機動戦士ガンダム 試験運用Zタイプザクー 選ばれなかった者たち ー」 作:tell M.G.
暗い部屋。
モニターの光だけが、ディーン・グレイの横顔を照らしていた。
再生。巻き戻し。再生。
同じ戦闘ログが、何度も繰り返される。
「……違う」
小さく呟く。
「ここは最適だ。回避も、判断も……全部、間違ってない」
映像の中の自分は、完璧に動いている。
無駄のない機動。正確な判断。
勝っていたはずの戦い。
「なのに……」
拳を握る。
「“違う”だと……?」
脳裏に焼き付いている。
シャア・アズナブルの言葉。
――そういうことではない。
「説明しろよ……」
低く、押し殺した声。
「何が足りない……何が違う……!」
返答は、ない。
あるはずもない。
ディーンは、ゆっくりと立ち上がる。
モニターを睨みつける。
「……なら」
静かに、息を吐く。
思考が、ひとつの結論に収束していく。
「覆せばいい」
モニターの映像を止める。
「“先を読む力”だと?」
吐き捨てるように言う。
「そんなものが必要な時点で、二流なんだよ」
その目が、わずかに光る。
「圧倒的な力があれば――」
一歩、踏み出す。
「未来ごと、ねじ伏せられる」
⸻
研究所内・格納ブロック。
深夜。
警備は最小限。
重いシャッターの奥、静かに佇む巨大な影。
未完成のまま封印されている試作機。
ジオンの象徴とも言える異形。
ジオング。
そのコクピットハッチの前に、ディーンは立っていた。
「……お前なら、できる」
まるで語りかけるように。
手を伸ばす。
一瞬の躊躇。
だが――それもすぐに消えた。
「証明してやる」
ハッチに手をかける。
「俺が正しいってことをな」
ロックは――甘い。
研究用。実戦配備ではない。
解除。
ゆっくりと、ハッチが開く。
内部に滑り込む。
シートに体を沈めた瞬間――
微かな振動。
計器が、ひとつ、またひとつと点灯していく。
「反応……してる?」
ディーンの目が見開かれる。
通常なら起動しないはずの状態。
だが――
機体が“応えている”。
脳に直接触れるような感覚。
思考が、そのまま機体に流れ込んでいく。
「そうか……」
息を飲む。
「これが……ニュータイプ用……」
笑みが、浮かぶ。
歪んだ、確信の笑み。
「いいじゃないか……!」
出力が上がる。
警告灯が点滅する。
研究所内に、サイレンが鳴り響いた。
だが、もう止まらない。
「見せてやる……!」
メインスラスター点火。
轟音。
格納ブロックの床が震える。
「“先を読む必要なんてない戦い方”をな!!」
次の瞬間――
ジオングが、研究所を“内側から”起動させた。
警報が、研究所内に鳴り響く。
赤いランプが明滅し、空気が一変していた。
「未確認機、暴走!格納ブロックより離脱――識別、ジオング!」
管制の声が響く。
「迎撃部隊、出撃!」
三機のザクが、緊急発進する。
夜の空へと飛び出し、異形の機体を視認する。
ジオング。
その巨体が、静かに宙に浮かんでいた。
「ディーンか……!」
一機のパイロットが呟く。
「応答しろ!これは訓練じゃない、直ちに帰投しろ!」
通信を開く。
だが――
返答はない。
次の瞬間。
閃光。
「――ッ!?」
一機のザクが、爆散した。
一撃だった。
まるで、躊躇すらない。
「な……っ、一機やられた!?」
「実戦だ!繰り返す、実戦だ!!」
空気が一変する。
⸻
その頃――
「オレが行きます!」
リュウ・バーンが叫んだ。
格納庫内。
既に残りのザク部隊に出撃命令が下っている。
「ディーンは、オレが止めます!」
「怖いけど、友達だから」
ケイトも前に出る。
「なら私も行く!あのままじゃ絶対止まらない!」
一瞬の沈黙。
「……許可する。出ろ!」
Zタイプザク、出撃。
二機が飛び出す。
戦場は、すでに地獄だった。
追加出撃したザク部隊が、ジオングを包囲する。
だが――
「くそっ、動きが読めない!?」
「なんだこの軌道は――」
オールレンジ攻撃。
四方からのビームが、空間を切り裂く。
一機、また一機と撃墜されていく。
「そんな……!」
ケイトが息を呑む。
「ディーン!!」
リュウが叫ぶ。
「やめろ!お前の実力はみんな知ってるだろ!」
回避しながら、必死に食らいつく。
「今はお前がエースだ!今回はたまたまダメだっただけだろ!」
通信を開いたまま、叫ぶ。
「こんなバカげたこと、すぐやめるんだ!!」
一瞬の静寂。
そして――
「……はは」
笑い声。
「お前らも……そうやって思ってるんだろ?」
ディーンの声。
歪んでいた。
「陰でバカにしてるんだろ?」
ビームが走る。
ザク一機、撃墜。
「今、証明してやるさ」
さらに一機、爆散。
「見ろよ、このザマを」
戦場が、支配されていく。
「護衛の正規兵も、教官も――」
重く、低く。
「ジオングと“オレ”の前では、無力だ」
圧倒的な火力。
回避不能の軌道。
誰も近づけない。
「この力があれば……」
一瞬の間。
「アイツの言ってたことが、間違いだってわかるだろ!!」
その時――
「下がれ!全機退避だ!!」
低く、鋭い声。
高速で突入してくる機影。
両脚をバーニア化した、高機動仕様のZタイプザク。
搭乗者は――教官ブラッド。
「ディーン!!」
その機体が、ジオングへと突っ込む。
同時にビームが乱舞する。
ジオングの攻撃と交錯する。
空間が、歪むような撃ち合い。
予測不能。
ニュータイプ同士の戦い。
一瞬だけ
戦況が拮抗する。
「すごい……」
ケイトが呟く。
「押してる……!」
だが――
「くっ……!」
ブラッドの機体が軋む。
「機体が……ついてこない!」
急激なエネルギー消耗。
ビームの連射が落ちる。
動きが鈍る。
試作機の限界。
「ディーン、やめろ!!」
ブラッドが叫ぶ。
「お前は優秀だ!オレは認めている!」
必死の声。
「だから戻ってこい!今ならまだ――!」
「じゃあ――!!」
怒声。
「なんでオレじゃなかったんだ!!」
ジオングの出力が跳ね上がる。
「アイツは言っただろ!!」
ビームが荒れ狂う。
「オレじゃダメだってなぁ!!」
感情と同期するように、攻撃が激化する。
次の瞬間。
閃光。
高機動タイプの脚部が貫かれる。
続けざまに――頭部。
「――っ!!」
機体が、沈黙する。
「教官ーーー!!」
リュウとケイトが叫ぶ。
二機のZタイプザクが、間に割って入る。
崩れ落ちる機体を庇うように。
戦場の中心。
そこにいるのは――
完全に“敵”となったディーンとジオング。