機動戦士ガンダムUC ― ヤクト・ドーガの残影 ― 作:tell M.G.
戦闘は、唐突に終わりを迎えた。
残存した敵機――ジェガン二機は、互いをカバーし合うように後退を開始する。
「撤退か……」
誰かが呟く。
深追いはしない。
親衛隊は陣形を維持したまま、静かに距離を取った。
戦場に、わずかな静寂が戻る。
⸻
ゼクスト・アーデは、ヤクト・ドーガのコックピットで目を細めていた。
(あの動き……)
リュウ・バーン。
後方に回されていたはずの男。
それが、敵の侵入軌道を読み、先回りした。
偶然――ではない。
「……」
思考が巡る。
かつて、この男はヤクト・ドーガに搭乗していた。
(ニュータイプ……?)
その可能性が一瞬よぎる。
だが、すぐに打ち消す。
(違うな)
もしそうであれば、あの機体を降りる理由にはならない。
だが――
(あれは、何だ)
理屈では説明しきれない違和感が残る。
⸻
通信回線を開く。
「リュウ・バーン」
「……はい」
少しの間を置いて、応答が返る。
「よくやってくれた。君が後方にいてくれて助かった」
形式的な言葉。
だが、その奥にわずかな本音が混じる。
「しかし――よく敵機の動きが分かったな」
問い。
試すような響き。
リュウは一瞬考え、答える。
「……ただ、そこに来ると」
言葉を探すように、わずかに間を置く。
「上手く説明はできませんが……直感、としか」
正直な返答だった。
「ですが――」
少しだけ声が低くなる。
「自分だけでは仕留めきれませんでした。
援護、ありがとうございます」
「……そうか」
短く、それだけ。
通信を切る。
コックピットの中で、ゼクストは静かに息を吐いた。
前衛で抑えきれなかった事実。
その隙を突かれた現実。
(……甘いな)
自分自身への苛立ち。
「次は――」
小さく呟く。
「私だけで終わらせる」
⸻
その後の戦闘でも、ゼクストは前線に立ち続けた。
誰よりも速く、誰よりも正確に。
失態を塗り潰すかのように、敵を撃ち落とし続ける。
だが――
その代償は、確実に蓄積していった。
⸻
数日後。
格納庫。
ゼクストは機体の前で立ち止まる。
視界が揺れる。
「……っ」
強い眩暈。
吐き気が込み上げる。
思わず膝をつきかける。
(まだだ……)
歯を食いしばる。
ここで止まるわけにはいかない。
誰もが感じている。
次が――最後になると。
⸻
「メガラニカ宙域にて敵主力確認!
各機、出撃準備!」
格納庫に緊張が走る。
ざわめき。
そして――覚悟。
ゼクストはふらつきながら歩き出す。
周囲の隊員が声をかける。
「無理です!今回は――」
「下がってください!」
だが――
「黙れ」
一言で制する。
その足取りは重い。
それでも、止まらない。
ヤクト・ドーガの足元。
あと数歩。
その瞬間。
視界が暗転する。
「……っ!」
身体が崩れかける。
倒れる――
その体を、誰かが支えた。
「大丈夫ですか!?」
リュウ・バーンだった。
ゼクストの肩を掴み、支える。
「顔色が……何かあったんですか」
ゼクストは、荒い呼吸のまま目を開く。
焦点が定まらない。
だが――その瞳はまだ死んでいない。
「……これが、最終決戦だ」
掠れた声。
「後で……私も出る」
わずかに、息を整える。
そして――
「今だけは」
リュウを見据える。
「君が、ヤクト・ドーガで出ろ」
リュウの表情が強張る。
「……っ」
「いいな」
命令。
それ以上でも、それ以下でもない。
だが――
そこには、明確な“選択”があった。