【完結】ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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つくろう!貴族院!

 

「……ラウレミル連合国女王として以上の者を正式に叙任する」

 

 ルストヴァルドとクロムガルドの跡継ぎや新しい幹部たちを貴族として任命する。

 まあ形式ばった面倒な儀式だ。これにも慣れたしどうせすぐ終わる儀式だがな。

 本番は会議を兼ねた宴だ。

 

「さて、それでは始めようか」

「いいね、ボクの最初の議題は交通かな。街道の馬車駅にそって定期便を出そう。船も馬車もね。その方が海に人口を流しやすいだろ?」

 

 力関係から考えると最初はフェリクスか。

 ルストヴァルドの跡継ぎというのは軽くないからな。

 

「ふむ……しかし構わんのか?人口は力だ。あまり減らし過ぎては諸侯の力関係を乱すだろう」

「人口増加はゴブリンエルフだけじゃないのさ。人が余っている時代には流したほうがいいし、ボクは根回しもやってある……合意形成はできてるんじゃないかな?」

「諸侯はそれでよいのか?」

 

 周囲を見渡すと結構みんなうなずいてるな。

 それにしても今日の料理はうまいな……

 世界各地から仕入れた珍味がうまく取り入れられている。

 すっかりおなじみのバイキング方式に合っているな。

 

「人口の流れはまさに国家の動脈よ。今の段階では偏るよりも澱んで詰まる方が危ないわね」

「せや、カネとヒトは川の流れみたいなもんやね。澱ませたらあかんねん」

 

 ネブラ伯とゼグラス侯は相変わらずだな。

 まあこの二人は金も力もあっておまけに不老に近い。

 どうやっても重鎮になるんだよな。

 だが、今までおおむね間違いはないので今のところはこれでよいのだろう。

 

「ギルバート・エーベル・クロムガルドです、よろしくお願いいたします」

 

 えーとこいつはオズワルド卿の三男で、将軍に任命した男だな。

 ちょっと小生意気だが才気あるオークの青年だ。

 クロムガルド領の領主としては長男がやるらしい。

 次男や四男はそれぞれその補佐や会社経営だったか。

 

「軍務としてはこの代替わりを期に組織改革を提案させていただく。それぞれの領軍は『基地』として人員や設備はそのままですが、命令系統と階級を明確化させてもらう」

「ふむ……ギルバート卿、明確かつ簡潔な命令系統は必要だ。だが今まで働いてくれた者を格下げするのは抵抗が強かろう」

 

 まあこいつはこいつで手際よく根回ししてるし、もう私たちの手元に資料があるんだがな。

 

「その点についてはご安心を。既存の軍組織はそのままです。ただ新規採用と人員配置、兵科の増加に伴っての基地内での配置転換とお考え下さい」

 

 ここでギルバートは水を一口飲んで力説した。

 

「この改革のミソは言うなれば……領軍から国軍への転換です。もはや国内の領地同士での戦闘や派閥闘争というのは非現実的です。国内で争うほど貧しくなく、それぞれの領地はどこかが滅べば共倒れになる仕組みなのですから」

 

 そういえばそうしたのだったな。

 互いに裏切りがないように交易と流通を密にして相互破壊保証をしたこともあった。

 

「ならばむしろそれぞれの地元の軍ではなく、国の軍という意識を持たせた方が良いと愚考いたします」

「領地単位ではなく国の軍か」

「ええ、これからは海軍も必要です。その場合には組織の規格が近しいことが必要なのです」

 

 ……海外というものがだんだん身近になってきた。

 そして我が子孫はこれから海の民となる。我が子を守るための軍、か……

 

「私はよいと思う。だがしょせん私は軍というものをあまり知らぬ。問題点の洗い出しを諸侯に求めたい」

「それなら一番大きな懸念は開戦の最終認可の権利と義務があなたに集中している事ね。合議制よりは早いしマシと思うけど」

「私が仮に耄碌したら、か……」

 

 ここでゼグラス侯が軽い感じでつっこんでくる。

 

「それもあるけどなんかあった時に責任真っ先に取る立場やけどええん?って言いたいんよ」

 

 あー、まあ……何かあった時に首を差し出す立場なのはそう。

 

「その点については問題ない。開戦の判断をして負ければ責を負う。それが王というものだ」

「せやなくて残された方はどないなるん?って話も考えんとあかんよ」

 

 身に染みる警告だなあ……

 この方は耳に痛いことを平気で言ってくれるからありがたい。

 それはそれとして反論するがな。

 

「ならば貴公も連座で首を並べるか?私はそれは望まない。すまない、その時は貴公らこそが頼りだ。あとを任せることになる」

 

 まあ、今更というものだろう。玉座に座った時からそうだよ。

 

「んー、それなら国民投票を実装しちゃわない?あと議会制度とか」

 

 リネットもリンの名代としてここで発言権があるんだよなあ……

 

「通信機やポケットベルの番号を使えば技術的には可能だよ。全員が投票する前に統計的に結果はわかるしねー」

「しかしリネット女史、実装にはそれこそ問題点が多い。多数決ですべてを決めるのはいささか時期尚早かと」

 

 おっ、ギルバートがここで出てくるか。こいつも頭いいんだよな。

 聞いて即理解できるくらいにはな。

 

「でも参考にはなるし、機能だけでもつけとくとよくない?一定数の署名で国民投票が発生してその意見をある程度聞かなきゃいけない、ってなったら女王陛下の責任も分散するよ」

 

 リネット……そういうことなら、そういうことはしなくてよい……!

 その時に責を負うべきは私なのだから。

 とはいえ、私が耄碌する可能性を考えれば悪くない。

 ギルドという玉座に突き付けられた剣に加え、国民投票がつきつけられるだけだ。

 

「……わかった。私がもし暴君になり果てたときに止める刃は多い方が良い。国民投票とその請求手続きを詰めてくれ。領軍から国軍へ、そして海軍の開設もその方向でよしなに頼む。定期便の運行もな」

 

 ここでフェリクスが笑って口を開いた。

 

「くっくっく、なら僕からは『女王特権』を提案するよ。新法が成立したり改正したときに女王がそれを緊急停止できる権利だ。法が凍結している間は立法前の制度にロールバックする……国民が直で意見できる制度があるなら、王にも直で国に意見できる制度が必要だ。違うかな?」

 

 だいぶアバンギャルドだなお前。

 

「それに、今までもこの宴での合議制で決めてたんだろ?僕らはそれを制度として明文化しただけさ」

 

 ……そうだろうな。

 今までのナアナアの寄り合い所帯ではなく国としてちゃんとするならば……

 あっ、今がいい引き際じゃないか?

 もう大丈夫だ。この国は私の手を離れてもやっていけるさ。

 

「……ならば、私は開戦判断や魔法による『契約法』の改正、外交で王族がどうしても必要という時、悪法が出来た時の『女王特権』を残し、残る判断を貴公らに委ねたい」

「……本気で言ってる?」

 

 ネブラ伯が驚きと心配の表情で尋ねた。

 

「今すぐに、というわけではない。だが私は次にゆだねるべき時が来たと思う。私は女王であり、我が種族の母であることは変わらない。だが、この国そのものはいつまでも私の手の中にあっていいものではない……手放す時が来たのだ」

 

 それを教えてくれたのはお前なんだよリネット。

 

「次にゆだねる判断、ね……本気のようね」

「せやけど、まだ早すぎるんちゃう?仕事任せたからには引継ぎまでやらなあかんわ」

「わかっている、すぐにというわけではない。……ただそれを念頭に考えていて欲しいというだけだ」

 

 まあよくよく考えれば代替わりしてすぐというのはまずかったか。

 次に引き継げるように考えていかねばな。

 

「リネット、お前がこの間考えた大市場楼という概念をゼグラス侯に言ってみてくれ」

「えっ、あれ!?ええとね……このルストヴァルドもそうだけど、ラウレミルって世界各地から名産品が集まるし、ラウレミル内でも名産いろいろあるよね?」

 

 ゼグラス侯が興味深そうに聞き始めた。

 

「そういう名産品を大きな建物一つに集めて売るんだよ。何なら各地のお店の支店を置いたり、カタログを配布して会員になった人の家に届けるの。会員の人は銀行に振り込めばいいんだし」

「悪うない。せやけどそれは一線を引かんと危ういで。金っちゅうもんは手触りと見てわかる量があんがい大切やねん。数字を右から左に動かすだけやと人は壊れるんやわ」

 

 そういえばシャトレーンの時もそんなことを言っていたらしいなゼグラス侯は。

 商人としてのカンが本当に鋭くて助かるんだ。

 

「だから最終的にはこの計画はゼグラスさんの商会に売却したいんだ。ゼグラスさんならそのあたりの加減わかるでしょ?」

「……この子おもろいわ。女王陛下が期待してまうのもわかるで」

 

 こういう時のゼグラス侯はギャンブラーの顔になるんだよなあ。

 すごいだろ?我が孫は。

 

「我が子孫たちは立派に育っているのがわかるだろう?なに、最終安全装置としての私は変わらん。だがもはや時はこの子たちの時代だ……任せてみたくなったのだよ」

 

 ゼグラス侯はため息をつき、ネブラ伯は苦笑した。

 

「ククク……いずれ引きずり出されるまでの陛下の休みだと思っておきなさいな、ゼグラス」

「まあ……せやな。数十年休めばまた話も変わるやろ。ええんちゃう?5か年計画くらいでぼちぼち変えていこか」

 

 この二人は長命種の君主なんだなあ~やはりなあ。

 私もそのうちああなるのだろうか……

 そうして、我が国は立憲君主制と議会制に向けてゆっくりと舵を切りだした。

 

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