ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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対峙

 

 前線司令部は小高い丘に作られたレンガ造りの真新しい要塞だった。

 堀と石垣、そして茨のツルが張り巡らされていた。

 ものものしい雰囲気の中で入場し、会議室に入るとすでに皆そろっていた。

 

「さあ、主役のお出ましだね」

「遅かったやん女王陛下」

 

 ヴィクトル辺境伯とゼグラス侯が立ち上がると、皆が私にそれぞれ礼をする。

 うーむ、そういう立場になってしまったのだなあ。

 

「遅くなりました……始めましょう。オズワルド卿、戦況はいかになっていますか」

「おおむね予定通りです。王都側のラウレマート店舗はまず第三防衛線まで退避が完了。そのままラウレマート周辺の罠をすべて起動させています」

「そうか……」

「王軍の誘導はあなたの所の飼い犬と私たちの領軍がつかず離れずでやっているわ」

 

 ネブラ伯が短く呪文を唱えると円卓の中央に置かれた巨大な水晶玉にフィンブルが鎧の胸につけた魔道具からの光景が映る。

 こういう時のために雇った傭兵だ。本人もそのために売り込んだ。

 だが、実際戦わせるとなると重い物を感じてしまうよ。

 

「まずは皆様に感謝を。順調なようで何よりです」

「とはいえ、アルドリック王子の罠の食い破りっぷりはなかなかのものよ。私の本気の作品を相手取って3分かからないのですもの」

「アレほんまにごっつかったわ。何やのんあの山みたいな蜘蛛。ほんでそれを斧槍の一本でサクサク切ってく王様も大概やわ」

「雑兵がアリみたいに蹴散らされていったねえ。天高く飛んでたなあ」

 

 そしてオズワルド卿がすでに開かれ、駒がいくつも置かれた地図の一点を指さす。

 

「進軍速度はやや早いですが予定通りです。やはりあちらも野戦で決着をつけるつもりでしょう。その場所はやはり……」

「大樹見の平原。第三防衛線のちょうど外だね。予定通り正面からの決戦だ。楽しみだね」

 

 お互い数千の軍がそこに集まりつつある。正面決戦か。

 悪くはない。だが、娘たちを矢面に立たせているという気持ちはぬぐえない。

 

『フィンブルだ。悪いが逃げられそうにない。応戦する』

「女王陛下、退かせてください。まだ離脱できるはずです、これは独断先行です」

 

 オズワルド卿が真顔で言う。

 まあそうだろうな……あいつは王と戦いたいだけだろう。

 私は目を閉じて少し考えた。

 

「グレイスだ。本当に退けないのだな?」

『ああ、俺の役目は大樹見の平原まで王を連れてくることだろう。それならもうあっちが勝手に行く』

 

 やはり確信犯じゃないか。だが……

 

「……わかった。ただ一つ追加で命令する。生きて帰れ。撤退を優先しろ」

『了解した。これより接敵する』

「……陛下、よろしいのですか」

 

 オズワルドが真顔で圧をかけてくるな……それはその通りだ。

 フィンブルとその手勢ではまあ勝てまい。死なせにいかせるようなものだ。

 

「……やつはこのような戦で戦う事を目的に仕官した。ならばそれを果たさぬわけにはいくまい」

「それは大樹見の平原でもできます。彼らは死にますよ」

「……それでもだ。やつが今がその時だというのならば、その時なのだ。そして、王子の損耗と進軍の早さを考えれば、ここでやつが足止めをすればおそらくつじつまが合う」

 

 ちょうど今フィンブルが足止めすればだいたいの準備が間に合う。

 それは単に事実だ。

 そして私が義理を優先させたいのもまた事実だ。

 

「……そういうことであれば、仕方ありません」

「すまんな」

「あら、そろそろ始まりそうよ」

 

 フィンブルと一団が森の中から王軍を待ち構える。

 なんと先頭にいたのはアルドリック王だった。

 ヘラジカのような通常の馬の三倍は大きい魔物のような馬に乗っていた。

 

『何をこそこそと隠れ見ている!また罠か?出てこい臆病者!』

『あんたが王か。宵の群狼の頭目フィンブル・ヴェトルだ。筋肉ダルマのエルフとやるのは初めてだ。楽しませてくれよ』

『傭兵か。野良犬風情が!』

 

 肉を生きたまま食ってそうな巨大馬に乗ってアルドリック王が突っ込んでくる。

 そこをフィンブルたちは空に飛びあがるか、あるいは森の中から魔法を撃ち始める。

 

『しゃらくさいわ!』

 

 フィンブルが『引き寄せ』と『吹き飛ばし』さらに『入れ替え』を使って仲間と共に総攻撃を仕掛けている。

 だが王はそのことごとくを時にそのハルバードで打ち払い、手で握りつぶし、筋肉で受ける。

 あまつさえ、ハルバードから斬撃を飛ばして反撃してくる。

 

『それが王朝剣技か。なるほどそういう感じか……面白いな』

『王よ!露払いは我らにお任せを!将との戦いをご存分に!』

 

 さらに近衛騎士団がフィンブルの仲間たちに襲い掛かる。

 フィンブルたちは反撃してはいる。だが多勢に無勢だ……!

 

『ヴェスパシアの置いていった木偶共よりは歯ごたえがある!いいぞ野良犬!』

『ああ、こいつは極上だ……!楽しくなってきたな』

 

 ……すさまじいな。騎兵は森の中を走り回ることは通常はできん。

 だが王は力づくですべてをなぎ倒して走っている。

 さらに地面から空の獲物は狙いにくいはずだ。

 しかし馬に乗せていた大弓を使って的確に攻撃してくる。

 なんだあのクソでかい槍みたいな矢は。

 そこから派生して雷まで撒き散らかしてるんだが?

 フィンブルも遠距離攻撃で自爆する使い魔たちを突っ込ませていっている。

 

『ぬははは!その程度か傭兵!こそばゆいわ!』

『くそっ……持てよ俺の身体……!まだここからがもっと面白くなるんだろうが……!』

 

 そこからのフィンブルの動きがまたすさまじかった。

 至近距離でわけのわからない避け方をして少しづつ怪我を蓄積させていっている。

 狙うは肩だ。何度も、少しづつ。しかし……

 

『ここまでか……!』

『フン、こんなものか。……これは、よもや後方から魔道具で見ているな?』

『そうだと言ったら……?』

 

 アルドリック王はそのオーガのような顔でフー、と息を一つ整えてこちらに目を合わせて言った。

 

『グレイス・インガイエル・ラウレミル!貴様見ているな!?』

「……ええ」

『……貴様の兵はすべて貴様の子孫だと聞く。ならば子の血を見るは偲びなかろう』

 

 そいつは私の子じゃないが、他はまあそうだ。

 ……その通りだ。

 

「……」

『貴様ら領主たちの首だけで納めてやる……一騎打ちだ!順番にかかってくるがいい!』

 

 目線が交わされる。オズワルド卿が絶対やめろと目で言っている。

 他はまあ……ゼグラス伯とヴィクトル辺境伯は面白がっている。

 ネブラ伯は普通に乗り気だ。というか勝つ気だ。

 

「あっぱれなご覚悟です!ご高配に感謝を。私が真っ先に戦いましょう!」

 

 言ってしまった~!でも勝ち目は普通にありそうな力量なんだよ。

 それに何より……魔法使いとしての私が戦ってみたいという気持ちが強い。

 

『よかろう。次は拳にて存分に語り合おうぞ!それからヴィクトル』

「何かな?王様」

『……上手い策だ。障害を突破させた気にして兵を削る。橋を落とされたときはひやりとしたぞ』

 

 そこでヴィクトル辺境伯はこっちに向かってウインクすると派手に笑った。

 

「いやいや!これは前菜だよ!今日は新しく王座に就いた二人が主賓なんだからさ。それなりのもてなしをしないとね!」

『フン、貴様の開く宴に招かれたと言ったところか。宴を開くは王の特権!貴様もまたエンダールの傍系だったということだな……』

 

 見事な啖呵の切りあいだ。

 それはたしかに王器のある者たちの会話だった。

 参考になるな~。私だとせいぜい武人っぽいのにしかならないんだよ。

 

「どうかな?今日の主役は我らが女王かもよ?」

『よかろう!覇王の行く末に試練は当然!この宴、俺が一人で食らいつくしてやろう!』

 

 そう高らかに吠える。

 

『大樹見の平原にて待つ。歪んだ黄金樹の末裔、ラウレミルの女王よ!』

 

 画像が消えた。

 フィンブル……すまんなロゴス、お前の仲間を……

 

 親としての私はすまないと思っている。

 だが魔法使いとしての私は今最高潮に燃えている。

 悩ましいな……

 

「いやあ、気に入られちゃったねえ。女王陛下」

「せやね、これはもう下手な求婚より本気やん。案外そんなつもりかもしらんで」

 

 そんなロゴスが大量に持ってるロマン小説みたいなことある!?

 

「どうかしら?彼はそれが合理だと思えばするでしょうけどね。まああなた次第よね」

 

 わりと気楽にはやし立ててくるなあ。

 だが今はその方が気が楽だ。

 とはいえ、オズワルド卿は普通に苦々しい顔で叱ってくるが。

 

「受けるべきではありませんでした。現状は我々に有利です。賭けに出る必要はない。そして、国家とはそのようであるべきでもない。少なくともこれからは」

 

 正論なんだよな……ノリで一騎打ち受ける方がおかしいんだ。

 イカレてるよあの王も、私も。

 

「いやあ、でもこれは受けないと物笑いだよ?」

「せやね。粋やないわ。とはいえ、オズワルドのいう事もまあもっともやね」

 

 うーん、貴族的だ。武門の名誉だな。

 とはいえ、どうも今の時代は貴族の名誉と合理性が少しづつズレてる時代だからな。

 

「……でも、私の見たところ一騎打ちでの勝率は五分はあるわ」

 

 まあ、私の見立てもそうなんだよな。勝てなくはない。

 だが必ず勝てるかと言えば怪しいんだが。

 

「それだけありますか」

「ええ。ちなみに私もいれば八割勝てるわ」

 

 でもまあ連戦なら勝てそうなんだよたぶん。

 

「ならば許容範囲の内ですね……王が倒れてなお王軍が退かない場合は予定通りにします」

 

 ともあれ、オズワルド卿には謝っておかねば。

 私がかなり好き勝手にしたからな……予定がかなり狂ったんだよ。

 

「……ありがとうございます。私はあそこで退くわけにはいきませんでした。私は母であり女王なのですから」

 

 子の血を盾にされるとな……どうしても弱いんだよ。

 

「それはいずれ切り分けて考えたほうがいいでしょうね。まあ、武運を祈ります」

 

 それは……そうだ。正論だ。

 いずれその辺も考えねばならんな。だがそれも今日勝ってこそだ。

 

 ■

 

 黄金色の草が低く茂る大樹見の平原。

 波のように草がそよぐ中、夕暮れも近い日差しの中で。

 互いに槍衾を背にして私とアルドリック王は対峙した。

 

「俺は貴様にたどり着いたぞ!貴様を平らげ俺は更なるエンダールの覇を世界にとどろかす!歪んだ黄金樹の末裔、ラウレミルの女王よ!」

 

 まるで立ち上がった獅子のような偉丈夫だ。

 覇王にふさわしい勇壮な鎧兜。

 対する私は軽装のローブ姿。

 大人と子供以上の背の差。

 男と女。

 あまりにも対照的な王の姿だった。

 

「まことあっぱれなご覚悟!これほどの首級を取る機会、互いに幾度もありますまい。そう簡単に食いきれると思うなよ、枝打ち王!」

 

 その瞬間、両軍の全ての兵が理解した。

 これはもはや戦争ではない。

 神話の戦いなのだと。

 

「行くぞラウレミル!」

「来いエンダール!」

 

 そして一騎打ちが始まった。

 

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