機動戦士ガンダムUC ― ヤクト・ドーガの残影 ― 作:tell M.G.
ニュータイプ研究所。
改修された
ヤクト・ドーガは、すでに試験運用段階に入っていた。
訓練生たちが次々と搭乗する。
シミュレーション。
実機機動試験。
限定的なサイコミュ起動。
だが――
「……ダメだな」
モニターを見つめる教官のブラッド・ザインが、低く呟く。
反応はある。
確かにサイコミュは動いている。
しかし――
「浅い」
機体の持つ本来の性能には、遠く及ばない。
訓練生では当然として、教官クラスであっても同じだった。
誰一人として、この機体の“本質”に届いていない。
「これが、あの機体の限界……とは思えんな」
研究データを見つめながら、責任者が口を開く。
ニュータイプ研究所責任者――
ダッジ・ドルビー。
彼は理解していた。
この機体は、まだ“眠っている”のだと。
「データが足りん」
ぽつりと呟く。
机に並ぶ解析結果は、どれも中途半端だった。
「こんなものでは……意味がない」
求めているのは、断片的な反応ではない。
“本物”だ。
機体の限界を引き出した、実戦データ。
それだけが、この機体の価値を証明する。
⸻
やがて、ダッジは顔を上げた。
決断していた。
「……残党軍に繋げ」
周囲の空気が、わずかに張り詰める。
⸻
通信回線が開かれる。
相手は――ネオ・ジオン残党。
「……何だと?」
通信を受けた
クバル・ジャンブは、思わず声を上げた。
「ヤクト・ドーガを……返却するだと?」
信じがたい話だった。
あれほどの機体を、手放すなど。
だが、画面の向こうで
ダッジは静かに続ける。
「ただし、無償ではない」
その目は、冷静だった。
「条件がある」
一言。
「データだ」
「ヤクト・ドーガの性能を引き出せる者による――実戦データ」
言葉に、重みがあった。
「それが交換条件だ」
クバルは黙る。
一瞬の思考。
だが答えは、すぐに出た。
「……いいだろう」
ゆっくりと頷く。
「その条件、受ける」
交渉は成立した。
⸻
数日後。
暗礁宙域の拠点へ、一隻の輸送艇が到着する。
格納庫が開かれる。
そこに現れたのは――
ヤクト・ドーガ。
かつて放棄され、そして取引に使われた機体。
今は、修復され――
“戦える姿”で戻ってきた。
右腕は再構築され、
バックパックも補修されている。
完全ではない。
だが、それでも十分だった。
実戦投入が可能なレベル。
⸻
クバルは、その機体を見上げる。
「……戻ってきたか」
小さく呟く。
その目には、期待と――
わずかな不安が混じっていた。
条件は明確だ。
この機体の“本当の力”を引き出すこと。
そして、そのデータを差し出すこと。
だが――
問題は一つ。
「……誰が乗る?」
誰もが理解していた。
この機体は、選ばれる。
ヤクト・ドーガ。
それは、ただの兵器ではない。
“適合者”を求める機体だった。