ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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五龍諸島の四天王

 そう言う訳でえっちらおっちら火の国まで行ったよ。戦艦に宮殿を引っ張らせてな。

 五龍諸島はサイコロの五みたいな形だ。

 手前側に土の国、金の国、真ん中に木の国、向こう側に火の国と氷の国がある。

 

「しかし金の国と土の国は素通りでよろしかったのだろうか、トクダ殿」

 

 第二離宮「グレートマザー」の応接室。

 そこには案内役の火の国の船から犬のような獣人の老人が来ていた。

 犬獣人のようでもっと恰幅がいい。なんでもタヌキという魔法に秀でた種族らしいが。

 

「構いませぬ。いずれにせよ五龍諸島の五大王でよしみを深める会合の時期でございましたから。今年の饗応役は折よく我が国。我が君もそれを見越してのぐれいす殿下へ誘いをされたのかと」

「ふむ……ならば良いのだが……トクダ殿は船旅で何か不便はされておらんか?」

 

 丸々としていながら老いてなお筋肉がある。堂々とした老紳士といったところか。

 

「いえ、芋が主食というのはいささか驚きましたが、天ぷらが遠慮なく食べられるというのは幸いでした」

「その、火の国の方は米がお好みだとお聞きしたが」

 

 レイトク殿下やマリナも言ってたからな……火の国において米は神聖だと。

 

「ええ、左様です。ですがそれがしは麦飯に味噌をつけるのが好きでして。いえいえ、十分いただいておりますゆえ、不足はございませぬ」

 

 快適なんだよな~!船旅!外洋だというのにこの宮殿はあまり揺れん。

 まあ嵐も雨もあったんだが。部屋の中にいる分には問題ない。

 作業をする娘たちが心配だが。

 

「それは何よりだ。それにしても貴公が初めて今の主家に仕えたときの当主の話はすさまじいな」

 

 なんか三代前と四代前の方が中興の祖で、火の国を統一されたのが三代前の天魔王らしい。

 火の国では偉大なる魔王とされているそうだ。予習しておくに越したことはない。

 魔王と言われつつ慕われてるって何だと思うが。まあ……私も似たようなものか。

 

「ええ、大殿は良くも悪くも偉大なる覇王であられました」

 

 その時のトクダ殿の顔は過去の栄光と夢を見ている顔であった。

 目が夢の彼方に行ってるんだよ!どれだけ心酔されてるんだ天魔王って。

 

「あの方は苛烈で、派手で、とてつもなく理知に富み……先進的であらせられました。その鮮烈な姿に誰もが恐れ、誰もが惹かれました。若殿はその偉大過ぎる父に委縮されておられましたが……」

 

 うーん他人事じゃない。

 ムジカやロゴスは私に遠慮するタチじゃないが、やはり私がなんでもやるのはまずいんだろうな。

 

「その孫たる当代の殿はまさに大殿の生き写し!いえ、殿だけではありませぬ。大殿の孫、ひ孫たる方々には多く大殿の面影や才の片鱗を見せられる方が次々に……若殿もまた偉大なる父であらせられたのございましょう」

 

 怖いよこのタヌキ。

 忠誠というかこれはもう三代前の天魔王とやらがあまりにすごすぎたんだろうな。

 他人事じゃない……!私も変に持ち上げられないようにしよう。

 

「天魔王家の皆様の奇抜な発想を地道な施策に落とし込む……これが天魔王家のじいやであるそれがしの生きがいにございます。火の国の権勢を一つ盤石にするたびに喜びに耐えませぬ」

「う、うむ」

 

 これはあれか。うちの国で言うオズワルド卿に近い事やってるんだなこの人。

 あれが忠誠に狂ったらこんな感じか~!怖いな~!

 

「……しかし楽しみだな、天魔王閣下がどのようなお方か」

 

 海の向こうに意識を向ける。そこはまだ果てしない大海原であった。

 

 ■

 

「すっげえなこの城!いいな!俺も欲しい~!」

 

 海賊みたいにド派手な衣装に長髪を後ろで結った黒い羽根の翼人。

 これが天魔王かぁ……

 

「海に森が建ってる!ヤッベェ~!」

 

 純真な目をした真っ白い毛並みの狼人。

 えーとこいつは氷の国の王だったな。

 

「ハッハッハ、お二方ともお若いので仕方ありませんが……あまり騒いでは品格が疑われますぞ」

 

 高貴そうな金糸の入った衣装の大柄な虎人。

 どこかサイードを思わせる派手さだ。こいつは金の国だっけ。

 

「うむ……失礼したグレイス陛下。いささか気が早くてすまぬが、我ら五龍諸島の王侯はラウレミルと国交を持てることをうれしく思う」

 

 これは……ゼグラス侯と同じ種族か?竜の混じった人間種。

 黒髪を三つ編みにして背中に垂らし、独特だが折り目正しい民族衣装を着ている。

 土の国の王とか言ってたな。

 

「う、うむ。ようこそお越しくださった五龍諸島の五王殿」

 

 何で港についたら向こうから来るんだよ。

 もういるんだよ五人の王様のうち四人が。

 

「ところでもう一人の方はいかがされたのだ?」

 

 いない一人の話をした瞬間、空気が変わった。 

 なんだ、なんかまずい事言ったのか。

 気まずい沈黙になったぞ。獣人系の王はしっぽが垂れてるし。

 

「あー、あれはだな。なんつーか……あれは神の化身みたいなもんでな。名前呼んだり目ぇ合わせたり話しかけたりしなきゃ特に害はねえからよ。そのうちふらっと来ると思うからそん時は頭下げて気にしないでくれや」

「お、おう」

 

 なんだよその聞くからにヤバい王は!ほぼバケモノじゃないか!

 

「と、とりあえず軽く宴でもされていかれるか?」

「いいねえ~!話が分かる!まあ問題ない範囲で色々見せてくれや」

「ノブ殿。ですが我々としてもここは見るものすべてが物珍しく……」

 

 こいつら人の家であつかましいな!だがまあ私でも気にはなるだろうからな……

 

「ねえこれどうなってんの!?てか何!?子供も働いてんのここ!?」

「……ッス。これは見た目と非常食を兼ねた果物っす……あと私は普通に成人っす……」

「へぇ~!」

 

 オイ狼が勝手にそのへんの衛兵にあれこれ尋ねているぞ!?

 あっ、虎人の王がガルルとか唸ってる。

 

「レタル殿」

「あっ、ごめんね~!お仕事じゃましちゃったね!じゃあね!や~悪い悪いシンハ殿」

「……勘弁していただきたいな、レタル殿。申し訳ありませんグレイス殿下」

「は~、わかった。案内しよう。シンハ殿下もリー殿下もお気遣いなく」

 

 虎人の王シンハと龍人の王リーが二人して狼の王レタルの頭を下げさせてついてくる。

 

「ハッハー!怒られてやんのー」

「悪かったって。すいませんグレイス殿下」

 

 なんというか……男四人そろうとアレだな!学生旅行のノリになるんだな!

 離宮を見学してる学生って大体そんな感じだからな!

 しょうがない、シャトレーンにあるポケットベルで案内係を呼んでおこう。

 

「いま案内係を呼んだ。宴の支度が整われるまで観光されていくがよろしい」

 

 そこで天魔の王ノブが唖然とした顔でシャトレーンを見ていた。

 あっ、しまった。最近すっかり当たり前になって忘れてしまったがこれ軍事技術だったよ。

 

「おっ……!それマジでやべえもんじゃねえのか!?遠くのやつに手紙送れんのか!やっべぇな!」

 

 あー、これはもう軍事に使えると気づいてる顔だな。私も初見ではそうなってたな。

 というか私より気づくのが早い!頭いいなこいつ!

 

「へー、便利だしかわいいねえ」

「レタルお前これそんなもんじゃねえぞ。伝令いらねえ!なんなら軍団の指揮が変わる!」

「へぇ……」

 

 ふむ、そういうことを隠し事なく言える仲なのだなこの四人は。

 なんなら軍事につかえると聞いた瞬間のレタルの眼が一瞬真っ黒な戦場の眼になったぞ。

 態度がかわいくても狼なんだなこいつ。

 

「お二人とも……!我々にはあまりに物珍しく……申し訳ない……!」

「いや、王としてこれの有用性が気になるのはごもっともだ。これをどう扱うかも含めて後ほどお話ししよう」

 

 虎王のシンハ殿が苦労しているのがわかる……!

 

「マジかよ!売ってくれんのか!?すんげえ~!使う戦場がねえのがもったいねえ!」

「ならば我が土の国がタイダルから嫌がらせを受けたときに来るか?海戦で構わんのならな」

「いいなあ!これ持ってタイダルの海賊共蹴散らすの楽しそうだなあ!」

 

 オイ学生のノリで戦争を始めるんじゃない。なんなら私が焚きつけたことになるだろそれ。

 なんとなく……わかってきた……!三十路くらいの男を四人集めるとこうなる!

 母性がわいてしまうよ。げんこつ食らわせたい~!でも王族だから無理なんだ。

 

「貴様ら……血の気が多いのならば私が醒ましてやろうか?」

 

 あれっ、私がキレる前にシンハがキレたよ。

 ふーむなかなかの覇気だな。虎人だけあって筋肉と牙がまあ迫力ある。

 

「悪い悪い、案内役が来るまでは大人しくしとく」

「すまない、失礼した」

「まったく……」

「とりあえず案内役がそろそろ来る。質問はそちらに願いたい」

 

 今でこのテンションなんだから帰ってきた時がどうなってるか怖いよ。

 

「押忍っ、案内役のマリナっす!女王陛下の孫にあたります!ご来賓の皆様の案内を務めさせていただきますっ!」

「おう、よろしく頼むわお姫ちゃん。いや~すっげえ楽しみだなあ!」

「ね~」

 

 さあ今から宴の準備だよ!忙しいな着いてそうそう!

 

 ■

 

「ヤッベエなこの城!どこもかしこも面白すぎだろ!」

「海の城すんげえ~!」

「これほどの城、これほどの街にいかな対価を出せばよいやら……」

「うむ……正直私も興奮を隠しきれん」

 

 全員できあがった状態で家に来ちゃったよ!

 まあとりあえず宴会場に通して飯を出していくが。

 

「ぜえ……はあ……と、とりあえず一通り案内してきたっす」

「うむ、すまんなマリナ」

「あざっす!」

 

 よほど面倒だったのかマリナは挨拶もそこそこに帰っていったよ。

 まあ仕事の途中だったろうしな。

 予約なしで来るこいつらがおかしいんだよ!

 

「あら~、楽しんでくれたみたいね。どうぞ、せっかくだから食べて行ってちょうだい」

 

 アリアのノリがもう娘の友達を迎える時のやつなんだ。

 私より母親が板についているな。

 

「うっ、うめえ!なんだこりゃ芋を揚げてるだけなのにうめえ……航海中でこの飯だと!?」

「ああ、それね。トクダさんがおいしいおいしいって食べてたから好きかと思ったのよ」

「タヌキあの野郎こんな良い物食って船旅かよ!か~!」

 

 オイそれラウレマートのフライドポテトだろ!?

 王族に出していいのか!?いや、まあ……いいかこいつらなら。

 

「不思議な食べ物だな……これは肉まんの生地に肉団子を挟んだ物か?いただこう。很好……!」

「ごめんなさいね~。急だったからあり合わせ物しかなかったの」

 

 ハンバーガーじゃないか!いやまあ材料はいいのを使ってるけどさあ!

 次々に料理が運ばれてくるな。

 肉団子の甘酢あんかけ、魚卵とチーズのせクラッカー、一匹丸ごとマグロステーキ、水の宮から買った珍味。香辛料のたっぷり利いた真っ赤なスープ。

 

「アリア……とりあえず急な話で作ってくれて助かった……」

「ごめんなさいね~。時間なくって男の人四人ってなったらこうなったのよ。食べ盛りでしょ?」

 

 うん……本当に時間なかったんだなアリア……

 ホームパーティーにちょっと豪華なやつを付け足した感じだな。

 

「とりあえず酒でごまかそう。良いのをじゃんじゃん持ってきてくれ」

「わかったわ~。じゃあお願いね」

 

 アリアがメイドをしている子孫たちや子孫の嫁たちに声をかける。

 じゃんじゃん飲め、じゃんじゃんな!変な取引を言い出す前にな!

 

「いや~どれもこれもうめえな!船の上に城があんのも驚いたが、そこでここまでちゃんとしたもん作れるのはもっと驚いた」

「ご覧になられた通り、我が浮島は生産しながら移動しているのでな」

「移動する領地ってわけだ。すげえよ。それでだ……」

 

 あ~この間!サイードの『さて』と同じやつだよ!くそっ。

 

「楽しい商談を始めようじゃねえか」

「……お手柔らかにお願いする」

 

 めんどくさいな天魔王って!

 

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