(宇品女子高等学校のキャラなどや学校設定、保有する戦車に関する紹介は次回行います)
トーナメント抽選会から数日後
四国と中国地方に挟まれる形で存在する瀬戸内海に面し広島県の県庁所在地である広島市、中四国地方最大の人口(約120万人)を有する政令指定都市でもあり、太田川の三角州に発展し「水の都」とも呼ばれる。
一方世界遺産の原爆ドームをはじめとする平和の象徴としても世界的に知られているとか…
そんな広島の玄関口であり、中四国地方を代表する国際拠点港湾の広島港には、他の船とは比べ物にならないぐらい巨大な1隻の大型学園艦が停泊していた。
広島市立宇品女子高等学校、広島港を拠点として活動するこの学園艦はかつて太平洋戦争にて日本帝国海軍が運用した航空母艦『雲龍(うんりゅう)』型をベースとし、規模としては大洗より少し小型。
元々は明治の「船舶通信・ロジスティクス養成所」を育成する学校として誕生、今は「軍都・広島」の輸送拠点としての歴史を継承し、「物流・輸送・工学」を学ぶ高校として知られている。
ただ固い校風かと言われるかというとそんなことは一切なく、広島市の中心部に近いこともあってお洒落で都会的な生徒が多いらしい。
そんな軽い街とも言える空母で言うならば飛行甲板に当たる学園艦の場所、住宅街などが立ち並ぶエリアから外れる形で宇品女子高等学校の校舎が存在していた。
学校自体歴史がかなり古いものの、最近校舎の建て替えを行ったこともあってか建物の外観は輝きを見せており、むしろ時代を感じさせない雰囲気を醸し出している。
その校舎から少し離れた敷地内、背後に広大な森に囲まれたフィールド面する形で赤レンガの倉庫らしき建物が…。
宇品女子の戦車道チームが活動する拠点でもあり、倉庫内に停められた個性豊かな戦車たちを背に今も会議室らしいエリアで話し合いが進められていた。
集められた各車長を見渡しながら、集められるだけ集められた初戦相手校のデータをコピーして束ねた書類を横目に雨宮は説明を始めていく。
「…それでは、今から作戦会議を始めます」
今回宇品女子の初戦相手はマジノ女学院、フランス系の学校ということもあって保有戦車は当然ながらフランス戦車が大部分を占めている。
快速であり騎兵戦車とも呼ばれるソミュアS35を始めとし、足こそは遅いが小さい割に装甲がしっかりしているルノーR35戦車を主力としつつ、フラッグ車であり動く要塞と呼ばれるルノーB1bis重戦車を1両ながら保有している。
戦術としては基本的にかつてフランスがドイツ国境に建造した大要塞、マジノ線のマジノを学校名に使っていることもあって、重戦車を要塞に見立てた防衛戦を得意としており、待ち伏せなどが強いことで有名だ。
「今回の初戦相手はマジノ女学院、フランス系の学校であの大要塞、マジノ線の名前を使っていることもあって重戦車を要塞に見立てた待ち伏せを得意としています」
ちなみに対する宇品女子戦車道チームの構成は、IV号戦車H型を始めとしTigris(ティグリス)重戦車やIS-2(1944)重戦車、T26E1スーパーパーシングやM18駆逐戦車ヘルキャット、T-34Eとクングスティーゲル、九七式中戦車旧砲塔チハの計8両。
比較的重装甲の戦車が多いマジノ女学院だが、他の重戦車と比べると装甲や火力に見劣りする部分は否めず、実際装甲や火力が優れるIS−2とティグリス・クングスティーゲル、スパパを主力とし、IV号やT-34E、ヘルキャットといったそれなりの火力を持つ宇品女子相手には何もかも足りないのは事実。
実際防衛戦に固執するマジノ女学院は強豪校に真正面から防衛戦をぶち抜かれるか囲まれて包囲殲滅されるのが最近のパターンであり、保有戦車の長所を上手く活用出来ない状況が続いているのだ。
強豪校にあたるたびに初戦敗退を繰り返しているとはいえど、真正面からでも撃ち勝てる相手となれば負ける理由は見当たらず、ざっと資料に目を通したクングスティーゲルの車長兼装填手の2年生、早森 寧々(はやもり ねね)は今回はいけるのでは…とそんなことを呟く。
「数は不利ですが…火力と防御面ならスーパーパーシングとIS−2、ティグリスやKungstigerがいます。それにIV号やヘルキャットなどのそれなりの火力を持った戦車も…、これなら初戦突破がいけるのでは…!?」
まあそうなるのも無理はない、なにせ宇品女子戦車道チームは創設以降初戦で優勝候補の強豪校に毎回ぶち当たっては負けるの繰り返し。
それも相まって相手校からは初戦敗退常連校と揶揄される始末であり、なかなか成績を残せないどころか初戦すら突破出来ない状況が続いているのだ。
決して弱くないわけでなはくレベルとしてはかなり高い方なのだが、作戦が上手く型にハマらなかったりその前に押し切られるパターンが多いため、実力を行かせないといったほうがいいだろう。
今までのように押し切られるパターンはなく、実力を最大限発揮出来る最大のチャンスとも言える。
…がその楽観主義が返って勝てる相手にも勝てなってしまうことも充分にあり得る話であり、そんな寧々に対してIS−2の砲手兼車長で2年生のレナ・ペンローズが手厳しい突っ込みを入れていく。
「甘いわよ寧々さん、そんな楽観主義じゃ勝てる相手にも勝てなくなってしまうわ」
「う………確かに…」
ここ宇品女子に来る前にロシアの強豪戦車道と呼ばれる学校に所属し、このチームではトップクラスの練度を持つ彼女だからこそ言葉の重みは違うと言ってもいい。
とはいえ実際その通りであり、現にマジノ女学院は最近隊長が変わったことで戦術の大きな変更をしたという情報があるようで、そう告げた生徒会長に対し、ティグリス重戦車の車長兼装填手の2年生日田杏は大会直前の変更に驚きの声をあげる。
「レナさんの言う通りよ、実際マジノ女学院はここ最近隊長が変わったことで戦術の大きな変更をしてるって話だから」
「隊長が…ですか?大会直前でそれは珍しいですね…」
基本的に隊長が変わる時は卒業や3年生の後期ぐらいで引退したことによって次の世代に引き継がれるときがほとんどな戦車道で、試合直前に変わるということはかなり珍しい。
いや珍しいというかそうでないと戦術などの大きな変更をする際にギリギリで変わると、チーム内で混乱してしまう可能性があるからだ。
なのでマジノ女学院のようなパターンはかなり異例とも言えることであり、生徒会長も全て把握している訳では無いが噂では戦術を巡って起きた対立によって変わったのではないか…と噂されているとか。
「えぇ、基本的に隊長が変わるっていうのは次の世代に引き継がれる際が多い。…だからマジノ女学院みたいなパターンは異例みたいなもんね、…正確にはわかんないけど噂じゃ戦術を巡って起きた対立で変わったとか…」
実際戦車道を復活し今年から参加する大洗女子学園と練習試合を行った際には、今までの防御陣地を生かした防衛戦から、ギリギリまで誘引してから機動力を生かした逆包囲を敢行。
急造だったこともあったことや大洗女子の戦車道チームを率いたのが西住流だったこともあって、最終的には負けてしまったものの、試合としてはかなりいい線をいったらしい。
すると西住流という名前を聞いたT26E1の車長である3年生綾坂梨里(あやさか りり)が、あれっという声とともに不思議そうな表情を浮かべる。
「実際公式大会前の練習試合では、戦車道を最近復活させたばっかりとはいえ大洗女子相手にかなり善戦したみたいだからね。双方いい試合してたわ」
「あれ…、この大洗の隊長さん…西住みほって名前…確か西住って」
そう言わずがもなあの西住流の娘の1人であり、現在黒森峰女学園の戦車道隊長を率いる西住まほの妹。一時期副隊長を務めていたこともあり、次期隊長としても候補が高かったことでも有名だ。
だが何故そんな彼女が戦車道を復活させたばっかりで縁もゆかりも無い大洗女子にやってきたのか…、梨里はそのことが気になっていたらしい。
ちなみにその理由を生徒会長は知っていたらしく、こちらも風の噂だが昨年度の大会で黒森峰の9連覇を停められたことの責任を取らされる形で大洗に転校。
その直後に大洗が戦車道を復活させ、戦車道経験者である彼女を半ば生徒会の権限で強制的に隊長を務めることになったとか…
「ええっ、ご想像の通りあの西住流の1人。現在黒森峰の戦車道隊長を務める西住まほの妹さんね、確か在籍時には副隊長をしてたはずよ」
「そうっ!それです!でもなんでそんなすごい人が…戦車道どころか縁もゆかりも無い地に…」
「…これも風の噂なんだけど、昨年度の大会で10連覇を果たせなかった責任を取らされる形で退部したみたいね」
まあその責任を取らされた理由というのは昨年度の決勝戦にてプラウダ高校の砲撃を受けた味方車両が川に落下した際に、フラッグ車の戦車長だったみほが乗員を助けようと降車して動かなくなったところを撃破されたからというもの。
これは印象が強かったため昨年度1年生や2年生だった戦車道メンバーは記憶に新しく、あれか…と思い出すようにそんなことを呟き、同時に前隊長が口にしていた言葉を椎名は思い出す。
「あーあのときの…、確か川に転落した車両の生徒を助けようとした時に…」
「あれは結構大会の中を通して印象深いよね、私未だに覚えてるもん」
「……」
(回想)
『あんなん責任逃れでなすりつけてるだけじゃない、黒森峰は本当の戦車道を知らなさすぎるわ』
「……そういえば、そんなこと言ってたっけ」
だがかといって現状関係あるかと言われればそんなことはなく、それよりマジノ女学院との初戦をどう突破するのかということを考えなければならない。強豪校が相手じゃないからこそ、ここで負ければそれこそ宇品女子戦車道チームの未来はないと言ってもいい。
1つここで勝って自分達の高校の戦車道チームの名に新たな歴史を刻みましょう…!と1年生ながら先輩にも負けない努力家の旧砲塔チハ車長兼装填手の日見遥(ひみ はるか)が意気込む。
「でも人の心配より今は目先のこと、強豪校と当たらなかった今だからこそ勝たないといけない。でもみんなで協力すれば不可能なことはないわ」
「そうです…!生徒会長の言う通り、私たちで協力すればどんな困難だって…!!」
もちろん他の戦車長も同じ意見であり出来る限りのこのはやっていこうと口々に話していき、そんなメンバーを見ていた椎名も隊長として絶対にこの初戦だけは落とせない…意地でも勝ちたいという雰囲気を見せつつ、伯爵高校戦に向けた作戦会議を本格的に始めていくのであった。
「だね…!出来る限りのことはしていかないと…!」
「ってかここで初戦突破すればうちらでは史上初のことに…、うへへ…そうなったら学校の歴史に…」
ー……みんながこんなに意気込んでるんだ、絶対にこの初戦は落とせない…。…それに、みんなが見れなかった世界を…見せたい…!ー
「でっては…!今から全国大会初戦に向けた作戦会議を……」
宇品女子のある広島県から約600〜610kmほど、山梨県を拠点としつつ静岡県の港を借用し活動しているフランス系の学校、『マジノ女学院』。
フランス海軍の潜水艦スルクフに類似した学園艦が特徴的な本校は、フランスでワイン醸造を学んだ学院の創立者がワイン醸造のために作った農学校が元となり、特に伝統的な製法である足踏みワインを行うためにわざわざ女子校として設立された経緯を持つ。
校風としてはマナーと礼儀を非常に重んじる校風であり、勝利のために手段を選ばないような相手に対しては非常に厳しいとされる。
しかし「マジノ女学院こそ強引な手段を押し通している」と指摘されることもしばし…
生徒の創造性は芸術以外に関してはあまり求められておらず、豊富な知識と見識を十分に披露するような会話が重視されているため、意外にも柔軟性には欠けることも…
そんなマジノ女学院の校舎、いかにもフランス系の雰囲気を醸し出す廊下の一角。いかにもおえらいさんが集まりそうな会議室と書かれた部屋、その室内には何人かのマジノ女学院の生徒達が腰掛けていた。
入口の札にはマジノ女学院戦車道チーム使用中と書かれていることから、どうやら彼女達は戦車道チームのメンバーらしく、雰囲気から察するに各車長といったところだろう。
その彼女達の視線の先、青髪がかったロングヘアーが特徴的なマジノ女学院戦車道チームの現隊長であるエクレールは今回の公式戦初戦に関しての作戦会議をメンバーが揃ったことを確認するや始めていく
「皆さんお集まりしましたわね?それでは本年度の戦車道全国高校生大会初戦に向けての作戦会議を始めさせて貰いますわ」
エクレールが隊長になってから初の公式戦、更には新しい戦術や新体制という新しいことだらけのマジノ女学院戦車道チームにとってはかなり厳しい戦いになるのは確か。
一度練習試合で戦車道を復活させた大洗女子と対戦しているとはいえそれでも完璧とは言い難く、もしそんな状況で強豪校に当たればまだまだ練度の低いと言わざる終えないチームでは粉砕されてしまう可能性も。
しかし今回の初戦は幸運か否か、戦車道創設以降初戦敗退を繰り返している宇品女子高等学校戦車道チーム。火力装甲ともにマジノからすれば不利ではあるが、それを生かす前に倒してしまえばなんの問題もない。
それに大洗戦では不完全ではあったもののそれから防衛戦と機動戦を両立させた戦術を更に研究し、完璧とは言い難いが形になってきた作戦を試すにはもってこいの相手とも言える。
「今回の初戦相手は宇品女子高等学校。広島県にある高校で戦車道の歴史が古いみたいですが、初戦敗退常連校とも呼ばれるぐらい初戦敗退を繰り返してるみたいですわ」
「初戦敗退常連校…?あーなんかそんなこと聞いたような気が…、でもそれなら私たちだって…」
「のんのん、マジノはこれから強くなっていくんですから。それに大洗戦では不完全ではありましたが、形になりつつある機動戦と防衛戦を組み込んだ新戦術を試すにはもってこいの相手」
なのでエクレールの気合いの入り方もいつもとは違ってかなり熱が入っており、マジノ女学院唯一の重戦車ルノーB1bis、コードネーム「ダイヤ・ブル」(青のダイヤ)の戦車長を務めるガレットはそんな隊長を横目にやれやれ…という表情を浮かべた。
その横、「ハート・ブル」(青のハート)の愛称を持ちソミュアS35の戦車道を務め、チーム副隊長でエクレールの理解者でもあるフォンデュが微笑ましい表情で話を聞いていく。
「だからいつも以上にうるさいんですね…、お嬢様学校なのに全然お嬢様っぽくないですよ隊長」
「ふふ、気持ちは分からなくはないですけどね。ここ最近皆さんの練度が目に見えて向上してきていますから」
だがいくら新戦術を採用して形になってきたとはいえマジノ女学院の保有する戦車は走攻守アンバランスな構成。機動力のあるソミュアや重装甲のルノーB1bisはまだいいのだが、機動力に劣り装甲も高貫徹力の主砲にはバスバス抜かれるルノーR35が足を引っ張り、思うような戦術が取れないのもまた事実。
かなり痛いところをフォンデュに突かれたことで、少し胃がキリキリし始めたエクレールだったが、愛用している胃薬を水と一緒に放り込みながら、その点は問題ないと答える。
「そう!フォンデュの言う通りですわ、だからこそわたしが目指している機動戦と防衛戦を取り込んだ新戦術が……」
「でも、いくら練度が向上してるとはいえ今の私たちが保有している戦車じゃ厳しいのでは?アンバランス過ぎますし」
「…ゔ…なかなか痛いところを突いてきますわね…、お陰で胃が…(グビッ)。でもそのへんは問題ありませんわ、ちゃんと対策はしてましてよ?」
当然ながら保有戦車のアンバランスな構成がエクレールの目指す新戦術の足を引っ張っているのは彼女も分かっていることであり、学校側に直談判して新たにソミュアS35中戦車3両ほど導入。
今まで主力であったルノーR35から全部ではないものの一部置き換えることで、より機動戦を生かした戦術を取りやすくなったのは確か。
もちろんそれだけでなくエクレールが隊長になる前から進められていたとあるレストア車両の修理が丁度完了したため、今回の宇品女子戦で初投入することが決定したらしい。
「今まで主力だったルノーR35戦車の一部を新たに導入したソミュア3両に置き換えて今回の試合に臨みます。これなら機動戦と防衛戦の両立が可能になりますわ」
「あーだから隊長、少し前に学校に直談判して急ピッチで公式戦前に導入してたんですか」
「そうっ!それにそれだけでなくてよ?前々から進められていたあのレストアが完了しまして、今回の宇品女子戦で例の戦車を導入することにしましたわ」
果たしてどんな戦車なのか、会話を聞くだけでは流石に種類までは判別出来ないものの、話し方や各車長の反応から察するにかなり頼もしい戦車であることには変わりない。
「あの戦車ですか?ってことは火力とか装甲面でルノーB1bis以上に頼れる存在に…」
「ですね、これなら火力面で私たちより有利な宇品女子相手に……」
もちろんそれだけ準備したのに負けましたでは話にならないため、是が非でもこの初戦は勝ち抜かなければならず、何より前の隊長から託された身であるエクレール自身として期待には応えたい。
そんな思いを旨に脱線しかけた話を戻しながら、引き続き初戦の宇品女子戦に向けた作戦会議を行っていくのであった。
ー…でもこれだけ準備したのに負けたとなれば話になりませんわ、是が非でもここは…ー
「それでは、話が少し脱線しかけましたが改めて初戦の宇品女子戦に向けた作戦会議を…」