ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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SUMOU

 まあそういうわけで……一月ほど火の国の港に停泊することになった。

 貿易品の交換のためにな。

 日々つぎつぎと本と食材、金銀財宝を満載した荷が入ってくる。

 

「ふーむ、火の国は出版文化が盛んなのだな……」

「漫画っておもしろいっすねえ!」

 

 マリナがソファでごろごろしながら漫画という絵に文字が書かれた本を読んでいる。

 技術書だけじゃなく娯楽本もつけてくれたんだよノブが。

 教養として今の流行りくらい知っとけって。

 いや~本当に記憶の石板で火ノ国言葉を学習していてよかった……

 

「うむ、柄にもなくワクワクしてしまうな。本当に娯楽としてよくできている」

「スケベ本も入ってたのはびっくりしたっすけどね」

「火の国の性癖は未来に生きているよ……読むなとはいわんが……」

 

 あの野郎エロ本まで入れてたからな。まあこれも文化だから輸入しておくが……

 さて、そろそろ時間だな。

 

「おーい女王!そろそろ俺らの国案内すっから船だしてくれ!」

「うむ、早かったなノブ殿」

「当たり前だこちとら半年くれえかけて準備してたんだよ!」

 

 この停泊の間に土の国と金の国の観光は簡単ではあるがやっておいた。

 まあざっくり王宮で宴を開いてもらっただけだがな。

 豪華だったよ……シンハの宮殿は飾る物という意味が解った。

 キンキラキンだったからな。贅を尽くすとはああいう事か。

 氷の国はレタルから『悪いけど来ない方がいいよ。寒いからこの島枯れちゃうよ』と言われたので仕方ない。

 

「まずは娯楽本も入れてくれたことを感謝する。あのいかがわしい本はどうかと思うがな」

「カッハッハ!娯楽にすけべは欠かせねえだろ!?」

「シンハ殿は媚薬香だのレタル殿はラッコ肉の精力剤だの……」

 

 五龍諸島は性に関してはだいぶ奔放らしい。まあこれも文化の差だな。

 

「いいじゃねえか!てめえの身体についてるもののどこが恥ずかしいんだよ!」

「そうは言うがなノブ殿。我が領は根本的にほぼ全員が我が胎か種から出た子の末裔なんだよ。母としては複雑なんだよそういうのは」

「あれマジだったのか!?でも耳だのしっぽだの生えてる連中もいたじゃねえか!」

 

 そんなことを言いながら小さめの高速舟艇を出して火の国の運河を遡上していく。

 ふーむ、この国も水路が盛んなんだな。

 我が国のように道路に沿っているし、その道路にはたくさんの店が出ている。

 白壁に黒い瓦屋根。美しく堅牢な都市だな。なによりゴミがほとんど落ちていない。

 清潔で民度が高い。

 

「あれは要するに我が娘たちの婿たちの血だ。我が領は混血せねばやっていけんからな」

「ちょっと待て、あれだけ種族が離れて混血……できんのか?純粋な人間より混血の射程が長え。おまけに三年で元服する……」

 

 悪いこと考えてる顔だな~。わかるよ私も自らを異常な種だと思うからな。

 

「ああ、我々は人間より混血の範囲が広い唯一の種だとお墨付きをもらっている」

 

 おっ、ここからは歩き……ではないな。なんだこれ籠か。

 デカい箱みたいなのに両端に取っ手がついてる。

 脇に控えた角の生えたデカくて筋肉隆々の種族がかつぐらしい。

 

「……そのお墨付きも例のネブラ伯とやらが?」

「ああ、ところでこの乗り物は何だ?」

「輿だよ。見ての通り担ぐ箱だ。鬼族が担ぐから五人くれえ乗れる。いいだろ」

「うむ……豪華だな。この艶やかな黒はすばらしい」

「漆だよ。売ってやろうか?いやそれより……そうか人よりもか……」

 

 うーむまずかったかな?とはいえ今更ではあるんだよ。

 獣人は種が違い過ぎたら子を成せないのだ。

 だが人間かゴブリンエルフを噛ませて交配すれば孫の代では子を成せる。

 ゆえに我が子孫や人間はわりと政略結婚で重宝されている。

 

「そうか……う~ん、なあこいつは急ぎの話じゃねえんだが……」

「我が娘たちと見合いでもさせたいのだろう?本人たちが良いというならば良い。だが力ずくは許さん」

 

 お見合いも悪くないと思うんだがなあ……なんだかんだうまくいく場合が多いしな。

 

「いいのか!?そうか、お前が嫁の『契約』とかいう誓紙を破れなくする術を使うからか」

「そうなる。多少の嫁いびりは仕方ない。だが無体に扱う事はそもそもできん」

「で、あるか。少し考えさせてくれ」

「ふふ……よく悩むことだ。でなければ困る。娘たちの人生がかかっているのだからな」

 

 それにしてもこの輿とかいう乗り物揺れないな~。二人で担いでるだけなのにな。

 ところで窓から見える全員が平伏してるの何!?これが火の国の文化なのか!?

 おや、ついたようだ。色とりどりの幕がかかった立派な建物だ。

 

「ところでここは何なんだ?何を見せてくれるのだ」

「相撲だよ。あ~そっちの言葉で言うと……あれだ『闘技場』だ」

 

 エンダール語の単語もう覚えてるよこいつ。

 いやになるほど頭いいな。これが火の国の覇王の孫か~こういう所なんだろうな。

 ……アルドリック陛下も、生きていれば。

 いつかこんなふうに頭の切れる孫を持ったのだろうか。

 

「ほう、面白そうだな」

「リーと手合わせした時、楽しそうだったもんでな。好きなんだろこういうのが」

「貴公も似たような物に見えるがな」

「へっ、活かす場がなくて困ってんだよ。どこぞと戦すんなら一枚かませてくれよ」

「そのような事は軽々に言わぬ方が良いと思うがな」

 

 ……こいつのような有能すぎる者にとっては太平の世は退屈なのだろう。

 だが、それで死んでしまっては元も子もない。そのはずだ。

 そんなことを言いながら相撲とやらを見に行く。

 

 ■

 

「なんなんだよあれは!どういう格闘技なんだよ!」

「おもしれえだろ!?」

 

 なんか……半裸のデブが空飛んで地面にヒビが入ったり!

 魔法ありきでぶっ飛ばし合ってるが!?なんなんだあのリング上の結界の強度は!

 審判も審判でなんであの肉のぶつかり合いの中で平然と動けるんだよ!

 

「面白いというかびっくりするわ!」

「楽しんでんじゃねえか。連れてきた甲斐があったな」

 

 いやまあ面白いけどな?なるほど地面に手をついたりリングアウトすれば負けなのか。

 にしても迫力がすごすぎんか?

 なんなんだ『水系力士同士なので二人は融合します』って!融合していいのか?

 そして『最終的にどちらの意識が残ってるかで勝敗を決めます』って!

 これ死人が出てないか?

 

「命が軽すぎんか?」

「そんだけ本気の取り組みを見せてえんだろうよ。俺とあんたが来てるからな今日」

 

 試合が命懸けになってるのは私たちのせいなのか!?どういう死生観なんだよお前ら!

 

「そこまでされても困るが……」

「死生観が違うのはお互い様だろ。あんたらだってあの石っころで頭の中身弄ってんだろぉ?」

「……気づいたか」

「うちの忍びと俺の目ざとさ舐めんなよ?」

 

 くそっ、できるだけ隠してたんだけどな記憶の石板!

 だがぜんぶ隠すのは無理か……

 

「堂々と間者を忍び込ませるんじゃない」

「お前さんが公開してる範囲にしか行かせてねえよ。ま、俺が一枚上手だっただけだ」

「言っておくが売らんぞ」

「そりゃ売れんわなあ!俺はしねえがアレを悪用すれば頭の中まるっと入れ替えられんだろ」

 

 そこがなぁ~問題なんだよ。だから売れないんだよアレ。

 アリアの『契約』で雁字搦めにしてるからようやくうちの国で運用できてるんだよ。

 よその国でそういう安全策なしで複製作られたらどうなるかわからんのだ。

 

「そういうことだ。あれはやはり安易に手を出して良い物ではなかった」

「俺はしねえよ?だがいつまでも隠し通せるもんじゃねえ。大変だなあ!」

 

 くそっ、他人事だと思って楽しそうにしよって……!

 

「要は本と同じだ。他者の経験を自らのものとする。それを一手間省いてんだろ?だがそれをするという事は人間の本質を変えかねねえ。こいつも恐らくネブラ伯とやらのもんだろう」

「……だから貴公と会わせたくないのだ。わかっただろう」

「クハハッ、いいじゃねえかおもしれえ。なんとなくわかってきたぞネブラ伯の人となりがな」

 

 引き抜きはしないともう『契約』させてはいるが、おそろしいなあ~!

 ネブラ伯にはくれぐれもあまり技術を渡し過ぎないように言っておこう。

 いや~でもこいつらが自重するかなあ?

 

 ■

 

 その後はノブの城で豪勢な飯を食って踊り子の舞を見たりした。

 ふーむ、金の国の舞踊とは違うのだな。

 

 金の国はなんだろうな……

 異形の仮面やら独特の力強い舞踊や金細工の豊富さが目立ったな。

 指先が花のように反り、目だけで獣を射殺すように踊る。

 虎人の踊り子がな。食われるかと思ったよ。

 威嚇してるのか優雅なのかわからん。案外彼らにはそれは同じものなのかもしれん。

 

 土の国もそうだが、優雅さの方向性が違う。

 ネブラ伯の言う知性の方向性の違い、視座の差異というものがなんとなくわかったよ。

 

「元気でなー!また来いよー!手紙ちゃんと渡せよー!」

「お菓子ありがとうねー!みんな喜んでたよー!」

 

 港で四人の王たちが見送りに来ていた。

 

「ハハハ、ノブ殿は大げさな。今はこの通信機でやり取り自体はできるのですぞ?」

 

 シンハが笑う。

 そうなんだよ。この浮島自体も今も普通にラウレミル本土とやり取りできてるしな。

 その通信でせっかくだから水の宮と五龍諸島に基地局を置いていっては?と進言があったんだよ。

 まあ基地局ブイを置いてく程度なので大した手間ではなかったが。

 

「それでも旅の無事を願わずにはおれん。女王よ!此度の手合わせ得難い機会であった!」

 

 リーが一礼をする。

 たしかに組手は面白かったし格闘技術は普通に私の戦い方と相性良かった。

 妖術もそうだが、学べてよかったよ。しばらく読む物には困らなそうだ。

 

「うむ、貴公らも健やかであれ!」

 

 やれやれどうなるかと思ったが結果としては金銀財宝を国に持って帰れた。

 上々の成果と言えるだろう。

 

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