僕のヒーローアカデミア A Little Extra 作:ジョン堂
◆某所、死柄木弔隠れ家──
コンコン
「死柄木さん」
偽名義にて彼らが保有するカウンターバーのドアがノックされ、1人の男が返事を待たず入ってくる。
煙草を吹かし、薄いサングラスをかけた如何にも怪しげなスーツの男──名を『
「こっちじゃ度々あんたらの話で盛り上がってるぜ。何かが始まるんじゃねえかって「──で、そいつらは?」」
遮る様にそう問いかけ、死柄木は手にしていたグラスを【個性】で塵にする。
その内心には苛立ちが燻っていた。
前回、保須市にて“ヒーロー殺し”『ステイン』に張り合い、脳無まで投入して存在を世にアピールするつもりだった。
しかし、脳無はエンデヴァーを初めとしたヒーロー達にあっさり制圧され、その後ステインは行方を暗ました。
一時、『敵連合』の名前がニュースに上がりはしたもののそう長続きはせず、今となっては保須の一件も、『敵連合』の事も、ステインの事すら世間に忘れられかけている現状……。
思い通りにならない……。
あらゆる事に、あらゆるものに、死柄木はじわじわとストレスを溜めていた……。
「生で見ると……気色悪ぃなぁ……」
「うわあ手の人!ステ様の仲間だよねえ!?ねえ!」
そうして隠れ家に入ってきた2人にも、死柄木は瞬間的に苛立ちと不快感を募らせる。
片や、下顎から胸、そして僅かに除く腕に荒い縫合跡と爛れた皮膚を覗かせる黒髪の男……。
片や、髪を左右で纏め、セーラー服にカーディガンを着た一見すると普通の女子高生……。
いずれも、この場にいる時点で一般人ではありえない……。
「…………黒霧、こいつらトバせ。俺の大嫌いなもんがセットで来やがった。『餓鬼』と、『礼儀知らず』……!」
「まあまあ……折角ご足労いただいたのですから、話だけでも伺いましょう、死柄木弔」
黒霧の取り成しで、一応の紹介が始める。
女子高生の名は『トガヒミコ』、年齢故に名前や顔はメディアが伏せているが、連続失血死事件の容疑者として追われている“敵”である。
彼女の『敵連合』への加入動機は、『生き難い、生き易い世の中になってほしい』という現代社会への不適合性と『ステインになりたい、ステインを殺したい』というステインへの歪な執着……。
男の名は『荼毘』、本名は語らなかった。
義爛の言によれば、目立った罪は犯していないが、彼もまたステインに固執しているという……。
「おいブローカー、話違くねえか……?ヒーロー殺しと繋がる組織って聞いたから来たんだが……?」
「……どいつもこいつも、ステインステインと……!野郎が目当てなら直接本人に当たれ……!俺達はなぁ……あいつの窓口じゃねえんだよ……!」
苛立ちが最高潮に達した死柄木が立ち上がり、強烈な殺気を放ち始める。
「駄目だおまえら」
「「!!」」
死柄木がその両手を伸ばすのと、トガヒミコと荼毘が殺気に反応したのと、黒霧が双方の間に自身の【個性:ワープゲート】を広げて各員の攻撃を逸らしたのは、ほぼ同時だった──。
「落ち着いて下さい、死柄木弔。あなたが望むままを行うなら、組織の拡大は必須。僅かでも注目が集まりつつある今、拡大のチャンスは逃せません。排斥ではなく受容を、死柄木弔」
そこから黒霧は自身の霧状の体を伸ばし、死柄木に耳打ちする。
「ヒソ……(利用しなければ、全てを……)ヒソ……(ヒーロー殺しの余波であろうと、全て……)」
「…………うるさい」
振り払うように手を収め、死柄木は隠れ家から出て行った。
その場に残る全員がそれを黙って見送る。
「……返答は後日でもよろしいでしょうか?彼も自分がどうすべきか、分かっているはずだ……。分かっているからこそ、何も言わず出て行ったのです」
黒霧も【個性】を収め、義蘭達に死柄木の心情を憶測を交えて語り、取り成す。
オールマイトには鼻を折られ、ヒーロー殺しには半ば無視され……行動は失敗続きながら、それでもそれら経験は死柄木弔という男の糧となり、成長している、と。
「必ず導き出すでしょう。あなた方も、彼自身も、納得するお返事を……」
<side:out>
期末試験が終わり、クラスはサッパリとした解放感に──包まれなかった……。
ずぅーん……
切島、砂藤、芦戸、上鳴……実技試験クリアを逃してしまった面々の表情が暗い……。
「ひっ、みんな……土産話っひぐ、楽しみに……ぅぅ、してるっ……がら!」
芦戸、泣くほど悲しいか……。
「まっ、まだ分かんないよ!?どんでん返しがあるかも知れないよ……!」
「止せ緑谷。それ、口にしたらなくなるパターンだ……」
なんとか慰めようと試みる緑谷、それを止める瀬呂。
「……試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄……!そして俺達は実技クリアならず……!!これでまだ分からんのなら貴様の偏差値はサル以下だあ!!」
ズビシ!
「ぎええええ!!??」
陰気を極めた上鳴の目潰しが緑谷にクリティカルヒット!
目潰しはガチで危ないから止めとけ……。
「落ち着け、長え。わかんねえのは俺もさ……。峰田のおかげでクリアはしたけど、寝てただけだ。なあ、気賀、その辺どう思う?」
うっ、そこで俺に来るかよ……。
「う~ん、赤点云々に関しては……残念ながら……」
ずずぅーん……
俺の言葉に、切島達の暗黒オーラが深まり、それが圧し掛かったように4人に瀬呂まで加わって肩を落としてしまう。
いや、だって、ほぼ完封されてた切島達は流石に赤点は免れないし、本人も言ったように寝かされた瀬呂も評価は厳しいだろう……。
こればかりはどうしようもない──おっと。
「全員席戻れ。相澤先生来たぞ!」
サッ
どんなに落ち込んでても騒いでも、相澤先生が来るとなると素早く席に戻るクラスメイト達──これは一応、俺への信頼もあると思っていいかな?
「──おはよう」
予鈴と同時にドアを開けて相澤先生登場。
「さて、早速だが──今回の期末テスト……残念ながら赤点が出た。したがって、林間合宿は……」
その言葉に、当事者達を中心にクラスの空気が沈む。
「──全員行きます」
「「「「どんでんがえしだあ!!」」」」
まさかホントにどんでん返しが来るとは……!
いや、待てよ……?
「あっ、そういや相澤先生、補習地獄とは言ってたけど合宿連れて行かないとは言ってなかったか」
「フ、そういう事だ」
俺の言葉を、相澤先生がニヤリと肯定──なるほど、俺達のやる気を引き摺り出すための言葉回しか。
「くっ、またしてやられた……!こういうパターンもあるのか……流石雄英だ!」
飯田の声……悔しそうだが、あいつの性格からして言い回しへの不服ではなさそうだ。
「で、赤点者だが、筆記の方はゼロ。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤、あと瀬呂が赤点だ」
「うっ!やっぱり……確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな……」
瀬呂は、まあ、残念だったとしか……どんまい、は言わない方がいいか。
相澤先生曰く──今回の試験、敵役の先生方は俺達に勝ち筋を残しつつ、どう課題と向き合うかを見るように動いていたそうだ。
でなければ、課題云々以前に詰む奴ばかりだった、と。
言われてみれば、ハンデの錘があっても、先生達プロヒーローが本当の全力全開で向かってきたら勝ち目はほぼ無かった。
俺なんか特にそうだ、4対1の上に俺がハンデ(要救助者)を背負わされていたし……。
課題として共通してたのは、『不利を強いられる状況で、どう動くか』だったんじゃないかと思う。
思い返すと、皆それぞれ苦手分野で攻められていた、或いは得意分野を封じられていた感じだったからな。
先生達の『本気で叩き潰す』発言も、追い込んで力を発揮させる為の『合理的虚偽』とのこと──。
「そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点とった奴こそ、ここで力を付けてもらわなきゃならん」
「「「「「わあい!!!」」」」」
合宿に行ける事が確定して、どんでん返しの落差から切島・砂藤・芦戸・上鳴・瀬呂のテンションが爆上がりした──が。
「ただし──赤点は赤点だ。お前らには別途に補習時間を設けてる。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツいからな?」
上げてから落とす……赤点者の5人には効果覿面で、一気にテンションが底辺まで下がった。
そんなこんなで、期末試験は結果まで明かされて、今度こそ本当に終了──返された答案と演習の評価は追々見直すとして。
放課後は、安堵と共に林間合宿の事が話題に上がった。
合宿の期間は1週間──その間に必要な荷物についての話になり、葉隠が提案。
「明日休みだし、テスト明けだしってことで、A組みんなで買い物行こうよ!」
クラスの大半が乗り気に──ただ例によって爆豪と轟は不参加、爆豪は「かったりぃ」、轟は入院中のお袋さんの見舞いだそうだ。
で──
「──てな感じでやって来ました!県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端!木椰区ショッピングモール!!」
明けて翌日、俺達A組は待ち合わせて、このクソデカショッピングモールへとやって来た。
買い物好きそうな芦戸を筆頭に、皆テンション高めだ。
「ブツブツブツ……個性の差による多様な形態を数でカバーするだけじゃなくティーンからシニアまで幅広い世代にフィットするデザインがブツブツブツブツ……!」
「幼子が怖がるぞ、よせ」
こんなとこでも発動すんのか、緑谷のブツブツワールド……常闇が止めるが、止まる気配がない……。
てか、緑谷のTシャツ何アレ?
無地の胸元に『Tシャツ』て、ダサいとかナントカ以前に最早シュールなんだが……。
まあ、誰1人ツッコまないので俺も敢えてツッコみはしない方向でいくとして──
芦戸や緑谷が言った様に、ここは最新のファッションから日用雑貨、スポーツ用品からちょっとしたサポートアイテムまで揃うから、連日クッソ混む事で有名なショッピングモール。
今日は休日、おまけに夏休みも近いとあってか混み具合も一入、何かのフェスでもあるのかと思う様な人の多さだ。
で、人が多いと──
「あっ!あれ雄英生徒じゃん!」
と、俺達に気づく人も多数混じる。
そして誰かが気づけば連鎖していく。
「1年!」
「テレビで見てたぜ!」
「体育祭!ウェーイ!」
「「「ウェーイ!」」」
ノリの良い上鳴・芦戸・瀬呂が応えていく。
「みんな、目的バラけてっし、時間決めて自由行動すっか!」
「賛成ー!」
切島の一言で各々目的の物を物色しに散ることになった。
現在午後1時、集合は3時──2時間か、俺はどうすっかな?
来たはいいものの、実は買う物は特になかったりする。
合宿に使えそうなシューズやら着替えやらはあるし、この前サポート科に超圧縮錘も発注済みだし。
まあ、適当にブラブラするかな。
「あっ、雄英1年の気賀くんじゃん!」
む?
「おっ、マジ!?体育祭1年No.1!」
お?
「握手してー!」
え?
「サインくれー!」
ちょっ?
適当に歩いていたら、先々でちょいちょい声を掛けられた……。
サインは流石に断ったが、全然ショップとか見て回れないし、気恥ずかしいしで参った……。
やむなく手近な100均でキャップとサングラスを買って簡単に変装、これで一旦身バレは収まった。
やれやれ、まさか芸能人みたいな事になるとは……。
「なあ、あんた雄英の人だろ?」
むっ、この程度の変装ではまだ足りなかったか。
「確か体育祭で優勝してたヤツだよな〜」
ぞわり
いきなり肩を組まれ──その瞬間、内臓が縮み上がるような緊張に襲われる。
何故なら……
「こんなとこで会えるなんてなぁ……お前にとっては雄英襲撃以来になるか」
首に手を、指4本を当ててくる、この男……。
この気……覚えている……。
完全に油断していた……こんなところに現れるなんて、頭から抜けていた……!
「お茶でもしようか、気賀巧……!」
「死柄木、弔……!」
敵が、来た……!