【FGO×スレイヤーズ】特異点FGO-S 虚構祭祀神殿ミプロス 〜ドラまたの美少女魔道士〜 前編 作:matsuru_curdis
「はあ、なんでも願いが叶う聖杯、ねえ……」
とある街の宿屋兼食堂の人目を避けた隅のテーブルについたリナがいぶかしげに眉をひそめた。
「で、あんたたちは、その妙な装置から聞こえる軟弱そうな声の人の指示で別の世界から来た……えーっと、マスターって魔術師と、英霊?ってのの力を身に宿したデミ・サーヴァント、ねえ……」
「はい、私の名前はマシュ・キリエライトと言います。
シールダー、盾の英霊です」
「俺は、ぐだお。
でも、俺は数合わせで選ばれたってだけで魔術のこととか全然分からない素人なんだけどな」
「そんな!
先輩はたしかに素人かもしれませんが、立派な私のマスターです!
もっと自信を持ってください!」
自分を卑下するようなことを言うぐだおに、マシュはとんでもないと訴える。
「あー、はいはい。仲良いのはよそでやってね。
あたしは、リナ。リナ=インバースよ。
見てのとおり魔道士……って違う世界から来た人にはそんなこと言っても分かんないか」
「俺は、ガウリイ。
このリナの保護者で剣士だ」
「ゼルガディスだ。
顔を隠したままですまんが、こちらにも事情があってな。
それで、その願いが叶う聖杯について詳しく聞かせてもらえないか?
それはどういうもので、どうやったら使えて、どういう仕組みで、どこに存在するんだ?」
「ゼルガディスさん、待ってください。
ほら、そんな勢いで訊くからおふたりが困ってるじゃないですか。
すいません、いつもはもっと落ち着いた方なんですよ。
あ、わたしはアメリア=ウィル=テスラ=セイルーン、正義の味方です!」
ぐいっと身を乗り出すゼルガディスを抑えるアメリアだったが、その有無を言わさない言い切った自己紹介も、十分にぐだおとマシュを退かせるものだった。
『うーん、君たちの名前をいくら調べても人類史にはまったく出てこないとなると……これは、本格的に異世界に繋がってしまったということに……いや、待て……これは……』
「どうしたんですか、ドクター?」
『あ、ああ、人類史ではないんだけど、彼女たちの名前が出てくる文献……と言っていいのかな? とにかく該当するものがあったんだけど……』
尋ねるぐだおに、ロマンは歯切れ悪く答える。
『君たち、【スレイヤーズ】って知ってるかい?』
「私は……残念ですが、心当たりがありません。
先輩はどうですか?」
「えっ? 俺は……あっ……いや、でもまさか……ドクター、もしかしてそれって……」
『ぐだおくんくらいの年代の子でも知っているもんなんだねえ。
もうけっこう前の作品だっていうのに……』
「え? ちょっと、なに?
あんたたちだけで話進めないで、ちゃんとこっちにも分かるように説明しなさいよ!」
しみじみと感慨にふけるようなロマンにリナが抗議した。
『じゃあ、ここからは僕が説明しよう』
通信を割って入ったのは、ロマンとは別の妙にウキウキした若い青年の声だった。
「え? 今度は誰よ、あんた?」
『僕はロード・エルメロイⅡ世。
そちらにいるマシュ嬢と同じサーヴァントだ。
厳密には、とある英霊の依り代として現界している疑似サーヴァントなんだけどね」
「な、なんか……いつもと様子が違うよね、マシュ。
若い方の姿になってるみたいだし」
「は、はい……全体的にテンション高めというか……教授にしては珍しいですね」
いぶかしがるぐだおとマシュを意に介さず、ロード・エルメロイⅡ世は説明を始める。
「いいかい? 【スレイヤーズ】とは、一九八九年に発売された従来の少年少女向けファンタジー小説の常識を変えた金字塔ともいえる作品だ」
「……【スレイヤーズ】?
それがあたしたちの物語、なの?」
初めて耳にするような、どこかで聞いたような、そんな不思議な響きに、リナはかみしめるようにつぶやく。
そして、意気揚々とロード・エルメロイⅡ世は語り始める。
「主人公の自称・美少女天才魔道士・リナ=インバースは、「悪人に人権はない!」をモットーとし、路銀が乏しくなると盗賊団を襲い金品を強奪するというとんでもない旅路を送り、一見派手で見境のない性格に見えるが、仲間想いで面倒見が良い面もありつつも、世間からは『盗賊殺し』、ドラゴンもまたいで通る『ドラまたのリナ』、『命にかかわる危険な生物』認定や『友だちにしたくない人物』ランキング連続第二位、はてはその破壊的な日常生活から勝手に破壊神として奉り上げられたこともあるとても人間とは思えない人物評を受けていて……」
「す、ストップ、教授! ロード・エルメロイⅡ世!」
早口でまくし立てる説明に、ぐだおが止めに入る。
「なんだい、マスター?
あ、ちなみに、君たちが目指す聖杯のありそうな場所は、ミプロス島と言って、初の映像作品である『劇場版スレイヤーズ』の舞台で……」
「ですから! もうその辺にしといてください!
リナさんの怒りのゲージが振り切れる寸前になってるんです!」
なおも語り続けそうなエルメロイⅡ世を止めるぐだおだったが、リナの怒りの沸点はとうに越えていた。
「もう遅いわよ!
好き勝手言ってくれちゃって覚悟は出来てるんでしょうね!
昔、故郷の近所に住んでた男の子と声が似てるからって容赦しないわよ!」
『おお! まさにその反応!
リナ=インバースそのものだ!
声もアニメと同じまさかの林原め〇み閣下の声とは、なんて凄いことなんだ!
ああ、リナ=インバースと会話が出来るなんて、こんなの奇跡以外のなにものでもないじゃないか!
ええい、くそ、僕もレイシフト出来ていれば……』
「とても詳しいんですね、教授。
立て板に水といった、まさに熟知していなければ出来ない解説でした」
リナの怒りも解さずに通信機の向こうで悔しそうにしているエルメロイⅡ世にマシュが感心したように声をかける。
『まあね。
以前、日本にいたとき、偶然スレイヤーズのTVアニメ第一作、通称:無印が始まっててね。
それからいろいろ読み漁って、その行動理念に感服したのさ。
彼女が掲げる「悪人に人権はない」っていうのは、言葉通りに受け止めれば無慈悲に聞こえるだろうけど、その実、『他人の人権を無視して悪事を働く奴の人権はない』、つまり『自分の人権を認めてほしいなら、まず相手の人権を認めるべきだ』ということを意味していると僕は解釈した。
つまり、彼女は筋を通す人なんだよ。
筋を通して起きた責任は自分で取る。
周りに迷惑を掛けなければなにしてもいいと言い張るのも『迷惑を掛けない』という周りへの気遣いが出来る人ってことなんだ。
ね、尊敬に値するだろう?』
「は、はい……たしかに、それは素晴らしい人物だと思います。
ですよね、先輩」
「あ、ああ、それはそうだけど……教授……もしかしてファン……なんですか?」
『んっ……ま、まあ、それなりに評価に値すると思ってる程度には、ね』
「はー、このリナをそんなふうに見ている奴がいるとはなあ」
感心したような声を上げたのは金髪の剣士・ガウリイだった。
「なあ、リナ、やっこさん、お前さんのファンらしいぞ。
なんか言ってやったらどうなんだ?」
「う、うるさいわね、ガウリイ!
ちょっとあんた!
い、いくらあたしを持ち上げようったって、さっきのはさっきので頭に来てんだから、その点はきっちり落とし前つけてもらうわよ!
でも、とりあえず……今はどうしようもないから勘弁しといてあげるわ……ふんだ!」
若干、頬を赤く染め、そっぽを向くリナに代わり、白いフードの男・ゼルガディスが口を開いた。
「しかし、だ。今の話を総合すると、あんたらの世界では俺たちは物語の登場人物ってことになるのか?
そんな馬鹿な……」
「そうですねー。
にわかには信じられないことです」
と隣でうんうんとうなずくアメリア。
「ナーサリー・ライムさんのように著名な童話の集合体がサーヴァントとして現界した事例もあります。
ですので、これもそれと似たようなケースなのではないでしょうか?」
「いや、それにしたってこんな世界まで作られてるってことは、ここは並行世界なんじゃないか?
現に、リナさんたちは、ここでこうして生活をしているわけだし、無数にある並行世界の情報を俺たちの世界の人間が無意識下で受信して小説として世に売り出した、とかかなあ?」
「その並行世界ってのはなんだか知らないけど、あたしの認識では別の世界ってなら、この世界以外にあと三つあるはずなんだけど……あんたたちの元居た世界ってそのうちのどれかってことなのかしらね?」
『あー、こちらの見解を言ってみてもいいかな?』
頭を悩ませるマシュ、ぐだお、リナに通信機の向こうから多少なりとも落ち着きを取り戻したエルメロイⅡ世が声をかけた。
『僕が考えるに、マスターとマシュ嬢がいるその世界は【空想具現化】**によって作られたものだと思うんだ!』
やや興奮気味に言うエルメロイⅡ世の言葉に、ぐだおとリナたちはきょとんとした顔をする。
「え? なに? く、空想……具現化?
なによそれ、空想って、あの考える空想よね?
それが具現化って、バカも休み休み言いなさいよ!」
「そうですよ!
考えるだけで具現化できるっていうのなら、リナの居るいたるところに食糧が溢れ出て、この辺いったい埋め尽くされちゃうに違いありません!」
「それか、あれだな。
お宝ざっくざくで溢れ返って貨幣経済が破綻、なんてあるかもしれんな」
「あとは、妙にずれたセンスの造作の崩れた得体の知れん名状し難いモノを生み出して、子どもの心にトラウマ刻みつけたりするかもしれないぜ」
それぞれ失礼なことを力説するアメリア、ゼルガディス、ガウリイの言葉に、リナはひくひくと顔を引き攣らせる。
「あ、あんたらね~……まあ、ともかく、そんな想像で何かが生み出せるなんてことそっちの世界じゃ普通にあることなのかしら?」
「どうなんだ?
マシュ、空想具現化ってそんなに簡単に出来るものなのか?」
「いいえ、先輩。
空想具現化、つまりマーブル・ファンタズムというものは、本来自然界に属する精霊が持つ能力です。
限定された範囲ではありますが自己の意思と世界を直結させ、世界を思い描いた通りに変貌させるというとんでもないものです」
「それだと、つまり、俺たちの世界の、その精霊ってのが【スレイヤーズ】って作品を知って、その空想具現化で世界を作り出しているっていうことなのか?」
そんなぐだおの推測に、ロード・エルメロイⅡ世が異を唱える。
『いいや。僕の推測はこうだ。
【スレイヤーズ】という素晴らしい作品に出会い、四半世紀以上経った今でも多く存在するファンが共有する世界観が、今君たちが居る世界を創造したんじゃないだろうか?』
「重なり合った人の想いでそんなことが可能なのですか?」
そう問うマシュに、ロード・エルメロイⅡ世は推測を続ける。
『ああ、実例はある。
かの征服王イスカンダルの有する宝具『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』がそれだ。
あれはイスカンダル王と彼の率いた臣下たちが共有する心象風景に対象を閉じ込める固有結界だけど、この世界は、読者の想像力がまさしく創造力としてその世界を形作っている【空想具現化】と【固有結界】のハイブリッド**ではないかと推測する!』
「はあ……まあ、前にも自分の妄想の神様を信じ抜いて、あたしへの呪いを完成させたのもいたけど、それを考えればそんなこともあるのかもしれないわねえ」
「でもよー、リナ。
そうなると俺たちの世界って、そっち側で忘れられると消えちまうってことなのか?」
ガウリイの何気ない一言に、リナ、ゼルガディス、アメリアは、ハッと息を飲んだ。
「ちょ、ちょっと、なに言い出すのよ、ガウリイ!」
「そうですよ、ガウリイさん! いくらなんでも……」
「ああ、そうだ。ガウリイの旦那、気は確かか?」
「あ、あの、みんな、落ち着いて……教授?
そこら辺、どうなんですか?」
動揺するリナたちの様子に、ぐだおは、通信機の向こうのエルメロイⅡ世に助けを求める。
『ふむ、成り立ちは読者の空想から生じたものなのかもしれないが、一度形作られ世界として運営が軌道に乗ったのであれば、あとは自然と存在力が生まれていくと思うから、消えるようなことはないんじゃないかなあ?
ん? 待てよ? そうなると他の闇を撒くもの(ダーク・スター)、蒼穹の王(カオティック・ブルー)、白霧(デス・フォッグ)の世界も実在することに……ああ、いや、それらに関してはまだ不確定要素が多過ぎるから……ああ! 神〇先生! 新作はよぉ!(注:二〇一五年時点の発言です)』
「だ、そうですよ、みなさん!
ですから、安心してください!」
推測からまた違う世界に旅立ったエルメロイⅡ世を放っておいて、マシュがリナたちに声をかける。
「そんなこたぁどうでもいいのよ!
このガウリイがこんなまともなこと言うなんて、そのほうがよっぽど大変なことなのよ!」
「おい、リナ!
まさかとは思うがガウリイの旦那、またなにかに操られてるってことはないか?」
「たしかに……その可能性は捨てきれないわね……アメリア、こうなったら実力行使よ!
ガウリイを気絶させて、ロープかなんかでふん縛るわ!」
「……はい、分かりました、リナ!
ガウリイさん、きっと正気に戻してあげますから、今はごめんなさい!」
「ちょ、まっ! 落ち着けって、みんな!
俺はまともだ!
だいたいここ数日、俺、ずっと一緒いただろ?」
「それはそうだけど……ホントに正気なんでしょうね?
飴玉に釣られて知らない誰かについてったり、猫集会に参加してたりしてないでしょうね?」
「リナ、お前さん、俺をなんだと……」
「あのー、リナ、さん?
忘れられたら世界が消えるかもって話なんだけど……」
「ん? ああ、まあ向こうのエルメロイⅡ世さん?だかが大丈夫だって言ってるようだし、それに消えるかもってんなら消えてたまるかってひと暴れするから気にしてないわよ?」
「あ、そですか……なんだ、心配して損した」
「素晴らしいです!
なんという胆力!
これはロード・エルメロイⅡ世が傾倒するのもうなずけます!
私もこんな根拠のない自信が持てるようになれれば、もっと先輩のお役に立てるのに……
リナさん! いえ、リナ師匠!
是非、私をあなたの弟子に……」
「マシュ~!
それだけは! それだけはやめてくれ!
マシュは今のマシュのままで充分だよ!
俺は今のマシュにとっても助けられてるからね!」
『そうだぞ、マシュ嬢!
弟子ならまず僕が先に……』
『はいはい、教授は向こうで作業が待ってるからそろそろそっちに行ってくれないかなあ?
はーい、職員、教授を確保!
然るのち速やかに連行!』
『えぇ? 待って、おい!
リナ師匠ぉぉぉぉぉぉ!』
通信機の向こうで遠ざかる声をさえぎって、Dr.ロマンが話を引き戻した。
『双方の事情説明はこれくらいにして本題に移ろう。
ともかくそちらに特異点があることは確かなんだ。
なんでもいい。
なにか変わったことがないか教えてくれ』
ロマンの問いに、ぐだおとマシュは顔を見合わせる。
『どうしたんだい?
どんな些細な違和感でもいいんだ。
何が突破口になるか分からないからね』
「あ、いやあ、些細な違和感っていうか……なあ、マシュ」
「はい……その、ドクター、違和感だらけ、なんです。
街のほとんどの人たちの服が悪の女魔道士ルックで……」
『え? なんだって?
通信状態が悪いのかな?
もう一度言ってくれるかい、マシュ』
「ですから、街行く人たちの着ている服がですね、その、物語に出てくる悪の女魔道士が着ているような肌の露出が物凄い、紐とわずかな面積の布や革で出来た服なんです!」
『な、なんだってぇぇぇぇ!
ええい 画像、画像は映らないのか、これ!
ぐだおくん! そこはそんな肌色多めで青少年には目に毒なような光景が広がっているのかい?』
「えー、あーまーそーなんですが……男女問わずなんで別の意味で目に毒ですよ、ここ」
『げっ』
ぐだおの一言により脳裏に浮かんだ光景にロマンは絶望的な声を漏らした。
「リナさん、これはいったいどういうことなんでしょうか?
こちらの世界ではあのような服が世界標準なのでしょうか?
あとドクター最低です」
「そんなことあるわけないじゃない!
あたしたちを見てみなさいよ!
ふつーの服でしょ?」
「あ、やっぱりそうなんだ。
俺、てっきりこれが普通でリナさんたちが変わってるんだと思ってた」
「あんた……慣れてきたらズケズケ言うようになったわね。
ほら、よく見てみなさいよ!
あたしたちの他にもあの服以外の人いないわけじゃないでしょ?」
リナの言うとおり、若干ではあるが普通の服を着ている者もいるが、周りのほとんどが悪の女魔道士ルックなので居心地悪そうにしている。
「このあたりであの服が流行りだしたのは一週間ほど前だ」
リナの説明を継いで話し始めるゼルガディスにぐだおとマシュが視線を向ける。
「最初は街中にひとりかふたりいる程度だったがあっという間に広まってな。
今じゃこの有様だ。
しかしこれだけ広まると普通の服のやつらも意に沿わなくても周りに合わせて着るようになるかもしれん」
「しっかし今はまだあったかいからいいが寒くなったらどーすんだろーなー、あれ」
「変なとこ気になんのね、ガウリイ……あー、意地でもあの服着続けて、そのうち寒さに錯乱して高笑いするよーになるわよ、たぶん」
「まるでその様子を見たことあるように言いますね、リナ。
でも多少は変わってますが服装で人を判断するなんてそれこそ悪です。
きっとなにか強いポリシーがあってのことなんですよ!」
遠い過去を思い出すようなやさぐれた目で呟くリナとは対照的にアメリアは明るく前向きな意見を返す。
「しかし一週間でここまで広まるというのは大変不可解なことではないでしょうか?
もちろんアメリアさんの言うとおりなのかもしれませんが。
リナさん、なにか思い当たることはありませんか?」
まっすぐな瞳で尋ねるマシュに、リナはバツが悪そうに視線をそらす。
「怪しい反応……やっぱ元凶はリナさん、とか?」
「だー! ちょっ、ぐだおっつったけ?
なんであたしが元凶になんのよ!
しかも『やっぱ』ってどーゆー意味よ!」
「どーゆー意味って……言っても怒らないか?」
「言うと怒るよーなことかぁ!
まったく……とにかく、あたしは元凶じゃないの!
ただね、前に、ガウリイと旅を始める前だけど、あんな格好の女魔道士としばらく一緒だったことがあんのよ。
だから、元凶っていえば、その人なんじゃないかなーって、ね」
「さすがだな、リナ。
世の中のおかしなことの大半に関わりがある」
「ゼルぅ~、それ褒めてないって分かって言ってるわよねぇ」
「まあまあ、リナ、落ち着いて。
それでその女の人とはどういういきさつで知り合ったんですか?」
「ん~? まあよくある話よ。
あたしを倒して名を上げる!っていきなりあたしが泊まってた宿に火ぃ付けて、その火に巻き込まれて自滅して、しばらくして火傷で包帯ぐるぐる巻きの格好でまた挑んできたからテキトーに返り討ちにして、そんなことが何回かあって、気が付いたら金魚のフンみたいにくっついてきて、ご飯はたかるわ、依頼の邪魔はするわで腐れ縁みたくなってたのよ」
「リナさん、リナさん、その『討ち取って名を上げる』対象ってのがまず普通じゃないって」
「そう? 旅してれば、よくあることなんじゃないの?
多いときは、一日にダース単位で来たこともあったし」
しれっと言うリナの武勇にぐだおは頬を引きつらせる。
「ダースて……そ、それでその女性って今でも連絡を取れるのか?」
「さあ? 今はどこで何してるのやら。
なにしろ神出鬼没なのよ。
ふらっとどこかに行ったかと思えば、またふらっと現れたりね。
あたしがたまたま潜入してた屋敷でメイドとして働いてて鉢合わせってこともあったし」
「はあー、リナ、お前さん、おかしなやつが知り合いにいるもんだなあ」
「なに言ってんのよ、ガウリイ!
あんた会ったことあるでしょ?
ほら、前にエルフのお宝狙って魔族が騒動起こしたときよ」
「ええ~、そうだっけか?」
「あーもー、あんたに記憶力を期待したあたしがバカだったわ」
「まあそんなに落ち込むなって」
「あんたのせいでしょうがぁ!」
大きく叫び、リナは懐から取り出したスリッパでガウリイの頭をベシンッとはたいた。
「とにかく! 原因は十中八九その人に間違いないんどけど、居場所がわかんないのよねえ。
ねえ、声だけの人、そっちでなんか掴めないわけ?」
『うーん、いつものレイシフトと違ってるからか、現段階では精密なスキャニングのしようがないんだ。
リナさん、どこか拠点に適した場所に心当たりはないだろうか?
なんというか、霊的に揺らぎがある、みたいな」
「……霊的、ねえ……つまり、魔力的な力場ってことかしら?
んー、確かなのはドラゴンズピークにある異界黙示録の空間?……でも簡単に行ける場所じゃないのよねえ。
だとしたら……あっ!……まあ、あそこならたぶん……でも……三度目は勘弁願いたいわねえ」
「おい、リナ」
苦笑いを浮かべ、ため息混じりに呟くリナにガウリイが短く声をかける。
「なによ、ガウリイ……ああ、なるほど……わかったわ。
アメリア、ゼル、よろしく。
ガウリイは二人をお願い」
「わかりました」
「まかせろ」
「おお! ぐだおとマシュだっけっか?
離れずついてこいよ?」
「え? ど、どうしたんだ、突然?」
「あの、事態がよく飲み込めないのですが、ガウリイさん、いったいなにが……」
いきなりのリナの指示に応える三人にぐだおとマシュは戸惑いを隠せずうろたえる。
すると、人混みをかき分けリナたちが座るテーブルにひとりの屈強な男が近付き、威圧するかのように声をかけた。無論、例の衣装を身にまとっていた。
「リナ=インバースだな?」
「違うわよ」
「嘘をつくな!
この手配書の似顔絵と特徴の通りじゃないか!」
隠す場所の無さそうな格好のどこに持っていたのか、男は一枚の羊皮紙をリナの眼前に突きつけた。
そこには確かに精緻なリナの似顔絵といくつかの説明文が記されていた。
栗色の長い髪、どんぐりまなこ、魔道士姿、背が低くて胸が無い。
「―爆炎舞(バースト・ロンド)ォ!―」
最後の一文にノータイムでキレたリナの火炎呪文が炸裂し、それに乗じて全員店の外に飛び出した。
「ま、待てぇ!」
身体中をちょっぴり焦がしながらも男はリナたちを追って同じく店を飛び出した。
「しつこいわねえ。
女の子にモテないわよ?
それに威力の低い火炎呪文とはいえ、直撃したのにすぐに動けるなんて、そのおかしな格好になにか仕掛けでもあるのかしら?」
リナは、軽口を言いつつも警戒して距離をとる。
「貴様ぁ!
こちらが下手に出ていれば調子に乗りおって!
声をかけただけでいきなり攻撃呪文をぶっぱなす輩を女の子とは普通呼ばんし、第一、偉大なるお方から賜ったこの聖衣のどこがおかしいというのだ!」
「聖衣て……おかしいもんをおかしいって言ってなにが悪いのよ!
それをありがたがって着てるあんたもおかしければ、その偉大なるお方ってのはさらに斜め上をいったおかしいやつに決まってんじゃない!
そんなのに迫られたら攻撃呪文のひとつも叩き込むのが乙女の嗜みってもんよ!」
「うーん、両方ともどっかがおかしいと思うなー、俺」
「よーし、ぐだお、あとで話があるからちょっと引っ込んでなさい」
「ええい! なにごちゃごちゃと!
こちらの話を聞け、リナ=インバース!
さる偉大なお方からの伝言があるのだ」
「さる偉大なるお方ですって?
つまり、あんたにその格好を与えたってやつのことよね?」
「ああそうだ。
俺は偉大なるお方からの伝言を預かっている。
『リナ=インバース。私の元まで来なさい』とな。
しかしデキる部下というものは主の意を組むもの。
俺が貴様を連れて帰れば済むことだ。
さあ、分かったならおとなしく俺と共に来るがいい!」
「いやよ。胡散臭い」
大仰な態度の男の言葉をリナはばっさりと切り捨てる。
「貴様、正気か?
先程は不意を突かれたが、この聖衣は偉大なるお方からの加護により生半可な攻撃呪文など無効化することができるのだぞ?
加えて筋力増強、身体能力も強化し……」
長々と自慢のような警告をする男を無視し、リナは片手を地面に触れ、呪文『力ある言葉』を解き放つ。
「―地精道(ベフィス・ブリング)!―」
「だから呪文など効かぬとうぃえぇ!?」
仕掛けてくるリナを鼻で笑う男だったが、突然変な声を上げ、足元に出来た深い落とし穴に落ちていった。
地精道ーそれは地精に干渉し穴を掘る呪文。
攻撃呪文が効きにくいと判断し、リナはすぐには這い上がれない深さの落とし穴で動きを封じたのであった。
「こんなのまともに相手してらんないわ」
「しかし、いいのでしょうか?
この人についていけば、この異常事態の解明に繋がるのでは……?」
「マシュって言ったっけ?
急ぎたいのは分かるけど、準備もなしに敵の懐に飛び込むことはないわ。
まずはあんたたちの拠点が作れる場所に行くわよ!」
「き、貴様ぁ~、おのれ卑怯なぁ~」
穴の奥から響く声を無視して、リナたちは街をあとにした。