僕のヒーローアカデミア A Little Extra   作:ジョン堂

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 お読みいただき恐縮千万。


エピソード32 死柄木弔?……死柄木弔?

「自然に、旧知の友人のように振る舞うべきだ。決して騒ぐなよ?俺はお前と話がしたいんだ。それだけさ」

 

「……わかった。なら、どこか座って話そうか」

 

 死柄木弔──『敵連合』のリーダー、緑谷……いや、俺達の宿敵……。

 平和ボケで油断していた俺は、喉元に手を掛けられて捕まっている。

 

 この状況で、下手な抵抗は拙い……。

 俺は、上手くいけば【オーラ】で死柄木の【個性】を防げる可能性がある。

 だが、周囲にいる民間人まで守れる保証はない。

 こいつが1人だけとは限らないし、例え1人でも犠牲が出かねない。

 

「ハハ、いいねぇ、話が早くて。まったり、話そうじゃないか」

 

 そうして、俺と死柄木は近くの日陰になっているベンチに移動した。

 

「大体、何でも気に入らないんだけどさ。今1番腹が立つのはヒーロー殺しさ」

 

「ステインか……。お前さん達と何か繋がりがあるんじゃ?って噂になっていたが?」

 

「……あると言えばあるが、手を組んでる訳じゃない。ヤツも勝手に消えたしな」

 

 憮然とした声色からして、死柄木はステインが気に食わないんだとは感じられる……。

 

「すると、だ……世間はあっという間にヒーロー殺しを忘れた。ヤツがヒーローを殺し回った時は騒いでたのに、今じゃニュースで取り上げられもしなくなった。俺達もそうだ……雄英襲撃も、保須で放った脳無も……大多数の人間は対岸の火事とすら思っちゃいない。どこで誰がどういう思いで人を殺そうが、何かをぶっ壊そうが、どいつもこいつもヘラヘラ笑って生きてる……」

 

 死柄木が言う事は、世間の現実……。

 平和に慣れた、平和が当たり前だと思っている大衆は、ニュースで悲惨な事件が報道された時は加害者に怒ったり、被害者に同情したりする。

 しかし、それも数日もすれば別のニュースで上書きされて、忘れてしまう……。

 

「なのに……ヤツの影が俺の前をチラつく……。その度にヤツの言った事を思い出して腹が立つんだ……」

 

「言った事……?」

 

「……『信念なき殺意に何の意義がある?』だとよ……」

 

 信念……。

 

「何だよ、信念って……?何かをぶっ壊すのに、そんなもん要るか……?偉そうに……あいつの信念なんて、誰も知りやしないだろ……」

 

「……お前さんの言う通りだ」

 

「あ?」

 

「信念があろうとなかろうと、ステインのやった事は同じ……結局は人を傷つけ、殺した……。ヤツに危害を加えられた側は、ただひたすら迷惑なだけだ」

 

 ヒーローを取り戻す──

 社会を正す──

 その為に誰かを血に染める──

 

 自分の歪んだ正義感や信念を、他人に、社会に押し付ける、その在り方……俺も受け入れ難い。

 奴の価値観で、インゲニウム──飯田の兄さんは危うく再起不能になり、飯田の心にも深い傷を残すところだった……。

 オールマイトを『真のヒーロー』と見定めながら、自分でその在り方を踏襲する事はなく、ヒーローですらない敵に身を窶した……。

 

「本当に、偉そうに語るな、だよな」

 

「……」

 

 死柄木の顔は見てないが、少し、ほんの少し、死柄木の気配が和らいだような気がした……。

 

 だから、俺も少し調子に乗ったのかもしれない。

 死柄木弔という男に、今なら、一歩踏み込めるんじゃないかと思った。

 

「……なあ、死柄木。不愉快なら、答えなくていいから、1つ質問させてくれ」

 

「……何だよ」

 

「……お前さん、家族は、どうした?」

 

 俺は、どうにも気になっていた。

 前世で原作……漫画の『僕のヒーローアカデミア』を読んでいる時は考えもしなかったが、この世界に生まれ変わって、実際に死柄木弔に会って、その過去に何があったのか疑問に思う様になった。

 

 その内の1つが、家族のこと──人間の人格を形成する上で、家族や家庭環境は大きなウエイトを占めているとどこかで聞いた事がある。

 

 死柄木弔の家族は……凡そ、亡くなっているんじゃないかとは推測している。

 もしかしたら存命しているのかも知れないが、どちらにせよ死柄木弔が敵に堕ちた事に何かしら関係があるんじゃないか、と想像している。

 

 勿論、黒幕の『AFO』が元凶なのは間違いないだろうが、死柄木にも何か、抱える過去があるのではないかという気がしてならない……。

 

「…………か、ぞく…………?」

 

 その時、死柄木の気配がまた変わった。

 

 なんだ、この、こっちまで心細くなるような……儚げな気配は……?

 

「……か、ぞ、く…………お父、さん……」

 

ボリ、ボリ……

 

 呟いたと思ったら、今度は空いた手で首元を掻き始めた。

 

ボリ、ボリ、ボリボリボリボリ……

 

 掻く手が段々と早くなっていく……!?

 

「お、おい、死柄木……!?」

 

「…………」

 

ボリボリボリボリボリボリボリボリ!

 

「おい、どうした!?蕁麻疹か!?痒いからってそんな引っ掻くと傷になるぞ!?」

 

「ッ!?」

 

 急に死柄木の手が止まった。

 掻き毟っていた部分は大分赤くなっている……出血寸前だったんじゃないのか?

 

 明らかに様子がおかしい……。

 

「…………お母、さん……」

 

 死柄木は掻いていた手を緩慢な動作で下ろし、その手を見つめる。

 

 俺がした質問が、死柄木の中の何かを刺激してしまったのか……?

 失敗したかも知れない……。

 俺は迂闊に、触れてはいけない部分に触れてしまったのでは……。

 

 不安から冷や汗が滲み出る……。

 万が一の時は、俺が責任を取って、命を捨ててでも、人々を守らなければ……!

 

「っ!」

 

 この気──拙い、緑谷と麗日!

 近づいてくる、俺と死柄木に気付いている!

 

 頼む、来るな、待ってくれ──!

 

 俺は死柄木から死角になっているはずの手を少し上げ、2人の方に向けた。

 『来るな』の意思を込めて、小さく横に振る。

 

 すると伝わったのか、2人の気が止まった。

 焦った……死柄木がどう動くか分からない今、騒ぎになるのは拙い。

 

「………………」

 

 焦りと安堵を表に出さないようにしていた時、死柄木が徐に俺の首から手を離して立ち上がった。

 

「……し、死柄木?」

 

 まさか、緑谷達に気づかれたか……!?

 

「………………帰る」

 

 ぼそっと、それだけ言うと死柄木はそのまま真っ直ぐ歩いていく。

 

 その背中が、妙に小さく見える……。

 

 俺はその場を動くことはできなかったが、死柄木が人混みに紛れ、姿が見えなくなってからも、その気だけは捉え続けた。

 

「気賀くん!!」

「大丈夫!?」

 

 死柄木が立ち去ってすぐ、緑谷と麗日が駆け寄ってきた。

 

「……緑谷、麗日……ありがとう、俺は大丈夫だ」

 

 2人に応えている間も、俺は死柄木の気を捉えていた。

 

「……ふぅぅ……」

 

 暫く警戒していたが、死柄木はショッピングモールの外に出て、俺の感知圏外へと消えた。

 一先ず、危機は去ったか……。

 

 それから程なくして、緑谷と麗日が通報した警察が到着し、買い物客達が施設外に避難誘導され、木椰区ショッピングモールは一時閉鎖、区内のヒーローと警察が緊急捜査に当たるも、死柄木は発見出来ず終い──。

 

 更に、緑谷達に呼ばれたA組の面々も集まり、俺が警察に事情聴取を受ける為に警察に連れて行かれた事で、楽しかったはずの買い物は強制終了──皆には悪い事をしてしまった……。

 

 警察署で『敵連合』の捜査に加わっている塚内と名乗った警部から事情聴取を受けたが、捜査に繋がるような情報は殆ど提供できず、死柄木弔の人相と話した事を伝えるだけで終わった。

 

 警察から連絡を受けた母ちゃんが迎えに来てくれて、2人してパトカーで家まで送ってもらい、その日は終わる事となった……。

 

 家に帰ってスマホを見たら、クラスメイト達(爆豪を除く)から心配のメッセージが送られて来ていて、緊張した心が和らいだ。

 

 折角のテスト明けの休日が、こんな事になるとは……本当に油断してた。

 脅威はすぐ傍にいる……忘れていた。

 常日頃、気を張り続ける事は凡そ不可能……だが、だとしても忘れてはいけなかった、危機感を……。

 

 

 

 そして翌日──

 

 

 

「──とまあ、そんなことがあって、敵の動きを警戒し、例年使わせて頂いてる合宿先を急遽キャンセル。合宿の日程・場所・内容、一切合切を再検討し、当日まで明かさない運びとなった」

 

 朝のホームルームにて、相澤先生が合宿の栞を破り捨てながらそう告げてきた。

 また、安全のため夏休みの間、長期の外出を控える様にと学校側から要請が出されることになった。

 『敵連合』による雄英、及び雄英関係者襲撃を危惧しての措置だそうだ。

 

「合宿の日程は決まり次第、こちらから連絡を入れる。まあ、それまでは束の間、各自気を抜かずに夏休みしてろ。以上だ」

 

 ざわめきはありつつも、ホームルームは迅速に終了──

 

 

 それから数日はテストの返却や解説、それに伴う復習的授業などを消化……。

 その後、全校生徒が集まっての終業式を経て、俺達は夏休みに入った。

 

 

 

 

<side:死柄木弔>

 

「…………」

 

 路地の暗がり……先生に拾われた場所……。

 

 

 

「…………」

 

 住宅地の道……どこかのババアが、俺に声をかけて……ビビって逃げた場所……。

 

 

 

「…………」

 

 公園……“みっくん”と、“ともちゃん”と、ヒーローごっこをして遊んだ場所……。

 

 

「…………」

 

 家……別の家が建って、別の誰かが住んでるけど……(ボク)の家があった場所……。

 

 (ボク)が、最初に壊した場所──

 

 15年前……死柄木弔()が、まだ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(ボク)だった時──

 

 

 

『⬛︎⬛︎一家惨殺事件──

 

崩壊した住宅内から住人と思しき、激しく損壊した遺体が発見された。

県警が住宅内から採取した遺体の一部などを鑑定した結果、死亡したのは実業家・⬛︎⬛︎孤太郎さん(32)、孤太郎さんの妻・直さん(31)、直さんの父・千津夫さん(56)、その妻・真子さん(53)、孤太郎さんの長女・華さん(7)の5人。

現場の様子から、県警は敵による【個性】殺人事件と見て捜査している。

 

なお、同居していた孤太郎さんの長男・⬛︎⬛︎さん(5)の行方が分かっていない。

⬛︎⬛︎さんのDNAは確認されておらず、敵に連れ去られた可能性があるとして、県警は行方を捜索している』

 

 

 

「…………ああ……“そういうこと”かよ…………」

 

 

 

 先生……。

 

 

 




※年齢表記は情報不足により独自設定。
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