僕のヒーローアカデミア A Little Extra 作:ジョン堂
あのトムラとオールマイトの対談の日から暫く──遂に林間合宿の日がやって来た。
連絡が来たのは直前も直前、昨日の昼過ぎ……。
しかも、未だ合宿所は明かされないまま、朝一、俺達ヒーロー科1年は用意した荷物を持って雄英に集合した。
「うお!?気賀いきなり金髪!?イメチェン!?」
「違う違う。【個性】由来の変化だよ」
あの日以降、俺は胸に『AFO』絶対打倒の決意を定め、日々特訓に励んできた。
あの日トムラから聞かされた衝撃の事実、『AFO』の邪悪極まる所業への激しい怒りにより、俺は意図せず【疑似・超サイヤ人】というべき状態への覚醒を果たした。
まさかそんなものまで内包した【
ちなみにその事実に気づいたのは、家にこっそり帰って部屋で窓に映る自分の姿を見た時である。
新たな境地【疑似・超サイヤ人】に慣れる為、俺は四六時中その状態でいるように努めている。
家族には【個性】の影響だと説明して受け入れてもらった。
おかげで今日までにある程度コントロールできる様になった。
今までの技の威力が数段上がるのはいいが、消耗も同じく上がるし、細かな調節が逆に難しくなるので良いことばかりでもないが、使いこなせば憎き『AFO』を倒す力になるに違いない。
この合宿中も気が抜けない……。
トムラは手を引くと言っていたが、『AFO』や『敵連合』の襲撃まで無くなるかは分からないからな。
トムラと話した内容は既にオールマイトから根津校長・相澤先生に共有されていて、俺も既に事実を知っている身として認識を共有してもらっている。
合宿先での警戒は相澤先生と俺が担当し、オールマイトが即応態勢で雄英に待機、襲撃を察知したらすぐに雄英に連絡して出動する手筈になっている。
内通者への警戒から、今回の合宿が終わるまでは情報共有は最小限に留め、合宿の後で他の先生方にも様子を見て明かしていくそうだ。
そんな訳で、俺も警戒はしつつもクラスの皆にそれを悟られないように振る舞う必要がある。
中々、厳しいが……嫌な話、クラスの中に内通者がいる可能性も捨てきれない。
やるしかないのだ……おのれ、『AFO』のドブカス外道め……!
「え?A組補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?あれえ!?体育祭でA組はB組より好成績修めてたはずなのにねえ!?あれれれれ『トス』──カフッ!?」
「ごめんな〜」
物間は相変わらずアレで、拳藤は気苦労が絶えないようだ。
「物間、怖……」
そう言ったのはB組女子の1人『柳レイ子』──左目が隠れた灰色の髪、目の下の隈、何故か手を前に突き出し手首を垂らす幽霊のようなポーズをしている。
他にも、体育祭で上鳴を完封瞬殺した塩崎、金髪ロングヘアーと二本の大きな角を持つ『角取ポニー』、茶色のロングボブで目を隠している『小森希乃子』、肩より長いウェーブがかった黒髪と尖った目が特徴の『取蔭切奈』、黒髪のボブヘアーの『小大唯』、とB組女子達が集まっている。
「体育祭ではなんやかんやあったけど、まっ、よろしくね、A組!」
「ん」
そう気さくに言ってきたのは取陰、言葉少なく頷いて同意を示したのは小大だ。
これまであまり接点のなかったB組の面々──敵への警戒がなければ、この合宿中に彼らとの交流も楽しみたいところだったんだがなぁ。
「A組だけじゃなくB組の女子まで……ジュルリ……よりどりみどりかよ『ドス』──ガフッ!?」
「余計な仕事増やすなクソが」
ヤバい顔で涎を垂らす峰田の延髄に手刀を強めに叩き込む。
ったく、このエロボケブドウが……ただでさえ気を張ってなきゃならないってのに……!
「……相澤先生、このバカ、置いていきません?」
「……個人的にはそうしたいが、教師としてはそうもいかん。そのままバスに突っ込んどけ」
そう言って峰田を睨み下ろした相澤先生は、赤黒い怒りのオーラを纏っていた……。
ともあれ、A組・B組全員が揃ったので、それぞれ速やかにバスに乗り込み、合宿所に向かって出発──ただし、A組とB組で向かう方向が違う。
内通者対策の一環だろうか?
実は合宿所がA組とB組で違う場所にしてるとか?
流石に、この辺りは詳しく聞いていないから分からないな。
「お前ら、1時間後に1回バスを停車させる。その後しばらく──」
「音楽流そうぜ!」
ワイワイガヤガヤ♪
皆は旅行気分で大分浮かれている。
俺もきっと、『AFO』や『敵連合』の事がなければこの空気に混じっていただろう。
だが、真っ当な高校生の姿でもある。
相澤先生も普段厳しい言動をしてはいるが、その辺りに理解がある。
だから今、皆を叱ろうとしないんだろう。
せめて今ぐらいは、てな。
やがて俺達を乗せたバスは市街地を抜け、周囲が木や山に囲まれた山間の道路を走り、高台の何もないスペースに停車する。
「ようやく休憩か〜」
「オシッコ!オシッコ!」
皆がバスから降りて強張った体を解す。
流石に峰田も目を覚ましていた様だ、催しているらしく内股でちょこまか動き回っている。
「つか何ここ?パーキングじゃなくね?」
「あれ?B組は?」
切島や耳郎が辺りを見渡して疑問符を浮かべる。
崖下に広がるのは一面の森……今のところ、感知できる範囲に敵らしき気配は無し。
代わりに、少し遠くに知らない気が2つ、側にブラドキング先生や拳藤達の気を感じる。
そして俺達のすぐ近くに知らない気が2つ、小さい気が1つ──うん、【擬似・超サイヤ人】状態だと、気を感知する範囲が大分上がっているな。
「何の目的もなくでは意味が薄いからな」
『え?』
相澤先生の何気ない一言──俺はその時点で何となく察した。
「──よう、イレイザー!」
「ご無沙汰してます」
突然掛かった声に振り向き、相澤先生が頭を下げる。
そこに現れる2人──
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルドワイルド!プッシーキャッツ!!」」
掛け声と共にポーズを決める2人──猫の手っぽいグローブ、ヒラヒラしたフリル付きミニスカのコスチューム、機械的猫耳、猫っぽい尻尾──赤と青でそれぞれ色分けした女性ヒーロー達がそこにいた。
なんか『ギニュー特戦隊』を思い出してしまった……。
「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」
「──連名事務所を構える4名1チームのヒーロー集団!!山岳救助などを得意とするベテランチームだよ!!」
相澤先生の紹介をインターセプトするヒーローオタク・緑谷。
ホント、色んなヒーローをよく知ってるな。
「キャリアは今年で12年にもなる──『ガッ!』ぶっ!?」
「──心は18ィ!!」
プッシーキャッツの青い方の女性ヒーローが緑谷の顔面にアイアンクローをかます。
反応と踏み込みが早い……!
「……心は?」
「18……!」
必死かよ……。
ヒーロー科高校を卒業して即ヒーロー活動開始として……キャリア12年……。
ああ、そういう……。
「お前ら、挨拶しろ」
『よろしくお願いします!』
全員でプッシーキャッツの2人に挨拶――ちなみに青い方が『ピクシーボブ』、赤い方が『マンダレイ』というそうだ。
「ここら一帯は、私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設は、あの山の麓ね」
そう言ってマンダレイが指を差す――が、目を凝らしても森しか見えない。
距離の問題というより、地形と樹木のかみ合いで隠れて見えない。
『じゃあ、なんでこんな中途半端な場所に……?』
『もしかして……?』
クラスの皆が、顔を引き攣らせ始める。
現状から相澤先生達の意図を把握し始めた様だ。
『バス、戻ろうか……!』
『うん、うん……!』
「今は、午前9時30分。早ければぁ……12時前後かしらん」
マンダレイが含みを持たせて言う。
決定的――皆が後退る。
「ダメだ、おい……バスに戻れ!早く!」
切島が叫ぶ――だが、それじゃあダメだ。
「違う!全員崖から飛べ!」
『はあ!?』
何かされる前に、俺は先陣を切って崖から飛び降りる!
「合宿はもう始まってるぞーー!!」
『!!』
俺の声掛けにすぐに反応したのは──爆豪、緑谷、轟、飯田。
「待てやッ!」
BOM!
「流石気賀くん!判断が早い!」
バチチ!
「やっぱそういうことか」
パキキ!
「いつまでも遅れをとる訳には!」
ドルン!
【爆速ターボ】、【OFA・フルカウル】、【氷結】、【レシプロ】──各々の【個性】で崖を降りる4人。
その直後、崖上から突如土石流が起こり、残っていたクラスの面々が弾き出されてくる。
全員が空中で手足をバタつかせて慌てた様子を見せる──が、それも1、2秒の事。
「ッ、梅雨ちゃん!」
「ケロ!透ちゃん!」
「ありがと梅雨ちゃん!」
麗日が【無重力】で自分と側にいた梅雨ちゃんを浮かし、葉隠は舌で絡め取る──。
「掴まれ!」
「ワリぃ!」
「すまない!」
「うおマジサンキュッ!」
障子は【複製腕】を伸ばして砂藤・尾白・上鳴を確保、同時に皮膜を広げて落下速度を軽減、態勢を立て直す──。
「峰田!口田!」
「うぎっ!?」
「あ、ありがとう……!」
瀬呂は【テープ】で峰田と口田を捕まえつつ、崖にも貼り付けてロープならぬテープアクション、墜落を回避──
「耳郎さん!芦戸さん!こちらへ!」
「助かるよ!」
「ありがとヤオモモー!」
八百万は【創造】で大きめのエアバックを作成し、耳郎と芦戸を誘導、衝撃から身を守った──。
「オラァ!!」
切島は【硬化】で全身を固めた上で両腕を交差し、完全防御態勢、墜落したが無傷──。
「ビューン⭐︎」
青山はヘソビームで落下の衝撃を相殺──。
「【
『アイヨ!』
常闇は【
そうして、A組全員が崖下に怪我なく着地した。
「へえ〜、やるねえ。よく鍛えてるみたいじゃない、イレイザー?」
「俺はするべき指導しかしてませんよ。あいつらが自分達で鍛え上げた結果です」
俺の耳にそんな会話が入った。
一先ず、小手調べはクリアってところかな。
「おーい!私有地につき、【個性】の使用は自由だよー!12時半までかかったキティはお昼抜きねー!今から3時間、自分の足で施設までおいでませー!」
上からマンダレイの声が掛かる。
「――この『魔獣の森』を抜けて!」
その声に俺達は目の前に広がる深い森を見やる……。
誰かが『ドラクエめいた名称』と言った通り、鬱蒼とした森はそういうのが出そうな雰囲気を醸し出している……。
危険そうな気は感じないが……相澤先生やプッシーキャッツがいるし、わざわざ『魔獣の森』なんて呼び方をした以上、何かあるのは間違いなかろう。
「ったく……雄英、こういうの多過ぎだろ」
「文句言ってもしゃあねえよ。行くっきゃねえ」
耳郎がぼやき、切島が皆を鼓舞しつつ立ち上がる。
シュン!
と、その脇をいつにないスピードで駆け抜け、森へ走る峰田――限界ギリギリなようだ。
『グルルル……』
そこへ立ち塞がるように現れた――『魔獣』。
『ま、マジュウだぁー!?』
て――幾らなんでもあんな生物いるワケねえ!
よくよく感知してみれば気も感じないし、多分【個性】による何かだ!
「ふん!」
高速で峰田と魔獣の間に割って入り、【オーラ】を纏わせた拳を叩き込む!
ボコォ!!
見た目より、思ったより脆いし、文字通り砕けた――飛んだ破片を掴み取ってみる。
握ると多少固いが、難なく崩れた。
「これ、土くれだな」
やはり【個性】で作られた人形の類――マンダレイかピクシーボブか。
「土くれ……そうか!ピクシーボブの【個性】!」
緑谷が特定――曰く、ピクシーボブの【個性】は【土流】、土を自在に操ることができるという。
系統的にはセメントス先生の【セメント】と同じだな。
特に、フィールド次第で無敵に近い有用性を発揮するってところが――!
ズン、ズン……!
グルルル……!
メキメキ……!
なるほど、『魔獣の森』……ピクシーボブの土魔獣が襲い来る森って訳だ。
悠長にしていたら囲まれる――速攻で突破して施設まで進むしかない!
「行くぞ!A組!!」
『おう!!』
改めて――林間合宿スタートだ!!