機動戦士ガンダムUC ― ヤクト・ドーガの残影 ― 作:tell M.G.
「……分かりました」
リュウ・バーンは、わずかな戸惑いを残したまま頷いた。
ゼクストは、壁に手をつきながらもその視線を逸らさない。
「いいか、よく聞け」
荒い呼吸の合間に、言葉を絞り出す。
「私は必ず後から追いつく。必ずだ」
一歩、踏み出す。
「追いついたら――私と代われ」
その声には、揺るぎない意志があった。
「あのお方のためにも、この局面で倒れるわけにはいかない」
リュウは、何も言えなかった。
ただ――
「……了解です」
強く、頷くしかなかった。
⸻
ヤクト・ドーガのコックピット。
久しく離れていた空間。
だが、座った瞬間に分かる。
「……重いな」
機体そのものではない。
この機体が“要求するもの”の重さ。
ヘッドデバイスを装着する。
意識が、機体へと接続される。
「リュウ・バーン少尉、準備はいいか?」
オペレーターの声。
「行けます。いつでも」
短く答える。
「親衛隊、各機――出るぞ!」
号令。
カタパルトが火を吹く。
次々と機体が射出されていく。
「リュウ・バーン、ヤクト・ドーガ――出ます!」
推進。
機体が宇宙へと躍り出た。
⸻
「敵モビルスーツ接近中!
一分後に交戦距離!」
「警戒を怠るな!」
「了解!」
各機の応答が重なる。
視界の先。
敵影――ジェガン。
「……行く」
リュウは静かに呟いた。
ファンネル展開。
思考を乗せる。
“撃つ”のではない。
“当たるイメージ”を描く。
二基のファンネルが滑るように散開する。
背後。
側面。
正面。
多方向からの攻撃。
回避は――間に合わない。
閃光。
ジェガンは爆散した。
ファンネルが帰投する。
ヤクト・ドーガの左肩へと収まる。
リュウは右手を上げ、前方へ振った。
「行きます!」
その合図に呼応するように、部隊が動く。
ドライセン。ガザC。ギラ・ドーガ。
一斉に突撃。
リュウも、次の敵へと向かう。
接近。
回避。
反撃。
ギリギリでかわしながら、確実に仕留めていく。
「まだ……いける!」
だが――
頭の奥に、鈍い痛み。
サイコミュの負荷。
思考が、わずかに遅れる。
「……っ」
(まずい……)
ファンネルはもう使えない。
その瞬間。
ビームが走る。
直撃。
右肩シールドが弾け飛ぶ。
衝撃がコックピットを揺らす。
「リュウ!後退しろ!」
割り込む通信。
ゼクストの声だった。
リュウは迷わない。
スラスターを噴かし、後方へ離脱。
母艦のシルエットが視界に入る。
「……了解!」
帰投。
ハッチが開く。
リュウはコックピットから這い出た。
足元がふらつく。
「……くっ」
想像以上の消耗。
視界が揺れる。
「大丈夫か」
声がかかる。
ゼクストだった。
先ほどより顔色は戻っている。
だが――無理をしているのは明らかだ。
「少し休め」
短く言う。
「よく守ってくれたな」
わずかな間。
そして――
「次は、私の番だ」
そう言い残し、ゼクストはヤクト・ドーガへと歩み寄る。
そして
そのままコックピットへ滑り込んだ。
リュウは、その背中を見ていた。
何も言えない。
ただ――
その姿を、焼き付けるように。