ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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身体は闘争を求める

 

 あれから戸籍を調べ直した。

 集計途中の物も合わせると……およそ三千人はいた!

 どうなってるんだ集計は!

 

「あれから集落ごと兎人や鼠人が移住してきたのと、それと我々がどんどん子作りしたせいですね」

「集計を取り直したらこれか……およそ二百人規模の集落が十数個。この首都で千人ほどか」

「ええ、ですが食料需給はむしろ上向いていて余裕があります。鼠人の持ってきた家畜のおかげですね」

「鶏にヤギか……卵にチーズは便利だがな。肉の生産も考えねばならん……」

 

 明らかに人口爆発の兆候がある。食料増産が間に合うのか?

 付け焼刃の事務処理でどこまでできるか……

 ロゴスからの本が届くのが待ち遠しいが、読む暇が果たしてあるかどうか。

 

「とにかくまずは食料増産だ。いざという時を考えれば余るくらいでい。畑になっていない場所には救荒作物を植えろ。飢饉だけは避けねばならん」

「ええ、食料はあって困りませんからね。倉庫も増設しなければ」

「頼むぞ」

 

 そんなことをやっていたらついにロゴスが帰ってきた!

 ロゴスの「チーム」もつれてだ。冒険者という割にはずいぶんと剣呑な感じだ。

 みんな黒装束や黒い鎧だしな。傭兵に近い感じなのかもしれない。

 

「あんたがロゴスの母親か。ふうん……あんた、鍛錬に興味はないか?魔法戦の鍛錬だ」

「ほう、お前がロゴスの属するチームの頭か。ずいぶんと強そうだな。魔法戦か……正直興味はある。実際に戦闘をしたことがないのでな」

 

 チーム「宵の群狼」リーダーを名乗るフィンブルという男はそれほどガタイがいいわけではない。

 細身で筋肉の引き締まった体だ。だが、こいつを覆う魔力は死と破壊に満ちている。

 

「意外に乗り気か。面白いな。鍛えがいがありそうだ……外に出よう。戦える場所はあるか?」

「まだ森が残っている場所がいくらかある。そこでどうだ」

「森か。あんたが十全に力を発揮できるフィールドだな。楽しそうだ。全力を見せてくれ」

 

 フィンブルはあまりにも冷たく、静かな殺意を身にまとっていた。

 こいつはきっと、死神のように『楽しい仕事』として何百人も殺してきている。

 実際ロゴスからもそう聞いているしな……

 

「おかあさん、いいのかい?」

「お姉さまが死ぬわけないじゃない?」

「リーダーはハッキリ言って強いよ。リーダー、あくまで鍛錬にとどめておいてくれよ」

「わかってる。加減はする。お前を鍛えたときだってうまくできただろう?」

「ああ、信じるさ。母様、あまり張り切りすぎないでくれ」

 

 張り切る?そうかもしれない。

 人生初の闘いというものに妙に血が滾る。

 私の中のエルフの血が騒いでいるのかもしれない。

 

「わかっている。そんなに浮かれて見えるか?」

「正直、少しね」

「まあ、やってみんとわからん。何しろ初めてだからな!よろしく頼むぞフィンブル」

「ああ、いい勝負にしよう」

 

 ■

 

 そういうわけで、あれよあれよと妙に私が乗り気になってしまい、森の中での勝負が始まった。

 

「確認をしておこう。お互い止めは刺さない。降参は認める。ドクターストップもな」

「ああ、それでいい。ついでに観客には当てない、もだ。アリア、これは『約束』だ。やってくれ」

「わかったわ。双方の約束としてこれを認めて魔法で契約するわね」

「二人ともやりすぎないでくれよ。いざとなったら私も止めるからね」

 

 フィンブルと私は良い感じの距離を開けてストレッチをしながらお互いを見る。

 

「じゃ、行くか」

「ああ、やろう」

 

 戦いはそんな気軽な一言で始まった。

 最初から全力で行こう。その方が楽しそうだ。

 

「破滅の雷!」

 

 私の指先から雷が出てフィンブルに向かう。

 さあ、どうしのいでくれる?

 

「『吹き飛ばし』」

 

 雷があいつの手から出た赤い衝撃破で向きを変えられた!

 ただの魔力放出ではない。これはおそらく重力だ!

 

「『引き寄せ』」

 

 あいつの手から今度は青い魔力光が出て私の後ろの木に当たる。

 するとやつはまるで鳥が空を飛ぶような速度で私に飛んでくる!

 どうする、引くか攻めるか。当然攻める!

 

「『破壊の炎!』」

「『吹き飛ばし』」

 

 くそ!またか!私の放った炎が逆に吹き飛ばされてこっちに向かってくる。

 すれ違いざまに一撃入れる……そうだ良い手があったじゃないか。

 

「『魔力の義肢』!」

 

 腕に魔力の腕を纏って炎ごと奴を殴り飛ばすつもりで攻撃する。

 手ごたえが軽い……何かをはじいた感触はする。何だこれは、投げナイフか?

 

「『入れ替え』」

 

 炎が晴れると、やつは高い木の上に潜んでいた。

 どうやって一瞬で移動したのかまるで分らん。

 さっきの重力魔法で自分を木に引き寄せたのか?

 いや、おそらく違う。入れ替え。やつは転移もできるのか!?

 

「ハハハハ!愉快だ!愉快でならん!闘いとは面白いな!」

「やはり『素養』はあるな。血筋か?いいじゃないか、蕾が芽吹く様はいつだって面白い……!」

「お前も、ずいぶん楽しそうじゃないか、傭兵」

「ああ、今はただお前とやり合いたい」

「いいだろうとも!」

 

 やはり私もこいつも戦闘狂の気があるな。

 なにしろ、楽しい。これだけ楽しいのはいつぶりだろう?

 

「『魔力の剣』!」

 

 私はその手に物干し竿のように長い魔力の曲剣を構える。

 そして、無数の短い魔力剣を周囲に浮かべた。

 その数、およそ千本。

 

「なるほど。弓でも棍棒でもなく剣か。森でエルフでもゴブリンでもないというのは面白いな」

 

 フィンブルは氷のように笑うと、首から下げた何枚かの護符を撫でる。

 

「『契約の群狼』『戦列の烏』『爆裂バッタ』」

 

 奴の足元には数十匹の霊体の狼の群れ。

 頭上には同じように霊体の烏。

 背後には明らかに『これから爆裂しますよ』という形をした丸い腹のバッタたち。

 

「さあ、やろうか」

「ああ、やろう!」

 

 壮絶な撃ち合いが始まった。

 私の浮かべた魔力剣と奴の召喚した霊体たち。

 それぞれが壮絶に戦い合い、互いの本体を狙い合い、相殺して爆発しては消える。

 この静かな森は今や爆発音に包まれ、至る所で爆発が起こっていた。

 そして、その結果は……

 

「私の負けか」

「ああ、俺の勝ちだ」

 

 空中に逃げたわたしの肩に奴の召喚した烏が止っていた。

 私も奴の喉元にまで魔力の剣を突き付けていたが、それはすでに奴本体のもつただの鉄剣で抑えられている。

 互いに魔法を解いて、静かに地面に降りた。

 

「ハハハッ!闘いとはこうも愉快なものなのか!なるほど……一つ自分を知れた。礼を言う」

「意外にこちらも楽しめた。あんた、素養があるな……どうだ、俺たちを雇ってみないか?」

「ふむ、面白いな……どういった名目でだ?戦闘の教師か?それとこの自称王国の宮廷魔術師か?」

「その王国の傭兵としてだ。その中にはあんたに戦うすべを教えることも含まれる」

「いいな、それは実にいい……」

 

 毎日こんな勝負ができたらそれは楽しいだろうな。

 

「お姉さま!一旦冷静になりましょう!毎日これは無茶よ!」

「母様が戦闘狂に目覚めてしまった……やってくれたなリーダー……」

 

 うむ……少し調子に乗りすぎたかもしれん。

 

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