僕のヒーローアカデミア A Little Extra 作:ジョン堂
「驚いたわね……」
そう呟くのはプロヒーロー『マンダレイ』。
宿泊施設の前にて、相澤先生・マンダレイ・ピクシーボブの3人が待つ中、森の中から土埃に塗れたA組の面々が姿を現す。
「まさか、日が暮れる前に辿り着くなんて……」
現在の時刻は14時50分、『もう始まっている』方式の合宿開始から5時間20分──ミッション一発目『魔獣の森を抜けろ』、クリアである。
『ハァ……ハァ……!』
流石に皆、疲れ切っている。
「な、何が3時間ですかぁ……!」
膝に手をついた瀬呂が、プッシーキャッツに文句を言う。
肌が目に見えてカサついているのは、【テープ】の出し過ぎによる症状か。
「悪いね。『私達なら』って意味、アレ」
「実力差自慢の為か……やらしいなぁ……!」
マンダレイの返答に、片手で頭を押さえた砂藤がぼやく。
疲労と【シュガードープ】の糖分切れによる眠気を堪えているようだ。
さて、何故俺がそんな皆を見ているかというと──。
「そうは言うけどぉ、ここに3時間どころか
マンダレイが俺の肩に手を置く。
そう、俺は1人、『魔獣の森』を先に抜けて合宿所に辿り着いていたのだ。
最初、俺は皆を援護しつつ、皆と『魔獣の森』を抜けるつもりだった。
しかし、皆に号令をかけた直後、爆豪から「待てや」が掛かった。
曰く──テメェは先に行きやがれ、と。
「テメェならこんな雑魚の森、とっとと抜けられんだろ。俺らもこの程度、自分の力で抜けられなきゃあ端から合宿の意味ねえんだよ」
俺らを勝手に足手纏いにするんじゃねえ──この言葉に緑谷・轟・飯田が同意し、クラス中に伝播して総意となった。
そうまで言われてしまったら、俺はもう先に行くしかなかった。
【擬似・超サイヤ人】のパワーを駆使して、【擬似・舞空術】の低空飛行で森の木々を縫うように飛び──下手に森の上を飛ぶと相澤先生に睨み落とされそうだから──妨害に現れる土くれ魔獣をスピードを落とさず殴り砕き・蹴り砕き、1人で先に合宿所に辿り着いたのだ。
結果、プッシーキャッツには目を剥いて驚かれたが昼メシゲット──疲労を回復し、皆が来るまで【擬似・超サイヤ人】制御の自主トレをして過ごしていた。
「いやぁ、でもホント驚いたよ。正直、もっともっと掛かると思ってたからねえ」
ピクシーボブが言う。
「こっちのぶっ飛び金髪キティもそうだけど、私の土魔獣がこうも簡単に攻略されるなんて。いいよ、君ら──特に、そこの4人」
指差されるのは、爆豪・轟・緑谷・飯田の4人──
「躊躇の無さは経験値によるものかしらん?」
ピクシーボブはそう読むが、それが該当するのは轟と緑谷くらいな気がする。
あいつらは一応、保須市に行ったからな。
爆豪のソレは天性に近いもの、飯田はインゲニウムの事からくる決意、という様に俺は感じる。
「3年後が楽しみ!!金髪キティと合わせてツバつけとこーー!!」
うわなんかキタ!?
「峰田シールド!!」
手近な
この人マジで唾吐きかけてきやがった!
「おい気賀!ソレこっちにも寄越せや!」
爆豪を初め、緑谷達も腕でピクシーボブの唾をガードしつつ、こっちに
「こ、これはこれで……!」
なんか恍惚とした気持ち悪い笑みを浮かべる峰田……。
こいつはどこまで変態なんだ……。
「マンダレイ、あの人あんなでしたっけ……?」
「彼女、焦ってるの。適齢期的なアレで」
相澤先生とマンダレイの平坦な会話……。
適齢期……この多様性を極めた様な世界と時代でも、気にする人はやはり気にするものらしい。
「ハッ、適齢期と言えば「ガッ」──ブッ!?」
「『と言えば』て……!!」
ピクシーボブのアイアンクローが緑谷の顔面を捉える──やはり早い!
「ず、ずっと気になってたんですが……その子はどなたかのお子さんですか?」
アイアンクローが極まったまま、緑谷がさっきからいるトゲ付きキャップの少年『洸汰くん』を指差す。
プッシーキャッツが連れ歩いているのが俺も気になって、ここに到着した後でマンダレイに尋ねたら、彼女の従甥だそうな。
「──洸汰!ホラ、挨拶しな。1週間一緒に過ごすんだから」
「……」
マンダレイが呼びかけるも、洸汰くんは無視こそしてないが反応を返さない。
俺の時もそうだった。
「あ、えと僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
緑谷が洸汰くんに握手を求めて手を差し出す。
あいつ、意外に物怖じしないな……。
しかし、洸汰くんから返ってきたのは──
ズド!
「──ッ!?」
拒絶と勢いの乗ったキ◯タマパンチだった。
キン◯マは男の急所、絶対に鍛えられない唯一体外に出た内臓、大ダメージは避けられない。
緑谷は倒れた。
「緑谷くん!!おのれ従甥!!何故緑谷くんの陰嚢を!!?」
飯田が駆け寄り、緑谷を助け起こす。
「……ヒーローになりたいなんて連中と、つるむ気はねえよ」
「つるむ!?いくつだ君!!」
全身で拒絶を示しつつ、洸汰くんは俺達から離れた。
それも、仕方ないこと……。
マンダレイとピクシーボブから内緒ということで聞いたが、彼の両親は共にプロヒーローで、2年前に敵との戦闘で殉職してしまっている……。
市民を守った、ヒーローとしてこの上ない立派な最期で、名誉ある死だった……。
しかし、それは赤の他人から見ればの話……物心ついたばかりの子供にそんな事が理解できるはずもない。
そこにあるのは『両親が自分を置いて逝ってしまった──いなくなってしまった』という悲しい事実のみ……なのに世間はそれを良い事・素晴らしい事と誉め称える。
『自分が悲しくて寂しいのが、良い事・素晴らしい事……?』
洸汰くんにとって、ヒーローも、それを肯定する世間も、理解不能の、不愉快で気持ち悪い存在でしかないのだ……。
そんな話をマンダレイとピクシーボブから聞いた時、俺はふと、まだ『死柄木弔』だった時のトムラを思い出した。
『死柄木弔』と洸汰くんでは、境遇はまるで違うが……それぞれの過程を経て、『ヒーロー』という存在の肯定を前提とした人類社会に対し拒絶・反発を抱いた……そこは共通している。
俺は……彼らに何も言えない、言ってあげられない……。
彼らの怒りや悲しみを、客観的に理解する事はできても……無責任に「気持ちは分かる」なんて口が裂けても言えない……。
だって俺は、今日までに何も失っていないのだから……。
そんな複雑な思いを巡らせる一幕の後、各自荷物を持って宿泊部屋に移動して休息──明日からの強化訓練に備えることになる。
昼飯抜き(俺を除く)で空腹なのは間違いないが、皆それ以上に疲労していたらしく、部屋に入ると座り込んだり寝転んだりと、各々体を休めた。
そして、待ちに待った夕飯――
「美味しぃ!!米美味しい!!」
「五臓六腑に染み渡る!!ランチラッシュに匹敵する粒立ち!いつまでも噛んでいたい!!」
食堂に集まった俺達の前に所狭しと並べられた大皿、そこに山盛りに盛られた料理の数々に、クラス中が食欲全開――猛烈な勢いで白飯とおかずをかき込んでいく。
「ッ!土鍋!?」
「土鍋ですかあ!?」
中でも上鳴と切島のテンションがおかしい。
これにはさっきおかしくなっていたピクシーボブも引き気味に苦笑い……。
「まぁ、色々世話焼くのは今日だけだし、食べられるだけ食べな」
『あざーす!!』
そうして夕メシを鱈腹食った後、A組全員で入浴――。
「まァ、まァ……メシとかはね、ぶっちゃけどーでもいいんスよ。求められてんのって、そこじゃないんスよ。その辺、わかってるんスよ、オイラぁ……」
「よし、分かった。峰田、とりあえずそこから3歩下がりな」
『3』――皆で露天温泉を堪能する中、
「求められてるのは、この壁の向こうなんスよ……」
「よし、分かった。峰田、そこから5歩下がれや」
『2』――俺の言葉など聞く耳を持たんというのか、峰田は独白を続ける。
「ホラ……いるんスよ……。今日日、男女の入浴時間ズラさないなんて事故……そう、もう事故なんスよ……」
「よしワカッタ。峰田、そこから10歩下がりやがれ」
『1』――【擬似・
「峰田くん!!やめたまえ!!君のしている事は、己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!!」
「やかましいんスよ」
『0』……。
「壁とは、越える為に「【グラップ】」──ホデュアーーーーッッ!!!?」
警告は三度までだ。
「な、なに!?今の、なんか可哀想な悲鳴!?」
「今の声は、峰田さんですわね」
「きっとやらしい事しようとして気賀ちゃんに阻止されたんだわ」
「やっぱり峰田くんサイテーだね!」
「サンキュー!イインチョー!」
「おーう、任せとけー!フンッ!!」
「――ゲッフッ!?」
壁の向こうからの女子達の声に応えつつ、峰田は手刀でオネンネさせる。
気絶した峰田を首根っこを掴んで運び、俺は一足先に温泉から上がった。
そして峰田は脱衣所の隅に放置し、着替えて相澤先生に事の次第を報告──
「……そろそろ本気で除籍するか」
相澤先生は静かにブチギレていた。
翌朝──時刻は午前5時30分、朝日が顔を出す前に起床し、体操着に着替えて合宿所の広場に集合した俺達A組。
皆、昨日の疲れが残っているのか、単純に早起きになれていないのか、大半が眠そうにしている。
「おはよう、諸君」
相澤先生はいつもと変わらない……。
「本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる“仮免”の取得。具体的になりつつある敵意に、立ち向かう為の準備だ。心して臨むように」
合宿の趣旨を端的に説明すると、相澤先生はある物を爆豪に投げ渡す。
「爆豪、こいつを投げてみろ」
「これ、体力テストの……」
「爆豪の前回の、入学直後の記録は705.2メートル……どんだけ伸びてるかな」
「この3ヶ月色々濃かったからな!爆豪も1キロ越えとかいくんじゃねえの!?」
「いったれ!爆豪ー!」
数値で現れる成長具合――期待が膨らみクラスが盛り上がる。
「……んじゃぁ……!」
爆豪はちらっと俺を見た後、ボールを持った手を振りかぶる。
「――くッたばれぇぇ!!!」
FABOOOOM!!!
爆豪定番の掛け声と吹き荒ぶ爆風――計測ボールが空の彼方に消える。
『713.7m』
「……っ!!?」
『あれ……?思ったより……』
投げた当の爆豪を初め、クラスがその数値に驚く。
前回よりは伸びているものの、僅差……。
「約3ヶ月、様々な経験を経て、確かに君らは成長している。だがそれは、あくまで精神面や技術面、あとは多少の体力面な成長がメインで、【個性】そのものは、今見た通りでそこまで成長していない。
だから――今日から君らの【個性】を伸ばす」
「あれ?でも、前回の一位って気賀だよな?」
「そういや……今回、何で爆豪?」
相澤先生の言葉の後に、瀬呂と上鳴が疑問を口にする。
「気賀は少し特殊でな。見た目にも分かる通り、その【個性】に変化が生じている。この合宿が始まる前に当人から相談を受けて、出来る限り調べた結果、その能力が劇的に向上している事が分かった。【個性】の『覚醒』とでも言うべき現象が起きた、と我々教師陣は見ている」
『覚醒……!?』
相澤先生が言った様に、俺は『敵連合』及び『AFO』に対抗する陣営に加わる際に、この【擬似・超サイヤ人】状態について一応調べてもらった。
すると、再度の【個性把握テスト】の結果、全てが10倍近く向上している事が分かった。
【個性】では稀にこういう『覚醒』と表現される現象が起きるらしく、俺もそう判断された。
実際、元祖『超サイヤ人』も覚醒には違いないし、俺の場合も『覚醒』と言って間違ってはいないだろ。
「だが、結局諸君のやる事に変わりはない。気賀という身近な前例を見て、自分も『覚醒』を目指すのもいいだろう。存分に励め。
死ぬほどキツイがくれぐれも……死なないように――」
さぁて……踏ん張っていこうか……!