……なんてことを言ってたら来ちゃったよ!アル・カディルの使者!
何でも本当はエンダールの代替わりと聞いて挨拶にやってきたらしいんだが。
そうしたらその途中に見慣れぬ港があったので立ち寄ったという事らしい。
「アリア、これで失礼がない服装でいいんだよな?!」
「だ、大丈夫じゃない?露出も少ないしいい生地使ってるから気品出てると思うわよ!」
くそっ、誰かのせいにしたいが私の顔しか思い浮かばない!
それはそうなんだよ。
海にこんなデカいもん浮かべてたらそれは立ち寄った外国船は気になって当たり前なんだよ!
「ヴハハハ!どーも、グレイス女王陛下、ならびにアウレリア国母陛下!素敵な海の港でーすね!私感動しまーしたよ!おお、申し遅れました。私、アル・カディルの王族第三分家、八男のサイード・アル・カディル・バフラムと申しまーす」
丁寧な一礼をして私の前に跪く浅黒い肌に豊かな髭。
ダボっとした白い服装にターバンなる白い布を頭に巻いたこの男が使者ということだった。
また王族だよ!その服の絹、すごくいいやつだし、身に着けた宝石もまあ高そうで高そうで。
「う、うむ。どうぞそちらの席にお座りいただきたい。楽にしていただけるか」
「ヴハハハ!それはどーも!いやあ、驚きまーした!海の上に港町、つくるとは驚きでーす」
圧が……圧が強い!
とりあえず食卓に座って海鮮料理を食べていただいてはいるんだが。
この太陽みたいな笑顔の圧が強い!
「エンダールから独立されたそうでーすね?おめでとうございまーす!これはほんのお近づきの印でーす」
サイードがパチンと指を鳴らすと護衛達がなんかの袋を持ってくるんだよ。
サイードが袋の中身を軽く見せる。
うおっ!山盛りの砂金と宝石!
明らかにお近づきの印でもらっていい額じゃない……!
「う、うむ。サイード殿の気前の良さに感謝する。受け取ろう」
受け取りたくない~!だが出されたものを突き返してはそれはすごく失礼に当たる!
「ヴハハハ!喜んでいただいてなによりでーす!……さて」
うわあいきなり静かになるな!さてじゃないんだよ!
どんな要求が飛び出してくるんだよ、怖いよ!
「この海の港を作れるヤシの木、いくらで買えまーすか?できれば船員ごと買いたいでーす」
「すまんが、我が民はすべて我が胎から出てきた我が子の末裔なのだ。売り物ではない」
お互い真顔になってしまうよ。この手の商人からはいつもヒリついた取引しか出てこない。
私の生活から気安い買い物はどこへ消えたんだろうな。
「おーう!それは失礼しまーした。そうですね、では雇いまーす。けして無体な扱いはしませーん」
ちょっと待ってくれ。もうすでにヤシの木は売る前提になってないか?
「し、しかしだな。あのヤシはすぐに作れるものではないのだ。今でさえ一年の予約待ちなのだ。すまないが……」
うおっ、またサイードの眼が鋭くなった。しかも不機嫌じゃないんだよ。
明らかに何かに気づいた感じなんだ。
「……つまり、あれはどなたか、そちらの魔術師の方々の手による『作品』なのですか?」
くそっ!一枚外交カードを切ろう。鋭いなお前は!
「ああ、あれはネブラ伯という我が国の中心となる貴族の手によるもの。おいそれとすぐにお売りすることは……」
「おお、ならもし可能ならオアシスを作る木とかできまーすか?海の上に街を作れるならできまーすね?」
うおっ、食い気味に食いついてきたな……すまんネブラ伯。
厄介事をたらい回しにさせていただく!
「すまないが、それはネブラ伯にお尋ねいただきたい。場所はお教えしよう、紹介状もつけよう。だがそう性急に決められることではないとご理解いただきたい」
「フーム、わかりまーした。では帰りの便までにお話、まとめときまーす」
ふう、圧が強いんだよこの方は。
「ただ、私はこの海の上に街を作れる人たちを客人として迎え、職人として遇し、雇いたいのでーす」
立ち上がって去り際にも圧をかけてくるんだよなあ!
「それに、これは女王陛下の戦略にも合っていませーんか?薄く、広く、世界に根付く。民を守るというのであれば、国外にも増やすのが一番でーす」
痛い所をついてくる~!それは一理ある!私の目的が根絶されない事であるから、それはそう!
外の世界に広がるのはもともと国策!それはそうなんだが……子供たちが外国に?
……んんんん!その通りなんだけど納得いかない~!!
「……あなたが、それを本気で『約束』できるとして、本人たちが行ってみたいというのならば、いいわ。『約束』できる?」
お、おいアリア!気が早くないか?
だが子らを守るにはこの時点で釘をさしておくのはいい手かもしれん!
私の頭越しに本人たちに雇いたいという話をしかねんからなこいつは!
「私の魔法は『契約』よ。一度誓ったら絶対破れないの。それでも私たちの子供たちを無体に扱わないと『約束』できるかしら?」
サイードはニカッと白い歯を見せて笑った。
「もちろんでーす!」
軽いな~!軽くない?
そう思ってたら居住まいを正してなんか誓いのポーズをとるんだよ。
それがまあ見事で見事で。本気の王族の誓いなんだよ。
所作が……所作が貴い!
「……我がバフラム商家の家名に賭けて誓おう。ラウレミルの民を奴隷とはせず、客人として迎え、職人として遇すると。契約書に書いても構わない」
「わかったわ、じゃあ一筆書いて」
そこでリンを呼んで暴力・奴隷化・債務拘束の禁止や本人の同意の上で雇えとかいろいろ書いて、双方でサインをした。
その上でさっさとネブラ伯への紹介状も持たせてお引き取りいただくことにした。
「いい商談ができまーした。エンダールからの帰りの時にはまた寄らせてもらいまーす。お食事、おいしかったでーす。ごちそうさまでーす」
「う、うむ。貴公の旅の無事を願う」
これは……あれだな!次はゼグラス侯とネブラ伯連れてきた方がいいな!
とうてい私の手には余るよ!商売人には商売人をぶつけるんだよ!
■
「どうもどーうも。お久しぶりでーすね、グレイス女王陛下。ネブラ伯、たしかに取引できまーした」
数ヶ月で戻ってきたよこいつ。
しかもポケットベル通信網でネブラ伯から聞いた話では浮島用のヤシの種とオアシス用の樹木とをキッチリ手に入れている。
予備の在庫とその場で何とかそれらしいオアシス用の樹木をでっちあげたらしいが。
即興で生物を作るって何!?
「とても、とてもいい取引でーした!ネブラ伯、どうもありがとうございまーす!」
「構わないわ。こういう事もあろうかとストックには余裕を持たせておいたから」
「ヴハハハハ!その場でオアシスの木を作るのはおどろきまーした!あなた素晴らしい魔術師でーす!」
「なかなか面白い依頼だったわ。その結果を見届けるのに多少の年月がかかるのが残念だけど」
忙しかったろうにネブラ伯がごきげんなんだよ。
まあ砂漠の国にオアシスを作れる木なんて劇薬を投下するのは研究者として楽しいだろうな……
「オウ、そちらの方は?」
「どうもよろしゅうに。ラウレミル連合国の貿易省のゼグラス・ヴィルガ・ドラン侯爵や。アル・カディルと直に商いができるとは光栄やわ」
サイードは一瞬値踏みする目をして、すぐに眩しい笑顔でゼグラス侯と握手を交わした。
「オーウ!あなたが貿易担当!ラウレミルは人材、豊富でーすね!」
「あんたも相当な商人やね。目利きがよろしいわ」
どうやら商人同士通じ合うものがあったらしい。
おかしいな、なんだか戦場のような緊張感があるぞ。
「ヴハハハ!これなら安心してもう少し取引できまーす!……さて」
追加!?この『さて』が怖いんだよ!何をさらに取引する気だ!
「まずは先日の正式な対価と、今後の信用の証をお渡ししまーす……これはとっておきですよ」
また護衛にパチンと指を鳴らすと何やら豪華な箱をもってくるんだよ。
宝石でも入っているのかというほど豪華な箱だ。
「これは、我がバフラム商家が代々守ってきた香辛料の種箱でーす。黒胡椒、クローブ、シナモン。そしてこちらの本はエンダール語に訳した栽培法と加工法の書でーす!……この価値がお解りか?」
箱をパカッと開けると宝石のように綿にくるまれてスパイスの種が入ってるんだよ。
これは……かなりヤバくないか?
エンダール王家にすら売っていないものを直で売ってきている。
アル・カディルの切り札だろこれ。
ゼグラス侯まで顔色が変わってるじゃないか。
「これは……これは大変なものをお支払いいただけるのだな……」
「ここで断ることがどれほどの無礼か分からんほど、僕は甘ぁないで。今度は何を買うん?」
くそっ!ゼグラスがなんでこっちに圧をかけてくるんだよ!
「ノーノー、これはあくまで先日の取引の正式な支払いでーす」
こないだの金はあくまでお近づきの印でこれが対価ってことか!
それだけじゃないだろ!?それはもう許可出したからな!
他に何を買う気だ!?
「そこまで出して、しかも『契約』で安全まで差し出す言うなら、これはもう断る理由がないわ。女王陛下、たのんますわ」
くそ~!頼りにならん!だがこれはもう相手の切り札が悪すぎたとしか言えんな。
……やむおえん。
これはもはや相手の差し出した対価そのものというより誠意に対して答えねばならん。
「以前交わした契約を守っていただけるのであれば、ご自由に。ですが……それで足りますか?」
まああの契約はアリアの魔法ありきなのでまず破れないんだがな。
しかしそれでもこれこっちが貰い過ぎだろう。
ややこしい取引をしてくれるな!サイード、お前は笑顔で黙り込むな!
くそっ、私はもう目の前で巨万の富が飛び交いすぎて眩暈がしてきたよ。
「……せやね。サイードはんはホンマにこれだけ出してええんか?貰いすぎやで」
サイードは静かに哀愁をおびた顔で笑った。
だがその微笑みは今までのどの真顔より本音だった。
「……オアシスを増やせる、それが我が国にどれほどの価値を提供するか、あなた方にはわかりますまい」
マジの顔だよ……砂漠って大変なんだな~!
苦労してるのがありありと解る。
そうか、彼らにとってオアシス樹は商材ではなく希望なのか。
オイ大丈夫なのかネブラ伯!?これで枯れましたとかなったらエライことだぞ。
「……ネブラ伯、あのオアシス樹は本当に安全なのか尋ねたい。サイード殿がこれほど差し出したとあっては失敗は許されんのだ。貴公の技を疑うわけではないが……」
「いいわ、なら私が上乗せしましょう」
そう言ってネブラ伯は以前図書館に設置していた記憶の石板の小さいものを取り出した。
「これは記憶の石板。これに触れればある魔法の使い方が分かるようになるわ」
サイードの顔が興味に変わった。
うむ、そういえばそうだ。この記憶の石板なら香辛料の種子と釣り合うな!
それにおそらく中に入れる魔法はあれだろう。
「これに今から記録するのは植物の改良魔法。その最もオリジナルで拡張性が高い版よ。オアシス樹が現地で不具合があってもあなたたちがまた調整すればいいわ」
ここでゼグラス侯が割って入る。
「……ただし、これはお宅の国で使う分には自由や。せやけどよそに売らんように『契約』してもらうで。国母陛下の魔法でや」
なるほど今日初めて頼りになったな!第三者に渡ればどうなるかわからんからな。
ここでサイードが爆笑した。
どうやらこいつはこれを求めていたんだな。オアシス樹の保証を……!
「ヴハハハ!これは参りまーした!いいでしょう!取引成立です!すばらしい取引でーす!今後ともアル・カディルをご贔屓に願いまーす!」
はー、緊張感ある取引だったよ。大ごとになりすぎている……!
だが乗り切った!
「……港を開くとはこういうことなのか」
「ヴハハハハ!港とはそういうものでーす。富と力、人と物、そして欲望と噂が集まるのが港でーす」
「故にこそ貴公は新たな港を求めるのだな……」
「その通りでーす。陛下は我々をよくご理解いただいてまーすね」
こ、これが異文化理解か~!
我が国が港が主力という事はこれからもこの手の商人が次々に来るってこと……?
おそらくはずっと……?マジで……?
はー!ため息が出てしまうよ。