ゴブリンエルフ始祖女王   作:照喜名 是空

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交渉

 

「いい知らせと悪い知らせ、両方あるけどどっちから聞きたい?」

「悪い知らせからだ。どちらが急を要すかといえば悪い知らせからだからな」

 

『顔のありすぎる男』、ランドルフがいつもの調子で気楽に手紙を差し出してきた。

 これは……ああ、近隣の領主にここが見つかってしまったようだ。

 

「勝手に住むな、住むなら税金払えってさ。ワオ、バッドニュース!で、どうする?戦争しちゃう?」

 

 くそっ、ランドルフがものすごく楽しそうな顔で煽ってくる……

 それはそうだろう、こういう展開を求めてこいつはやってきたんだろうからな。

 

「それを決める前に良い方の知らせは?正しい判断には正しい情報が必要だ」

「ムジカちゃん帰ってくるみたいだよ?わりとうまく行ったってさ」

「そうか……詳しく話せ」

「いいよ」

 

 ランドルフの話を聞くに、どうもムジカはセイレーン族の嫁を取り、そこでさらに歌に磨きをかけ、都で歌手としてとてつもなく人気になり、その金でセイレーン族の住む諸島を買い占めたらしい。

 それで故郷に錦を飾りに来る、と……

 

「そうか、ムジカはうまくやっているのか……」

 

 安堵のため息が漏れてしまう。そうか、あのじゃじゃ馬娘がなあ……

 

「親として安心した?じゃ、決めよっか。方針」

「そうだな……娘たちとも話し合うが、私の方針はもう決まっている」

「へえ?」

「ゴネる!とことんゴネて時間を稼ぐ!その隙に戦時体制を整え、交渉がどちらに転んでもいいように備える。最悪はムジカのいる島に逃げることになるが……」

 

 ランドルフはつまらなそうに文句を言った。

 

「それって事態の先延ばしじゃない?戦力の分散投資はよくないよ」

「それはそうだがな……」

「ま、君の国さ。君が好きにすればいい……世の中そんな甘くはないと思うけど」

 

 実に耳が痛い言葉だ……

 とはいえ、私だって考えてないわけがない。

 いきなり開戦だとそれはもう『滅ぼすべき怪物』というイメージで定着してしまう。

 だから形だけでも『交渉が通じる相手』という手続きを踏まねばならんのだ……

 

 ■

 

 と、いうわけで私はまず娘たちとの会議を行った。

 私の案が普通に通ってしまった……

 そういうわけで、私は筆を執った。

 

 主張はこうだ。

『そもそもここは誰の土地でもない以上、そちらの領民になる謂れはない』

『ないが、それでも譲歩として我々が『借りている』テイにしてもいい。ただしその場合は独立領として認める事』

『その場合、賃料としてはそちらの主張した税金の半額程度が妥当である』

 

 そういった文面を丁寧に書いて、書簡が往復されるまで時間を稼ぎ、その間に軍備を進める。

 とはいえ、志願兵を募る所から始めて、フィンブルたちの傭兵団に指導を願わなければならない。

 相手の返事はかなり怒気を感じた。

 

『お前舐めるなよ。領民として保証してやるだけありがたいと思え』

『そもそもそちらの主張の誰のものでもないというのは誤解だ。しっかりと357年前にこちらは王国からその土地を下賜されている』

『仮に土地を貸しているとしても、その賃料は法外だ。せめて四分の三は払え』

 

 ……そんな具合だ。むしろ交渉はうまく行っている。

 その間に練兵はうまく行った。子孫たちの中から戦いに興味があるもの、その旦那たち。

 およそ300人が兵として育ちつつある。

 この間で1か月。そのわずかな時間で並んでの行軍や最低限の戦闘魔法は覚えつつある。

 改めて我々という種族の成長率がむちゃくちゃだと思い知らされた。

 母様の血は最強すぎる……

 

「ママ!帰ってきたよ!なんか衛兵っぽいやつが絡んできたから死なない程度にボコしてきた」

「お前マジか」

「あ~、やっぱりヤバい感じ?」

 

 ムジカが帰ってきた。それで第一声がこれだ。

 しかも、後ろに体をすっぽり覆うほどの水球に浸かりながら、シャボン玉のように空中を浮かんで移動する人魚の群れを連れてだ……

 

「それでヤバくないと思うお前の育て方を今反省しているところだ……」

「ごめんねママ……やっぱよくなかったかぁ……」

「まあ、もうやってしまったことは仕方ない。ムジカ、私が一緒だから責任をとるぞ……」

「ウス……」

 

 厳しい交渉が続きそうだ……

 なんならフィンブルとランドルフはこの知らせを聞いたときものすごくうれしそうに『戦争か?』と聞いてきたしな……!

 領内の主戦派をなだめつつ、相手側に頭を下げ、さらにできるだけ交渉を長引かせる必要がある……!

 つらい~!

 

 ■

 

 私はランドルフに手紙を渡すのではなく、直で私が頭を下げに行くことにした。

 証人としてフィンブルもつれてだ。でないと普通にゴブリンとして討ち取られる可能性があるからな……

 

「大っ変!申し訳なかった!うちのバカ娘がそちらの兵に手を出したと聞いた。その点については謝罪する。だが、交渉は続けさせて欲しい」

「お前、マジでいい度胸してるねえ……!」

 

 これが私が交渉していた辺境伯婦人だ。

 確か名前はヘイゼル・グレンデル・フォン・ルストヴァルド。純血のエルフだ。

 そして横でヘラヘラ笑ってるのがヴィクトル・フォン・ルストヴァルト……

 ヘイゼルの夫、つまり辺境伯だ。

 

「お前わかってるのかい?このまま戦争でも私は一向に構わないんだけどねえ」

「できればそうしたくないが、是非もないというのであれば……」

「へえ、うちの領地のルストヴァルトに勝ったとしてもだ。その後どうすんだい?延々殺し続けるのかい?いやだねえ、これだから蛮族は……」

「なので、何卒交渉を続けさせていただければと……」

 

 まあ、ヘイゼル夫人の言う通りだ。

 仮にここで勝っても後があんまりない。まあ最悪は海に逃げるが。

 

「なら謝るなら謝るなりの態度を見せろって言うんだよ!」

「カネですか?」

「お前なあ……!」

 

 ここでヴィクトル辺境伯が大きく笑い、そしてパンパンと手を叩いた。

 

「ははは。まあまあヘイゼル。いいじゃないか、兵にも怪我はなかったしね」

「あんたねえ……ま、任せるよ。せいぜいふんだくってやりな」

「人聞きがわるいなあ。まあいいよ、話はよくわかった!じゃあこうしよう。そんなに欲しいなら売ってあげるよ、あの土地。形としては君がすごく面白い魔法を見せてくれたから僕が下賜してあげたってことでさ。お値段は……そうだなあ、年一回の50年払いで……このくらいでいいよね?」

 

 示談に際し、提示された値段とは……普通に最初の税額五十年分だった。

 つまり、一年に払う値段はそのまま通された形だが、値上がりがない分だけ温情だろう。

 断る理由がない。深く頭を下げるしかない……

 

「ありがたく買い取らせていただきます。条件は本当にそれだけでしょうか?」

「そうだなあ、いざとなったら兵役の『協力』をお願いしたいんだ。そう、お隣さんとして『義勇軍』を貸すって形でね。だって君は僕の隣の領地の領主なんだよ?僕の領地を攻められたら『ついで』でそっちも落とされるよね?じゃあ『協力』しあったほうがよくない?」

 

 笑顔に圧がある!ヘイゼルが勝ち誇ったように笑っている……ぬうう。

 だが、まあ道理でもあるわけで……隣接する領地なら軍事同盟を組んだ方がいい。それはそうだ。

 

「……わかりました。いざとなれば駆けつけましょう。互いを守るためと言うのであれば」

「はは、警戒されちゃったかな?その土地は私が君に正式に下賜するんだ。権利は完全に君のものさ。僕が保証するよ?君もこれで僕のお隣さん。つまり『友達』なんだよ」

 

 ここで辺境伯はにこりと笑った。嫌な予感がする!これが貴族の狡猾さというものか……

 

「ただねぇ……五十年ローンと『軍事協力』だけじゃ、ちょっと物足りないかな~?君は僕の『お友達』なんだよ?もちろん、僕の派閥には入ってくれるよね?ダメかな?」

 

 本当に通したかったのはこれか!つまり、この辺境伯はこちらを味方につけようという事か。

 う~む……だが、政治的パイプや軍事的アピールのために貴族につながりが欲しかったのは事実だ。

 それにこれで正式な領主として認められるのはかなり大きい……

 要するに辺境伯はテイのいい傭兵として我々の力を使おうという目論見だろう。

 野心家だ。だが、目的は一致する。

 

「もちろん!ありがたき幸せ。戦働きを見せられるのはむしろ誉れです。賭けましょう、ヴィクトル辺境伯の派閥に」

 

 私はかみ砕くような笑顔で笑った。ゴブリンもエルフも戦闘民族だ。舐めるなよ。

 ここでヴィクトル辺境伯は片眉をあげて心底面白そうに笑った。

 

「へえ、君……なかなか思い切りが良いね。どうかなヘイゼル?」

「クックック……なかなか吠えるじゃないかい。いい度胸だね。使い倒してやるから楽しみにしておきな」

「はっ、ありがたく……」

「……ただ、たまに賦役を手伝ってもらうこともあるかもね。もちろんタダじゃないさ。ちゃんと『お友達価格』にしておくよ」

 

 しれっと条件がどんどん増やされる!これが貴族か~!

 

「その価格については場を改めまして交渉をさせていただけると……」

「ま、僕も悪魔じゃないからね。無茶な価格にはしないさ。ただ……僕の派閥『辺境派』のリーダーは僕だ。つまりその場では君の上司は僕だよ。その一線だけは『友達』だからこそ忘れてほしくはないかな」

 

 覇王の如き、魔力の奔流……!

 その魔力から感じる。この男はなかなかの曲者だと。

 ただ甘いだけの男ではない……!

 だが、面白い。そうだこいつは面白い。賭けるに値する男だと感じる。

 

「はい、これからは励ませていただきます」

 

 私は母様から習った宮廷作法の跪いたままの敬礼を行った。

 そう、最初から最後まで玉座にいる二人に跪いて頭を下げっぱなしなのだ!

 

「ふぅん……いいね!最初からやる気なのはすごくいい!じゃあ、来週あたりまた呼ぶからいい感じの魔法を披露してね」

「えっ?」

「えっ、いや言ったじゃないか。君が魔法を披露したから僕が褒美に下賜したって形にするって。できないかな?」

 

 また圧!だが魔法を見せろというのであれば是非もない。

 腕によりをかけて見せてやろうじゃないか……ラウレミル家は魔法の血筋だ!

 

「はっ、必ずや満足いただけるものをご覧に入れます」

「だよね!頼んだよ」

 

 厄介な上司が出来てしまったな~!

 

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