全くわからんのが怖い。

 これで死ねなくなったな……

 

 そうして、ロゴスとリンにも後の事を頼んで私は前線司令部に赴いた。

 辺境派も皆集まっていることだろう。

 次に帰るのは勝った後か、死体でになるだろうな。

 

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