ようやく王城に帰ってこれたよ……
アリアと再会の抱擁をしたらものすごく盛り上がった。
海洋開発も今はしばらくネブラ伯の植物開発待ちだしゆっくりしようかな……
……と思っていたらセドリック陛下からなんか使者が来たよ!
シルクハットにマント、背中にはクソデカい殺意の塊みたいな処刑剣だ!
なんだこいつ。
「魔法学院の第一観測員?にしてミスリル級冒険者のカシアン・ローレンツ殿か」
あ~、たしかに魔法学院は第三国だからなあ。
国家レベルなんだよ普通に。学院領とかあるからなあ。
たしか魔法学院と冒険者ギルドってほぼ一体なんだったか?
「ええ、ロゴス君とは学院以来ですね」
「……ああ、その様子だとカシアン先生はラウレミルに冒険者ギルドを設置する気かい?」
う~ん、立ち直っていないなあ。すまん、ロゴス……
「それもあります。ですがまずはこれを」
おっ、伝書か。なになに。
え~、捕虜返還のお知らせね。捕虜なんていたか?
たしかアルドリック王の進撃前にラウレマートの人員は全員退避させたはずだぞ?
いやあ、セドリック陛下の字は達筆だなあ……なになに、捕虜名簿か。
「フィンブルあいつ生きてたのか!?」
「はい、亡きアルドリック陛下は彼ら冒険者チーム『宵の群狼』自体もあなたの肉親だと誤解されていたようです。故に命を取らないと」
あ~!そういえば『聞けば貴様の兵はすべて貴様の子だという。子の血を見るのは偲びなかろう』とか言ってた気がする……
あれってそういうこと!?
アルドリック王はその約束を律儀に守られたんだな……
死してなお王器を見せられるな。
「そ、それは本当かい!?」
「ええ、外の馬車の中に。ロゴス殿もぜひ確かめられよ」
「あ、ああ!」
うおっ、ロゴスお前そんな速度で走れたのか!?
母はまた一つお前の成長を見たよ。
……よかったな。
「その上でセドリック陛下の提案する捕虜の代金ですが、我々が立て替えます」
「あなたがた学院が?……何をお求めか?」
「……刻印魔術の情報を買い取らせてください」
う~ん!高い取引だ……
その上でセドリック陛下の捕虜交換代金が常識的な値段のギリギリなんだよ。
高い!払えなくはないし、無茶な値段ではないが……高い!
しかし断ることもできん……ここまで来て捕虜いりませんは通らない!
「……その上に我々冒険者ギルドの支部をラウレミルにつけます。そして六割引きで依頼を受けましょう」
「へえ、じゃあその冒険者ギルドってどんなことをしてくれるの?」
ナイスフォローだアリア!
こういう『どのくらいお得なの?』という買い物トークが上手いんだよ我が妹は!
「まず、地図作成の測量、害獣駆除、冒険者育成、これらは冒険者ギルド持ちでやります。あなた方は依頼を出すだけで結構です。さらに魔術教会にて有料ですが治療と医薬品販売を行います。これは七割こちら持ちで、患者負担は三割です」
「えっ、お得じゃない!せっかくだからこの取引受けちゃいましょうよお姉さま!」
た、たしかに捕虜代金を立て替えて、さらにそれだけタダでやってもらえるのはすごくお得だな……
でも第三国の武力が駐留するのはなあ……でもお得だ……
だが、それだけ大盤振る舞いする理由は何だ?
いや、刻印魔術はそれだけすごいが。
「……やや、そちらの持ち出しが多いように見受けられるが、学院はそれほどまでに刻印魔術に価値を?」
「いいえ、それだけではありません」
まあそうだろうな……何かあるだろうよ。
「……かのアルドリック王はかつて我々にこう問いました。『我が覇道は貴様らの言う世界の均衡を崩す行為に当たるか?』と。我々はこう答えました。『あなたがエンダールの守り手である限り我々は観測者であり、支援者であり続けます』と」
こっわ!こいつらアレだ。
王が世界を破滅させるぞーとか言い出したらその日のうちに暗殺者に早変わりするやつだ!
「……それに彼の王はなんと?」
「こう答えられました。『それならば杞憂!この俺がエンダールの守り手としてふさわしからず、という日が来たのならば……首を取りに来い!』とのことでした」
カシアンのアルドリック王のモノマネがまあまあ迫真でウケるんだが。
そんなに力入った演技しなくともよかろうよ……
それはそれとしてあの方らしいな。ふむ、そういう取引か。
「ゆえに、我々はあなたにもこう願います。あなたが世界に対して祝福であり続ける限り、我々は監視者であり支援者であり続けると。どうか我々を監視者のままでいさせてください」
シンプルに脅迫で笑ってしまうな。
「いいだろう。王とは玉座に自らを裁く剣を置かねばならぬ。かの覇王がそう言ったように、私もまた自らに世界への祝福であることを課そう。その条件での冒険者ギルドの建設を認める」
「……ご英断に感謝します」
は~、また一つ首輪が増えたな……
「それからこれは私からの提案と献上品ですが、まずはラウレミル領の地図とラウレミル海領の海図を」
いつのまにお前ら私たちの領地を測量してたんだよ!?
いや、よくよく考えればムジカはラウレミル海領は買ったとか貰ったと言っていたな。
つまり前の持ち主がいたわけで……まあそういうことか。
いやでも我が領の地図って言った今!?
「……受け取ろう。それで、対価は何だ?」
「海上開発に際し、我々も参加と援助をさせていただきたいのです」
「……それは『監視』のためか?」
は~、でしゃばるなこいつら。
「いいえ、我々は元来研究機関です。世間では害獣駆除の猟師のように認識されていますが、それは一部誤解です。根本的には我々は未知と未踏を求めます。害獣駆除も記録を続けるための環境保全の一環に過ぎません」
「それはやはり王であっても、いや王であるからこそ『環境』のためには駆除するという事ではないか?」
「……御慧眼に感服いたします」
そこは否定してくれよ!こいつネブラ伯並みに思想がガンギマリだよ!
「……ですが、我々は観測対象と未知に飢えています。環境保全は手段の一つに過ぎません」
ここで初めてカシアンは感情を見せた。
それはネブラ伯が時折見せる夢見る目だ。
お前たちの夢見る目つきは狂気の沙汰なんだよ!
「未知があるなら調べ、地図に空白があるなら埋めます。それが学院です。私も見たいのですよ。海の向こうを……!新たな島を発見された場合はぜひご用命を。費用はすべて学院持ちで調査研究依頼をすぐに出します」
かなり前のめりになるな。怖いんだよお前らは。
だがわかった……
いざとなったら私を始末するのは本当にこいつらにとって副業だ。
こいつマジでただ海の向こうが見たいだけだ。
それでここまで金をかけるのか!?おかしいよお前らの予算規模。
「……わかった。よくわかった。冒険がしたいのだな?」
「はい。極論を言えば我々の行動原理はそれひとつだけです」
「わかった……援助を、受けよう」
「ありがとうございます。ご理解いただけると思っておりました」
圧が……圧が強い!こいつも!
■
そういうわけでカシアンは満面の狂気の笑みで帰っていった。
フィンブルたちを置いてな。
まあそういうわけで、ロゴスは今夜は帰ってきそうにない。
久しぶりにアリアと二人で夕飯を食べるな……
「でもお得な取引だったじゃない?実質タダでしょ」
「お前なあ……タダほど怖いものはないんだぞ。私の命がかかってるんだからな」
その時アリアは素で意外そうな顔をした。
「えっ、だってお姉さまが祝福じゃなくなることはないでしょ。むしろその生き方を辞められるほど器用じゃないわよね」
「それは……まあそうだが」
敵わんなあ、お前には……