機動戦士ガンダムUC ― ヤクト・ドーガの残影 ―   作:tell M.G.

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第9話 選択

戦闘は、唐突に終わりを迎えた。

 

残存した敵機――ジェガン二機は、互いをカバーし合うように後退を開始する。

 

「撤退か……」

 

誰かが呟く。

 

深追いはしない。

親衛隊は陣形を維持したまま、静かに距離を取った。

 

戦場に、わずかな静寂が戻る。

 

 

ゼクスト・アーデは、ヤクト・ドーガのコックピットで目を細めていた。

 

(あの動き……)

 

リュウ・バーン。

 

後方に回されていたはずの男。

それが、敵の侵入軌道を読み、先回りした。

 

偶然――ではない。

 

「……」

 

思考が巡る。

かつて、この男はヤクト・ドーガに搭乗していた。

 

(ニュータイプ……?)

 

その可能性が一瞬よぎる。

だが、すぐに打ち消す。

 

(違うな)

 

もしそうであれば、あの機体を降りる理由にはならない。

だが――

 

(あれは、何だ)

 

理屈では説明しきれない違和感が残る。

 

 

通信回線を開く。

 

「リュウ・バーン」

 

「……はい」

 

少しの間を置いて、応答が返る。

 

「よくやってくれた。君が後方にいてくれて助かった」

 

形式的な言葉。

だが、その奥にわずかな本音が混じる。

 

「しかし――よく敵機の動きが分かったな」

 

問い。

試すような響き。

 

リュウは一瞬考え、答える。

 

「……ただ、そこに来ると」

 

言葉を探すように、わずかに間を置く。

 

「上手く説明はできませんが……直感、としか」

 

正直な返答だった。

 

「ですが――」

 

少しだけ声が低くなる。

 

「自分だけでは仕留めきれませんでした。

 援護、ありがとうございます」

 

「……そうか」

 

短く、それだけ。

通信を切る。

 

コックピットの中で、ゼクストは静かに息を吐いた。

 

前衛で抑えきれなかった事実。

その隙を突かれた現実。

 

(……甘いな)

 

自分自身への苛立ち。

 

「次は――」

 

小さく呟く。

 

「私だけで終わらせる」

 

 

その後の戦闘でも、ゼクストは前線に立ち続けた。

 

誰よりも速く、誰よりも正確に。

失態を塗り潰すかのように、敵を撃ち落とし続ける。

 

だが――

 

その代償は、確実に蓄積していった。

 

 

数日後。

格納庫。

ゼクストは機体の前で立ち止まる。

視界が揺れる。

 

「……っ」

 

強い眩暈。

吐き気が込み上げる。

思わず膝をつきかける。

 

(まだだ……)

 

歯を食いしばる。

ここで止まるわけにはいかない。

誰もが感じている。

次が――最後になると。

 

 

「メガラニカ宙域にて敵主力確認!

 各機、出撃準備!」

 

格納庫に緊張が走る。

ざわめき。

そして――覚悟。

 

ゼクストはふらつきながら歩き出す。

周囲の隊員が声をかける。

 

「無理です!今回は――」

 

「下がってください!」

 

だが――

 

「黙れ」

 

一言で制する。

その足取りは重い。

それでも、止まらない。

 

ヤクト・ドーガの足元。

あと数歩。

その瞬間。

視界が暗転する。

 

「……っ!」

 

身体が崩れかける。

倒れる――

 

その体を、誰かが支えた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

リュウ・バーンだった。

ゼクストの肩を掴み、支える。

 

「顔色が……何かあったんですか」

 

ゼクストは、荒い呼吸のまま目を開く。

焦点が定まらない。

だが――その瞳はまだ死んでいない。

 

「……これが、最終決戦だ」

 

掠れた声。

 

「後で……私も出る」

 

わずかに、息を整える。

そして――

 

「今だけは」

 

リュウを見据える。

 

「君が、ヤクト・ドーガで出ろ」

 

リュウの表情が強張る。

 

「……っ」

 

「いいな」

 

命令。

それ以上でも、それ以下でもない。

 

だが――

 

そこには、明確な“選択”があった。

 

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