機動戦士ガンダムUC ― ヤクト・ドーガの残影 ―   作:tell M.G.

9 / 12
第9話 選択

戦闘は、唐突に終わりを迎えた。

 

残存した敵機――ジェガン二機は、互いをカバーし合うように後退を開始する。

 

「撤退か……」

 

誰かが呟く。

 

深追いはしない。

親衛隊は陣形を維持したまま、静かに距離を取った。

 

戦場に、わずかな静寂が戻る。

 

⸻

 

ゼクスト・アーデは、ヤクト・ドーガのコックピットで目を細めていた。

 

(あの動き……)

 

リュウ・バーン。

 

後方に回されていたはずの男。

それが、敵の侵入軌道を読み、先回りした。

 

偶然――ではない。

 

「……」

 

思考が巡る。

かつて、この男はヤクト・ドーガに搭乗していた。

 

(ニュータイプ……?)

 

その可能性が一瞬よぎる。

だが、すぐに打ち消す。

 

(違うな)

 

もしそうであれば、あの機体を降りる理由にはならない。

だが――

 

(あれは、何だ)

 

理屈では説明しきれない違和感が残る。

 

⸻

 

通信回線を開く。

 

「リュウ・バーン」

 

「……はい」

 

少しの間を置いて、応答が返る。

 

「よくやってくれた。君が後方にいてくれて助かった」

 

形式的な言葉。

だが、その奥にわずかな本音が混じる。

 

「しかし――よく敵機の動きが分かったな」

 

問い。

試すような響き。

 

リュウは一瞬考え、答える。

 

「……ただ、そこに来ると」

 

言葉を探すように、わずかに間を置く。

 

「上手く説明はできませんが……直感、としか」

 

正直な返答だった。

 

「ですが――」

 

少しだけ声が低くなる。

 

「自分だけでは仕留めきれませんでした。

 援護、ありがとうございます」

 

「……そうか」

 

短く、それだけ。

通信を切る。

 

コックピットの中で、ゼクストは静かに息を吐いた。

 

前衛で抑えきれなかった事実。

その隙を突かれた現実。

 

(……甘いな)

 

自分自身への苛立ち。

 

「次は――」

 

小さく呟く。

 

「私だけで終わらせる」

 

⸻

 

その後の戦闘でも、ゼクストは前線に立ち続けた。

 

誰よりも速く、誰よりも正確に。

失態を塗り潰すかのように、敵を撃ち落とし続ける。

 

だが――

 

その代償は、確実に蓄積していった。

 

⸻

 

数日後。

格納庫。

ゼクストは機体の前で立ち止まる。

視界が揺れる。

 

「……っ」

 

強い眩暈。

吐き気が込み上げる。

思わず膝をつきかける。

 

(まだだ……)

 

歯を食いしばる。

ここで止まるわけにはいかない。

誰もが感じている。

次が――最後になると。

 

⸻

 

「メガラニカ宙域にて敵主力確認!

 各機、出撃準備!」

 

格納庫に緊張が走る。

ざわめき。

そして――覚悟。

 

ゼクストはふらつきながら歩き出す。

周囲の隊員が声をかける。

 

「無理です!今回は――」

 

「下がってください!」

 

だが――

 

「黙れ」

 

一言で制する。

その足取りは重い。

それでも、止まらない。

 

ヤクト・ドーガの足元。

あと数歩。

その瞬間。

視界が暗転する。

 

「……っ!」

 

身体が崩れかける。

倒れる――

 

その体を、誰かが支えた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

リュウ・バーンだった。

ゼクストの肩を掴み、支える。

 

「顔色が……何かあったんですか」

 

ゼクストは、荒い呼吸のまま目を開く。

焦点が定まらない。

だが――その瞳はまだ死んでいない。

 

「……これが、最終決戦だ」

 

掠れた声。

 

「後で……私も出る」

 

わずかに、息を整える。

そして――

 

「今だけは」

 

リュウを見据える。

 

「君が、ヤクト・ドーガで出ろ」

 

リュウの表情が強張る。

 

「……っ」

 

「いいな」

 

命令。

それ以上でも、それ以下でもない。

 

だが――

 

そこには、明確な“選択”があった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。