おかえりなさい
帰路は思ったより快適だった。
なにしろいつのまにかちょくちょく港があるんだよ。
我が子孫の浮島の。いきなり広がりすぎじゃないか?
「四か月ほどか。やや長引いたがよい旅だったな……」
「楽だったわね~。娘たちもみんな海でうまくいってるみたいでよかったわ~。水の宮もうまくいったんでしょ?」
「ああ、無事に交渉がまとまったそうだ。近く聖剣も返還されるらしい。これで水の宮の街も正式に火の国の飛び地になるだろう」
「よかったわね~」
火の国の方角の窓を眺める。
潮騒が穏やかだ。あまりにも広い海とどこまでも続く青空……
城からの眺めは相変わらずいいな。
冷たい飲み物もある。思えば遠くに来たものだ……
「婆ちゃん!もうちょっとでラウレミル海領につくっすよ!」
「おっ、もうか。早いな」
「お姉さま!陸の方の窓を見てちょうだい!すごいわ!」
「なんだ急に。どれどれ……」
いつものラウレミルの海上都市があるだけだろ?
どこまで広がってるか恐ろしいが。
「おお……」
「グレートマザー号が通るために道開けてって通信入れたらこうなったんすよ」
海上都市の無数の浮島たちが大きく道を開けている。まるで花道のように。
しかもその海の道の脇の浮島たちには無数の横断幕や看板が……
『おかえりなさい 女王陛下』
『ひいばあちゃんおかえりなさい!』
『お母さん 無事でよかった!』
『おかえり!』
これは……すごいな……
数百は超える浮島に私の帰還を祝う文言が描かれている。
涙ぐんでしまうよ。
「あいつら……」
「親孝行よねえ、私たちは幸せ者よ」
「そうだなあ」
思えば遠くに来たものだ……
これでよかったんですよね母様?
■
グレートマザー号こと第三離宮が停泊位置まで止まる。
ものすごい数の孫が集まって来ている!百人はいるな。
船を使ったり自力で泳いだり空を飛んだりして城に入ってくる娘たちと孫たち。
『おかえりなさい!お婆ちゃん!』
城の大宴会場に集まった娘たち孫たちが声をそろえて出迎えてくれた。
涙ぐんでしまうが、泣き崩れるわけにはいかんので笑顔で応じた。
子孫を代表してロゴス、ムジカ、リンが花束を渡してくれた。
「おかあさん、母様、おかえり。こっちはまあ忙しいなりにちゃんとやっといたよ」
「実際やってたのは私ですけどね。報告書にまとめておきましたので後で読んでくださいね」
「お前らさあ……まーこっちはそんな感じだからさ。ママの方は大丈夫だった?」
思わず抱きしめてしまうね。
「ああ、私は大丈夫だ。長く空けていてすまなかったな」
三人とも照れ臭そうだが、こんな時くらいは素直に抱きしめられてくれるな……
「まったく……でも母様の方も成果はあったようで何よりです」
「リン、積もる話は後だよ」
「ママが乾杯しなきゃはじまんないからさ」
アリアがそっとコップを渡してくれる。
「うむ……我が娘たちよ、孫たちよ!よく集まってくれた!ありがとう……!お前たちを産んで本当によかった。土産も料理もたっぷり用意しておいたぞ!さあ宴を始めよう!乾杯!」
『乾杯!』
今回も大広間で立食形式だ。大広間を限界まで使ったのはこれが初めてかもしれん。
そこら中に机や椅子が並んでまるで披露宴だ。
これもマリナが指揮して、娘たちがそれぞれ自主的にやってたからな……
立派になったよ。
■
「グラフィカ、元気にやっているか?」
「え、ふひひ……ま、まあそれなりに」
一人一人に声をかけていく。
娘が今の所アリアと私が産んだ子を合わせて十二人。
その娘たちが平均して七、八人産むからな。
だが孫までは普通に全員顔と名前、個性を覚えられるんだよ。
これがひ孫になると千人。えーと今第六世代くらいまでいるんだっけ?
たぶん数十万人はいるよ……たしか感覚的にもそのくらいだ。
「こ、この漫画っておもしろいですね……貸してもらっていいですか?ふへへ」
「お前は絵と物語を描くのがうまかったな。うむ、いずれ図書館に置くつもりだが。今日は好きなだけ読め」
「あ、ありがとうございます……うひひ」
あっ、こらスケベ本の方に行くんじゃない。
なんでそんなものまで置いたんだマリナ。
まあ……今日はいいか。
「あっ、おばーちゃん!このおせんべいっておいしいねー!」
「お前は……リンの所のリネットか。あまりいたずらをしてリンを困らせていないか?」
「えー!さすがにそんなのもうしないよ!今はおかーさんの所で官僚団やってるもん!」
この孫はよく覚えている。
私たちの娘たちはまあ天才なんだが、孫世代を含めてもこの子はだいぶ天才寄りだ。
行動力と実現力が異常なんだよ。おまけにネブラ伯とオズワルド卿と仲がいい……!
つまりなんでも発明できてしまうんだこの子は。
「ふむ、そうか……お前が役人になるとはな」
「やー、発明を活用するには制度から作ったほうが楽だからさー」
これだよ。末恐ろしいよ。
発想がネブラ伯の影響を受けている……!
「あとノブって面白いね!もう通信機を改良して新しいシステムつくっちゃったみたい!」
おいなんでお前の口からノブの名が出る。
「なぜ……ノブの名を?」
「えっ、だってノブとはメル友だもん」
「メル……友?ひょっとしてお前あいつと通信でやり取りしてるのか」
それはもうネブラ伯とのコネをわたすのと大差ないんだよ!
くそっ、通信機はやはり売るべきではなかったな……
というかこれ、もうノブはネブラ伯と直に話してないか?くそっ。
「そうだよー。お互いに設計図と術式を送りあって新しい通信機を作ったんだ!ノブってすごいよ!掲示板っていうのをつくっちゃったもん!」
「マジかお前」
「ちょうど伝言板みたいに誰でも千文字くらい書いて残せるんだよ。トピックごとにね!」
聞くだに恐ろしいことしてないかお前。
「ポケベル通信で二人が百文字送りあうのはもう古いよ!今は誰でも千字書き込めるんだ!」
「国家元首と?」
「もう世界中……とまではいかないけど、誰でもできるよ!サイードさんって太っ腹だね!」
知りとうない!サイードとノブとネブラ伯とこいつがホイホイとやり取りしてるとか!
「う、うむ……後でくわしく聞こう。リンも交えてだ……!」
「あっ、まずかったかな?」
「そういうことは……!やる前にリンに聞いてくれ……!」
「ご、ごめんさい……」
叱るより先に後回しにしたい気持ちが出てくる孫はこいつしかおらん。
こいつのやらかす騒ぎはちょっといつも予想外に規模が大きいんだよ!
とりあえず……とりあえず今日はつつがなく宴をさせてくれ……!
「やあ女王。大変そうだね」
「貴公は呼んでもいないのになんでいるフェリクス殿」
こいつはヴィクトル公の息子で後継者のフェリクス・ルシル・フォン・ルストヴァルド。
変装とか手品とかそういう方向の魔法に長けていて極めて厄介なゲーム気質の男だ。
要するに……魔法と技能と興味の構成が殺人ピエロみたいなんだ。
あの親にしてこの子ありだよ!
「つれない事言わないでくれよ。無事の帰還を祝うついでに招待状を渡しに来たのさ」
「家族水入らずの日くらい遠慮してもらいたいものだ。今度は何の宴だ?」
「クロムガルドとルストヴァルドで折角だから同時に代替わりするんだ」
「……早くないか?」
「ボクもエーベルももう二十を過ぎた。世代交代にはちょうどいいだろう?」
……そうか、そういえばヴィクトル公も少し目元にしわが増えたな。
そんなに月日が経ったか……早いものだな。
なお私には一向に老いの気配がない。母様のエルフの血のおかげだろう。
……私は一体いつまで生きるのだ?
「あい解った。ヴィクトル公にはよろしく言っておいてくれ」
「確かに渡したよ」
振り返るともういないんだよ。
一人の魔法使いとしても死ぬほど厄介なんだよなこいつ。
こいつにとってバトルが嗜む遊びの一つでしかないのは幸運だった。
その代わりあらゆる面で遊び人なんだがな。
ヴィクトル公の道楽が継承されるとこうなるのか?
「……課題山積だな」
やることが……やることが多い!
だがまあ、今日くらいはゆっくり宴を楽しむことにしよう。
何しろ我が国でわけのわからない発展が起こるのはいつものことだからな。