「んぎぃぃぃ……!思ったより痛いじゃないお姉さま!?」
「うぐぐぐぐ……!だ、大丈夫だ。お姉ちゃんがついているからな……!」
そういうわけで、数か月後。
私たちは手を握り合いながら出産の痛みに耐えていた。
正直、手が骨折しそうだがそれでも陣痛よりマシだ。
「それにしても……!なんで同時に妊娠しちゃったのかしら!?」
「どう考えてもあの後はしゃぎすぎたからだろう……!うぐぐぐ」
若い二人、森の中で二人きり。我慢できるはずもなく……
そういう訳で思い切りやった結果がこれだ!
どう考えても同時出産は無茶だ。しかしそうなってしまったからにはやるしかない。
「ほぎゃあ!ほぎゃあ!」
「びえええ!びえええ!」
「あれ?産まれたの……?」
「そのようだ……思ったより早く済んでよかった……産湯はやっておく……寝ていいぞアリア」
「そう……よかったわ……おやすみお姉さま……」
「ああ……」
私は母様の「義肢の魔法」を使って体から魔力の腕を生やしてなんとか赤子二人を産湯につけ、事前に用意していた産着で包み、なんとか抱きしめて眠った……
体温で温めなければ弱ってしまうからだ。
なんとかはなった……だがこれからどうなるのだろう……?
■
それから二人で初めての子育てを始めた。
母乳とおむつの時期は1週間もせずに終わり、我が子たちは歩き出し言葉を話し出すまで1か月もなかった。
アリアは手間がかからなくていいと素直に喜んでいたが、私は戦慄した。
この速さで成長していい生物なのか?私たちは……
我ながらちょっと引く繁殖力だ。
留意せねばならない。
とはいえ、母様の願いであるラウレミル家復興のためには有利だが……
嫌になるな。自分も子も駒として考える浅ましさが。
「ママ~!」
「おかあさん!」
私たちは一人づつ子供を産んだ。
私の子は銀髪で活発なムジカ。
アリアの子は金髪で思慮深いロゴス。
「はいはいアリアママはここよ~!今日も冒険してきたの?」
「うん!池でね!お魚捕まえてきた!」
「いい魚じゃないムジカ!よくやったわね!」
「ロゴスはどんぐりあつめてきた」
「今日は大漁じゃない。お魚は焼いて食べましょう。どんぐりは灰汁抜きするわね」
とはいえ、子は可愛い。もう何をしてもかわいいが先に来る。
「そうか。怪我をしたらすぐに言うんだぞ?よくやったな」
「グレイスママ!私だいじょうぶ!今夜もお歌うたってくれる?」
「もちろんだ。何がいい?アリアンドラの子守歌か?それとも小人騎士の冒険歌か?」
これでもエルフの末裔のたしなみとして母様からは一通り歌の手ほどきは学んでいる。
あまたの物語は10年の間に覚えた。ハープの演奏にドラムの打ち方も。
これは伝えていなけばならない事だ。
「ぼうけんがいい!」
「そうか、ムジカは冒険が好きだな……だが、そのためにはよく魔法を学び強くあらねばならん」
「おべんきょう?」
「楽しいぞ魔法は」
「そうかなあ?」
ううむ、首をかしげる姿も可愛い。お腹を痛めて産んだ子だからより一層な……
「あんまり遠くに行ってないわよね?」
「できないよ。『約束』だから……」
「あら、そうだったわね。あなたたちが大きくなったら破棄されると思うから安心しなさいよ」
アリアには独特な魔法の才能があった。それは『契約』だ。
アリアの成した『約束』は物理的に破れない。破ろうとした瞬間に肉体が操作される。
これはアリア自身も無意識で、気づくのにかなり時間がかかった。
気が付けばアリアは多くの鳥獣をこの『契約』で使い魔にしていたことでようやく解ったのだ。
だが、母様はこれの有意義な使い方も教えてくれた。
いつか、我々が『集団』になった時にはその全員が法を守ることができると。
我が妹ながら天才過ぎないか……?
「うん、でもまだ学びたいことがあるから」
「そう?ロゴスは偉いじゃない。やっぱり私たちは父親に似るのかもね」
そうロゴスの頭を撫でながら、アリアが私に湿った視線を送る。
「おそらくはそうなのだろうな……ムジカはどこかお前に似てるよ」
「そうかしら?」
「そうだとも」
「ママたち仲よしだね!」
「うん、そうなんだろうね」
ムジカがキャッキャと笑い、ロゴスが微笑む。
この頃はそんなやり取りが多かった。
間違いなく私の人生の中で幸福な時間の一つだったと思う。
■
それから娘たちが大きくなるまで、出来る限りを伝えた。
例えば魔法を森の朝で。
「いいか?魔法とは基本的に魔力という形のない力を、形あるものに練り上げ、そして支配する技術だ」
「うん、難しそう」
「そうでもないわ?こうやって練って…こう!」
アリアは笑顔で最も簡単な魔法「魔力の礫」を実演してみせる。
要はただ魔力を固めて飛ばすだけだ。これが基本となる。
「こう……かしら?」
「いいぞ。あとは慎重に外に放つんだ。誰にも当たらないところにな」
「はい!」
ロゴスはうまく魔法を感覚で扱えているな。
青白い魔力塊が木に向かって飛んでいく。
「ママこれって実はものすごく奥深いやつだったりする?」
ムジカは意外にも本質をものすごく深く考える子だ。
この質問は正しい。だいたいの攻撃魔法はこれの発展だ。
「うむ、ムジカお前は正しい。これを高温で形を定めず出せば……この通り、炎となって飛んでいく」
私は指先に火球を出してロゴスが的にしていた木にぶつける。
火球は当たり、樹皮は焦げる。うむ、山火事にならないコントロールはできているな。
「鋭く、硬くなれと念じて出せば……このように剣となる」
今度は鋭い円月刀を作り出して軽く振ってみせた。
魔法によりかりそめに作られる武器とはそのようなものだ。
要はただ魔力を武器の形に固めただけだ。
「じゃあ、だいたいなんでも魔力で作れるの?」
「理論上はな。想像の及ばないものは作れん。それに作ってみれば思ったものと違ったというのはよくあることだな」
「ふーん……」:
ムジカは真剣に魔力を練り始めた。
いろいろと試行錯誤を始めたようだ。こういう時のムジカは異常な集中力がある。
ムジカが一人で集中始めると、ロゴスが尋ねて来た。ロゴスはこういう気遣いが出来る子だ……
「お母さん、他の魔法って?」
「ふむ……そうだな、たとえば雷の出し方は練った魔力に雷の性質を与えることで雷を打ち放つ。これには錬金術の知識もいるのだぞ?」
「うんと……万物には雷の力が陰と陽であって……それはお互いにひきつけ合うとか、そういうのかな?」
ロゴスの手にはバチバチと輝く小さな雷があった。
この子は天才じゃないだろうか?
「あら!もうできたの?すごいじゃない!」
「えへへ」
「我が娘は天使だろうか」
危ないから魔力を鎮めるんだぞ。
いかん、本音と言葉が逆転した。
「お母さまが作ったご本を読むのは好きだからね。覚えててよかった」
「偉い子ね~!」
アリアがロゴスをわしゃわしゃと撫でる。
そう、私たちは母様から習った10年間の教えを長い時間をかけて本にしていた。
アリアが樹皮を集め、煮て、叩き、紙を漉いて……私が内容を墨で執筆し、そしてツルから作った糸で綴じた。
今の段階でももう百冊近くある。年単位でかかったものだ……
「母様、できた。どーよこれ」
黙って集中していたムジカが手にリュートを持ってぽろろんと鳴らした。
それはいささか調子外れだったが、私が母様に教えられて作ったエルフの楽器そのものだった。
魔力から作り出したのか……この短期間で!
「んー、音が違うね」
「ほう、やるではないか。なかなか高等な技術だぞ。それでよい。ゆっくりと調律していけばいずれいい音が鳴るだろう」
「そっか、ありがと。えへへ」
「二人とも天才じゃないかしら?我が家はきっと繁栄するわ~!」
アリアは今度はムジカも抱きしめて撫でる。
やはり褒めるのはアリアがうまいな……
娘たちの成長が早過ぎて、言う暇がなかったが実はそれ以外の魔法は存在する。
たとえばアリアの「契約」など魔法で物を作るのではなく、それ以外の効果を発揮するものだ。
たとえば「転移」とかそういう常ならぬ力……これは才能がいる。
だが、私たちの娘ならばできてしまうんじゃないか?