貧乏音ゲーマー陰キャ京大生だけど、中世から転移してきた国王に求愛されてるし、金持ちリア充のもう一人の俺が邪魔をしてくるんだが   作:雀ヶ森 惠

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『――俺は悪魔なんだ』

 

 

 美人の色違いの目が、一瞬色褪せて揺らいだ。

 

 なんやねん。

 結局なんも分からんかったわ。

 でもなんでこんなに心がヒリつくんや。

 俺かて人間や、あんな思いはもうイヤなんや。

 

 

 しかしあの"悪魔"っていったいどういう意味なんや。

 あの美人が悪魔ってどういうことや。むしろ美の暴力かと思ったで。顔面国宝どころか、ユニバーサルナショナルトレジャーや。

 

 それに、とりあえず今晩は私が泊めるわよ、っておっぱい大きなおねーさんが連れて帰っちゃったし。どないすんのや。

 

 

 てか、京阪の終電酒臭っ。

 俺はバイトで疲れてんのや、座れへん上にストレス増やすなクソ共が。

 

 俺はつり革が顔に当たらへんように避けながら、スマホでソシャゲの攻略情報をチェックしていると、あることを思い出した。

 あ、今朝撮った二次元バーコード。あれ結局なんやの?

 

 画像からリンク表示っと。これな。

 だが俺は次の瞬間、電車の中で仰け反ることになる。

 

 

 "RichardIII_Overwriter"

 

 

 と、クソダサフォント――多分MSゴシックやと思うけど、で大書されている。

 てか一文字毎に色変えんなや。原色で目に痛い、センス皆無やん。

 

 

 その文字の下に、ポケモン黒/白くらいのドット絵で、金髪碧眼のアラフィフおっさんの顔が表示されていた。

 

 もしかしたら、たまに見かけるhtml表記の個人サイトの残骸みたいなもんか?

 

 

 おっさんの顔の下のメッセージウィンドウに、テキストが流れはじめた。

 

 

 >RichardIII_Overwriter

 

 >date:202X-4-1X

 >name:Richard Plantagenet, 3rd Duke of York

 

 >このサイトに接続している全ての人へ

 >現在……我々いや、読者諸氏を含むこの世界全体に

 >取り返しのつかない歴史改竄が行われつつある

 >私の息子の存在自体を抹消するべく

 >それらは遂に動き出したのだ

 >この邪悪極まりないシステムと戦うために

 >私のシステムが必要だ

 >このアプリがあれば可能だろう

 >バッキンガムたち二人が

 >受け取ってくれることを祈っている……

 >我が息子リチャードを救うために

 

 >アプリをダウンロードします

 >RichardIII_Overwriterを

 

 手に入れた

 

 >通信が切れた

 

 

 えっ、は!? なんか知らへんけど、見たことの無い白い薔薇のアイコンがスマホに新しく入ってるんやけど!

 

「ど、どこのアプリや! バックドア仕込まれたんか!?」

 

 あ、混乱して声上げてもうた。

 あかん、周囲の酒臭リーマンや学生にジロジロ見られまくりや。あ〜、もうちょっとで降ります、降りますから勘弁してな……

 

 俺はスマホを慌てて、パンツの尻ポケットに入れた。

 

 

 電車の走行音に混じって、俺の脳内で昼間聞いた、滞納ランキング一位のケイツビーの声が反芻された。

 

『リチャード様はわけあって、15世紀からここに転移してきました。陛下のこの世界でのお手伝い、そしてある目的のために私とジェーンがここにいるのです』

 

 

 "RichardIII_Overwriter"(リチャード三世上書き)

 

 

 パシーン

 

 

 あいたっ

 

 案の定つり革が顔面にぶち当たった、メガネが鼻当てからズレる。

 

 それにしても、いったいなんなんやねん? 何がはじまるん?

 

 

※※※

 

 湿った冷気を孕む夜風が木々を揺らし、館の石造りの外壁と簡素な硝子の嵌った窓枠を激しく打ち付けている。

 外は霧のように細かい雨で、室内を照らす蝋燭の甘い匂いと微かな明かりは月の見えない深夜の室内を充分に見渡すことは不可能だ。それでも壁に飾られた綴織や、細工のある箪笥、そして立派な天蓋に囲まれた寝台が目に入る。

 

 時折、吹き込む隙間風と暖炉に微かに残った熾火が爆ぜる残滓を除けば、

 

 

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がばっ

 

「ゆ、夢か……あかん、こんな破廉恥な。こんなん久しぶりや。きっと昨日のことで疲れてるんや」

 

 部屋のカーテンは既に開かれて、俺の顔にかすかに日光が当たっている。

 二段ベッドの下の段で、入り切らん身体がミシミシ言っている。ほんまこんなんだから、毎日疲れが取れへんのや。

 

 

 しかし、なんでリチャードさんと、中世コスプレの俺がイチャイチャしてる夢なんや……

 

 15世紀とか絶対その話ドッキリや。ラノベでもあるまいし、ありえへん。みんなして俺のことからかっとんのや。

 

 

※※※

 

ざわざわ

 

カチャカチャ

カチャ

 

 

……

…………

………………

 

 あ〜カレーライスうんまっ。

 辛いけど、うまっ。

 やっと落ち着いたわ、なんか変な夢見たせいか寝坊しかかったやん。二日連続は嫌や。

 

 

 せや、アプリから履修登録済ませへんと。

 登録できひんわけがないやろが、クソメガネ。

 

 ん? なんか後ろからデカい声で会話聞こえてくるやん。公共スペースや、弁えろ。ド屑。

 

 

『なんかさあ、昨日だけ校門とこにあったタテカンあるじゃん』

 

『あ、例の二次元バーコードだろ? 知ってる知ってる』

 

『ざけてるよな、何が 403 Forbidden だよ。初めから載せんなクソ』

 

 

!!!

!?

 

 どういうことや……!?

 

 あれはバイトで疲れた俺の見た、まぼろしなんか?

 

 

 ん? 俺の四隅が割れた泥スマホに、なんか人影が映っとる。俺の背後に誰かおるやん。えっ誰やねんな。別に学食の席長時間占有しとるわけでもないねん。は? 言いがかり付けに来たんか?

 

 

「バーキくん」

 

!?

 

 誰や!!?

 

 おそるおそる振り返るとそこには、昨日のおっぱいデカいおねーさんと、リチャードさんがおるやないか!

 

 

「え、たしかジェーンさんとリチャードさん……??」

 

「そうよ。バキくんは午後から予定あるの?」

 

「え、あ、今日はサークルの麺と会いに来ただけやから、この後はラウワン行って弐寺する予定やったんやけど……」

 

 

 しかし、この二人の戦闘力高すぎへんか? こんなんスカウター爆発するわ。

 

 タイプ全く違うけど、学食に居ていい存在やないねんで。

 ジェーンさん昨日と多分違う服なんやけど、似た雰囲気のぴっちりゴージャスばいんばいんや。ここは変わってないんやね。

 

……てかリチャードさん、昨日見た中世っぽいおべべと、うって変わって、その、黒ワンピなんや!!? ふくらはぎから下見えとるけど、真っ白で脚ほっそ。

 

 しかも周りの女子が男子学生以上にリチャードさんのこと、めちゃくちゃ見とるんやけど。

 

 

「何を見ているんだ、バッキンガム?」

 

 あん、リチャードさんは周囲の目線が気になるのか、落ち着かない表情をしている。

 てか女子の羨望? のまなざし……やぱ女の子はこういうのがええんか。

 

 

「えっ、あ」

 

「そんなに俺が珍しいか?」

 

 

「あ、そのワンピースめっちゃ素敵やで……」

 

 リチャードさんはスカート部分をちょっと摘んだ。

 

 

「ジェーンから貸し出されたんだ。俺が着ていた服はここでは不自然で目立つと言われたからな」

 

「そりゃそうでしょ、15世紀イングランドの服なんて現代日本で着てたら不審者まっしぐらよ」

 

 

 ん……あ、昨日見た時と、リチャードさん一番ちゃうの、その、え、思ってたより、おっぱいあるんや……昨日はなんか目立たんようにしてたんかな?

 

「何故顔を赤らめている? おかしな奴だな」

 

 

「あっ、あのジェーンさん。どないして俺がここにおるとわかったんや?」

 

 あ〜、話題変えな! 恥ずかしいわ!!

 

 

「あら、だって私この学校の教員ですもの。学食は即チェック対象よ」

 

「えっ」

 

 

 あのクソメガネだけじゃなくて、おねーさんも教員なん!? どういうことや!!

 

 

 ジェーンさんは首から掛けたストラップに付いている、IDカードを俺に見せた。

 

 

"京都大学医学部 ジェーン・ショア"

 

 

……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙、マジモンや。しかも医学部って、

 

「え、あの。お医者さんなんですか……?」

 

「残念ながらそうらしいな。俺の知る限りはニセ医者みたいなものだったが」

 

 

「やあね。ちゃんと医師免許持ってるわよ。あと専門は泌尿器ね」

 

 

 泌尿器って、あんっ。ヤバ。またドキドキしてきたわ。

 

 あっ、あ。せや、忘れてた。本題を聞かな。

 

 

「ところでお二人とも、なんか俺に用なん? 探してもらって悪いんやけど、手伝えることなんも無い気もするんやけど」

 

 

「お前が以前に俺の服を用意した事すら、忘れているんだな。……まあいいが」

 

 

 長いまつ毛に縁取られた、色違いの目が複雑な感情に揺らいでいる。

 

 またそんな目で俺の事見んといてや。

 俺の知らない過去で? 俺がリチャードさんに服用意した事あるんや……

 

 

「あの服、ほんとバッキンガム公のフェチと趣味の塊だったのに、忘れてるのもったいないわよね」

 

 

 フェチってそんなエロい服なん!?

 

 

「と、言うわけでこれからリチャード様の、この世界での服を買いに行くわよ。もちろんバキ君のセレクトでね」

 

 

※※※

 

 in河原町OPA。

 

 まあ、この手の女の子のおべべ買うんならここやろ。あとは知らへん。サークルの女子からある程度、そういう話聞いとって良かったわ。俺単独やったらもう完全に詰んでたやろ。

 

 

「ほんまに、ジェーンさんの予算でええの?」

 

「大丈夫よ、そこは心配無用。バキ君の選んだ服楽しみだわ」

 

 

 なんか楽しんでるな〜絶対に、からかい半分や。

 

 

(数分後)

 

 おっ、リチャードさんが試着室から出てきた。

 

 

「本当にこれで良いのか? これがこの世界で、不自然ではない格好なんだな?」

 

「せや、これがここでの普通の服装や」

 

 

 ムハ〜。

 

 リチャードさん、レースのフリフリ。マジで似合うんやけど。

 俺の理想や。最高。

 

 

「なんか裾が短すぎないか? 太ももまで見えているんだが?」

 

「せっかく超美脚なんや、見せてなんぼやで!」

 

「まあ、俺のいたところとはかなり価値観が違うらしいからな。これで良いのだろう」

 

 

 リチャードさんの疑いの眼差しを、俺は見なかったことにする。一応納得してくれたみたいやし、ええやん。

 

 ジェーンさんもニヤニヤしてるし、絶対に平気やろ!

 

 

 靴も黒の厚底と、ヒール太い靴も何足か買ったしOKや!

 

 

ぶるぶるぶる……

 

 あっ、なんかジェーンさんのスマホに着信が。

 

 

「はいもしもし、あ、迎えに来てる? わかった今行きまーす」

 

「どうしたんだ、ジェーン?」

 

 

「バッキンガム公と、ケイツビーが車で迎えに来てるって。じゃあ行きましょ」

 

 

……

…………

………………

 

「なんだその格好は……」

 

 

 クソメガネがものすごい表情で、リチャードさんを見ている。こめかみもピクピク動いてるけど、なんでや。

 

 

「何を言っている、大人の方のバッキンガム」

 

「着替えろリチャード! 今すぐ着替えろ!!」

 

 

「でも若い方のバッキンガムが、この時代の違和感ない服装だと言っていたぞ。これで充分だと思うが?」

 

「あんたは騙されてるんだ! リチャード!」

 

 

「せや、ぜんぜん自然や。むしろジェーンさんから借りてた服の方がおかしいで」

 

 

ガッ

 

「痛い! 痛い!! 痛い!!!」

 

 

 俺はクソメガネに襟首を掴まれた。

 普通の身長ならこいつの背の高さまで、引っ張り上げられるところやが、お互いにデカ過ぎて身長がほぼ同じっぽいから、顔を寄せられただけや。

 寄るなキモい。

 

 

「おやめください、バッキンガム方。ここは狭い公道です、通行人が見てますよ」

 

 たしかに見られまくってるやん。スマホ向けられてるし。

 まあ滞納ケイツビーのパジャマのが、見られてるんちゃうかい。

 

 ほんと種々恥ずかしいわ。やめろ。

 

「ジェーンはどこへ行ったんだ、あの魔女絶対に許さないぞ。こんな服をリチャードに着せて、金まで払っていっただと?」

 

「ジェーンさんなら、仕事があるからってさっきビルの入口で別れたで」

 

 

「逃げたな、クソッ」

 

 

 俺はやっとクソメガネから解放されて、地面に尻もちをついた。何すんねんな!

 

 

「ところでケイツビー、わざわざその車とかいう乗り物で、俺たちを迎えに来たのはどういうことだ?」

 

 

 あっ、言われてみればそうや。もう買い物終わったやん。

 目の前にめちゃくちゃダサい色の、ミニバンが止まっている。しかも"わナンバー"やん。ぷっ。

 

「バッキンガム公が大阪まで、リチャード様の日用品を買いに出かけたい。と言うので」

 

 

「俺自身が車を出すと言ったのに、この男が聞かないからだ!」

 

 

※※※

 

 ケイツビーが駐車場の入り口にミニバンを停めた。

 

「本当に大丈夫なんだろうな……だいたいこの貧乏臭いレンタカーで来るなんて、信じられん。あまりの狭さに不快この上ない、しかもなんで俺が助手席なんだ」

 

 

 黙れクソメ、知らんがな。

 てかこの車が狭いんやなくて、俺とメガネとケイツビーがデカすぎるだけなんや、まあ後部座席でリチャードさんと密着できて役得や、ドゥフフフ……

 

 

「それにケイツビー、高速代をいちいち現金で払うな! クレカくらい持ってないのか!?」

 

「私がそのようなものを持っていると、お思いですか?」

 

「せや、家賃百ヶ月払っとらん男が、クレカの審査通るわけないやん」

 

 

???「スタフォード様、お待ちしておりました」

 

 

 知らんスーツの男がそこで待っていた。あかん、さっきまでの会話聞いとったかいな?

 

「ご苦労、待たせたな。ではいつも通りに頼む」

 

「なんだこの男は?」

 

 リチャードさんが黒のミニスカを揺らして、車から降りてきた。真っ白なすねが目に毒や。

 

 

「彼は外商といって、デパートの上客に専門に接客する係だ」

 

 

 リチャードさんは疑問の表情を浮かべる。

 

「ああ、ケイツビーは上に車を停めて、デパートの中で待ってろ。学生……お前は――」

 

 

「おや、この方は、スタフォード様の弟君でおられますか?」

 

 

「「違う!!!」」

 

 

※※※

 

 俺は阪急の特急で、イライラしていた。ま、座れたから、ええけど。

 

 

 うめだ阪急とか行ったの、今回で二回目なんやけど。前行ったのは物産展やし。

 

 なーにが『お前のそのボロボロの通学カバンは場違い、アニメの缶バッジなど見苦しい』や。キタサンブラックやぞ、キタサンブラック。最推しや。

 

 

 日の暮れてきた外を見ようとして、自分の顔がガラスに映る。

 

 なんやねん、あのクソメと俺のどこが違うねんな。全く同じ顔やん。

 

 

 そういえば、昼に俺がまぼろし認定していた二次元バーコードのリンク先。確かめてみよか。まだ河原町までぜんぜん着かへん。

 

 

……

…………

………………

 

……てかブラウザの履歴に普通に残ってるやん。403とか嘘やろ、だってちゃんと表示されとるで。

 

 

"RichardIII_Overwriter"

 

 やっぱちゃんとあるやん……

 

 

" アプリはデバイスにダウンロード済みです"

 

 

 わかっとるわい。

 俺は仕方なくアプリケーションを開く。これどうやら横に見るんやな。

 

「ん?」

 

 

"RichardIII_Overwriter"ってシステム名、左半分に白い薔薇の描いてある正方形の枠の下に管理者(アドミン)ってあるんやが。

 

 

!!?

 

 

 しかもその管理者モードらしきものの下に、さらにアイコンがあった。

 

 四角い枠の中に電気がなかば消えた、音ゲーの筐体が並んでる写真。その下にBuckinghamって書いとるんやけど!? は! 俺!!!?

 

 俺の名前のアイコンの下にもうひとつ四角いアイコンがあった。チェス駒の写真を使っている。その下の名前はやはりBuckinghamになっている。

 

 

「……………………」

 

 なんかこう……なんでや。

 俺は音ゲーであいつはチェスなんや。別に、その。あ〜なんか無条件で腹立たしい!! 言語化できひんけども!

 

 

 で、どっちのアイコン押せばええのん?

 

 やっぱこのゲーセン写真の俺? やっぱそうなんやろ……?

 

 ええい、

 

ぽちっ

 

 

テテンテテン♪

 

 音デカっ

 

 

『ようこそ』

 

 

 そこには風に流された白い雲が浮かぶ青空の下、緑の丘が広がっていた。

 

 下には青のタスクバーと、緑の"スタート"と書かれたボタン。一体なにをスタートするんや。

 Windows風のUIなのか、その背景の中に、

 

"read_me.txt"

 

 

 えっ、先ずはこれを押して読むんか? なんや、説明がありそうやな。

 

 

 しかし……

 この浮いてるイルカなんやの?

 派っ手な青でなんか不自然や。もしかしてY2Kってやつかいな。

 

 俺はこん時に、重大なミスを犯していることに気が付かなかった。あのテテンテテン♪  のクソデカジングルで、スマホの音量切っとくべきやったん。

 

 

「キュピュピュピュ!」

 

 

 音デカっ

 

 夕方の阪急電車に、青いイルカの声が響く。

 えっ、キモっ! しかも成人男性の声やん!?

 

 浮いてるイルカが俺に向かって喋りかけた。

 

 

「何について調べますか?」

 

 

 たしかにそれは、あの留年王、ケイツビーの声やった。

 

 

 俺はイラつきながら、マナーモードに切り替えるとこの.txtファイルを開く。

 

 内容はこんな感じや。

 

 

"バッキンガム公爵とバッキンガムへ

 

 あなたがたがこの.txtを読んでいるということは、私たちは既にリアルで出会っているということでしょう。

※別に私は死んではおりません。

 

 15世紀からこの世界に転移してきたリチャード様を救えるのは、あなた方のいずれか一人だけです。彼とこの世界で真実の愛そしてあなた方自身が、かつてのあなたが今際のきわにリチャード様に叫んだ『本音』を思い出すことで、その真実の愛を成就させることができるのです。

 彼への上書きとは、彼に対する歴史ではなく彼とあなた自身を上書きすることなのです。

 

 そのために私とジェーンがここでサポートを担当しております。

 

 今は分からないことだらけだと思いますが、徐々にその疑問も解消されることでしょう。かといって、我々の口から直接答えることはできませんが。

 

 それでは健闘をお祈りします。

 

1485/08/25-202X/4/X W.C"

 

 

「真実の愛……? なんで俺があの美人さんと愛?? そういう因縁とかあるのん。だいたい今際のきわってどういうことや。縁起悪。

 それにしても俺今まで彼女なんて三次元に出来たことないで。てか、なんやねん、W.Cって。お手洗いかいな」

 

 そん時、ケイツビーの声のイルカがガタガタ動くと、スマホのバイブがめちゃくちゃ震えた。

 俺はスマホを落としそうになり、めっちゃ焦る。

 

「うおっ!!」

 

 

※※※

 

 inラウンドワン京都河原町店。

 

 

 あ〜結構人並んどるやん。

 

 まあ、待ってでもやりたいのが弐寺やんけ。

 たった一クレで俺の魂を買い取れたとでも? ドゥフフ……

 

 今はノーツを鮮やかに見たいから、メガネ拭くで。どんなメガネ拭きよりも、ポケットティッシュが最高や。歩いてたら大量に手に入りよるしな。

 

 

 早よせんかい、ド下手クソどもが。

 さっさと終わったら退()かんかい。

 

 俺はイーパスをかざして、100円玉を投入する。

 

 

「あ、バッキンガムさん。リアルでは久しぶりじゃないですか」

 

 

「……………………」

 

 この糸目の、女の子のショートカットっぽい髪型の男はリッチー。俺の主催しとるchiscord鯖の麺や。

 まあ、鯖上ではRichmond_4ever名乗っとるけど。

 

 

「そんな目で見ないでくださいよ、珍しいですか?」

 

「お前いつも円町の方やん、遠征かいな」

 

 そのとき不意に、

 

 

ガリガリガリガリ……ッ

ガガガガッ

 

 なんかこいつのボディバッグから、けったいな音聞こえよるけどなんなん?

 

 振動の度に赤いリボン後頭部に付いてる、髪の毛茶色の女の子のキーホルダーぐわんぐわん揺れてるんやけど、大丈夫なん?

 ま、ええわ。

 

 

ビシュ

ビシュッ

 

 こいつに構ってられんのや、早よ選曲せな。

 

 

「なんかいつもより時間早めですよね、これからご飯なんですか?」

 

「せや」

 

 

 俺が曲選んでるのに話しかけんなや。自分が同じことされたらどないすんのやクソが、人の気持ちになって考えろ。躾のなってない田舎者が。

 

 

ビシュッ

 

「あ〜、選べないなら私のおすすめは"かわいいだけじゃだめですか?"ですね」

 

 

 やかましいわ。

 てか制限時間もうないから、ほんま黙れ。

 

 

ビシュッ

ドゥーン!

 

 

"花冠 feat.Aikapin(A)"

 

 

 あ、間違えてできひんの選んでもうた……

 

 どないしよ、自信あらへん。

 

 

「お、バッキンガムさん、強気の選曲ですね」

 

 

 黙れ。お前のせいや、Q-Pro課金廃。

 頃すぞ。

 

 

(プレイ中、打鍵音)

 

……

…………

………………

 

ガンッ

 

 

……あっ、プセ死してもうた。最悪や。

 100円返せ。

 

 

「あ〜、まあ仕方ありませんよw次、私がやりますから早く場所譲ってください。てか、いつも背が高すぎて屈んでますけど、腰痛くないんですか??」

 

 

 タヒね、糸目!

 

 

 ケチ付きすぎやろ。もうええわ、いろは坂逆走してから帰るわ!

 

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