機動戦士ガンダムUC ― ヤクト・ドーガの残影 ―   作:tell M.G.

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第7話 格差

リュウ・バーンは、ギラ・ドーガのコックピットで深く息を吐いた。

 

視界に広がるのは、見慣れた計器類。

ヤクト・ドーガとは違う、簡素で無駄のない構成。

 

「……やっぱり、こっちの方が落ち着くな」

 

小さく呟く。

 

かつて搭乗していた機体。

個体差こそあれ、その挙動は体に染み付いている。

 

スロットルを開く。

機体は素直に応答した。

 

余計な“圧”がない。

 

ヤクト・ドーガに乗っていた時に感じていた、あの得体の知れない干渉。

思考を覗かれるような、押し返されるような感覚は――ここにはない。

 

純粋に「操縦」に集中できる。

 

「……動ける」

 

機体を旋回させながら、リュウは確信する。

今の自分なら、この機体で戦える。

 

テスト飛行を終え、帰投。

 

ハッチが開いた瞬間、現実に引き戻される。

 

「リュウ・バーン」

 

低い声。

 

振り向くと、クバル・ジャンブが立っていた。

 

「来い」

 

短く、それだけ告げる。

 

⸻

 

格納庫の一角。人気のない場所。

 

クバルは振り返らずに言った。

 

「どうだ。ギラ・ドーガは」

 

リュウは一瞬だけ考え、口を開く。

 

「慣れ親しんだ機体です。久しぶりではありますが……ヤクト・ドーガと違い、操作に集中できます。

 その分、より動けるかと」

 

わずかな沈黙。

クバルは静かに呟いた。

 

「……そうか」

 

その声音に感情はない。

だが次の言葉は、はっきりと重かった。

 

「貴様を呼び出したのは、それを聞くためではない」

 

リュウの背筋がわずかに張る。

クバルはゆっくりと振り返った。

 

「今後、貴様は“袖付き”親衛隊と行動を共にする」

 

「……っ」

 

予想外の言葉に、息が詰まる。

 

「すでに最終局面は近い。

 もはや試験でも訓練でもない」

 

一歩、クバルが踏み出す。

 

「これは命令だ」

 

逃げ場はない。

リュウは歯を食いしばり――

 

「……了解しました」

 

絞り出すように答えた。

その目は、まだ揺れている。

 

ヤクト・ドーガを奪われた現実。

そして、その機体に乗る男――ゼクスト・アーデ。

 

自分は“選ばれなかった”。

だが――

 

(それでも……)

 

リュウは拳を握る。

 

(終わってない)

 

 

数日後――

 

宙域に展開した部隊は、簡易編隊を維持したまま静止していた。

 

リュウ・バーンはギラ・ドーガのコックピットで周囲を見渡す。

 

「……これが、親衛隊か」

 

通信回線の向こう。

整然と並ぶ機体群は無駄がない。

間隔、姿勢、すべてが揃っている。

 

それに対し、自分たちの隊列は――わずかに“ズレている”。

 

「訓練を開始する」

 

無機質な指示が飛ぶ。

 

次の瞬間、隊列が動いた。

前衛が展開し、後衛がカバーに回る。

一切の無駄がない。

 

「速い……!」

 

リュウはスロットルを開き、追従する。

だが――

 

「左、遅れてるぞ!」

 

味方機の声。

 

「くっ……!」

 

合わせようとするほど、ズレる。

 

親衛隊の動きは“前提”が違う。

個の反応ではなく、全体で噛み合う動き。

 

その中に、無理やり入ろうとしている感覚。

 

「……邪魔だな」

 

低い声が通信に混じる。

ゼクスト・アーデ。

 

そのヤクト・ドーガは、群れの中で一切の迷いなく機動していた。

 

リュウの動きを避けるでもなく、ただ“無視して”最適解を選び続ける。

 

「っ……!」

 

食らいつこうとするが、距離は縮まらない。

 

「後方に下がれ」

 

別の声が飛ぶ。

 

「そのままでは編隊を乱す」

 

命令は淡々としていた。

だが、拒否する余地はない。

 

「……了解」

 

リュウは歯を食いしばり、スロットルを絞る。

機体が後方へと下がる。

 

視界の中で、親衛隊の動きはさらに洗練されていく。

 

自分だけが、そこから切り離されていく感覚。

訓練はそのまま続行された。

だが――

 

リュウがその輪の中に戻ることは、最後までなかった。

 

⸻

 

訓練終了後。

帰投の途上。

 

コックピットの中で、リュウはヘルメットに手を当てる。

 

「……くそ」

 

分かっていたはずだった。

実力差。経験差。

それでも――

 

(あいつらは、別だ)

 

ゼクストの機動が脳裏に焼き付いて離れない。

 

技量だけじゃない。

 

“あの動き”は――

 

「……まだ、足りないってか」

 

小さく呟く。

その声は、悔しさよりもどこか冷静だった。

 

ギラ・ドーガのスロットルに手をかける。

 

(だったら――)

 

「合わせるしかないだろ」

 

誰に聞かせるでもなく、言い切る。

 

機体が静かに推力を上げる。

 

その瞳には、先ほどまでとは違う光が宿っていた。

 

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