そうして秋冬を陸で過ごし、また夏に海の離宮に戻る。
なにっ、ものすごい数の移住者が集まって来ている!
いやヤバいんだよ。本番製品の浮島二号も三倍くらい大きくなっている。
あのどでかい白いツリーハウスって私の家か?そうか私の家か。
その上浮島自体がもう五つ六つあるんだよ!
完全に「海の都」じゃないか!おかげでムジカ領まですごくにぎやかになっているし。
「お~、婆ちゃん。離宮できたっすよ。あんなんでよかったすか?」
「随分……建て直したな……」
私の離宮を支えるヤシの木自体が二回りほど他よりデカいんだよ。
そのヤシの木を這うように作られる建屋そのものもまあデカい。
ちょっとした城だ。離宮なので城だが……
「や~もう入居一年待ちくらいの人気っすからねえ」
「たしか浮島一つあたり六千人ほどだったか。つまり今の人数は……」
「多分二万か三万人くらいっすね。なんかもうこの試作型のヤシでいいから売ってくれってお客が多いんすよ」
宣伝の力っておそろしいなあ~!宣伝ひとつでこうまで変わるのか!?
海上都市の人口、その数……三万人!
もう街だろこれは!街を作ってるんだったな!
「試作型のヤシを?それはつまり勝手に作るという事か?」
「そうすよ。一応危なくないように最低限の指導はしたいんすけどね」
そんな話をしながらマリナが荷物を私の離宮に運んでくれる。
は~!最新鋭のこぎれいな家だな……木材も壁材も真っ白で明るい!
土壁は確か貝殻を多用して白く染めてるんだった。
「いい家だな……良く作ってくれた。しかし勝手に浮島を作られてはな……」
「ならもう婆ちゃんが安全基準を定めてあとは勝手に自分で作ってもらえばよくないすか?安全基準の草案は書いたんで。サインおねだりいいすか?」
そう言ってマリナが自分のカバンからしれっと安全基準を出してくるんだよ!
そもそも子孫が自主的に増設できるように設計を注文したのは私だったから、それはそう!
それはそうなんだが~!心配だよ私は!
「ククク……あなたの望み通りじゃない。あなたが私に注文した生態系は、その注文通りに独自に回り始めているのよ。あなたの手を離れてね」
またネブラ伯だよ!だからしれっと人の家の飯を食ってるんじゃない!
だがその通りだ……私がこの人にそう注文したんだったよ!
私も席に着いて離宮の白い欄干の向こうを見る。
ヤシの根の間をクロムガルド製の船が行き交っている。
そう!海上開発を見越してクロムガルドも乗り気になってきたんだよ!
なんだあのデカい船は。
だがそのおかげで浮島は港として空前の好スタートを切っていた。
「もうこの国は、私から独り立ちしようとしているのか」
「でも、それが親の喜びなのは、あなたも知っているでしょう?」
「……だが思ったより早い」
子供たちの笑い声に商人の呼び声が潮風に運ばれてくる。
ここもにぎやかになったものだな……
おっ、マリナが魔術刻印式の冷却保存庫からココナッツゼリーを持ってきてくれた。
うむ、うまい。
「子の育つのはいつだって早い物よ。それでも支配したいならもっと閉じたものも作れるけど?でもあなたの望みはそうではないでしょう?子供たちに自らで生きる力を養ってほしい……それが注文だったわ」
「だが、いざ本当に手を離れていくとなると、思うところがあるよ」
「それで当り前よ、それが育つということなのだから。面白いわよね?」
「……そうだな。その通りだ」
私も何人も産んで育てて親をやった。
この人もまた都市というものの親を私が生まれる前からやってたんだったな……
■
「さ~、遠慮なくたべてね~」
「は、御相伴にあずかります国母様」
今度はいつもの宴ではなく、宣伝省のやつらを招いている。
私たちの暮らしぶりを新聞でお届けするんだよ。
これもヴィクトル公の発案した宣伝工作だ。
あの人いつのまにか宣伝省なる省庁を立ち上げてるんだよ!
国が独り立ちするってこういうことか~!
「しかしその、王族の方々は思ったより家庭的というか……」
アリアが出してる料理が普通にホームパーティーのそれなんだ。
チーズや海鮮の乗ったクラッカーとかミートソースの絡んだ肉団子とかパスタとか。
家庭的……あまりにも家庭的!
だが実際我が家が普段食べてたり私たちが作るのはこういうのだよ。
なんならもうちょっと雑だ。
「ヴィクトル公の勧めで我々が普段どのような暮らしをしているか知っていただく場が必要だと思ってな」
「な、なるほど……」
「毎日贅沢してもしょうがないでしょ?私やお姉さまはいつもはこんな感じよ」
「……いい記事が描けそうです」
そうして、海の上の暮らしぶりが新聞に書かれたり。
我々王族が驚くほど庶民的な暮らしだとかいろいろ書かれたりした。
いやあ、今でもバカでかい家に住んでけっこう良い物食べてるとは思うんだがなあ。
ゼグラス侯のように贅を尽くしてないだけで。あの方だって普段からああではなかろうしな。
■
「では、僭越ながら我がクロムガルドの誇る初めての外洋艦『クイーン・オブ・ラウレミル』の出航を祝して……乾杯!」
今度はオズワルド卿が浮島にデカい船を停泊させて船上パーティーだ!
この船デカくないか?船の上で球技できるくらいデカいぞ。
「立派な船だなオズワルド卿」
「ええ、我々としてもあまり経験のないことでしてね。ノルド帝国からの技術をなんとか借りれました。最新鋭とはいいがたいですが、これでも立派な魔導機関式の艦船です」
何しろ素材が鉄だものな。理屈はわかるが鉄が水に浮くもんだなあ。
これは水魔法を魔道具で大規模に動かして水流を操って動く船だ。
そう、この船は風を必要としない。自走するのだ。すごくないか?
「ふむ、魔術刻印式でもできそうだが、実績のある方式をとるのは貴公らしいな」
「ええ、この型の船はノルド帝国とダイタル中央国の間での海上貿易で使われていますからね」
どちらもアホほどデカい領土の大国だ。一つの大陸をほぼ一国で占めている。
たしか、母上の話では……ノルドは実利と実力、大雑把だが堅実。そんな国だ。
ダイタル中央国は帝王の支配が強く強権的で虚栄を好む……だったか。
あとはアル・カディルという最も古い大陸……ここはよくわからん。
それで三大大陸だったか。
「ククク……魔術刻印式の推進方式の開発は任せておきなさい。そのうち浮島もそれで動かすわ」
「う、うむ……くれぐれもよく安全試験をしてから実装していただきたい」
「せやけど、うちも二大国の名前が出るようになったんやねえ。感慨深いわ」
ネブラ伯とゼグラス侯も会話に入ってくる。
しかしまあ、この鋼鉄の甲板に円卓があるというのは少々奇妙だな。
「やはり親書や貿易も必要か……」
「まあ、親書と献上品くらいでお茶を濁してればええんちゃう?向こうもそんな暇やないやろ」
「ははは、ゼグラスはそれよりも五龍諸島かい?あそこはスパイスや特産品が豊富らしいからねえ」
「せやねえ。まあ、ゆくゆくはやね。そもそもエンダールの頃から僕ら外洋とかよう知らんし」
そういえば世界は私が思うよりだいぶ広いんだったな。
「我々が知る世界など、せいぜい三つの大陸と五龍諸島までか。しかも五龍諸島もラウレミルも、世界では地の果て扱いだろう?」
「ええ。学院の計算では、世界はその倍ほど広い可能性があります」
「……倍か」
倍かぁ~!三大大陸だけでもまあびっくりするほど広いのにさらに倍!
「女王陛下。つまり、まだ誰も知らない海がそれだけ残っているということです」
オズワルドが珍しく楽観的な意見を言った。
やめてくれよお前までロマンに狂うのは。ないよな?
だが、それだけあればとりあえずは我々が暮らす場所は足りそうだな。
「海の向こうの知らぬ世界か……」
「ええ、そのためには浮島の増加による外洋の補給港の建設が確実でしょう。おそらく半分ほどまでノルド大陸側まで近寄れば安全な航行が可能です」
そうなんだよ、我が国ノルド大陸の横にあるんだよ。
なので目指すならばまずノルドだ。
ここはエンダールの頃にある程度の航行実績があるからな。
ラウレミル以外の港がな。
「うむ、あまり近づきすぎてはノルドの不興を買うかもしれん。半分以上近づかぬようにうまく広げていかねばな」
「ははは、女王陛下は気が早いね!そうだ、今日はまさにその異国情緒を掻き立てるために僕が古典からもってきた演劇を上演するんだ。これが大ウケでね!脚本家とムジカちゃんに高いお金払っただけあるよ」
ちょっと待てヴィクトル公が私の頭越しにムジカに依頼をしている……!
だが、宣伝を任せたのは私だからな~!
そして、歌を作るのはあいつが適任だろうよ!
『遠い国の~お話だよ~海の向こう、灼熱の国~果てしない砂の大地、ゆこうよアル・カディル~魅惑の夜~!』
おいなんだあのムジカの衣装は。ひらっひらじゃないか。
たしか……アル・カディルってあんな感じなんだったか。本で見た気がする。
というかムジカはいつこの船に乗ったんだ。しれっと歌いながら現れるな。
『魅惑の夜~!夢も恋も混ざり合う眠らぬ港街~!天国と地獄、混ざり合う香しいスパイスの香りの彼方へと~!』
なんだなんだあの突然出てきたバックダンサーの群れは。
どこに潜んでたんだよ!
そしてムジカお前そんなキレッキレのダンス踊れたのか。
『魅惑の夜~!なんだってそろう摩訶不思議な市~!月明りに心奪われる夜~!』
とりあえず歌はすごかった。
宣伝だと解ってる私もアル・カディル大陸行きたくなったからな。
アリアは『立派になったわねえ、素敵な歌ねえ』としみじみしていたが……
まあすぐには行かないだろうし来ないだろう!
これは宣伝の効果抜群だな。しばらくは安心して海上開拓ができるはずだ……