機動戦士ガンダム 試験運用Zタイプザクー 選ばれなかった者たち ー」   作:tell M.G.

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第3話 崩壊

「でも……!」

 

ディーン・グレイが、食い下がる。

 

「オレ……いや、私は――教官にも勝ちました!」

 

言葉を選び直しながらも、声は震えていた。

 

「シミュレーションだって、私の方が戦績は上です!」

 

一歩、踏み出す。

 

「先を読む力だって、回避能力だって……負けてません!」

 

静まり返った室内に、その声だけが響く。

だが――

 

「そういうことではない」

 

淡々とした声。

 

シャア・アズナブルは、わずかに首を振った。

 

「私の言っていることが……わからないようだな」

 

それ以上の説明は、ない。

理解する価値すらないと言わんばかりに。

 

シャアはそのまま背を向けた。

 

そして、ギュネイ・ガスとライン・ジェノーヴァの前で足を止める。

 

「明日からは頼むぞ」

 

短く言い、二人の肩を軽く叩く。

それだけだった。

それだけで――

 

すべてが決まった。

 

シャアはそのまま歩き去る。

振り返ることもなく。

残された空間に、重い沈黙が落ちた。

 

⸻

 

ディーンは、動けなかった。

何も言えない。

何も、出てこない。

ただ立ち尽くす。

やがて――

 

膝が、崩れた。

 

力が抜けるように、その場にひざまずく。

視界が、歪む。

 

(なんでだ……)

 

心の奥底から、何かが込み上げてくる。

 

嫉妬。

妬み。

悔しさ。

苛立ち。

 

そして――

言葉にできない、圧倒的な“否定”。

胸の奥を、掻きむしるような感情。

 

息が、うまくできない。

誰も、声をかけられなかった。

かけてはいけないと、本能で理解していた。

 

ただ、沈黙だけが広がる。

凍りついたような時間。

 

その次の瞬間――

 

「――あああああああああ!!」

 

絶叫。

 

ディーンは叫びながら立ち上がる。

何かを振り払うように、乱暴にドアへ向かう。

 

そして

部屋を飛び出していった。

 

残された者たちは、ただ見ていることしかできなかった。

 

誰一人として、動けなかった。

 

 

あの日から、ディーン・グレイは姿を見せなくなった。

 

訓練場にも来ない。食堂にも現れない。

 

まるで――最初から存在しなかったかのように。

 

「……まだ、部屋にいるのかな」

 

リュウ・バーンは、廊下の奥を見つめながら呟いた。

 

隣を歩くケイトが、少しだけ眉をひそめる。

 

「教官も何も言わないし……いいのかな、あのままで」

 

返事は、すぐには出なかった。

 

「……よくないよ」

 

小さく、でもはっきりとリュウは言う。

 

「ディーンはああ見えて、ずっと張り詰めてたから」

 

ケイトが驚いたように振り向く。

 

「え、そうなの?」

 

リュウは少し苦笑する。

 

「うん。強いし、自信もあるけど……」

 

言葉を探すように、視線を落とした。

 

「負けることとか、認められないタイプだからさ」

 

それは、あの時の光景が頭から離れないからだった。

 

シャア・アズナブルに否定された、あの瞬間。

 

何も言い返せなくなったディーンの顔。

膝をついた姿。

そして――

 

あの叫び。

 

⸻

 

「……行ってみる」

 

リュウは、顔を上げた。

 

「ディーンのところ」

 

「えっ、今から?」

 

ケイトが少し不安そうに言う。

 

「放っておく方が、よくない気がするんだ」

 

リュウはそう言って、歩き出した。

迷いはなかった。

 

⸻

 

廊下の奥。

訓練生用の居住区。

ディーンの部屋の前に立つ。

扉は、閉ざされたまま。

 

リュウは、軽くノックした。

コン、コン。

 

返事はない。

 

「ディーン、俺だ。リュウ」

 

沈黙。

 

「……入るぞ」

 

ゆっくりとドアに手をかける。

鍵は、かかっていなかった。

 

部屋の中は、暗かった。

カーテンは閉められ、光はほとんど入っていない。

 

機材のモニターだけが、淡く光っている。

その前に――

 

ディーンがいた。

 

椅子に座り、微動だにせず、画面を見つめている。

表示されているのは、戦闘シミュレーションのログ。

 

何度も、何度も、同じ場面を再生していた。

 

「……ディーン」

 

リュウが声をかける。

反応は、ない。

 

ただ、再生。

巻き戻し。

再生。

 

それを繰り返している。

 

「なあ……そんなに見続けても――」

 

「違う」

 

低い声。

初めて、ディーンが口を開いた。

 

「違うんだよ……」

 

ゆっくりと、リュウの方を見ずに言う。

 

「俺は、間違ってない」

 

その声には、妙な落ち着きがあった。

 

「全部、計算通りだ」

 

モニターを指差す。

 

「ここも、ここも……最適解だ」

 

「なら、なんで――」

 

リュウが言いかけた瞬間。

 

「アイツは、“違う”って言った」

 

空気が、変わる。

 

「何が違う?」

 

「何が足りない?」

 

「説明できるのか?」

 

淡々とした口調。

 

でも、その奥にあるものは――

 

明らかに、普通じゃなかった。

 

「……証明してやる」

 

小さく、しかしはっきりと。

ディーンが呟く。

 

「全部、間違ってるのは――あっちだってな」

 

リュウは、何も言えなかった。

ただ一つだけ、確信する。

 

(このままじゃ、まずい)

 

胸の奥に、重い不安が沈んでいく。

 

 

 

 

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