「いやあ……規模が大きくなりましたねえ……」
春先である。
リンは執務室で大勢の子孫たちと官僚をしていた。
ちょっとおやつを差し入れに来たら数十人いたからな。びっくりだよ。
「ここも娘らが増えたな」
「私の子や孫がけっこう官僚になってくれましたからねえ。おかげで私も少しは楽ができるようになりましたよ」
ひ孫かぁ~!相変わらずうちの国は回転が速い!
「そうか……いつも負担をかけてすまんな」
「まあこの国は拡大を続けないとやっていけない国なので、人口が減少傾向になるよりはマシなんですよ」
リンが娘たちにアリアが焼いたクッキーとお茶を配る。
うーむ小さくてかわいい。鼠人系だからな。
「そういうものなのか?」
「そういうものです。今は人口増加を前提にした制度設計ですからね」
「そうか……」
なら安心して子孫たちが増えられるな!いやーよかった。
「あっ、なら遠慮なく増やしていいと思っていますね!?でもまあ、ネブラ伯やオズワルド卿からもらったデータでは適度に減らすなんてできないらしいんで……まあ仕方ないですよね」
「そういうものなのか」
「そういうものです。あっ!撫でないでください!子供たちの手前というものが私にもあるんですよ!」
私より詳しくなって……立派になったなあ。
いやまあ、元からこいつは経済と官僚の専門家だが。
「まあそれでも今は貿易でほぼ無尽蔵の財源があるので……今のうちにインフラと治安維持組織とさらなる宅地開発があったほうがいいですね。食料自給はいくらあっても困りませんし」
「その通りだ。しかし豊かになったものだなあ」
「もはや美しいと言えるほどの経済システムですからね……」
ネブラ伯のところでスパイス造るだろ?クロムガルドの所で加工して缶詰にするだろ?
それを水路で運び、全国のラウレマートで消費したり、浮島で海外に売りさばくだろ?
まあ儲かるんだよ。
その間の流通でゼグラス侯やヴィクトル公が入ってるから国全体がまんべんなく景気良いんだ。
「醤油に味噌、スパイスを右から左に流すだけでも相当ですからね。あれがあれば海藻でも生魚でもとりあえずは食べられるようになりますから……おかげで世界各国で航海技術が上がっています」
「クロムガルドの船もどんどん性能があがっているしな」
ノルドから設計図をもらったからな。それをもう製作できるのがヤバいんだが。
なんでも金で人員を増やすごり押しで作ってるそうだが。
大丈夫か?オズワルド卿もロマンに狂ってないか?
「ですのでせっかく五龍諸島までの航路を水の宮の街からもらったんですから行って来たらどうですか?」
「行ってきたらってなあ……そうホイホイと行ける距離じゃないんだぞ」
「まあそこは夏に離宮に行ってみてのお楽しみですね。また建て直したそうなんで。今度の浮島は第三世代型なので航行できますよ」
「はっはっは。まさか宮殿ごと相手国の前に行くわけにはいくまい」
それにあの航行システムは浮島がいつも同じ場所に停泊していると海面下の日当たりが悪くなるからちょっと定期的に動かそうくらいのものだったはずだぞ。
いくらなんでも外洋を航行できるほどの性能はないだろ。
「……だといいんですけどね」
「しかしまあ、こう何度も離宮を作ってしまって予算は大丈夫なのか?」
「予算の余った分で作ってるので国自体の歳費からすれば微々たるものですよ」
「そうか。それならばよかった。私の家なんかに金をかけても仕方ないからな」
リンが困ったようにため息をついた。
ん~、まあゲストを迎えるためにはそれなりの格はいるか。
■
「わあ、立派なお城を作ってくれたのねえ」
「ウッソだろオイ……」
アリアがのん気にマリナと部下たちを褒めている。
でもこれはヤバいだろ。
海にそびえる白亜の城なんだよ。
天を突くようなどでかいヤシと融合する形で城ができてる。
城もヤシもデカすぎるだろ。
もはやエンダールにあるという世界樹とか、ネブラ伯のところの巨木サイズなんだよ。
要するに木全体の大きさに対して家が木の実サイズだ。
「いや~、第三世代の浮島ヤシがすごくってっすね。思ったより楽にできたっす」
「だからってお前このデカさはないだろ」
「うーん、迎賓館と宴会場を入れたらこの大きさになっちゃったんすよ」
うーむ、それは仕方ないが……大げさすぎないか?
「それなら仕方ないが……あの筒は何だ」
「あー、あれは主砲の光子魔力線発射塔っす。刻印魔術と魔道具の刻印を研究してるクロムガルドの人らが作った……要するに大砲っす」
城に大砲?ホワイ?
いや、城には大砲があるものだが。宮殿じゃないのかこれは。
よく見たら枝葉の間に隠れるように、金属の筒がいくつも覗いている。
「ではあれは?ものすごい魔力を感じるが」
「あっちは『凍れる光』の発射砲で、あっちは『破滅の嵐』と『胸中の炎』のでかいやつを発射するやつで、そこの棘はドリルラムがでるっす」
「お前は何と戦うつもりなんだ」
「あっ、緊急脱出用に天守閣がパイルオフするんすよ。だから安全っすよ」
「お前は何と戦っているんだ」
セットされている魔法が私の知る限りどれも恐ろしいものばかりなんだが。
何なんだこの城。なにを目的にしてるんだ。
「いや~、いざとなったらこれ護衛艦とか率いて海戦の母艦にもなるんで。第二離宮であるのと同時にこれ巡航母艦『グレートマザー』号なんすよ」
ちょっと待てツッコミどころが渋滞している。
何?つまりこれに乗って私が直で前線で指揮しろと。まあ前線に出ること自体はいいんだが。
でも城ごと出るって何?そもそもその大げさな名前も大概ヤバいぞ。
「あ~……お前たちだけを前線に出すつもりはないからそれはまあ、まあいいとして……なんだその恥ずかしい名前は」
「グランマ号のほうがよかったっすか?」
「それはもう馬鹿にしてるだろ。なんだおばあちゃん号って。私は確かにお前たちの祖母ではあるが」
「あっ、じゃあ婆ちゃん何かつけたい名前あるんすか?一応変えときますけど」
「せめてクイーングレイスとかそのへんにしてくれ……」
「じゃあ変えとくっす。でも多分皆もう普通にグレートマザーって呼んでるっすけどね」
この世の終わりみたいな名前の家だな!家と戦城と戦艦が一つになってるよ!
住む方の身になってくれよ!
「ていうか、五龍諸島から連名でお手紙来てるっすよ。なんかできれば浮島ごと来れないかとか言われたんで私ら急ピッチで作ったんすよ」
「そういう手紙は早く渡すものだぞ……」
もう逆に怒る気がそがれるよ。どれどれ。
『天魔の王より小鬼の女王に書をしたためんとす。つつがなきや』
おっ、意外と丁寧だな。わりと対等に扱ってくれる感じか。
『な~んてな~!冗談である。怒ってくれるなよ?』
オイ軽いな天魔とやらの王は!なんなんだ?
その後もすごく軽い調子で『せっかくだから遊びに来んか?』くらいのノリなんだよ。
できれば海に浮く城見たいな~!という感じだ。
「くそっ!わかったよ!いいだろう行ってやる。とはいえ急には無理だから会議通してからな」
「楽しみっすねえ」
舐めよってこの野郎いいだろう行ってやるよ!
なお、会議はあっという間に通ってアリアと共に普通に行くことになった。
なんでも私抜きでも今なら普通に国が回るし、航行期間も往復で3か月くらいで済むから……だそうだ。
というか通信設備が普通に本土まで届くほどに進歩しているらしく、執務はできるそうだ。
休みがないな~!まあほったらかしよりは気が楽だが。
航路に関しても向こうから案内の船を出してくれるそうだからまあ安心だろう。
たぶん。そう思いたい。