ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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海洋開拓編
海洋開拓計画


 

 そうして、エンダールの新王セドリック殿から『ラウレミルの独立と兄の首で手打ちにしてほしい』と打診があり我々はこれを受託した。

 めんどくさい戦後の事務処理をなんとか形にすると我々はさっさと和平の調印式に向かう。

 

 ちなみに、旧ラウレミルを陥れたカス共はすでにアルドリック王がぶち殺していた。

 自分の手でやれなかったのは残念だが、すっきりしたな。

 

 今日は降したやつらを前にして戦争終結の宣言とか今後の方針の演説を行うことになる。

 たぶん、あのアルドリック王ならばこれこそ勝者の愉悦だというだろう。

 

「我々は勝利し、独立を得た。そしてエンダール王国は我々を一つの国家として認めた。まずはセドリック国王陛下の英断に感謝したい」

 

 緊張と静寂が群衆に広がる。

 いやあ……王都の広場はでかいな。これだけの人が入るのだな……

 

「みなさんのご懸念は我々が増え過ぎる事だろう。『ラウレミルは増え続ける、ならばいずれ再び争いになるのではないか』そう考える者もいるだろう。かの覇王アルドリックもそうおっしゃっていた。だが、これからそれは杞憂となる」

 

 わずかなどよめき。疑惑の唸り。まあ信じられないのはわかる。

 だがさらにギアをあげていくぞ!

 

「なぜなら我々の種族はもはやこれ以上の陸地を欲しない」

 

 群衆の困惑。ここだ!

 

「我々は海を目指す!人の手によって浮島を作り上げる。海上に新たな故郷を作り、それをもって領地とする!」

 

 拡声魔道具によって私の声が広がり、群衆の理解が広がるとともに困惑に期待が混じっていくのがわかる。

 いや~勝者の愉悦だな。

 

「私はこの人工的な浮島計画においては、最終的にはすべての食料や資源が浮島内で完結することを目指す。つまり必要なのは我々自身すら組み込んだ新たなる生態系なのだ」

 

 ヴェスパシアで私も何も学んでいないわけじゃないからな。

 あれをそのまま海にもってくるのも今の勢いなら可能かもしれん!

 

「よってこの私、ラウレミルの女王グレイス・インガイエル・ラウレミルの名において建設国債の発行を宣言する!」

 

 ぜひ買ってくれ!ラウレミル建設債バイナウ!

 群衆のどよめきがやがて少しづつ歓声に変わっていく。

 

「……そして、ヴェスパシア領主ネブラ伯。あなたの知恵を借りたい。ラウレミル女王の名のもとに技術支援を要請する」

 

 あのデカい木を海に持ってこればデカい浮島くらい造れるだろ!

 海水で木が育つかは疑問だが……

 まあなんとか超デカい浮草くらいこの人が作れないはずないだろ!

 

「要請を受けるわ、ただし一つ条件が」

「聞こう」

 

 いつになく愉快そうなのといつになく真剣なのが両立する表情ってあるんだな……

 

「技術責任者として、一から設計させて。もちろんあなたの要望は聞く、けれど方法は専門家に任せなさい」

 

 まあ……専門家ってそういうことだからな。

 全面的には信じられないが、しかし腕は信じているよ。

 あの狂気都市を見れば嫌でもわかる。

 

「あなたも私がすでに生態系を一つ作っている実績があるから要請したのでしょう?巣の張り方は蜘蛛が一番知っているもの」

 

 その通りだよ。

 あれだけのイカれた大都市つくれるならデカい浮島くらい余裕でしょうが。

 信じてるからな……その技術力を!倫理観はあんまり信じてないが。

 

「わかった。あなたの技術を信じる」

「ええ、任せて。女王陛下」

 

 ちなみにこのやり取りはラウレミル領でもやった。

 大事な事なので二度言ってやる。

 

 ■

 

 ラウレミルに凱旋帰国した。いや~派手だった。疲れたな。

 そして諸々が落ち着いたころ、実際に巨大浮島をどうやって作るかという会議になった。

 海の話ということもあり、ムジカの街でまたいつものメンバーでパーティーだ。

 あの女王に担がれたパーティー会場だよ!

 嫌な記憶がよみがえるが、まあ今回は大丈夫だ。

 そのはずだ。

 

「そうね、大まかに言って二つの選択があるわ。ヴェスパシアにあるような巨木をそのまま海に持っていく方法。もう一つはもっと小さい浮島を沢山作ってつなげる方法」

 

 ここでオズワルド卿が挙手した。はい早かった。

 

「……ならば工業屋としては後者をお勧めします。一つの巨大な建造物より、小さな単位……ユニットと私は呼んでいますがね。このユニットごと交換する方が修理が容易だからです」

 

 は~、やはり専門家の話はためになるなあ。

 

「……オズワルド卿のいう事ももっともだ。浮島を作ったからには住民の手で直していく必要がある。私の勘としても巨大な一つより、無数の群れのほうが確実な気がする」

 

 最終的には娘たちが浮島を手入れできるようにせねばな。

 おっ、ネブラ伯がすごい勢いで考えてるなあれは。

 

「なら、そうね……大きなヤシの実をベースに考えたほうがいいわね。ちょうど大きめの樽くらいの実がなればいい。それを四隅に組み合わせてその上にイカダを組んで土を撒き、最後にそのヤシそのものを植えれば再生産可能よ。そうね、マングローブのような海水耐性に、浮力を持つ根に……」

 

 はえー、そんな高性能なものができるんですか?マジで?

 おっ、オズワルド卿またしても早かった。どうぞ。

 

「いえ、ネブラ伯。最初から完成品を出すよりもまずは多少大きなヤシの実を陸地ですぐ作り、それで試作品の島を作るべきです」

「へえ、工業屋からは違う観点が見えるのね。聞かせて」

 

 うーむ、ネブラ伯もオズワルド卿も専門分野が重なる時は話がかみ合うんだよな。

 

「はい、まずは十人が住んでみて、次に百人、いずれは千人、万人……最初から巨大なものを作るのはリスクが大きい。工程は区切るべきです」

「せやね。最初から全ツッパはあかんわ」

「……森を作るには鉢植えからってことね。一理あるわ」

 

 は~、みなさん専門家だなあ。

 

「ええ。雇用調整と冗長性から考えても、まずは陸地で建材を安定生産させるべきです」

「せやね。商売人からすれば金の流れができるのは大事やわ」

 

 ふむ……話がまとまってきたな。

 

「なるほど現実的な意見だ。さすがだオズワルド卿」

「でもそれ以上もあるわな」

「ええ、なにより横槍を入れたがる者は時間と共に増えます」

 

 これで政治の話に着地するんだからすごいよオズワルド卿。ぬかりないな。

 

「おのおの方のご意見はわかった。ならばやはりまずは最初は建材となるヤシを安定生産するところから行く。各人の協力に感謝します。ではそろそろ夕食会にしましょう」

「ええねえ。海の幸は楽しみやわ」

 

 いや~ムジカの作る飯を食うのは久しぶりな気がするよ……

 

 ■

 

 食事がどんどん運び込まれていく。

 いや~、魚や訳の分からないフルーツやらいろいろあるな。

 まあそれは良いんだがムジカ、お前だいぶはっちゃけた姿してるな。

 魚人の民族衣装は良いとして肌にそういうのはさあ……

 

「ムジカ。そういう装飾はどうかと思うぞ母は」

「あーいやこれ水中呼吸の魔法を永続化させるためのやつなんだよ」

 

 入れ墨か~!娘がいつのまにか入れ墨を入れている……!

 いや、価値はわかるんだよ。海ならそれは確かに必須だよ!

 でも入れ墨かあ……

 

「ほーん、刻印魔術やね。こっちにも伝わっとったんや。懐かしいなあ、爺ちゃんも彫ってたで。ほんでももう爺ちゃんもよう意味わからんってゆうとったな」

「へー、そうなんすか。私は読み方ならいましたけど。ちょっとなら書けますよ」

「はぁ!?これ読めるん!?ほんで書けるんか!?な、ならこれなんて書いてあるん!?」

 

 ゼグラス侯は手帳にペンで自分の家に伝わっている文様を書いて見せた。

 さすが商人だな……いつも筆記用具をお持ちだ。

 

「ええとこれが保温、これが剛体?かな?それでこれが火炎高揚……じゃないですかね」

「……ほんまや。多分そんな感じやわ」

 

 魔法の話題に食いついてきたのはネブラ伯だ。

 いやまあ私も技術としてはすごいなとは思うんだよ。

 でも一言欲しかった~!

 

「面白いわね。生体に魔術刻印を彫る……私も興味があるわ」

「これは海洋開拓の速度が変わります。女王陛下、これは連合国の海洋進出における基幹技術として保護すべきです」

 

 うわあ、技術者共が食いついてきたよ。

 まあ、これは絶対必要な技術なのはそれはそうだ。

 

「……ああ、私も驚いた。ムジカの入れ墨からこれほどの高度な技術が見つかるとは」

「……あ~、また仕事?」

 

 相変わらず興味ない仕事は本当に興味ない顔するなお前。

 

「すまんな、金は払う」

「税金じゃん。まあいいけどさ。とりあえず飯時くらいちゃんと食ったら?マナーでしょ」

「……その通りだったな。お前から私が教えたことを教わるとはな……大きくなったな」

 

 そういえばこーんな小さい頃に私がそういう事言ったな。

 覚えててくれたんだな……

 

「そりゃそうでしょ。時間が経ったら大きくなるよ」

「それでもだ」

「せやね、案外年食っても変わらんやつは多いで」

 

 しんみりしてしまうな。

 おっ、孫が海鮮スープを持ってきたな。

 

「おおっ、ええ魚やん。漁師汁ええよね。これ漁師汁にしか使っとらんの?刺身はないん?生のやつや。もったいないて!」

 

 生で!?美食の道も大概イカれてるよ。

 

「ええ、生で食えるんすかこれ?」

 

 ムジカも料理を勧めつつしっかり客人のもてなしをしているな……

 

「知らんか~!生にソースかけて食ったらうまいんよ。このスパイスやて内陸に持ってったら値段ヤバいで」

 

 はー、こんな粉がなあ。美味しいのは解るが。

 

「たしかに食文化も大事よね。人は主食にしてる植物に似るのよ」

 

 始まったよ!

 

「歴史的に見ると作るのに手間がかかる穀物ほど共同体を必要とするわ……だから米は統制を作る」

 

 何か思ったより深刻な話になってきたな。

 飯食っててもつい統治の話になってしまうから業深いことだ。

 職業病だな。

 

「逆に麦は少し自由になるわ。一家族単位でも育てられるから個人の概念が強まるのよ」

 

 ふーむ、つまり娘たちの未来をどう考えるか、か。

 

「でも芋は違う。果実もね。極端に言えば国家を必要としないわ。だって勝手に育つし、隠すのも簡単。その割に保存がきかない。国家を作るのに不向き……でもこれこそあなたにお勧めするわ」

 

 これはちゃんと聞いたほうがいいな。

 

「聞きましょう。なぜです?」

「勝手に育って簡単に隠せるってことは絶滅を避けるという観点では非常に優秀なのよ」

 

 あ~!確かにな。そうか、娘たちが私の手を離れても生きていけるために、か……

 

「私は麦が好きよ。程よく自由でとても人間らしいから。でも海洋という条件。女王の要件。これを満たす主食はおそらく芋や果実によるでんぷんね」

 

 それを語るネブラ伯の顔はとてもロマンに満ちていた。

 人間というか知性というものが好きなんだろうなこの人。

 

「もっとも、最後にあなたの娘たちをどう育てるか決めるのはあなただけど」

 

 なるほど最終的には娘たちにどういう道を敷いてあげるかに繋がるのか。

 こういう優しさをさあ……被造物を作る時にも配慮として持ってくださいよ……

 

「私は……娘たちに生きて欲しい。私に反抗する、独立する、それでかまわない。元気でいてくれさえすれば、それでいい」

 

 いや本当に……元気でいてくれれば結局それでいいんだ。

 母上の遺した『ラウレミルの繁栄』とはそういうものだろう。

 

「何より、現実的に考えて子孫を飢えさせない可能性が最も高いのが芋であり果実だ。私はこれを選ぶ」

 

 ネブラ伯はめずらしく優しい笑顔をしていた。

 

「あなたらしい答えね。要件に盛り込んでおくわ」

 

 なんだか真面目な話になってしまったな……

 

「……そういや、香辛料って島でできるんやったね。ほんならこのままラウレミルが海洋開拓して行ったらどんどん新しい食材見つかるんちゃうん!?」

 

 こういう時にゼグラス侯は助かるなあ。

 ふーん、貴公は空気を変えるのが上手い!

 そこにオズワルド卿も乗ってくる。

 

「確かに。海上都市の維持には交易品が必要です。新しい特産品はそのまま輸出品になります」

「せやろ?これ案外いけるて!最初はどないして採算取るんと思うとったけどこれいけるて!」

 

 専門家があつまると飯でも仕事の話につながっていくなあ。

 正しく社交ではあるんだが……

 

「ママたちはもうちょっと飯時くらいは仕事忘れたほうがいいよマジで」

「……すまんな。お前もちゃんと飯が作れるようになったなとは思うよ」

「そっか」

 

 ムジカもいい笑顔するではないか!

 いや~、久々に娘に会うとうれしいなあ。

 

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