僕のヒーローアカデミア A Little Extra 作:ジョン堂
体育祭が終わって明けて翌日──2連休初日、家で体を休めつつ、飯田の事を……ステイン関連の事に思考を巡らせた。
しかし……どうすればいいのかは見えてこない……。
「はぁ……ん?」
何の気なしに見ていたSNS──そこで目についた。
『悲報!ターボヒーロー『インゲニウム』
「っ!これは……!?」
飯田の兄貴についての投稿記事!
読んでみると、救急車に運ばれる飯田のと似たコスチュームのヒーローの画像がアップされていた。
目撃者が撮影してアップしたらしい。
「……確か、インゲニウムは……」
思い出す原作知識──敵、ヒーロー殺し『ステイン』に受けた傷により、インゲニウムは下半身不随になってしまい、命こそ助かったものの引退を余儀なくされる……。
そして飯田は……誰よりも尊敬し、憧れる兄の未来を奪ったステインを憎み、復讐しようとしてしまう。
「……せめて……」
せめて、重傷でもインゲニウムが回復できれば……ヒーローに復帰できる見込みがあったなら……。
飯田もまだ恨みに飲まれずに済んだかも知れないのに……。
「…………ん?」
回復……?
「──ッ!!」
閃きが走った──。
すぐさま俺はスマホで相澤先生に繋いだ。
『もしもし?』
「相澤先生ですか!?気賀です!」
『気賀?どうした?休みに……』
「あの!今日学校にリカバリーガールいますか!?」
『んん?まあ、いるが……婆さんに何か用なのか?』
「はい!あの、その前に、相澤先生、飯田の兄さん──インゲニウムの事はご存知ですか?」
『……SNSか何かで見たか』
この反応ってことは、情報が回っているっぽいな。
よし、ならいけるか!
「そのインゲニウムの怪我について、リカバリーガールに相談したい事があるんです」
『どういう事だ?』
「……確実ではありませんが、俺とリカバリーガールがコンボすれば、インゲニウムの怪我を治せるかも知れないんです」
『なんだと……?!』
相澤先生が声を潜めつつ驚いている。
そして数秒の沈黙の後──
『……気賀、今から出て来れるか?』
「勿論」
『よし、話を通しておく。詳しくは婆さんに直接に話せ』
「承知です!」
通話が切れ、俺はすぐに制服に着替えて玄関に向かう。
「母ちゃん!俺ちょっと学校行ってくる!」
「ええっ?今日休みじゃないの?」
「急用!帰り何時になるか分かんないから、とりあえず昼メシパスで!」
「はいよー。気をつけるのよー」
「行ってきます!」
母ちゃんに断りを入れてから、俺は自宅を出た。
走って、電車に揺られ、また走って──雄英到着。
「失礼します!」
速攻で職員室に駆け込み、相澤先生の所へ──
「相澤先生!」
「来たか。婆さんは保健室だ。一応俺も行く」
「はい!」
今度は相澤先生と一緒に保健室へ──相澤先生も走りこそしないが結構な早足、恐らく俺の意図を理解してくれているのだろう。
急ぐに越した事はない。
職員室から保健室は目と鼻の先──1分と掛からず着く。
「失礼。婆さん、気賀が来たぞ」
扉を開けた相澤先生が声を掛ける。
普通にリカバリーガールを『婆さん』呼びなんだな、相澤先生……。
OBだから長い付き合いで気兼ねしないのか?
「失礼します、リカバリーガール」
「はいよ、いらっしゃい。プリッツお食べ」
「……いただきます」
とりあえず、差し出されたプリッツを頂く。
ポリポリ……
「それで、あたしに相談ってのは何だい?相澤からは、インゲニウムの坊やの事だとは聞いたけどね」
プロのインゲニウムを『坊や』呼び……いやそんな事はどうでもいい。
「SNSでインゲニウムの重傷を知って、閃いたんですが──」
俺は考えをリカバリーガールに伝えた──。
「ふぅむ……なるほどねぇ。それなら確かに可能性はあるね」
「本当ですか!?」
「確実ではないよ、前例の無い事だからね。ただ、聞いた限りあんたの負担はだいぶ大きいと思うけど、大丈夫かい?」
「問題ないです!こんな時の為に鍛えてきたと思えば惜しくもありません!」
「そうかい。じゃあ、行ってみるかね」
「ありがとうございます!リカバリーガール!」
「気が早いよ。まだ成功した訳じゃないさね」
リカバリーガールはそう言うが、光明が見えた気がした。
そうと決まれば、すぐに行動開始だ──。
リカバリーガールの急な出張だが、根津校長の許可はすんなり下りて、なんと病院に向かう為のヘリをチャーターしてくれた。
また、病院までは相澤先生も同行する。
リカバリーガールと俺の警護と、俺の考えの成否を直に確認する為だそうだ。
そして、俺・リカバリーガール・相澤先生の3人はヘリで飯田の兄貴が治療中の病院へ急行──
出発前にリカバリーガールから病院の院長に連絡を入れていたので、俺達3人はすぐにインゲニウムの集中治療室へ通された。
「っ!気賀くん……!リカバリーガール……!相澤先生……!」
そこには、飯田と飯田のお母さんと思しき眼鏡の女性がいて、俺達を見るなり2人して立ち上がって歩み寄ってきた。
「院長先生から、兄さんの怪我が治るかも知れないと聞きました!本当に……本当に兄さんは治るんですか!?」
切羽詰まった表情で、リカバリーガールに縋るように聞く飯田。
余程、兄貴の状態に絶望していたんだろう……その顔は明らかに憔悴している。
「確実とは言えない。けど、通常の治療を施すよりは可能性があるとあたしは思っている」
「ッ!ほんの少しでも望みがあるのならお願いしますッ!どうか……どうか兄さんを助けてくださいッ!!」
「私からもお願いします!息子を、天晴を……どうか!!」
飯田とお母さん、2人して床につきそうなくらい深々と頭を下げてくる。
必死な2人の姿に胸が締め付けられる……!
ステインがどうとか今はどうでもいい──この2人の為にも、何としてもインゲニウムを治したい。
「……分かった。全力を尽くすさね」
話は決まった──俺も全力を尽くす!
「リカバリーガール、こちら、患者のカルテです」
「ん」
インゲニウムの手術を担当したという主治医の先生から渡されたカルテを、リカバリーガールは真剣な面持ちで捲っていく。
「……ふむ、あんた、良い腕だね」
「いえ、力及ばず……」
「反省はいいけど、卑下はおやめ。あんたは医者として最善を尽くした。それは間違いない事実さね」
「……恐縮です」
そんなやり取りの後、リカバリーガールがベッドに横たわるインゲニウムの側に行く。
俺も後に続く。
「さて、それじゃあ始めるよ。気賀、準備はいいかい?」
「はい」
返事と共に、四大行【練】でオーラを高める。
そしてリカバリーガールの手を取り、高めたオーラを彼女に送る。
「ほう、これがあんたの【個性】の効果かい。なるほど、こりゃ凄いね。活力が漲って、なんだか若返った様な気になるよ」
俺のオーラを纏ったリカバリーガール。
次いで、俺はインゲニウムの肩にそっと触れ、その体に負担にならないようにゆっくりオーラを注ぎ込む。
これが俺の考えた治療方法──インゲニウムにオーラを送って体力を補い肉体を活性化、更にリカバリーガールをオーラでブーストして、傷や神経が塞がり切る前に【個性】で治療する──ぶっちゃけ力業。
「……よし。いけますリカバリーガール!」
「じゃあいくよ──チユ〜〜〜!!」
リカバリーガールの唇がストローのように伸びてインゲニウムの体に触れる。
すると、オーラがかなりの早さで減っていくのを感じた。
同時にインゲニウムの見えている打撲跡や擦り傷が消えていく。
いける──俺は減ったオーラを補填する。
「チユゥ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」
インゲニウムの傷が見てる間にみるみる消えていく。
外側の傷もいいが、内側はどうだ……?
頼む、インゲニウム……復活してくれ!
必要なら俺のオーラ、全部持ってけ!
「チユゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!ふぅ〜……気賀、もういいよ。【個性】止めな」
リカバリーガールが唇を戻してそう言ってきた。
治療が終わったのか?
一先ず、言われた通りオーラの供給を止める。
「っ、ふぅ……」
止めると途端に疲労感がきた。
結構な量のオーラを使っていたみたいだ。
「それで、リカバリーガール、首尾は?」
「ああ、感触としては上手くいったと思うね」
「「本当ですか!?」」
リカバリーガールの言葉に、飯田とお母さんが激しく反応する。
「兄さんは!?兄さんは治ったんですかっ!?リカバリーガール!!」
「うるさいね、気持ちは分かるけど静かにしな。ここは病室、集中治療室だよ」
「す、すみません!でも……!」
「落ち着きな。一先ず処置は終わった。確実に治癒は進んだはずさね。これ以上は、本人が目を覚ましてから精密検査してみるまで、確かな事は言えないんだよ」
詰め寄る飯田を宥めつつ、説明するリカバリーガール。
その視線を追ってインゲニウムを見れば、確かに顔色は良くなったし、寝息も穏やかだ。
「スゥ……ん、んぅ……?」
あ、起きたか?
「っ!天晴兄さん!?」
「天晴!?」
飯田とお母さんが駆け寄る。
「ん……天哉?母さん?」
「兄さん体は!?いま体はどう!?」
「からだ……?いや、どうも何も、俺の体は、もう……て、あれ?」
意識が覚醒して気付いたのか、インゲニウムが自分の体を──下半身を見る。
「感覚が……ある?え?う、動く!?動かせる!?ええっ!?」
体を起こしたインゲニウムは、包帯が巻かれたままの脚を持ち上げて目を剥いた。
「っっ〜〜!兄さぁん!!」
「天晴〜〜!よかった、よかったぁ!!」
感極まった飯田とお母さんが噴水の様な涙を噴き出しながらインゲニウムに抱きつく。
おいおい、怪我人……!
「ちょっ!?待て待て天哉!?母さん!?一体何がどうなっておいぃ〜〜!??」
どうも大丈夫そうだ。
リカバリーガールも溜め息吐くだけで止めないし……。
飯田ファミリーの大騒ぎは、暫く続いた──。
「本当に、何とお礼を言っていいか!とにかくありがとう!本当にありがとう!!気賀くん!!」
「おおおおう……!」
泣き腫らして目元が赤い飯田が、俺の両手を握って上下にブンブン振る。
飯田と飯田母が一頻り泣き喚いて落ち着いたところで、インゲニウムこと飯田天誠さんの精密検査が行われた。
結果──ほぼ全快。
麻痺していた下半身も回復し、少しリハビリをすればヒーローに復帰できるそうだ。
主治医の先生が驚いていた。
で、今は飯田ファミリー(主に飯田)に揃って礼を言われ続けている――リカバリーガールが、今回の件が俺が言い出したことだとバラしたのだ……。
「おいおい天哉、いい加減にしないと気賀くんの腕が捥げちまうぞ?」
インゲニウムさん、そんなこと言いながらあなたもさっき結構俺の腕ぶん回してくれてましたからね?
飯田より柔軟な感じではあるが、やはり飯田の兄貴だよ、この人……。
でも、まあ、何はともあれ――
「良かったよ、飯田の兄さん助けられて……」
「き、気賀くん……!」
「友達を辛い目から救えたんなら、何よりさ」
俺はこれまで、前世も含めて、人を救った・救えたことなんかなかった。
前世じゃあただ漫然と生きていただけ……この世界に転生してきてからだって、とりあえず敵や戦いに備えようと考えるばかりで、『誰かを救う』という事を具体的に考えてはいなかった。
だから、今、インゲニウムを、飯田を――友達を救えたという事が、なんだか凄く嬉しく感じる。
「……っ!」
飯田が俺の手を握ったまま、ぐっと俯く。
「っ……本当に、どれだけ言葉を尽くしても、感謝しきれない……!ありがとう、しか言えないよ……!!」
大袈裟だな、と言うのは無粋かな。
「どういたしまして」
この言葉が口をついて出た時、多分、俺は笑顔だったと思う――。