「そういうわけでムジカ……お前何かいいネタあるか?いちおう芸人だろうお前」
「ええ……まあできるよ。ママが代わりに謝ってもらったからまあやるよ……でもさあ、絡んでくるやつに他の手段あったと思う?」
「ない。だが世の中悪くなくても謝っておいた方が穏便な場合はある」
「あ~、まあやっぱそうだよね。そういう感じか~!オーケー、なんとかするよ……」
そう言ってムジカはギターを軽く鳴らしてチューニングし始めた。
アリアはくすくすと猫のように笑った。
「そういう仕方なく責任取る所とかお姉さまそっくりよねムジカは」
「そうか?」
「あ~、まあ似てるかも……じゃあ謝罪演奏に向けて合わせていこうか。私が演奏するからママがなんか適当にそれっぽい魔法で演出考えて」
そう言うとムジカはノリのいい小粋な音楽と共に鳥が鳴くように短い歌詞のない歌を歌い始めた。
なんだこれは!
まるで鳥の鳴き声のような意味のない歌なのに楽しそうと言う事はいやでも伝わってくる!
これがセイレーンの歌唱法なのか!?
「トゥルルトゥルットゥトゥルリララ……ってこんな感じ。このスキャットとタップダンスでまず場を掴もうと思う」
「あらいいじゃない。タタララタッタラリララ。こんな感じかしら?」
「あっ、そうそうそんな感じ。おかあさんできるの?」
「まあなんとなくはわかるわ。ノリでしょ?」
「そうノリ」
我が妹にして伴侶と我が娘がまったくわからん技術の話をしている……
最近の歌はわからん。わからんが……妙に楽し気な物なのはわかる。
「まったくわからん……わからんが、楽しいものだというのはわかった」
「それはもうわかってるんだよママ」
「うーむわからん」
しかしこれだけではウケても感動させられるかどうか。
「しかし場を掴むというからにその後の『本命』があるのだな?」
「あるよ。今見せようか?」
「うむ」
「OK、ロックの時間だ」
娘のギターがバチチと電の魔力を纏い、そしてロックの時間が始まった。
■
「どうだった?これが私のやってる音楽なんだけど」
どうもこうもない。音の暴力だ。だが、暴力だからこそ強く心に響く。
なんでも『ロックブラスト』という音楽のジャンルらしい。
セイレーンは進んでいるな……未来に生きてるよ。
最終的には私も頭を振り回して音に乗っていた。
これは……いけるかもしれない。
「楽しい音楽だったわ!これなら大盛り上がりよ!」
「……これはいけるかもしれんな」
「でしょ?フロアがブチ上がると思う。あとはママの魔法で演出あればもっと盛り上がるよ!」
「よし、やってみよう……」
そこにロゴスが目をこすりながらやってきた。
「母様、一体何の騒ぎだい?すごい音だったけど」
「ロゴス、お前も聞いてみろ。すごいぞ。これなら辺境伯も満足するだろう」
「辺境伯への謝罪のアレでこれをやるつもりだったのかい!?どうかしてるよ」
「けどいい音だったろ?」
ムジカがにやりと笑う。ロゴスは近づいて手に持った本をムジカの頭に振り下ろした。
「やかましいんだよ!何時だと思ってるんだ!」
「あー、その点についてはゴメン」
「まあもうこれを披露することは止めないけどね!外でやってくれないか。それも昼に」
「わかったわかった」
これはロゴスも巻き込むのは難しそうだな……
まあ、リンと共に領地の守りに置いておくがのいいだろう。
そういうわけで練習は昼間に外でやることになった。
それがいけなかった。
■
なんか……いつのまにか練習に浸かっている公園に人だかりができていた。
どうもムジカの音楽を聞きに来ているらしい。
ある日とうとう、こんな子孫が飛び出てきて跪いた。
「ムジカ様!わ、わたす……感動しました!わたす、姉妹の中でもみそっかすで!『私がいなくても家も世の中もまわっていくんだな』って気づいて!わたすなんか要らねんだって思って!そんな夜にあの歌がやってきて!わたす首根っこ掴まれてこう言われた気がしました!『おめえを要らねえと思ってるやつなんかぶん殴ってやれ』って!」
マジか。そうか……増えればこうもなるか……我が子孫がそんな思いを……
ところでそんな内容の歌だったか?まあ歌詞の内容はともかく、ノリはそう言う感じだったが。
ムジカはなにやら平伏されて困っている。私に視線を送るな。お前のファンだろう。
「お、おう。ロックじゃん。それでいいんだよ」
「だから!わたすにもその楽器の作り方教えてください!」
「いいよ。これはなんつーか……魔力でそれらしい形作ってるだけだから。こうね、こう」
ムジカは『魔力の礫』とか『魔力の刃』の要領で魔力からギターを作ってみせる。
「こうだすか……?ああっ」
ムジカのファンの子が腕の中で魔力を形作り始めるが、ギターの形になる前に崩壊してしまう。
ふむ、魔法なら私も教えられるな。
「そうではない、魔力で物を作るのはな……こうだ」
私は魔法でそっとその子の背後に気づかれぬように移動し、後ろから抱きしめて魔力の流れを改善してやる。
「ひえっ!女王様!」
「魔力に集中しろ。作りたい楽器のイメージを固めるんだ」
「はひっ!」
「そら、とりあえずは出来たじゃないか。これでできるようになるはずだ……すまなかったな。私はお前たち我が娘を一人たりとも要らないなとどは思ったことはないぞ。そう思わせてしまったのはひとえに私の不徳だ。すまなかったな」
そう言って頭を撫でて離れる。
これでわかってくれればいいが、こんな程度のおめたごかしで孤独が埋まるわけがない。
「あ、ママが私のファンの脳を焼いた。しゅわっと音がしたもん」
「脳?何を言ってるんだ?都会の言い回しか?」
「ああまあそういうやつ。あー、なんだ。君の名前は?とりあえず弾き方も教えるから知りたい奴には教えてやりな。私もそう習ったから」
「はいっ……!わたすの、わたすの名前はファンナです……!」
「滝みたいな涙流すじゃん」
それからその日はムジカと私でファンナに一通りおしえてやった。
おい、なんで辺境伯の城へ出発の日までに軍楽隊ができている……様子がおかしすぎる。
私たちの種族が本気を出して習得を急いだらこうなるのか!?
軍でさえそこまで習達が早くないのに……
ともあれ、残念だが今の技量ではつれてゆけない。
すでに私とムジカたちでリハーサルも組んでしまったからな……
だが、音楽をかき鳴らされながら見送られるのは気分がよかった。
■
結論から言えば、フロアはブチ上がった。
ムジカのギターは吠え、私の魔法は荒れ狂った。
音楽と共に燃えない花火が地面から吹き出し、火の粉のような魔法による紙吹雪が空を舞った。
それでいて魔力でできているので掃除も要らない。自然に消えるのだ。
「以上を持ちまして、謝罪に代えさせていただきます。このような場を設けていただき感謝に耐えません」
ヴィクトル辺境伯が大笑いし、彼が呼んだ派閥の仲間たちは深く頷き合った。
「はっはっは!なかなか豪気でいいじゃないか!たしかセイレーンの最近の音楽だったよね?いいよ!許すよ。僕は感動した……いい曲を聞かせてくれたお礼にあの森を下賜したいと思うけど皆いいよね!?」
豪奢な黒いドレスを着たアラクネの女貴族が蜘蛛脚をチャカチャカと擦りあわせる。
「ククク……いいじゃない。その年でなかなかの魔法の練度……興味深いわ」
白い鱗と人の顔を持ち、ゆったりしたローブに身を包んだドラゴンボーンが蛇のように笑う。
「ええも何もあのへんはヴィクトル伯のもんやし?ボクは面白ろそうやと思いますけど?それにラウレミル……ええやん、南部のアホ共が悔しがる顔が想像つくわ」
ほかの貴族たちも口々に賛同を唱えるが、おそらくこの二人がヴィクトル伯の派閥の幹部なのだろう。
「いいね!決まりだ!新しい『友達』の誕生に乾杯だ!」
『乾杯!』
かくして、ラウレミル王国はエンダール王国ラウレミル領となり。
私は領主として貴族の仲間入りを果たした。
こんなにとんとん拍子でいいのだろうか?