僕のヒーローアカデミア A Little Extra 作:ジョン堂
<side:out>
雄英1年生達が施設に退避し、オールマイトと対面したほぼ同刻──緑谷は1人、敵と会敵し、戦闘に突入していた。
「じっくり痛ぶってやっから、血を見せろ!!」
相手は『血狂いマスキュラー』──本名『今筋強斗』、筋骨隆々の巨漢であり、凶暴で残虐な性格をした
また、洸汰の両親を殺害した仇でもあった。
そんな敵が、運命の悪戯か、1人秘密基地で過ごしていた洸汰の前に現れ、その命に手を掛けようとした。
洸汰を気にかけ、その居場所を知っていた緑谷は、相澤の号令によってクラスメイト達と共に施設へ退避を始めた直後に離脱──その危機に駆けつけた。
「ハッハハ!血だ!いいぜ、これだよ!楽しいや!!」
マスキュラーは嬉々として緑谷に攻撃を仕掛け、緑谷も洸汰を守るため已む無く応戦──しかし、マスキュラーは強かった。
「なんだ!?それが【個性】か!?良い速さだが、力が足りてねえ!!」
【個性:筋肉増強】──皮下に収まらない筋繊維で底上げされる膂力、それを活かした格闘技……いや殺人術と言うべき戦闘技術、戦闘経験、全てが緑谷を上回っていた。
緑谷の攻撃は通じず、一方的に殴り倒されるばかり……。
【OFA・フルカウル5%】では勝てない──そう判断せざるを得ず、緑谷は苦渋の決断を持って自ら禁を破った。
「あああぁぁ!!!」
【OFA・100%】──現状では決して扱い切れず体が自壊するオールマイトと同等の力。
「スマァーーッシュ!!!」
かつての様に腕一本を犠牲に、その超パワーを発揮することで初めてマスキュラーに有効打を与えた。
しかし、そこまでしても経験で勝るマスキュラーは倒せなかった。
咄嗟に【個性】で防御する事で、ダメージを戦闘に支障がない程度に抑えたのだ。
「やめるよ!遊びは終いだ!お前強いもん!こっからは……本気の義眼だぁ」
そこで、マスキュラーは本気になった。
かつて洸汰の両親──ウォーターホースによって失った左眼に、取り出した凶悪な義眼を嵌め込み、それまでとは比較にならないパワーとスピードで、緑谷と洸汰に襲い掛かる。
遊びではなく、本気──殺意と【個性】を全開にして、緑谷たちを殺しに掛かった。
(ダメだ……!)
自分に勝ち目はない──緑谷はそれを悟ると同時に考えを巡らせる。
負ければ自分は勿論、洸汰も殺される──。
逃走も不可能──。
独断でやって来てしまった以上、ここには誰も助けには来られない──。
(今!ここで!戦って!!勝つしか!!!お前に道はないんだ緑谷出久!!)
己の原点──笑顔を絶やさず人々を救う最高のヒーロー──それを思い出し、己を奮い立たせ、迫り来る死に立ち向かう。
──【OFA・100%】デトロイト・スマッシュ!!
折れた腕で無理矢理繰り出すスマッシュ──限界など、とっくに超えていた。
「〜〜〜っってええ!!どうしたあ!?さっきより弱えぞ!!!」
それでも尚、マスキュラーを倒せない。
「──…じょうぶ……大丈ぶ!!」
しかし、緑谷もまた倒れない。
後ろに、守らなければならない、守りたいものがいるから──!!
「こっから後ろには絶対行かせない!!からっ……走れ!!走れえ!!!」
「んのガキがテメェエ!!最ッ高じゃねえか!!!」
「ゔゔ、っるせえええええ!!!!」
「血ィイイイイ見せろやあ!!!」
死力を振り絞って立ち向かう緑谷──だが無情にも、マスキュラーの圧力は増すばかり、遂に緑谷は地面に押し倒され、押し潰されていく。
(ごめん、お母さん……!!お母さん、ごめん……!!!オールマイト……!!オールマイト──!!!)
膨張する筋繊維の塊となり押し潰してくるマスキュラーに必死に抵抗しつつ、自身に迫る死を前に涙を流し、胸中で親愛なる母と敬愛する師に謝る緑谷。
その時──
「やめろオオオ!!」
その声と共にマスキュラーに水が掛けられた。
洸汰だった──両親から受け継いだ水の【個性】、両親を失ってから忌み嫌ってきた【個性】で、緑谷を助けようと動いた。
当然ながら専門の訓練も何も受けていない幼い洸汰の【個性】では、マスキュラーに何ら痛痒も与えられず、気を逸らす事しかできない。
だが──
「後でな!な!?後で殺してやっかは待っ──」
グン!!
「──殺っ、させてえええ――たまるかああああ!!!!」
その一瞬の隙と、洸汰の存在が──緑谷を限界の一歩先へと連れて行った!
──【OFA・1000000%】デラウェア・デトロイト・スマッシュ!!!
限界超越──緑谷のその一撃は、実力差を覆し、マスキュラーを打倒するに至った。
「……!!」
その時、洸汰の脳裏にかつてマンダレイに言われた言葉が蘇る。
『洸汰、あんたのパパとママ……ウォーターホースはね。確かにあんたを残して逝ってしまった。でもね?そのおかげで、守られた命が、確かにあるんだ』
「……何も知らないくせに……!」
『あんたもいつかきっと、出会う時がくる。そしたら、分かる』
「何で!!何も……!知らないくせに……!」
『命を賭して、あんたを救う、あんたにとっての──』
「何でっ……そこまで……!」
僕の──
僕のヒーロー──
傷つき、戦い、それでも立つ、緑谷の姿に──洸汰の心は、救われた──。
「──緑谷少年!!」
「「!!」」
死闘の決着の直後──オールマイトは緑谷達の元に駆け付けた。
施設を飛び出してから時間にして約20秒弱という恐るべき速さであった──が、一足遅かった。
瞬間、反射的にオールマイトの胸に自身を引き裂きたいほどの、己の不甲斐なさへの怒りが湧き上がる。
が、同時にそれを抑え込む。
(今は緑谷少年と洸汰少年の保護が先だ!)
「お、オール、マイト……!?」
「だ、誰……!?」
それぞれ戸惑いの表情を浮かべる緑谷と洸汰。
オールマイトは2人に駆け寄り片膝をつく。
「(色々言わねばならないことはある。だが今は!)緑谷少年、よく、洸汰少年を守り抜いたな!」
「ッ!ぁ……!」
オールマイトが声を掛けた瞬間、緑谷の涙腺は決壊し、涙が溢れ出る。
喜びと安堵に満たされ、緑谷は涙を止められなかった。
その顔を見て、オールマイトは一瞬更なる賞賛の言葉を掛けたい衝動に駆られるも、現状を思い、抑える。
「緑谷少年、泣いてる場合じゃないぞ。知っての通り、今は緊急事態の最中だ」
「ッ、ふ、ぐ……!は、はい……!」
腕の負傷により涙を拭う事は出来ないが、緑谷は顔を引き締めて頷く。
「よし!では、緑谷少年。君はここで待機だ」
「っ!お、オールマイト……!?」
「その怪我で動くのは危険だ!」
オールマイトの指摘通り、緑谷は満身創痍──両腕は筋繊維の断裂と粉砕骨折、内出血を起こしており、ボロボロの状態……。
致命傷こそ免れていても明らかな重傷である。
早急な治療が必要だが、オールマイトが抱えて高速移動で運ぶのも危険な状態、ましてや緑谷が施設まで自力で移動など以ての外──故にオールマイトは待機を指示する。
「そこの敵と洸汰少年は私が施設へ送り届ける!すぐに迎えを出すから、それまで君はここで安静にしているんだ!いいね?」
「っ……はい……」
何の力にもなれない無念はあるも、今の自分が足手纏いにしかなれない事実を冷静に捉え、緑谷はオールマイトの指示に頷いた。
オールマイトは気絶したマスキュラーの肩に担ぎ、洸汰をもう片方の腕で優しく抱き上げる。
「洸汰少年、ほんの少し我慢だ。大丈夫!すぐに着くからね!」
「う、うん……」
そう返事をした洸汰は、岩に腰掛け壁に体を預ける緑谷を心配そうに見る。
それに気付いた緑谷は、洸汰を少しでも安心させようと笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ、洸汰くん。オールマイトが来てくれた、皆、助かる」
「……っ、うん……!」
洸汰が頷いたのを確認してから、オールマイトは駆け出す。
車やバイク並みのスピードではあっても、洸汰への負担にならないよう振動や衝撃を極限まで抑えるというNo.1ヒーローの離れ業である。
その疾走により、オールマイトは凡そ30秒程で施設まで帰還した。
「洸汰っ!!」
真っ先に駆け寄ったのはマンダレイ──降ろされた洸汰もまたマンダレイに駆け寄る。
「マンダレイ……っ!」
「良かったっ!本当にッ、良かった……!」
洸汰を抱きしめ、涙を流すマンダレイ。
これまでであれば、そんな行為を受け入れなかった洸汰も、今は拒絶しない。
拒絶はしないが、洸汰は伝えなければならない事があった。
「ま、マンダレイ!あいつが……み、ミドリヤが……!!」
「っ!緑谷くん?彼がどうしたのっ?」
そういえば緑谷の姿がないと、マンダレイを初め、相澤やA組の面々も戸惑いの表情を浮かべる。
「あいつっ、ぼ、僕を守ってっ!敵と戦ってっ!大怪我してるんだ!!手当しないとっ!お願いだよっ!あいつを、助けて……!!」
「っ!洸汰……」
マンダレイは従甥の心の変化を感じ取った。
敵と等しくヒーローを忌み嫌い、親類であっても自分に心を開かなかった洸汰が、必死に助けを請い、拒絶していたはずの緑谷を案じて涙を浮かべている。
今、この従甥の懸命な願いを聞かないでどうする──!
「分かった!大丈夫よ、洸汰!緑谷くんは必ず助けるから!」
「っ、うん……!」
頷く洸汰の頭を撫で、マンダレイは立ち上がる。
と、そこへ──
「待て!マンダレイ!」
同僚の虎が待ったを掛けた。
「そちらは我が行く!お前はこの場に居ろ!」
「虎!けど……!」
「落ち着け!お前の【テレパス】はこの場にこそ必要だ。逆に我は戦力の1つにしかならん。しかもオールマイトがいる以上、余剰戦力だ。我が行くのが最適解よ」
「アチキも行くよー!」
虎に続いて、ラグドールも名乗りを上げる。
「アチキの【サーチ】で緑谷キティの居場所は丸分かり!探す手間が省けて、ツーマンセルで不測の事態にも対応可!」
「うむ!」
2人が頷き合い、マンダレイに視線を向ける。
それを受け、マンダレイも頷いた。
「分かったわ、お願い!」
「任せよ!」
「ガッテン!」
虎・ラグドールはすぐさま駆け出した。
「あの2人なら大丈夫。さ、洸汰、中へ」
「……マンダレイ……」
「なぁに?」
「……僕、あいつのこと殴ったんだ……。なのに……!あんな、ボロボロになって、救けてくれたんだよ……!僕、まだ……『ごめん』も、『ありがとう』も、言ってないんだよ……!」
「……それじゃあ、ちゃんと言わないとね。大丈夫、絶対、言えるから。この騒ぎが終わったら、ちゃんと言おう」
「……うん……!」
心配を抑えて頷く洸汰を抱きかかえ、施設に入るマンダレイ──彼女は心の中で、緑谷に深く感謝し、その無事を願う。
(緑谷くん、ありがとう……!洸汰を救ってくれて……!洸汰のためにも、どうか無事でいて……!!)