機動戦士ガンダムUC ― ヤクト・ドーガの残影 ― 作:tell M.G.
重力のない闇に、残光だけが漂っていた。
人の意思が光となり、巨大な質量を押し返した――
あの奇跡の余韻は、まだ戦場に残っている。
だが、その中心にいた二人――
アムロ・レイとシャア・アズナブルの姿は、すでにどこにもなかった。
行方不明。
その事実だけが、戦場に混乱をもたらしていた。
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「各機、戦闘を中断せよ――繰り返す、戦闘を中断せよ!」
通信が飛び交う。だがそれも束の間だった。
誰もが理解していた。
“終わっていない”と。
やがて、沈黙を破るように――
再びビームが走った。
戦闘は、再開された。
⸻
ネオ・ジオン旗艦
レウルーラ。
その巨体は、すでに満身創痍だった。
連邦軍の標的は明確だった。
旗艦を落とし、戦意を砕く。
無数の光が集中する。
モビルスーツのビーム、戦艦の主砲――
回避も、迎撃も、もはや限界だった。
「直撃だと……!?」
艦体が軋む。警告灯が一斉に点灯する。
それでも。
「……まだだ。まだ沈まん」
艦は、沈まなかった。
傷だらけのまま、進路を維持し――
戦場から、離脱する。
⸻
やがて、視界に広がるのは静寂の海。
無数のデブリが漂う、暗礁宙域。
その入口で――
レウルーラは、ついに動きを止めた。
推進系、応答なし。
航行不能。
完全な沈黙が、艦を包む。
⸻
ブリッジに立つ女が、目を閉じる。
ナナイ・ミゲル。
彼女は理解していた。
ここが、終点であることを。
「……総員に通達」
静かに、しかし迷いなく告げる。
「本艦を放棄する。各員、ランチにて脱出せよ」
誰もが息を呑む。
だが彼女は続けた。
「稼働可能なモビルスーツは護衛に回せ。その他は――破棄で構わない」
一瞬の沈黙。
「繰り返す。一刻も早く退艦せよ」
それは、決断だった。
そして――命令だった。
⸻
やがて、艦内の灯りが一つ、また一つと消えていく。
脱出艇が次々と切り離され、闇へと散っていく。
護衛のモビルスーツが、その周囲を固める。
かつての旗艦は、すでに“抜け殻”となっていた。
静寂。
そして、放棄。
動力を失った巨艦は、ただ漂う。
誰にも見送られることなく――
レウルーラは、暗礁宙域の闇へと沈んでいった。
数週間後――
暗礁宙域。
光を失った残骸の海を、六つの影が進んでいた。
ネオ・ジオン残党のモビルスーツ部隊。
いずれも応急修理を施された機体ばかりだ。
「……あったぞ」
先頭の機体が、低く告げる。
視界の先に浮かぶのは、巨大な艦影。
かつての旗艦――
レウルーラ。
その装甲は裂け、各所に焼け跡を残しながら、静かに漂っていた。
「間違いない。レウルーラだ」
「内部に侵入する。各機、警戒を怠るな」
六機のモビルスーツが、ゆっくりと艦内へと滑り込んでいく。
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艦内は、完全な沈黙に包まれていた。
照明は落ち、生命反応もない。
ただ、戦闘の爪痕だけが、そこに残されている。
「……整備デッキを発見」
奥へと進んだ隊員の声が、通信に乗る。
そこにあったのは――
放棄されたモビルスーツの群れだった。
「こんなに……」
機体は傷だらけだが、いくつかは修復すれば使用可能に見える。
その中で、一際異様な存在があった。
赤とグレーに塗装された機体。
頭部のセンサーが、闇の中で鈍く光る。
ヤクト・ドーガ――
ニュータイプ専用機。
「……右腕が無いですね。バックパックも損傷かあるようです」
機体を見上げながら、隊員が報告する。
「これは……置いていきますか?」
一瞬の静寂。
だが、隊長は即座に答えた。
「いや、違うな」
ゆっくりと、ヤクト・ドーガへ視線を向ける。
「それは……総帥の予備機だ」
シャア・アズナブルの影が、その言葉に重なる。
「ニュータイプ専用機だぞ。旗機として最優先で回収する」
その一言で、空気が変わった。
「了解!」
隊員たちが動き出す。
その時だった。
「――待て、動きあり!」
外部警戒に当たっていた機体が叫ぶ。
「連邦軍モビルスーツ……三機、接近中!」
沈黙が、緊張へと変わる。
隊長が即座に判断する。
「……撤退するぞ!」
間髪入れず、命令が飛ぶ。
「武装は捨てていい!モビルスーツだけでも持ち出せ!」
一瞬の迷いもなく、続ける。
「ヤクトは絶対だ。あれを失うな!」
「他は――ギラ・ドーガを優先して運べ!」
ギラ・ドーガ。
実戦投入可能な数少ない戦力。
「急げ!時間がない!」
⸻
デブリの影から、次々と機体が運び出されていく。
損傷したヤクト・ドーガ。
そして、三機のギラ・ドーガ。
連邦軍機の接近は、刻一刻と迫っていた。
「あと少しだ……!」
緊張が極限まで高まる中――
「全機、離脱!」
号令と同時に、六機は一斉にスラスターを吹かす。
暗礁宙域を離脱。
追撃を振り切り、彼らは戦場から姿を消した。
⸻
静寂が戻る。
再び、闇だけが支配する宙域。
そこにはもう、何も残されてはいなかった。
だが――
彼らは、確かに手に入れた。
戦うための“牙”を。
ヤクト・ドーガ。
そして、ギラ・ドーガ三機。
戦力は確保した。
だが現実は、厳しい。
弾薬、武装、整備資材――
すべてが、圧倒的に不足している。
「……どうやって、戦う?」
誰かの呟きが、通信に消える。
答えは、まだ無い。