機動戦士ガンダムUC ― ヤクト・ドーガの残影 ―   作:tell M.G.

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第2話 交渉

回収された

ヤクト・ドーガ。

 

だが、それは“戦力”とは呼べなかった。

 

右腕は失われ、バックパックも損傷。

稼働に必要な予備パーツは、どこにも存在しない。

 

「……修復は不可能か」

 

整備員の言葉は、重かった。

 

新規にパーツを製造するにも、設備も資源も足りない。

仮に可能だとしても、コストが見合わない。

 

つまり――

 

「このままでは、起動すらできません」

 

沈黙が落ちる。

 

 

他の機体――

ギラ・ドーガは辛うじて実戦投入可能。

 

だが問題は、別にあった。

 

「弾薬が……足りない」

 

ビームライフル用のエネルギーパック、実体弾、予備兵装。

すべてが不足している。

 

戦えるだけの“牙”がない。

 

 

残党部隊の責任者、

クバル・ジャンブは、深く息を吐いた。

 

「……どうしたものか」

 

頭を抱えながら、低く呟く。

 

「このままでは、戦えん」

 

その時だった。

 

「――一つ、提案があります」

 

静かに前へ出た一人の兵士。

 

リュウ・バーン。

 

かつて、ニュータイプ研究所に所属していた男だった。

 

「研究所と交渉する、というのはどうでしょうか」

 

クバルの視線が向く。

リュウは続けた。

 

「現在、研究所はモビルスーツの生産能力こそありませんが――」

 

一拍置く。

 

「ニュータイプ専用機には、強い関心を持っているはずです」

 

「以前は旧式ながらサイコミュ搭載機も保有していました。ですが、今は機体そのものが無い」

 

その言葉に、空気がわずかに変わる。

 

「……何が言いたい」

 

クバルが促す。

リュウは、迷わず言った。

 

「ヤクト・ドーガを交渉材料に使います」

 

一瞬の沈黙。

 

「惜しい機体ではありますが……現状では使えない」

 

淡々と続ける。

 

「それを、武装や予備部品と交換するのです」

 

クバルは黙り込む。

 

視線は、整備デッキに横たわるヤクト・ドーガへ。

 

しばしの思考。

 

やがて――

 

「……いいだろう」

 

小さく、頷いた。

 

「リュウ・バーン。研究所と繋げられるか?」

 

「はい」

 

即答だった。

 

 

通信回線が開かれる。

相手は――

 

ニュータイプ研究所責任者、ダッジ・ドルビー。

 

「……リュウか」

 

画面越しに、男が目を細める。

 

「久しぶりだな。あの後、どうしていた?」

 

一瞬、言葉が詰まる。

リュウは、静かに答えた。

 

「……色々と、ありました」

 

視線を落とし、そして上げる。

 

「もうモビルスーツには乗らないと思っていました」

 

「ですが……ネオ・ジオンに志願しました」

 

言葉に、わずかな熱が宿る。

 

「認められたかったんです」

 

「……総帥に」

 

シャア・アズナブル。

 

その名を、あえて口にする。

 

「そして――ディーンのために」

 

短い沈黙。

 

「今は、残党の一員です」

 

「ここが、自分の居場所です」

 

ダッジは、何も言わずに聞いていた。

否定も、肯定もせず。

ただ一言だけ返す。

 

「……それで、今日は何の用だ?」

 

リュウは、まっすぐに言った。

 

「ニュータイプ専用機に、興味はありませんか?」

 

わずかに、眉が動く。

 

「……どういう意味だ?」

 

「モビルスーツの話です」

 

リュウはデータを送信する。

映し出される機体――

 

ヤクト・ドーガ。

 

「シャア総帥の予備機だった機体です」

 

「損傷はありますが、改修すれば使用可能です」

 

間を置かず、続ける。

 

「研究所としては……欲しいのではありませんか?」

 

ダッジは、沈黙した。

視線は、画面の機体から離れない。

やがて、低く問う。

 

「……見返りは?」

 

「武装と弾薬です」

 

即答。

 

迷いは無い。

 

再び、沈黙。

 

だが今度は短かった。

 

「……いいだろう」

 

ダッジは頷いた。

 

「その条件で、受けよう」

 

こうして取引は成立した。

 

 

後日。

ヤクト・ドーガは、ニュータイプ研究所へと移送される。

 

失われていた右腕。

損傷していたバックパック。

 

それらは――

 

ギラ・ドーガのパーツによって補われた。

 

完全ではない。

だが、戦える形へと再構築される。

そして――

 

機体は塗り替えられた。

かつての赤ではない。

 

カーキとグリーン。

 

戦場に溶け込む、実戦色。

再生された機体が、静かに佇む。

もはやそれは、過去の象徴ではない。

 

新たな物語の――

 

始まりだった。

 

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