ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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神の掌

「じゃあ俺らが欲しいもんだけどよ。その『つうしんき』と『蛇口』とここの『灯り』だ。こいつは五龍諸島を代表しての取引だ」

 

 そう言ってノブは私が腰につけたシャトレーンを指さす。

 お行儀悪いなお前。

 

「通信機はわかるが蛇口と灯りもか?」

「当たり前だろ。水引く管もいらずに妖力だけで水作ってんだろそれ?その灯りも実はけっこう単純な仕組みで妖力から明かりつけてんだろ?夜が明るくなる。井戸いらねえ。民の暮らしもよくなって俺は徳を積む。アンタは儲かる。いいことだらけじゃねえか」

 

 うーん、いっそ気持ちがいいくらい目ざといなこいつ。

 灯りと蛇口は売るべきだが、作り方はどうしようかな~!まあこれは交渉次第か。

 通信機もなあ……まあうちに跳ね返る可能性はあんまりないからいいか……

 

「いいだろう。売ること自体には同意する。だが作り方や手入れまで教えるかどうかは貴公ら次第だ」

 

 そうするとまた景気良く大笑いするんだこいつ。

 腹立つがおもしろい男だな!

 こういうのが英雄性になってこいつの祖父も覇王になったんだろうな。

 

「ハーッハッハ!いらねえ!現品だけでいい。保証書もいらねえ。その代わり十や二十は買わせろ。だが俺らが勝手に真似しても気にすんな」

「……たしかに、悪い取引ではない」

 

 まあ技術込みで売ってもどうせ同じだからな。安くつくだけマシだ。

 なんなら手間が減ってお得だろう。

 むしろ堂々と真似してやるという意気は買いたい。若いな~!

 若さに笑みがこぼれちゃうな。

 

「ふふ……いいだろう。その条件でお売りする。対価は貰うがな」

「へっ!うちの国衆を舐めんじゃねえぞ。次に来る時には、逆にこっちが売ってやるよ」

 

 ここで虎人の王シンハが笑顔で懐から砂金を出した。

 

「この百倍はお出ししましょう。その代わり商品は支払いの時にすぐお渡しください」

 

 うおたっか!たかが蛇口と明かりの二十個程度でこんなにもらっちゃっていいの!?

 いや五龍諸島全部だから百個か?それにしても高い!

 

「いいだろう。取引成立だ。すぐにお包みする」

 

 ここでノブはぐびーっとワインを飲んだ。ワイン似合うなお前!

 

「で、こいつらの分はえーと?金の国は珍味と輸入品の販売権。土の国は土木、医療、役人の作り方。氷の国は……まあ食い物と薬と刃物だな」

「つまりおおむね食べ物と医療と技術か」

「そうなる。詳しくはこいつらに聞け」

 

 やつらは目線を交わすと虎人のシンハから身を乗り出すように話し始めた。

 

「金の国としては貴国の食に関心があります。ぜひともレシピを買いたい。いえむしろそちらがよければ香辛料や珍味の販売権をいただきたいですし、可能であればラウレマートを出店願いたい」

「異国の地ゆえラウレマートの出店は難しいが、それ以外であればお売りしましょう。何でお支払いいただける?」

 

 肉食獣人なだけあって優雅だがガツガツ来るなあ。だがまあこれはまっとうな取引だよ。

 

「金銀財宝とそうですね……あとは踊り子もつけましょう。この宮殿はもっと飾った方がよい」

「お支払いは金銀財宝でたのむ。人などもらってもそのなんだ、困る」

 

 金の国の財宝ってなんかすごそうだしな。優雅な国なんだろうな。

 

「いいですとも!細かい値段については後程担当者の方に」

「うむ」

 

 よし……二人目はまっとうな取引ができたな。

 ここで虎人は水の宮の濃い酒を飲んで優雅に土の国の龍人、リーに目配せする。

 

「土の国としては測量と医療と防疫の技術を情報交換してもらいたい。そして可能ならば官僚制の仕組みもお尋ねしたい」

 

 なるほど技術交流か。

 

「つまり技術交流の等価交換と?」

「いかにも。そこに格闘の技術交換もつけても一向に構わん!」

 

 そう言って立ち登ってくる魔力がまた独特で面白いんだ。

 こいつ自身かなり強いぞ!魔法使いとしてワクワクするなあ!

 

「一つ聞きたいが、そちらの格闘技術とはそちらで言う気、こちらでいう魔力を使ったものか?」

「無論ッ!そこまで含めて伝えねば無作法というもの」

「貴公おもしろいな。いいだろう買おう。それと、あとで一つ組手でもしないか?」

 

 こちらからも結構本気の魔力を立ち登らせる。

 リーもまた面白そうに笑った。

 

「謝謝ッ!」

 

 こいつも面白い男だった!五龍諸島って面白い男しか王になれないのか?

 そしてむしゃむしゃ飯を食ってた狼がノブにつつかれてふと顔を上げる。

 

「あっ、俺?俺は……薬と缶詰と良い刃物と……よく保つ甘味がいいかな。故郷のみんなに食べてもらいたいんだ。こういうの。俺の所寒いからね」

「いいだろう。対価は?」

 

 こいつは欲がないな~!でも切実な感じだ。

 いっぱい売ってやりたい!

 

「こういうの。売れる?」

 

 レタルが懐から取り出したのは何らかの動物の牙に見事な細工を施したナイフだった。

 いやーどのくらいの価値があるのかはわからんが綺麗だし大切に使ってきたのがわかる。

 

「できるだけ用意しよう……!」

「えっ、いいの!?ありがとう女王さん!」

 

 こういうの出されるとな~、母としては弱いよな。

 いっぱい持っていけ……!

 

「あっ」

「これは」

 

 ここでレタルとシンハがある一点を見てそれからすぐさま頭を下げて平服の姿勢をとった。

 何の何!?何が始まるんだ!?

 

「おい女王!頭下げろ目線合わすな!気づかないふりを……するんだ」

 

 あっ!あれか!五龍列島の五人目の王か!バケモノみたいな!

 うおっ、なんだこの気配。私が生きてきた中で初めて感じるタイプの悪寒だ。

 これは大人しく頭下げておこう。

 

「アハハッ、アハハッ」

 

 小さな子供の笑い声のような音が聞こえる。

 しゃらん、しゃらん、と足音に合わせて鈴の音が。

 ラウレミルの森の奥のような、深い木の匂い。

 

「キャハハッ」

 

 なんなんだよこの恐怖体験は!怪異すぎるだろ五人目の王!

 オイ私の前で立ち止まってるじゃないか!

 目を伏せたテーブルの視界の端に子供の裸足が見える。

 こわすぎるだろ!

 

「がんばったね」

 

 あまりにも無邪気で恐ろしい子供の声がして、私の頭を撫でる。

 なんだ……この魔力は。あまりに深く、感知しているこちらが引きずり込まれそうな感覚だ。

 なんだろう、とてつもなく大きな森そのものに認められているかのような……!

 

「……きみもくる?」

 

 おいなんでアリアの方にいく!くそっ……やってしまうか!?

 

「いいえ、行かないわ。ここが私の家だから」

「そっか」

 

 そしてまたしゃらん、しゃらんと音がして気配は過ぎ去っていった。

 

「アリア!大丈夫か!」

「えっ、何が?急に出てきたのはびっくりしたけどいい子そうだったわよ」

「無事でよかった……!」

「そんなにヤバいのだったの?」

「あれはそんなにヤバいのだよ!」

 

 は~!なんなんだよあれは!異様すぎる気配だった。

 まるで底なしの穴が見つめているような……

 

「でもあの子はお姉さまを褒めてくれてたわ。だからお姉さまも泣いてるんじゃないの?」

「えっ」

 

 うおっ、なんだこの涙。これ出ていいやつか!?

 

「オイなんなんだよあれは!」

 

 ノブが顔色悪そうにうめいた。

 

「木の王だ。見ての通りだよ。何か知らねえけどそういうのだ」

「なんというか……木の島にはああいうものがいるのです。森の意思というか、古い神々というか」

 

 シンハも冷汗が出ている様子だった。

 はー、いるんだなああいう神々って。私は初めて見た。

 

「……氷の国ではさ、木の島のことを神々の遊び場って言うんだ。あそこは神の掌の上なんだよ。俺たちは潰されないように身をかがめてるしかないんだ」

 

 こわすぎるだろ木の島!だから禁足地だってトクダ殿が言ってたの!?

 

「なるほどわかった。ところでこの涙大丈夫なやつ?」

 

 リーが静かに茶を一杯飲み、溜息を吐いて言う。

 

「死にはしません。おそらくは害もないかと。ただ、あなたはアレに認められたのです。おそらくはこの海に浮かぶ森の主として。古い森の主から新しい森の主へ対するただのねぎらいでしょう」

 

 ただのねぎらいでこうなるの!?神々って敵に回さないほうがいいな……

 シンハは低く唸って笑みを取り戻した。深呼吸なのあれ?

 

「じゃあまあ商談続けようぜ」

「私が滝のような涙流したままか?」

「そのうち治るだろ。それはそういうもんだ。たぶんな」

 

 治らなかったらどうするんだよこれ!

 

 ■

 

 しばらくしたら本当に治った。

 なんなら旅の疲れと目の疲れがふっとんだ!十時間眠ったくらい目が快適だ!

 どうなってるんだよこれは!

 

「もう治ったか?」

「ああ、お見苦しい所をお見せした」

「しゃーにゃーで。ありゃ解っちゃいかんもんだ」

 

 だろうなー!引きずり込まれる感じがしたもんな!

 

「それでだ。俺からの追加の取引は……ふたつだ。まずこのでけえヤシ作った技術者に手紙を出してえ。それから……お前ら官僚を作るのに何かからくりがあるな?そいつを知りてえ」

 

 本当にめざといなこいつ~!

 

「……対価に何を出す?」

「そうだなあ、ざっと見たが、お前らの国にはねえだろ。錬金術も妖術も。魔法だけだ」

 

 くそっ!面白そうなもの出してくるなあ!気になるだろ!

 だがネブラ伯に手紙出されるのも記憶の石板をこいつにわたすのも嫌だな~!

 

「火薬はいいぞぉ、誰でも簡単に人を殺せる武器が作れる。訓練いらねえ。錬金術なら火薬造り放題だ!どうだ?」

 

 そう言ってノブは腰から筒に握り手と金具がついたような道具を見せる。

 

「それは……小型の大砲か?」

「ああ、お前さんがこの城にくっつけてるやつと同じだ。そんでここの引き金を引けばそれだけで弾が出て敵を殺せる。いいだろぉ!?」

 

 いやあ……それはいらないなあ。

 普通にメチャクチャ強い武器だとは思うけどな。

 でも我が国も刻印魔術で誰でもすぐに兵士になれる方法は確立してるからな。

 

「どうだ!?」

「いや、むしろそれに貴公が魅力を感じるというのであればむしろ私から売れる物がある」

 

 私は刻印魔術について説明した。

 

「……というわけだ。刻印魔術と妖術の交換はいかがか。あれもすぐに人を兵士にできるぞ」

「異国の符術か!いいねえ!で、官僚育てる秘法はなんだ?」

「それは教えられない。悪用ができすぎて何が起こるか責任もてん。というかそもそもそういう秘術抜きでも我々は一月で言葉を話し歩き出す種族だ」

「……マジで?」

 

 アリアや部屋にいる衛兵たちがうんうんとうなずく。

 

「マジよ。私も十人くらい産んだけどみんなそうだったわ」

「相手は?」

「お姉さま」

「お前らどういう生態してんの?は~、そうかお前らの種族ありきか……」

 

 良しうまく記憶の石版は隠し通せたな!

 

「じゃあ錬金術とこれ作った技術者への手紙は?」

「いやあ……貴公とあまりあの方を会わせたくなくてな……」

「なんだ?俺がいい男すぎて引き抜きが心配か?誓紙書いてもかまわねえよ」

「いや純粋に貴公らが出会ったら何を作るか心配だ……」

「ハァ~!?じゃもう一個!もう一個なんかつける!あるだろ俺になんかしてほしいの!」

 

 うーんそうは言われてもな……あっ、あった。

 ……思い出しちゃったよ。思い出したからには言わぬわけにはいかん!

 

「かつてダンノーラ海域?だったか。そこで時の王権と戦い、聖剣と共に海へ沈んだ一族がいる」

 

 ノブはガシガシ頭をかいて天井を見上げる。思い出す時のポーズだな。

 お前も思い出してくれ。

 

「だんのーら?聖剣……?あっ談ノ浦か!紅白合戦の!……生きてたのかあいつら」

「そうだ。彼らは今の火の国の政権は、かつて彼らを滅ぼしたものとは違うと考えている。ゆえに聖剣の奉還と引き換えに火の国とよりを戻したいそうだ」

「なるほどぉ?」

 

 すごいうれしそうだなこいつ。人の弱みを握るとうれしそうにするな。

 この会談が始まってから私の情緒はめちゃくちゃだよ。

 

「彼らへの恩赦と、正式な交渉の場を設けること。それを手紙を渡す条件にしたい」

「いいなあそれ!神器が手に入って因縁も解消して俺の手柄になる!おまけにそれで手紙あずかってもらえんだろ?断る理由ねえじゃねえか!」

「……では決まりだな」

「カ~ッ!今からどんな手紙書くかワクワクしてくんなあ!」

 

 勘弁してくれよ。こいつとネブラ伯が協力したら何ができるか今から怖いよ。

 ……だが水の宮はこれで時が進む。

 これでよかったのだ。たぶん。きっと。そう思いたい。

 




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