機動戦士ガンダムUC ― ヤクト・ドーガの残影 ― 作:tell M.G.
回収された
ヤクト・ドーガ。
だが、それは“戦力”とは呼べなかった。
右腕は失われ、バックパックも損傷。
稼働に必要な予備パーツは、どこにも存在しない。
「……修復は不可能か」
整備員の言葉は、重かった。
新規にパーツを製造するにも、設備も資源も足りない。
仮に可能だとしても、コストが見合わない。
つまり――
「このままでは、起動すらできません」
沈黙が落ちる。
⸻
他の機体――
ギラ・ドーガは辛うじて実戦投入可能。
だが問題は、別にあった。
「弾薬が……足りない」
ビームライフル用のエネルギーパック、実体弾、予備兵装。
すべてが不足している。
戦えるだけの“牙”がない。
⸻
残党部隊の責任者、
クバル・ジャンブは、深く息を吐いた。
「……どうしたものか」
頭を抱えながら、低く呟く。
「このままでは、戦えん」
その時だった。
「――一つ、提案があります」
静かに前へ出た一人の兵士。
リュウ・バーン。
かつて、ニュータイプ研究所に所属していた男だった。
「研究所と交渉する、というのはどうでしょうか」
クバルの視線が向く。
リュウは続けた。
「現在、研究所はモビルスーツの生産能力こそありませんが――」
一拍置く。
「ニュータイプ専用機には、強い関心を持っているはずです」
「以前は旧式ながらサイコミュ搭載機も保有していました。ですが、今は機体そのものが無い」
その言葉に、空気がわずかに変わる。
「……何が言いたい」
クバルが促す。
リュウは、迷わず言った。
「ヤクト・ドーガを交渉材料に使います」
一瞬の沈黙。
「惜しい機体ではありますが……現状では使えない」
淡々と続ける。
「それを、武装や予備部品と交換するのです」
クバルは黙り込む。
視線は、整備デッキに横たわるヤクト・ドーガへ。
しばしの思考。
やがて――
「……いいだろう」
小さく、頷いた。
「リュウ・バーン。研究所と繋げられるか?」
「はい」
即答だった。
⸻
通信回線が開かれる。
相手は――
ニュータイプ研究所責任者、ダッジ・ドルビー。
「……リュウか」
画面越しに、男が目を細める。
「久しぶりだな。あの後、どうしていた?」
一瞬、言葉が詰まる。
リュウは、静かに答えた。
「……色々と、ありました」
視線を落とし、そして上げる。
「もうモビルスーツには乗らないと思っていました」
「ですが……ネオ・ジオンに志願しました」
言葉に、わずかな熱が宿る。
「認められたかったんです」
「……総帥に」
シャア・アズナブル。
その名を、あえて口にする。
「そして――ディーンのために」
短い沈黙。
「今は、残党の一員です」
「ここが、自分の居場所です」
ダッジは、何も言わずに聞いていた。
否定も、肯定もせず。
ただ一言だけ返す。
「……それで、今日は何の用だ?」
リュウは、まっすぐに言った。
「ニュータイプ専用機に、興味はありませんか?」
わずかに、眉が動く。
「……どういう意味だ?」
「モビルスーツの話です」
リュウはデータを送信する。
映し出される機体――
ヤクト・ドーガ。
「シャア総帥の予備機だった機体です」
「損傷はありますが、改修すれば使用可能です」
間を置かず、続ける。
「研究所としては……欲しいのではありませんか?」
ダッジは、沈黙した。
視線は、画面の機体から離れない。
やがて、低く問う。
「……見返りは?」
「武装と弾薬です」
即答。
迷いは無い。
再び、沈黙。
だが今度は短かった。
「……いいだろう」
ダッジは頷いた。
「その条件で、受けよう」
こうして取引は成立した。
⸻
後日。
ヤクト・ドーガは、ニュータイプ研究所へと移送される。
失われていた右腕。
損傷していたバックパック。
それらは――
ギラ・ドーガのパーツによって補われた。
完全ではない。
だが、戦える形へと再構築される。
そして――
機体は塗り替えられた。
かつての赤ではない。
カーキとグリーン。
戦場に溶け込む、実戦色。
再生された機体が、静かに佇む。
もはやそれは、過去の象徴ではない。
新たな物語の――
始まりだった。