【FGO×スレイヤーズ】特異点FGO-S 虚構祭祀神殿ミプロス 〜ドラまたの美少女魔道士〜 前編 作:matsuru_curdis
『ああ、良かった。
やっと連絡が届いた。
ぐだおくん、マシュ、聞こえているかい?
どうやら君たちだけレイシフトしてしまったらしい。
原因は目下解析中だがそちらの状況を教えてもらいたい。
ぐだおくん? なにか返事をしてくれないか?』
通信機から響くDr.ロマンの声を耳にしながらも、ぐだおとマシュは応えることのできない状況にあった。
場所は鬱蒼とした森の中。そして、野盗と思しきむさ苦しい男たちの集団に取り囲まれていたからである。
「どうします……先輩……」
武器である大きな盾を構え、マシュが不安そうに声をかける。
「……どうするって……この数は、さすがに……それに……」
緊張に顔をこわばらせ、ぐだおはごくりと唾を飲み込んだ。
「へへっ、おとなしくしてれば悪いようにはしねえよ」
取り囲んだ男たちの姿は異様だった。
女性が着る水着、それも布面積が限りなく少ないタイプの物を着込み、肩にはトゲトゲの付いた肩当が付けられた、俗に言う悪の女魔術師ルックといった衣装を独り残らず身につけていた。
「さあ、観念しな。
坊主も嬢ちゃんも俺たちが飽きるまで、たっぷり可愛がってから高く売り飛ばしてやるからよぉ」
「うげ……こいつら、男も女も見境無しか?」
「変態です! この人たちを変態と断定します! 先輩、指示を! もう直視に耐えられません!
速やかに蹴散らします!
いえ、蹴散らさせてください!」
下卑た顔で笑う野盗の首領らしき男の言葉と黒革に包まれた股間のもっこりに嫌悪を覚え、ぐだおは顔をしかめ、マシュは取り乱したかのように盾を振り回した。
そのときだった。
「お待ちなさい!」
突如、生い茂る木々の上から高らかに叫ぶ少女の声がこだました。
「盗賊行為だけに飽き足らず、少年少女をもて遊び、あまつさえ売り飛ばそうなど言語道断!
天が許しても、このわたしがけっして許しません!」
「なっ、だ、誰だ! 姿を見せやがれ!」
「あ! あそこです、頭ぁ!」
手下のひとりが指差した高い木の上に、ひとりの少女の姿があった。
それは白を基調とした旅装束に身を包み、幼さを残す顔には正義に燃える瞳を輝かせた黒髪の少女であった。
「畜生! 名を名乗りやがれ!」
「あなたたちに名乗る名などありません!
とうっ!」
大声を上げる野盗の首領に応え、掛け声とともに少女は木の上から飛び降り、
「ぶべっ!」
そのまま妙な声を上げ地面に顔面で着地した。
『…………………………』
地面に顔を突き刺したままピクピク動く少女に、しばし気まずい沈黙が森の中を流れる。
「……ま、まあ、その、なんだ……へっへっへっ、さあ、おとなしくこっちに来やがれ!」
今起こったことをなかったことにしたのか、野盗の首領は、マシュの腕を掴んで引っ張った。
「は、離してください!
あなた、あの女の子を見て何にも思わないんですか!?」
「そ、そうだぞ!
あんなやり取りしといて今さら無視するって、それでも人の血が通っている人間か!?」
「う、うるせえ! ふたりしてガタガタ言ってんじゃねえ!
あーゆーのには極力関わらないほうがいいって、てめえらにだってなんとなく分かんだろうが!」
「そ、それは、そうかもしれませんが……とにかく離してください!」
「ぶえええええええええ!
めちゃくちゃ痛いですぅぅぅぅぅぅ!」
突然、飛び降りた少女が起き上がり、真っ赤になった顔を両手で抑え、年相応な様子で泣き出した。
「あ、生きてる」
「ホントです! 生きてます!
あの高度から、しかも顔面からイってたんで、おそらく命は……と思っていたのですが……」
意外とドライなことを言うマシュに、ぐだおは力なく笑った。
「まったく……後先考えずに行動するからそうなるんだ」
そんな声とともに、森の奥から白いフードを目深に被ったひとりの男が姿を現した。
口元を布で隠し、容貌は分からないが隙間から覗く皮膚は硬質な光沢を放っていた。
「困っている人がいたんです!
それで飛び出さないなんて正義じゃありません!」
「だからと言って、むやみやたらに高い場所から飛び降りんでもいいだろう」
「いいえ! 高いところからの登場!
これこそが正義のあるべき姿なんです!」
「なら、せめて俺が下についてからにしろ。
受け止めるくらいはしてやる」
ぶっきらぼうに言うと、白装束の男は、腰に差した剣を引き抜き、身構えた。
「なーに甘いこと言ってんのよ?
あんたたち、いつからそんなに仲良くなったのかしら?」
からかいの混じった声とともに現れたのは、長い栗色の髪の小柄な少女だった。
黒いマントを宝石がはめ込まれた黒いショルダーガードで留め、額にバンダナをし、いくつもの宝石の飾りを身につけた冒険小説に出てくるような魔道士のような格好をしていた。
「しっかし、さっきからお決まりのパターンのことばっかしてくれちゃって、少しはアレンジってものを考えないと飽きられるわよ。
これだから盗賊ってやつは……あ、その格好が個性だって言うんなら、問答無用で攻撃呪文を叩き込むわよ」
「……攻撃呪文……てめえ、魔道士か……?
ちぃっ、うるらぁっ!」
ジロリと睨まれ得も言われぬ迫力に気圧されながらも、野盗の首領としての意地を奮い立たせ、武器を振り上げて襲い掛かった。
「おおっと!」
ぎぃん!と金属を弾く音を響かせ、栗色の髪の少女を守るように長身金髪の青年が長剣を手に現れた。
「油断し過ぎだぞ。
ま、お前さんならなんとかしてたと思うが、俺は保護者だからな。
一応、守らせてもらうぜ」
「分かってるわよ……ふん、あたしも一応、お礼は言っておくわ。
それにしても、意外と根性あるのね。
てっきり尻尾巻いて逃げ帰るって思ったのに」
「う、うるせえ!
次から次へと現れやがって!
こちとらプロの盗賊やってんだ!
たかだか小娘相手に怖気付くわけねえだろうが!」
「いいわ、相手してあげようじゃない!
この美少女天才魔道士……」
「……リナ=インバース?」
栗色の髪の少女の名乗りに被せる形で、ぐだおは、うわ言のようにつぶやき、その言葉に野盗の集団が『ぴぎぃっ!』と音がしたかのように固まった。
「先輩、彼女をご存知なのですか?」
「……え? 俺、今何か言った?」
マシュの問いかけに、ぐだおはハッとした顔をする。
「……り、リナ……リナ=インバース、だと?」
絞り出すような声で、野盗の首領が尋ねる。
「え、ええ、そうよ」
いきなり自分の名を呼んだ見知らぬ少年を警戒しつつ、リナは胸を張って答える。
「……本物、の?」
「当ったり前じゃない。
なに? 騙りかなんかだとでも思ってるわけ?」
不機嫌に聞き返す声にビクゥッと怯え、首領は、金髪の青年、黒髪の少女、白装束の男に助けを求めるように視線を送るが、三人が三人とも悲痛な面持ちで首を横に振った。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
お助けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
そして、突然武器を放り出し、悲鳴のような叫び声をあげ、地面に頭をめり込ませるほどの勢いで土下座をした。
見ると他の手下も似たようなもので、土下座が七分に服従のポーズが二分、残りは幼児退行を起こしたり、辞世の句を読もうとしてたりしている。
「な、なによ、いきなりその態度は……」
「お願いしますお願いします!
もう二度とこんなことはいたしません。
足を洗います。寺院に入ります!
ですから、何卒、命ばかりは命ばかりはお助けをぉぉぉぉぉぉぉ!」
「……あの、これはいったい……」
あまりの騒動に空気と化していたぐだおだったが、さすがに状況が飲み込めず、おずおずと警戒気味にリナに問いかけた。
「あ、あたしにだって分かんないわよ!
ね、ねえ? 一体全体、なにがどーなってこんなことしてんのよ?」
「だ、だって、あなた様は、あのリナ=インバース様なんでしょう?
『盗賊殺し』、ドラゴンもまたいで通る『ドラまたのリナ』!
『人類の害悪』、『通ったあとにはペンペン草一本残らない荒野と化す』、魔道都市サイラーグを二度滅ぼし、聖王都セイルーンも滅ぼしかけ、放った呪文で生物が寄り付かない死の入り江を作り、クリムゾンシティの魔道士評議会を全滅させ、黄金竜とハイエルフを操って光の巨人と化して森を焼き尽くし、ディルス王家とその王国騎士団を壊滅させ、『リナ=インバースだから』という理由で国際指名手配された俺たちなんか足元にも及ばない超極悪人のあの……あの伝説の……こうなったら俺はどうなってもいい!
ただ家族だけには……妻と娘だけにはぁぁぁぁぁぁ!」
「……え、ええ?」
恐怖のあまり早口でまくし立て恐慌状態に陥った首領の言葉に、ぐだおは顔を引きつらせてリナから微妙に距離を取り、その間にマシュが盾を構えて立ち塞がった。
「ちょっ、やだ、止めてよ!
こいつらが言ってることなんて、全部……」
「ホントのことだから、困りますよねえ」
「ああ、何一つ間違っちゃいないな」
「そうかあ?
なーんかどれも聞いたことあることばかりでそんな驚くことでもないだろ?
アメリアは違うのか?」
「ガウリイさん、ずっとリナと一緒だから麻痺してるんですよ。
わたし、国の執務をしていて、リナの噂が出てくるたびに文官の人たちから変な目で見られるんですから。
ゼルガディスさんもそうですよね?」
「まあ、俺もリナ=インバースと繋がりがある、なんて自分から言おうとは思わんな……友達をなくしかねん」
「だ、そうだぞー、リナー」
「……あんたら……よくもそこまで……よーく分かったわ!
あんたたちがそこまで言うんなら、お望みどおりにしてやろうじゃない!
―黄昏よりも昏きもの
血の流れよりも赤きもの……―」
突然、呪文を唱えるリナの両手に魔力が集中し、周囲に力場が発生する。
「せ、先輩! 危険です!
ものすごい魔力があの人に集まってます!」
『お、おい! いきなりすごい反応が起きたぞ!
いったい、そっちでなにが起きているんだい?』
急激な魔力の高まりに、マシュは手にした盾を地面に突き立て防御の形を取り、通信機からはロマンの慌てた声が響いた。
「や、やめろ、リナ!
いきなり竜破斬はやめてくれ!」
「いーやーよー!
あんたらの望みどおりにしてあげてんだから文句言われる筋合いはないわよ!
覚悟なさい!
一発で塵一つ残らず消し去ってあげようじゃないの!」
「おい! お前ら!
何をしている! さっさと逃げろ!」
「そうですよ!
足を洗うというなら、もう咎めません!
ガウリイさんがリナを抑えているうちに、さあ早く!」
「す、すまねえ! 恩に着るぜ、あんたら!
おぉい、野郎ども、恥も外聞もなく這いつくばってでもこの場から逃げるぞぉぉぉ!」
『おおおおおおおお!』
生命の歓喜の声を上げ、野盗の一団は一目散に逃げ出した。
「ああ、待ちなさいって、この!
はーなーせ、ガウリイ!
せめてお宝の在り処だけでも置いてきなさいよぉぉぉっ!」
「うるせえ! 誰がそこまで教えるか、このえぐれ胸ぇぇぇぇ!」
「「「……あ」」」
首領のその一言に、ガウリイ、ゼルガディス、アメリアの三人の口から絶望的な声が漏れた。
「ふっ、ふふふっ、ふふふふふふふふふっ……」
「お、おい、リナ?」
物理的な寒気すら覚える迫力に思わず手を離すガウリイに応えず、リナは不適な笑みをこぼし逃げ去ろうとする野盗を据わった目で見つめる。
「―黄昏よりも昏きもの
血の流れよりも赤きもの
時の流れに埋もれし
偉大なる汝の名において
我、ここに闇に誓わん
我が前に立ち塞がりし
すべての愚かなるものに
我と汝が力持て
等しく滅びを与えんことを……―」
「信じられません!
こんな魔力をただひとりの個人が扱えるなんて!」
『おい、君たち! そこは危険だ!
こちらの魔力計はもう限界に達する!
早くその場から逃げるんだ!』
「と、とりあえず、マシュ!
あの三人のところまで退こう!」
「はい! 先輩!」
通信機からロマンが絶えず騒ぎ、ぐだおとマシュは、ほうほうの体でガウリイたちのそばに駆け寄った。
そして、
「―……竜破斬(ドラグスレイブ)ぅぅぅぅぅぅぅぅ!―」
リナの叫ぶ声とともに、その両手から赫い光が空を裂き、野盗が逃げた先に収束した瞬間、大地を揺るがすほどの大爆発が起こり、生い茂る森の木々ごと男たちを吹き飛ばした。
爆発が収まり、光が射さないほどだった森は見る影も無く荒野と化し、あまりの光景にぐだおとマシュは腰を抜かし声も無く地面に座り込んだ。
「ああ、すっとした。
で、あんたたちは、いったいなんなの?」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
からっとした笑顔で尋ねるリナに、ぐだおとマシュは、恐怖の悲鳴を上げるのだった。