そしてまた数年が過ぎた。
浮島一号は増設と増築を繰り返し七ユニット目までになった。
時々見に行っているが、巨大ヤシを中心に海に森が広がっているかのようだった。
「オズワルド卿、あなたの献身と投資に感謝する。海上都市の試作品は順調のようではないか」
また宴だよ!会議するためには必要だからな。
今回はルストヴァルド領でよかった。隣だしいまや副都心だからな。
ずいぶんきらびやかで活気ある街になった。
「順調です、たしかに順調ですが……この浮島一号では規格化は不可能です。しかしこれはこれで成立させられるでしょう」
この苦労人のオークはいつもの困ったなあ、という顔をしていた。
まあこの方の場合はこの顔から容赦ない数字が出てきたりするんだが。
「……たしかにな。計画ではこの段階になかった島ごとの分業がすでに発生している」
「農業島、汚水処理島、土加工島……必要ではあります。この段階で検証できただけよかったという面もあります……ですがあまりに生物的です」
生物的、か。たしかにな。もともとあれで一つの生態系にする予定だったしな。
「決められた工業規格という線で進めるのはあやういですね。海という環境もあるのでしょう。元からの計画が建てるのではなく育てる都市ではありますが……だからこそ、これは制御や統制から離れています」
ここでネブラ伯がワインのグラスを回しながら微笑む。
「あらいいじゃない。もとより女王陛下は自分の手を離れてでも民に生き延びて欲しいとご注文よ?」
「そういうことではありません。まさにその住民の安全確保のために規格化は無理にしても、成長の制御という観点が必要です」
「それは一理あるわね。……そうね、なかなか面白そうなテーマだわ。単に建材になっている植物の生体制御だけでは意味がないわね……そこに住む者に計画性が必要ね」
うまい言い方するなあ。工業の言葉を生物学の言葉に訳している。
私もそういうことがわかるように勉強したからな。
まあロゴスが参考書を用意してくれたんだが。あいつ何冊本を読んでるんだ?
「まあまあ!ならせっかくだからもう一個作っちゃおうよ!どうせあれは試作品なんだろう?」
そう言いながらヴィクトル公爵は小切手を書いた。
そうだよこの人公爵になったんだよ。ルストヴァルドはもう欠片も辺境じゃないからな。
「これは政府計画への寄付ってことでさ!なんなら普請ってことで人も出そう!どうかな?」
「まずはご寄付に感謝します。うおっ!」
声が出るほどびっくりするほど天文学的金額なんだよ。すごすぎんか?
物流倉庫と市場でよほど儲けたらしいな……余裕の笑顔が腹立たしいよ。
「失礼した。ネブラ伯、オズワルド卿、これならば可能か?」
小切手を回すとネブラ伯は愉快そうに、オズワルド卿は目を覆って苦笑している。
「時間さえあれば可能ね。今度はもう少し全体を一貫させたものを作るわ」
「いえ、必要なのは統制というより制御された増殖です。要するに手入れされた植木に近いものですね」
「なるほど、いいアイデアね。まあ問題の洗い出しはあらかた済んだからもう少しスマートな物になるはずよ」
「ぜひよろしくお願いします」
ここで半分寝ていたゼグラス侯も小切手を書いた。
「何、今度は試作品やなくて本番の製品作るん?ええやんか。僕も出すで」
うおっ、また息が漏れるほどの金額……!
嘘みたいな数字が右から左にうごくこの貴族感覚はいまだに慣れんな。
「ゼグラス侯、感謝する。だがあなたは対価なしに出さない方だろう。何を求める?」
「んー、ほんなら浮島の製品の販売と流通を僕に任せて欲しいんよ。ええ感じに売ってみるわ」
ふーむ、まあ商売上手のこの方ならば任せてみるか……
「わかった、よろしくたのむ」
「あともう一個。浮島二号が完成した後の会議。僕の家でやらん?せやな、完成パーティーの何か月か後にな」
「ふむ、かまわないが……何か理由が?」
「まあそこはサプライズやね。楽しみにしてや」
いやな予感がする~!オズワルド卿も何かに気づいたようだ。
言ってくれよ!何に気がついたんだよ!
■
そうして浮島二号は驚異的なペースで建造された。
その期間……わずか半年!
これはしかも基礎部分はもう工法が要らん!樹自体が勝手に浮いて育つ設計だ!
土すら巨大ヤシに住む土生み貝二号が自動的に良い感じに撒いてくれている!
あとはそこにツリーハウスをくっつければいいだけだ。
「ずいぶん……デカいな」
「あら、注文通りの寸法よ?」
それはまあそうなんだが……遠洋に半年で地平線近くまでヤシの森ができるとは思わんだろ。
デカい!あまりにもでかい!設計図上と実際に見るとではずいぶん違うな。
「だが、これで我が民は安心して増えることができるだろう。感謝する、ネブラ伯」
「まあ、うまくいくと良いのだけれどねえ」
「何か不備が?」
「ククク……運航上では何も問題ないわよ。あとはあなたたちの問題ね」
だから何だよ!?ハッキリ言ってくれよ!
だがまあ、これで土地はできた。あとは住民募集だな!
いや~どれだけ集まるか楽しみだ。
■
「びっくりするほど募集が来ませんよ!どうするんですかこれ!」
「ウソだろおい……」
「アンケートもしましたよ。『海が怖い』『そもそもよく分からない。海の上の土地って何?』『土生み貝が噂を聞いた段階でもう気持ち悪い』『子供を連れて行くのは不安』『陸の家を離れたくない』……だそうです」
「んんんんん!」
う~ん、それは!そう!正論だよ!
いやでも海洋進出をエンダール王都とラウレミル城前で演説したときドッカンドッカンの大歓声だったじゃないか!
いやまあ、何年かたってるからそれは勢いが落ちるか。
いい所なんだがなあ、浮島……まあ実物見るまではな~!
「で、では応募した少数は?」
「ほとんどがルストヴァルドやラウレミル海領の作業員ですね。なんでも『陸に帰るのがもうめんどう』だそうです。折角ですので私が管理要員として公務員採用しておきましたよ」
「ナイスフォローだリン……」
「あとは、ドラン領からも少数来てますね『南国の海ってあこがれる』だそうです」
あっ!これか!ゼグラス侯が海上都市が完成したころに会議してくれって言ってたの!
なんか手を打ってくれてたんだな!?その方法を売りつけようって言うんだろう!?
クソッ!商売がうまいな!
「わかった……その秘密をゼグラス侯から聞いてこよう。それに可能なら私が移住することも検討する」
「はぁ!?駄目に決まってるでしょう母様!陸のラウレミルを見捨てたと言われますよ!」
それも、そう!だが私も住まねばそれはそれで無責任だろう。
私の案なのだから率先してやらねば示しがつかん。
「で、では離宮だ!ちょっと大きめの部屋を作って離宮という事にしよう!」
「それも会議通さなきゃダメなやつでしょう!?……もしやこのタイミングでゼグラス侯が会議を開くことを要求していたのは」
「……おそらくは、な」
よく先が見えてるよあの方は。商売が……商売がうまい!
考えれば龍人なので何十年も商売をされている老獪な商人だからな。
見た目が若いからわかりにくいが。
「あの商売人!ダメですからね!母様だけだと丸め込まれます!ロゴス姉さまだけでも連れて行ってください!姉さまは本を読んでゴロゴロしてるだけなんですからこういう時は適任でしょう!」
まあ、それはそう!たしかに魔術研究とか図書館運営とかしてるんだがな。
でもおおむねあいつは本を読んでゴロゴロしている。
だがその知恵で助かってる面もあるしな。姉妹喧嘩はよくないぞリン。
「そう姉を悪く言うものではないぞ。この間ロゴスも子を産んだだろう?それにあいつの知恵には助かっている」
「じゃあロゴス姉さまの家族旅行です!そういう事にしましょう!」
そういうことになった。