僕のヒーローアカデミア A Little Extra 作:ジョン堂
あれこれあっても、時間は進む――。
各々ギリギリまで勉強して、いざ期末テスト本番――筆記試験は3日に分かれて行われた。
「――全員手を止めろ!」
最後のテストが、今終わった。
後ろから答案が回収されていく。
はぁ~、疲れた……。
鍛えて体力が幾らあっても、こういう疲れは逃れられないらしい。
「ありがとう!イインチョー!ヤオモモー!」
「とりあえず全部埋めたぜー!」
芦戸と上鳴が上機嫌に報告してきた。
この雰囲気なら赤点はなさそうだな。
まずは一安心――も束の間……すぐさま演習試験の日がやってくる。
「それじゃあ、演習試験を始めていく」
コスチュームに着替えて準備万端、実技試験会場中央広場に集合した俺達を待ち構えていたのは、相澤先生を初めとした“教師陣”――多くね?
「この試験でも、勿論赤点はある。林間合宿行きたけりゃあ、みっともねえヘマはするなよ?」
相澤先生の言葉に、クラスに緊張感が漂う……。
何しろ、ここまで試験内容の情報は“錯綜”していて、結局分からんままだからな。
「諸君なら、事前に情報を仕入れて、何するか薄々分かってるとは思うが……」
――キタ。
「入試みてえな『ロボ無双』――と見せかけてー!」
「またなんか別のエグいことやるんでしょー!?」
上鳴、芦戸が拳と声を上げる。
先週末の『お勉強会in八百万’s豪邸』にて、筆記試験対策勉強の傍ら演習試験についても予測を交えて色々話し合った。
結論こそ出なかったが、確実に対ロボ演習より難易度は跳ね上がる何かであろうという予測は固まっていた。
『Yes!君たちみたいな勘のいい生徒は大好きさっ!』
ひょこ
そうして何故か相澤先生の捕縛布の中から現れたのは白くてデカくて喋る齧歯類、ネズ公――失敬『根津校長』先生だった。
「みんなお察しの通り、今回から演習試験の内容を変更しちゃうのさ!これからは、対人戦闘活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ」
予想、当たったな。
「という訳で、諸君らにはこれから、2人一組で、ここにいる教師1人と戦闘を行ってもらう!」
『先生方と!?』
「尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度、諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」
相澤先生からチームと対戦カードが発表されていく。
砂藤・切島チームvsセメントス――
蛙吹・常闇チームvsエクトプラズム――
飯田・尾白チームvsパワーローダー――
轟・八百万チームvsイレイザー・ヘッド(相澤先生)――
麗日・青山チームvs13号――
芦戸・上鳴チームvs根津校長――
耳郎・口田チームvsプレゼント・マイクーー
障子・葉隠チームvsスナイプ――
峰田・瀬呂チームvsミッドナイト――
緑谷・爆豪チームvsオールマイト――
気賀vsブラドキング&『ヒミツ♡』――
「――ツッコミ待ちですか先生方!!??」
なんで俺だけ1人で!
しかも先生は2人で!!
しかも片方『ヒミツ♡』って何だよ!!?
もうホント何なんだよ!!??
「……落ち着け、気賀。まだ説明の途中だ」
「落ち着けてたまるかってんですよこの状況で!!??」
ゴオッ!!
あまりの扱いに思わずオーラが噴出する!
先生達もなに苦笑いしてるか顔逸らしてんだよ!?
なんだコレ『気賀は絶対林間合宿行かせるもんか!』って強い意志の現れか!?
「いいから黙れ」
ギン!
スン……
クソ!
相澤先生の【抹消】でオーラが止められた!
「HAHAHA!まあまあ気賀くん!これについても説明するから、一先ず最後まで話を聞いてほしいのさ!」
「っ……はい」
理不尽に怒りは治まらないが、話が進まないのは確かなので一旦黙ることにする。
で、先生方の説明によると――
試験の制限時間は30分。
勝利条件は、
会敵したと仮定し、戦って勝てるならそれでよし。
実力差を初めとした状況如何によっては、逃げて応援を呼ぶ方が賢明。
その判断力が試される試験内容という訳だ。
「――けど、こんなルール逃げの一択じゃねえ?って思っちゃいますよねー。そこで私達、サポート科にこんなの作ってもらいました!
――『超圧縮錘』~!」
そんなダミ声と共にオールマイトが取り出したのは、金属製の輪っか――先生達はそれを各々両手足に装着していく。
「体重の約半分の重量を装着する。ハンデってやつさ。古典だが、動きづらいし体力は削られる――あ、ヤッバ、思ったより重……!」
両手足計4つの錘……総重量で各自の体重の半分ってことなら、錘1つ当たりの重さは体重の8分の1――体重80キロなら1つ10キロになるのか。
パワーの権化たるオールマイトが重いって相当だな……。
なのに、あのコンパクトさ……地味だが凄い技術だ。
トレーニングに良さそう、俺もサポート科に頼んだら作ってもらえるかな?
「――試験内容については以上。で、気賀についてだ」
やっとか。
さあ、説明してもらおうか、俺に対する理不尽の訳を!
「気賀、お前が1人なのは――誰と組ませても
「!?」
試験に、ならない……?
「【個性】による飛行、味方の増強、遠距離攻撃、索敵……お前の出来る事は多く、どれも有用だが、この演習試験では下手すりゃあ片方が何もしなくても条件を達成できてしまう可能性が高い」
あ~、そういう事か……。
今回の試験のルール通りなら、俺は相方を背中に乗せて【疑似・舞空術】で脱出口までひとっ飛びも可能だし、会敵しても相方にオーラを分けて強化して戦う事も可能、なんなら対戦相手の先生の気を感じ取って会敵そのものを避ける事も可能……。
俺はそれで良くても、相方は試験の評価を受けられなくなってしまう……。
「それでは試験の意味がなくなってしまう。けど、だからと言って君のいるチームだけに特別厳しい制限を課すのも、同じく試験の意味がなくなる。そこで、申し訳ないけれど君には1人で、また別の演習試験に臨んでもらうことにしたのさ!」
相澤先生、根津校長と続く説明に、俺は納得せざるを得なかった。
確かに……これじゃあ、仕方ないか。
「……1人な事については納得しました。でも、対戦相手がブラドキング先生と『ヒミツ♡』なのは、何なんです?」
根津校長の言い方が地味にイラッと来たんだが……。
「……正直、俺1人では結局お前に対応できない」
口を開いたのは白髪に赤いボディースーツの厳つい系男ヒーロー、B組担任『ブラドキング』。
「そこで、直接の戦闘には参加しないが妨害役がつく事になった。誰がつくかは試験開始まで秘密だ」
秘密……て、それ十中八九、相澤先生だろ……。
この試験内容で俺に制限を掛けようと思ったら、相澤先生の【抹消】が最適解……。
「更に!追加条件として、この『人形』を要救助者に見立て、探し出して救助の上で、先の2つの勝利条件どちらかを達成してもらう!」
根津校長から更なる条件が言い渡される。
台車で運ばれて来たのは、俺と同じくらいの体格の一般的な服を着せられた白いマネキン――謂わば、あれが俺の相方って訳だ。
尚、人形を放置したり、救助後に破損させるなどは大幅減点の対象になるそうだ。
やれやれ、チート【個性】のしっぺ返しがこんなところで来るとは思わなかった……。
結局の理不尽に気が重くなってきた俺の所に、トランスフォームしたショベルカーと合体したような姿の『パワーローダー』先生が進み出てきて、スマホの様な物を差し出してきた。
「人形の位置は、この『専用デバイス』で確認できるようになってるから。あと、このデバイスも壊したり失くしたりしたら、減点だから注意しな」
受け取り、試しにデバイスを起動すると、座標と光点が表示される。
ははーん、分かったぞ――これ、ブラドキング先生や“秘密の妨害役”先生にも持たされるな?
なんなら、俺が持つデバイスの位置も分かるように仕掛けられてるな?
逃げ隠れさせない為に――。
とことん俺の有利を潰していくつもりか……。
はぁ、仕方ないな……。
理不尽を打ち破ってこそヒーロー、“Plus Ultra”しろって事ね……。
「それと、特殊な演習試験になる関係上、気賀の試験を先に行う。他の者は気賀の試験終了後、それぞれ用意してあるステージに移動し、10組一斉スタートだ。では、早速試験を始める。気賀は学内バスでステージへ移動、用意して待て。他の者は待機、気賀の試験を見学するなり、チームで作戦を相談するなり、好きにしろ――以上だ」
相澤先生がそう締めると、先生達は立ち去っていき、入れ替わりで学内バスがやってくる。
さて、行くか……!
「気賀くん!頑張って!」
「厳しい試験になるだろうが、応援している!」
「気賀さんならきっとクリアできますわ!」
「イインチョー!ファイトー!」
「ウェーイ!」
緑谷、飯田、八百万、芦戸、上鳴と順にエールを送ってくれる。
俺は片手を挙げて応えつつ、バスに乗り込んだ。
◇モニタールームにて――
演習試験監視兼救護担当のリカバリーガールが座席につく室内に、巧を除いた1‐A全員が――爆豪でさえ巧の演習試験を見学するために集まっていた。
モニターには市街地を模した演習場――そこで開始の合図を待つ巧の姿、別ウィンドウには同じく開始を待つブラドキングの姿がそれぞれ映っている。
『――気賀チーム、演習試験、レディ……ゴー!』
合成音声による開始アナウンスと共にブザーが鳴り響き、巧の演習試験が開始――直後、巧は素早く手近なビルの中に飛び込んだ。
その行為を、全員が担任相澤の【個性:抹消】を避けるためと察する。
建物内では巧がデバイスを確認、数秒の後、建物を飛び出して【オーラ】を纏いながら飯田顔負けの高速ダッシュで演習場を走る。
10秒と掛からず、目的の建物に辿り着き、巧は速度を落とさず内部へ突入――デバイスを確認しつつ、そう時間をかけずに要救助者人形を発見。
巧が人形を背中に背負った――その時。
『ッ!?』
モニター内の巧が一瞬頭をフラつかせ、すぐに持ち直して口元を押さえ【疑似・九尾チャクラモード】で自分と人形をオーラで包み込んだ。
「なんだ?気賀、どうかしたのか?」
切島が疑問を口にする。
その間にも巧は室外へと飛び出し、建物の外へと走って行く。
「口元を押さえた……もしかして、ミッドナイト先生の【眠り香】!?通気口を伝って……!」
緑谷が持ち前の【個性】の知識と考察力から導き出し、既に巧への妨害が始まっている事を察する。
「気賀くんを妨害して抑えるなら、相澤先生しかないと思ってたのに……」
A組が見守る中、巧は建物の外へと飛び出す。
次の瞬間、巧の足元に銃弾が3発撃ち込まれる――巧は慌ててその場から駆け出す。
「ええ!?銃撃!?ってことは、スナイプ先生!?」
緑谷を初め、A組の面々が驚きの声を上げる中、モニターの中では巧がせり上がるコンクリートの壁に追われていた。
「セメントス先生まで……!?リカバリーガール!これって……!?」
「あんたら、根津や相澤の説明をちゃんと聞いてたかい?」
リカバリーガールはモニターから目を離さずに淡々と言う。
「――誰も『妨害役が1人だけ』なんて言ってないさね」