僕のヒーローアカデミア A Little Extra   作:ジョン堂

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 お読みいただき恐縮千万。


エピソード35 死柄木弔オリジン?こんなオリジン、あるかよ……!?

 午後から23時45分──

 

 俺は家を抜け出し、死柄木がオールマイトに指定した市営多古場海浜公園、その入り口にやって来た。

 家からは少し遠かったが、闇夜に紛れて【擬似・舞空術】で飛んできた。

 

 これからここで、死柄木とオールマイトが対面する──。

 

 無理を言って立ち会わせてもらう事にしたが、流石に緊張する……。

 これはきっと、俺が在る事で発生した原作『僕のヒーローアカデミア』には無い事件のはずだ。

 何故なら、木椰区ショッピングモールからこれまでの全てに、俺という原作に存在しないイレギュラーが関わっている……。

 

 俺の存在が及ぼしてきた影響が、今日の事件を引き起こしたとすれば……勝手ながら、俺には2人の対面に立ち会う責任があると思う。

 

 そして、もし、万が一……戦いが起こってしまったのなら、俺も戦う覚悟を決めてきた。

 俺の所為で、この世界の未来が悪い方向に狂ってしまうのは……辛い。

 

 そうならない様に祈るし、そうならない様に力を尽くしたい──。

 

「──私が、静かに来た……!」

 

 緊張しながら待っていると、マッスルフォームのオールマイトが音もなく来た。

 ジャケットを着ているが、隙間からゴールデンエイジのコスチュームが見えている。

 オールマイトも万が一を覚悟して備えてきたようだ。

 

「待たせたかい?」

 

「いえ、俺も来たばかりです」

 

 やり取りは待ち合わせのソレだが、緊張感が違う。

 

「それで……死柄木弔は、もう居るかな……?」

 

「……はい、向こうの方に……多分、海岸の手前の林の中かと」

 

 尋ねられて、俺は気で捉えていた死柄木の位置を伝える。

 

「他に、誰かいるかい?」

 

「いえ、俺が感知できる範囲内、少なくとも公園内には、俺達以外に人の反応はありません」

 

 死柄木は本当に1人で来た……。

 やはり違和感だ、これまでの死柄木弔と何かが違っている……。

 

「そうか……では、行こうか」

 

「はい……!」

 

 俺とオールマイトは、海岸に向かって歩き出した。

 人気のない公園の道はシンと静まり返り、緊張感を煽るように感じられる……。

 

 早足でもなかったが、数分歩くと、林を抜けて開けた海岸に出た。

 

「…………」

 

 海岸を見たオールマイトは、いつもの笑顔ではあるものの、どこか陰を感じさせる。

 恐らく、緑谷とのトレーニングを思い出しているんだろう。

 

 そんな場所で、緑谷や自分達の宿敵と対面する……さぞ、心境は複雑だろう。

 

「──よお、早かったな……オールマイト」

 

「「!」」

 

 俺達を見つけたか、死柄木弔が姿を現した。

 顔に人の手を張り付けた、敵としてのスタイルで……。

 

「……やあ、こんばんわ。死柄木弔」

 

 オールマイトが一歩進み出る。

 恐らく、俺を庇っているんだろう。

 既にその全身から、No.1ヒーローの威圧感が滲み出ている。

 

「それで?私に話とは何かな?」

 

 オールマイトが本題を促す。

 すると、死柄木は張り付けた手の隙間から、ジッとオールマイトを見据える。

 

「……『志村菜奈』を、知ってるよな……?」

 

「ッ!!」

 

 死柄木から出た名前に、オールマイトから笑顔が消え、圧が増した。

 

「ッ……ヤツから、聞いたのか……!?」

 

 オールマイトの声が震えている。

 志村菜奈、俺は知らない名前だ……オールマイトと関係のある人物らしいが……?

 

「……はは、その反応で大体分かった」

 

 死柄木が薄く笑う。

 しかし、それは嘲笑というより……何だろう、乾いた笑いというか……諦め?

 

「……死柄木、誰、なんだ?志村菜奈って……?」

 

 俺は気になって、思わず尋ねた。

 

 すると──

 

「……“おばあちゃん”」

 

「「は?」」

 

「志村菜奈は、俺のおばあちゃんだよ……」

 

 おばあちゃん……?

 死柄木の……?

 

 その人がオールマイトと関係が──

 

「……………………は?」

 

 思考が止まった。

 オールマイトの表情──笑顔どころか、No.1の威圧感も、血の気すらも消えた、その顔を見た瞬間に。

 

「なるほど……先生はアンタのその顔が見たくて、俺を育てた訳だ……」

 

「ッ……!?ぁ……!」

 

「ちなみに、おばあちゃんのことは先生から聞いたんじゃない。俺が自分で思い出して、自分で調べた」

 

「っ、な……に……!?」

 

「俺の本当の名前は『志村転弧』……お父さんが『志村弧太郎』っていって、おばあちゃんの、志村菜奈の息子らしいぞ」

 

「……ッ〜〜!!??」

 

 言葉が出ないオールマイトを見据えながら、死柄木は自身の生い立ちを語る──。

 

 

 死柄木弔──志村転弧は、裕福な家庭に生まれた。

 

 暮らしには何不自由はなかった。

 

 しかし、家長である父・弧太郎は築いた家庭にあるルールを定めた。

 

『家の中で、ヒーローの話をしない事』

 

 このルールを破れば、例え外で幼い転弧が友達とヒーローごっこをした程度の事でも、そうと知れば家の外に放り出して謝罪と反省を強要した。

 

 このルールは、ほぼ転弧に対する禁則に等しかった。

 

 当時、転弧は『無個性』であると思われていて、それ故にヒーローになることは出来ない──だから父・弧太郎は転弧を早々にヒーローから引き離し、その道を諦めさせようとしていたらしい。

 

 他の家族達は、そんな父・弧太郎を多少説得しようとするも結局止めようとせず、泣く転弧を後で慰めはしても庇おうとはしなかった。

 

 そんな日々が続いたある日、姉の“華ちゃん”がこっそり父・弧太郎の書斎に転弧を誘った。

 父・弧太郎には『決して入るな』と言われていた書斎に──そこで見せられたのが、机の引き出しに仕舞われた祖母・志村菜奈の写真だった。

 

 その時、姉から教えられたという──祖母・志村菜奈がヒーローだったと。

 その時、転弧は家族にヒーローがいた事が嬉しかったそうだ。

 その時、転弧は今ならどんな困難にも立ち向かえる気がしたそうだ。

 

 しかし、それも父・弧太郎の怒声と怒りの形相を見るまで……。

 

 華ちゃんは父の怒りを恐れ、書斎に入った罪を転弧に擦りつけた。

 

 そして、ついに弧太郎は、転弧に手を上げた。

 

『あれはおばあちゃんじゃない』

『子どもを捨てた鬼畜だ』

『いいか、ヒーローというのはな……』

 

『他人をたすける為に、家族を傷つけるんだ』

 

 そう言って、振り上げられた父の手を……家族は誰も止めなかった。

 

 

 

 そして、事件は起きてしまう──。

 

 

 

 夜になっても、転弧は外に出されたままだった……。

 

 辛くて、悲しくて、泣き続けていた転弧……。

 唯一、味方だと思えるのは、もはや愛犬のモンちゃんだけ……。

 

 慰めるように寄り添ってくれるモンちゃんを、転弧はその手で抱きしめた。

 縋り付くように、その柔らかい体をぎゅっと掴んだ。

 

 

 

 次の瞬間──モンちゃんは崩れた。

 

 

 

 今だから分かること──転弧はこの時、【個性:崩壊】が発現してしまったのだ。

 

 しかし、当時の転弧には何が起きたのか分からなかった。

 今さっきまで、自分に寄り添ってくれていたモンちゃん──それが自分の手の中で、バラバラに崩れ、その肉片と共に血の池を作っていた。

 

 その余りのショックに、転弧は呼吸も出来ず、叫ぶことも声を出すことも出来なくなった。

 

 そんな転弧のところに、華ちゃんがやって来てしまう。

 初めは何かを言っていた華ちゃんも、転弧と崩れたモンちゃんの姿に、恐怖でパニックを起こしたか逃げ出してしまう。

 

 転弧は助けを求め追いかけ、縋りつく様に華の手と服を掴んだ。

 

 すると、華ちゃんもモンちゃん同様、崩れ落ちた。

 

 ただ、助けて欲しかっただけなのに──華ちゃんも物言わぬ血と肉片と化した。

 転弧の絶望が加速し、それに呼応するように【個性:崩壊】は暴走し、周囲に伝播し文字通り崩壊させていく。

 

 庭も、家も、やがて異変を察知し外に出てきた祖父母も、自身が崩れるのも顧みず駆け寄り手を伸ばした母も……。

 

 何も分からない転弧には止めようがなかった。

 

 しかし、最後に駆けつけた父・弧太郎は──助けを求めようとした転弧に、その手ではなく、手近にあった高枝切り鋏を叩きつけた。

 

 その瞬間──痛みと共に転弧の中でナニカが弾けた。

 

『死ね』

 

 実際は絶叫だったそうだが、この言葉と噴き上がる殺意と共に、転弧は自分の意志で、父・弧太郎に【崩壊】を向け──殺した(・・・)。

 

 

 

 そうして、家族も家も崩壊させた転弧は、茫然自失のまま街を彷徨い歩いた。

 誰もが転弧の只ならぬ様子に恐れ、顔を逸らし、逃げ、誰一人手を差し伸べはしなかった……。

 

 そして、路地裏で座り込んでいた転弧に声をかけたのが『AFO』だった。

 

 『AFO』は転弧を保護し、住む場所と生きる糧を与え、そして教育(・・)を施し、彼を『死柄木弔』とした……。

 

 

「「………………」」

 

 俺も、オールマイトも、声が出なかった……。

 

 悲惨……。

 凄惨……。

 

 表す言葉はあれど、どれもが陳腐に思える……。

 死柄木の過去は、それほどに……あんまりにもあんまりなものだった……。

 聞いた俺達の方が、絶望してしまうほど……。

 

 酷過ぎる……。

 当時の死柄木──幼い転弧が一体何をしたというんだ……?!

 

「……と、まあ、ここまでは前置きみたいなもんさ。本題はここからだ……」

 

 本題……?

 今までのが、前置き……?!

 

 何でもない事のように言う死柄木だが、俺は恐怖を感じていた……。

 これ以上、まだ何があるっていうんだ……!?

 

「なあ、オールマイト。お前さ……先生の、『AFO』の事は多分、俺より詳しいよな?」

 

「ぁ、ああ……」

 

「じゃあ聞くが──先生(AFO)が、偶然(・・)、裏路地で見つけた見ず知らずの餓鬼を拾って育てようなんてタマか?」

 

「ッ……!!」

 

 瞬間、オールマイトの顔が強張った。

 

 そんなオールマイトの答えを待たず、死柄木は質問を続ける──。

 

「その餓鬼が、偶然(・・)、散々自分に楯突いたヒーローの、志村菜奈の孫だった──なんて都合のいい事あると思うか?」

 

「ッッ!!??」

 

 死柄木の言葉を聞く度、オールマイトの顔から血の気が引いていく……。

 

「そもそも、先生(AFO)が志村菜奈(おばあちゃん)と志村弧太郎(お父さん)の事を知らなかったと思うか?」

 

「ぁ……ぁ、ぁ……!」

 

「知ってて、志村菜奈(おばあちゃん)の息子である志村弧太郎(お父さん)を、何もせずに遠くから見てただけなんてあり得るか?」

 

「ぁ……ッッ~~~~……!!??」

 

「お前と先生(AFO)って、俺が生まれる前から戦ってたんだよな?で、志村菜奈(おばあちゃん)以上に、先生(AFO)の手下を何人も潰してきた。先生(AFO)からすりゃあ、目障りこの上ない相手だ……嫌がらせの10や20、考えるよな?で、先生(AFO)は頭も口も回る……。【個性】とか使わなくても、言葉だけで志村弧太郎(お父さん)をヒーローアンチに仕立てるぐらい、簡単だと思わないか?それと……」

 

 言葉を続けていた死柄木は、徐に掌をこちらに向けてくる。

 

「この【崩壊】の【個性】……本当に、俺が生まれ持った【個性】だと思うか?」

 

「――ッ!!??」

 

「覚えてる限り、志村弧太郎(お父さん)もお母さんも、こういう【個性】じゃなかったはずだ

……でだ、先生(AFO)なら、そういう事(・・・・・)もできるよな?」

 

「〜〜〜ぁぁぁあああああ──……!!!!」

 

ドッ

 

 オールマイトが……膝を、ついた……。

 

 いつも、どんな凶悪敵を相手にしても、膝を折ることのなかった……不撓不屈のNo.1ヒーローが……。

 耳を塞ぎたくなるような、悲痛な叫びを上げて……。

 

 俺は、それを、黙って見ている事しか出来なかった……。

 頭の奥がチリチリと焼けるようで、腹の中を握りつぶされているようで……動く事も、出来ない……。

 

 死柄木弔を、志村転弧を取り巻く全ての事が……志村転弧を、死柄木弔に仕立て上げるために『AFO』が仕組んだことだった……!?

 

 なん、なんだ……!?

 なんなんだ、『AFO』って……!!??

 

 イカれてる……!!

 狂ってる……!!

 

 いいや、そんな生優しいもんじゃない……!!

 

 鬼……悪魔……魔王……いいや、そんな言葉じゃ足りない。

 もっと邪悪で、もっと凶悪で……もっと、もっと……気持ちの悪い、言い表しようのない、ナニカ……!

 

 とにかく、人間じゃない……!!

 この世に在っては駄目な……この世に生まれては駄目な存在だ……!!

 

 そんな悍ましいものが、この世界の、この日本の何処かに潜んでいる……!

 考えただけで背筋が寒くなる……!

 

「ぅ、ぐ……!」

 

 俺は今、これまでの人生で感じたことのない恐怖と嫌悪、そして怒りを感じている……!

 頭の中がぐちゃぐちゃだ……!

 

 許せん……!

 

 こんなことが……あんな奴が……許されていいはずがない!!

 

 例え神が許しても……俺は、俺が、絶対に、絶対に許さん……!!!!

 

 

 『AFO』──俺の手で、この世から消し去ってやる!!!!

 

 

ボオォ

 

「ッ!?き、気賀、少年……!?」

 

 オールマイトの声は聞こえたが、それに応える余裕はなかった。

 

「……死柄木、『AFO』は、どこにいる……?」

 

「……さあな。餓鬼の頃は時々会ったが、近頃はモニターの向こうから声だけで、もう何年も会ってねえから、知らねえ」

 

「……そうか」

 

 死柄木にすら姿も見せないか……。

 なら仕方ない、自力で探し出してやる……。

 

 何処に隠れようと、必ずな──。

 

 だが、その前に……。

 

「……お前さん、これから、どうするんだ?」

 

 壮絶を極めた過去を思い出し、『AFO』の企みに気付いた今……死柄木弔がどうするのかが気にかかる。

 

「……どうもしねえよ」

 

「?」

 

 どうも、しない……?

 

「全てを思い出して、全てを理解した……。俺の中にある全てが、『AFO(先生)』に与えられたものだった……。俺が選んだ事なんて、何も無かった……」

 

 そう言うと死柄木は、オールマイトに顔を向ける。

 

「『オールマイト、お前が嫌いだ』」

 

「ッ!」

 

「そう思ってた……この感情も、俺のじゃない、『AFO(先生)』のだった。それだけじゃない──気に入らないのも、腹が立つのも、壊したいのも……全部、『AFO(先生)』に植え付けられた『AFO(先生)』のものだった。そうと気付いたら、頭の奥で何かが弾けて、全てがどうでもよくなった……」

 

 ふいと顔を逸らすと、死柄木は顔につけていた手を外す。

 

「敵(ヴィラン)も、ヒーローも……『AFO』も、オールマイトも……社会も、大衆も……何もかも、もうどうでもいい。興味が失せた……」

 

 外した手をポケットにしまった死柄木は、徐に上を向く。

 しかし、その目は何かを見ているようには思えない……。

 

「だから、もう何もしない。けど、何かに振り回されるのは、もう御免だ……だから、俺はもう消える」

 

「し、ッ──転弧少年……!」

 

「──俺を転弧って呼ぶな」

 

「っ!?」

 

 強い拒絶の言葉──声を掛けたオールマイトの体が揺れる。

 

「転弧はもう過去の名前だ。呼ばれたくねえ……過去なんか、もう要らないんだ」

 

「死柄木……」

 

 俺が思わず呼ぶと、死柄木は俺の方を向く。

 

「……あー、けど死柄木も嫌だな。それも『AFO』に付けられた、あいつの苗字(・・・・・・)らしいし……」

 

「そうか……。じゃあ、何で呼べばいい?」

 

 俺がそう聞くと、死柄木は軽く溜息をついた。

 

「……仕方ねえから、俺の事は『トムラ』と呼べ。これも結局『AFO』に付けられた名前だが、他に適当なのが思いつかねえ……。尤も──」

 

 死柄木──トムラが薄く笑う。

 

「もう、会う事もねえだろうがな」

 

 そう言って、トムラは俺達に背中を向ける。

 

「ああ、そうだ。お前ら、林間合宿ってのやるんだろ?」

 

「え?あ、ああ……」

 

「『AFO』、場所とか日時、知ってたぞ。これから変更されることもな」

 

「「!?」」

 

 トムラが告げた事実に、俺もオールマイトも目を見開く。

 

 トムラ曰く──全てを思い出す前から、『敵連合』に戦力が集まってきており、林間合宿の襲撃を計画していたという。

 その過程で、『AFO』から教えられたそうだ。

 

「前にカリキュラムってヤツを盗んで、大まかな時期は知ってたが、俺達が幾ら調べても正確な場所や日時は分からなかった。だが、『AFO』はあっさり調べ上げた。なんでも、教えてくれる『トモダチ』がいるんだとよ」

 

「ッ!」

 

 トモダチ……それはつまり──内通者!!

 

「何もかもあいつの思い通りになるのは癪だからな、一応教えとく」

 

 トムラは、そう言って片手を上げる。

 

「あとは──精々、頑張れ」

 

 そして、トムラは林の向こうに去って行った……。

 

 最後の言葉が、皮肉だったのか、せめてもの応援だったのか、俺には分からない。

 

 だが、俺は心に決めた。

 

 必ず『AFO』を倒す──俺の全てを賭けて!

 

 

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