機動戦士ガンダム Vガンダム戦後、15歳になったウッソとシャクティのイチャイチャ深夜ラジオ。なお、裏で冷徹にラブコメのカンペを出している怪しい構成作家は、あの木星帰りの英雄(30代)な模様 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
カサレリアの朝は、いつもリガ・ミリティアの遺産であるコンテナの錆びついた匂いと、生き生きとした新緑の香りが混ざり合うところから始まる。
15歳になり、以前よりも少しだけ肩幅の広くなったウッソ・エヴィンは、手作りの木製デスクの前で、古い音響ミキサーの基盤を覗き込んでいた。声変わりを終えた少し低めの声で、静かに独白する。
「一年戦争の宇宙世紀0079年から数えて、僕たちはもう、宇宙世紀0155年という未来の果てに立っているんだな……。ザンスカールとの大きな戦争が終わって、地球圏は静かな停滞期に入ったけれど、各地のストレージにはまだ、こんなにたくさんの隠された記録が暗号パケットとして眠っているなんて」
「ウッソ、おはよう。今日も朝から機材の調整?」
コンテナの重い扉をそっと開けて入ってきたのは、シャクティ・カリンだった。15歳になった彼女は、ロングスカートの裾を軽く持ち上げ、カサレリアの朝霧を髪にまとわせながら、自然な動作でウッソのすぐ隣へと歩み寄る。その瞬間、ふわりと漂った彼女の髪の香りに、ウッソの脳内センサーは一瞬でミノフスキー粒子を散布されたかのように狂い始める。ウッソは慌てて視線をミキサーの手元へと戻した。15歳特有の、格好つけたいけれど、いざとなると手も握れない不器用さが、彼の指先を不自然に硬直させていく。
ガラスの向こうの副調整室には、サングラスをかけた構成作家のカティス・ロゥが、すでに椅子に深く腰掛け、怪しい電子タバコをくゆらせていた。カティスは不敵な笑みを浮かべ、手元のスケッチブックにさらさらと文字を書き殴ると、バッとガラスに貼り付けた。そこには太い黒マジックでこうある。
『本番3秒前。全宇宙のリスナーの鼓膜を震わせるプロの顔をしろ。ちなみに我が番組は地球の裏側のコロニー群やジャンク屋の夜間通信ポートに合わせて生放送しているため、カサレリアの朝に始めても番組の終わりは「おやすみなさい」になるのが宇宙世紀のディレイ風情というものだ。今日も日和った場合は来週から水着回、あるいはカサレリアの通信アンテナをすべて対空レーザーで一瞬にして巨大なひまわり風車にする』
「カ、カティスさん! 本番直前にアンテナをひまわり風車に改造する脅しをかけるのはやめてください! リスナーの時差の解説はありがたいですけれど!」
ウッソは慌ててミキサーのメインフェーダーを上げた。手作りのアコースティックギターのジングルがカサレリアの爽やかな風のように流れ、赤い「ON AIR」のインジケーターが点灯する。
「リスナーの皆さん、こんばんは。宇宙世紀0155年、停滞期を迎えている地球のカサレリアからお送りしています。パーソナリティのウッソ・エヴィンです! カサレリアは今ちょうど爽やかな朝を迎えたところですが、この電波がミノフスキー粒子を潜り抜けて各地のデータ端末に届く頃には、宇宙の向こうは静かな夜の闇の筈ですので、皆さんの時間に合わせてお付き合いくださいね」
「こんばんは、シャクティ・カリンです。戦後、こうしてカサレリアで迎える朝は本当に穏やかですね。……隣にいるウッソが、さっきから壊れたジェネレーターみたいにガタガタ震えているのを除けば、地球は今日もとっても平和なんですけれど♪」
「シャ、シャクティ、マイクの前で僕の稼働状況を暴露するのはやめてよ! ……コホン。さあ、リスナーの皆さん! 本日もカサレリア・ストレージの旧民間公衆データ端末に、全宇宙の生き残りやジャンク屋たちから鳥肌モノの暗号化パケットが届きました。連邦軍極秘アーカイブ・コードHM410389。記録されている本物の歴史のタイトルは、機動戦士ガンダム ハマーン様、恋をする 14歳の少女が、愛したクズ男に捨てられて、最強の女帝に覚醒するまでの4年間
https://syosetu.org/novel/410389/
です!」
「あら……ハマーン様、ですって? 私たちの知っているあの第一次ネオ・ジオン抗争の冷徹な女帝の、若き日の記録なのね。しかも、14歳の少女が愛したクズ男に捨てられて、最強の女帝に覚醒するまでの4年間だなんて……なんだか、もの凄く劇的で胸が締め付けられるような、でもどこか下世話で気になるタイトルね、ウッソ」
「そうんだよ、シャクティ。特にこのパケットの第1話に着目してほしいんだ。あの冷酷無比とされた彼女が、まだ14歳の瑞々しい少女だった頃のアクシズの空気が生々しく記録されているんだよ。さあ、今日も僕たちの足元にある、この不思議なネオ・ガンダム由来のサイコフレームに触れて、隠された歴史の真実をサルベージしてみよう!」
シャクティが、ウッソの右手に自分の左手をそっと重ねた。
15歳になった二人の成熟しつつある精神波が、かつてこの地に墜落し、二人の手で直接発掘されたネオ・ガンダム2号機のコア・ファイター残骸……そのサイコフレームの結晶へと伝わっていく。金属の塊が、蛍のように淡く、どこか妖しげな虹色の輝きを放ち始めた。
その瞬間、二人の脳裏に、時の壁を超えたかつての宇宙世紀の残響が、強烈な精神感応となってありありと流れ込んできた。
「……う、うわあああっ!? な、なんだこれ! 頭の奥に流れ込んでくるアクシズの閉鎖空間のプレッシャーが凄まじいよ! 宇宙世紀0081年……一年戦争が終結した直後の小惑星基地の、あの冷たくて重い空気。その中で、まだ14歳だったハマーン・カーンが、一人の少女として、一人の男にどうしようもなく恋をしていた、純粋で、泥臭くて、そしてあまりにも切ない感情の濁流が、僕の脳内に直接ログインしてくる!」
ウッソはサイコフレームから伝わってくるあまりに生々しい感情の揺らぎに、マイクの前で息を呑み、目を見開いた。
「嘘……、そんな、ウッソ、これって……! 私たちの知っている、あの氷のように冷たいマントを羽織った女帝の面影なんてどこにもないわ。第1話に描かれている彼女は、ただ独りぼっちで、不安で、でも大好きなあの『赤い彗星』の男の影を必死に追いかけている、どこにでもいる恋する女の子じゃないの。彼女がどんな思いでその銀色の爪を紫色に塗り替えていったのか、その覚醒の前夜の孤独が、胸が痛くなるほどの熱量で伝かってくるわ……!」
「そうなんだよシャクティ! 僕、全身の身震いが止まらないよ! 公式の歴史年表では、ただ『アクシズの摂政として君臨した冷徹な指導者』としか書かれていない彼女が、その裏側で、どれほど不器用で、どれほど一途に、あの仮面の男に振り回されていたか。その圧倒的な落差には、本当に鳥肌が止まらないよ! 企業の歯車として衰退していったアナハイムやサナリィの歴史とはまた違う、人の心の機微が歴史を動かしていく、一番ディープでゾクゾクする裏舞台なんだ。具体的な二人の距離の擦れ違いや、彼女が最強の女帝へと変貌を遂げていく4年間の衝撃の結末は、これを受信した僕たちのモラルとして、ガッツリとしたネタバレは絶対に封印する。だけど、この第1話を読めば、彼女の人間らしい可愛らしさと、その後に待つ切ない運命の予兆に、誰もが心を鷲掴みにされて身悶えすること間違いなしだよ!」
ウッソの熱弁が響き渡り、サイコフレームの虹色の光がゆっくりと収束していく。アクシズの冷たい空気や、精神の共鳴が消え、コンテナの中にカサレリアの現実の静けさが戻ろうとした――まさにその、生放送中のことだった。
パチパチバチッ! と、突如として音響ミキサーの古い配線から、激しい火花が飛び散った。
「うわっとぉっ!? メ、メインプロセッサーの電圧が急上昇している!?」
驚いたウッソが思わず椅子ごと後ろにひっくり返りそうになり、慌てたシャクティがそれを支えようとして前にのめり込む。
「キャッ!? ウッソ、危ないわ!」
ドサリ、という重い音と共に、二人は生放送中のコンテナの床へと、完全に重なり合うようにして転がっていた。しかも、不運なことにウッソが下になり、シャクティがその上に完全に覆いかぶさる形になってしまったのだ。
「痛たた……。あ、ごめんシャクティ、大丈夫……って、ひゃああああっ!? え、えええっ!?」
ウッソの全思考回路が、一瞬でメガ粒子砲の直撃を受けたかのように大爆発した。
床に倒れ込んだ弾みで、ウッソの右手は、シャクティのロングスカートの裾を大きくめくり上げる形になっていた。彼の掌が直接捉えていたのは、シャクティの驚くほど細くて滑らかな、剥き出しの太ももの素肌だった。ストッキングも穿いていない、カサレリアの朝露のようにひんやりとして、それでいて奥に確かな体温を秘めた肉の柔らかさが、ウッソの五本の指にダイレクトに沈み込む。さらに、15歳になって豊かに成熟しつつある彼女の胸元が、ウッソの顔面に完全に押し付けられており、彼女の体温と甘い髪の香りが、ウッソの五感を完全にジャミングした。
この衝撃的な生々しいハプニングの音とウッソの絶叫は、マイクを通して全宇宙のリスナーの鼓膜へとダイレクトにリアルタイム配信されていた。
「う、ウッソ……? 手、どこに触っているのかしら……? それに、私の胸、そんなに痛いくらい押し付けられて……ウッソの心音、すごく速くなっているわね?」
シャクティは顔を耳の根元まで真っ赤に染めながらも、ウッソの胸元に両手を置いたまま、逃げようともせずに、至近距離から潤んだ瞳でじっとウッソを見つめてクスクスと小悪魔的に笑った。15歳になり、ウッソに対して自分が優位に立っていることを無自覚に楽しむ彼女の小悪魔性が、完全に開花していた。
「あ、いや、これは機材のマイナストランスによる不可抗力な接地現象で! 決して僕が邪なスペックを起動してシャクティの下半身の装甲内部にログインしたわけじゃなくて! 音響ミキサーのレベルメーターで言うなら今、僕の心拍数が15530デシベルを超えて、稼働出力がレッドゾーンを突き破っている状態で!」
ウッソは顔面をトマトのように沸騰させ、全身をガタガタと震わせながら、太ももを撫でるように固まったままの右手をどこに動かせばいいかわからず完全パニックを起こしていた。
ガラスの向こうのサブでは、カティスが『生放送での特大ラッキースケベ完全達成!』と言わんばかりに大爆笑しながら、狂ったようにスケッチブックをめくっていた。掲げられたカンペには、こうある。
『実況生中継成功。推力合計150パーセント。ウッソ、あのクズ男のステップを見習うな、男ならそのまま彼女の細い腰をガッチリとホールドし、大人の技術でパーソナルスペースを完全強奪しろ。日和ったら来週の台本はウッソがマルチプル・モビルスーツのコア・ファイター換装時に操作を間違えて赤面した事件の暴露大会にする』
「カ、カティスさん! 全国ネットの電波で何を実況させているんですか! 変な男の生き様を引き合いに出して僕を脅さないでください!」
ウッソは決死の思いでシャクティの身体の下から這い出ると、壊れたロボットのような動きでデスクにしがみつき、マイクを握り直した。シャクティも乱れたスカートの裾を小さく整えながら、椅子の位置をウッソのすぐ隣へとスッと近づけてくる。その距離は完全にゼロだった。彼女の長い髪がウッソの肩にハラリとかかる。
「……ねえ、ウッソ」
不意に、シャクティがさっきの14歳の少女の純情な記録の余韻と、今のハプニングの熱を帯びたまま、潤んだ瞳でウッソの顔を覗き込んできた。
「シャ、シャクティ……? どうしたの、これ、ただの事故で、カティスさんのカンペはいつも通り最低な冗談だから――」
「冗談じゃないわ。私、さっきのハマーン様の記録を見ていたら、なんだか胸がすごく甘酸っぱくて、キュンキュンしちゃって……」
シャクティはウッソのパーソナルスペースに無自覚に侵入し、彼の耳元に唇が触れそうなほどの至近距離で、そっと妖しく、おねだりするように囁いた。
「ウッソは、私を置いてどこかへ行ったりしないわよね……? あの仮面の男の人みたいに、私を独りぼっちにして、冷たい女帝なんかに覚醒させたりしないって……この誰も来ない閉ざされたコンテナの中で、世界を全部忘れるくらい、強く約束して……?」
「――っ!!!??」
ウッソの全稼働システムは完全に融解し、思考回路はオーバーヒートで消し飛んだ。さっき床で触れてしまった、彼女の太ももの驚くほど柔らかい素肌の感触が脳裏にフラッシュバックし、もう言葉にならない叫びが喉を突く。
「お、置いていくわけないじゃないか! シャクティ、生放送中に何を言っているんだよ! 僕のバイオ・コンピュータが完全にバグを起こして、冷却ファンが合計15530キログラムの推力で空回りして宇宙まで飛んでいっちゃいそうだよ! 僕は健全な15歳男子なんだから、そんな甘酸っぱくて刺激的な誘惑をされたら、もう恥ずかしすぎてマイクの前から消えてなくなりたいよ!」
ウッソが直立不動のまま真っ赤になってパニックを起こす姿を見て、シャクティはついに堪えきれず、クスッと悪戯っぽく、だけど心からの愛おしさを込めて笑った。
「ふふ、冗談よ、ウッソ。そんなにリミッターの外れた顔をしなくてもいいのに。でも、ウッソがそうやって私の言葉に本気で狼狽えて、私だけを絶対に離さないって顔をしてくれるの……なんだか、すごく嬉しいわ♪」
シャクティは頬を赤く染めながらも、重ねた手を離さないまま、さらにぴったりと彼の肩に身体を寄せた。ウッソは顔を真っ赤にしたまま、どうしても彼女の身体を男らしく抱きしめる勇気は出なくて、だけど自分の肩に寄り添うシャクティの小さくて温かい手を、自分の左手で上からそっと、壊れ物を扱うように包み込んだ。15歳特有の、格好つけたいけれど、いざとなると手も握れない不器用な少年。だけど、彼は世界で一番、シャクティを愛している男だった。その温もりが電波を通して、夜を迎えている全宇宙のリスナーへと流れていく。
ガラスの向こうで、カティスが大爆笑しながら親指をガッと突き出し、完璧なタイミングでメインフェーダーを下げるジェスチャーを送った。
「……そ、それでは宇宙の向こうで夜を過ごしているリスナーの皆さん、またカサレリアの電波でお会いしましょう。今回紹介した、女帝の知られざる少女時代が眠る記録、機動戦士ガンダム ハマーン様、恋をする 14歳の少女が、愛したクズ男に捨てられて、最強の女帝に覚醒するまでの4年間
https://syosetu.org/novel/410389/
へは、カサレリア・ストレージの暗号化パケットからいつでもアクセス可能です。それでは、皆さんは良い夢を見てくださいね……」
「「おやすみなさい!」」
マイクの「ON AIR」ランプが静かに消灯し、コンテナ内には、いつもより少し距離の縮まった二人の、穏やかで甘酸っぱい息遣いと、カサレリアのどこまでも爽やかでキュンキュンする風の音だけが、いつまでも優しく響いていた。