機動戦士ガンダム ​Vガンダム戦後、15歳になったウッソとシャクティのイチャイチャ深夜ラジオ。なお、裏で冷徹にラブコメのカンペを出している怪しい構成作家は、あの木星帰りの英雄(30代)な模様   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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連邦軍極秘アーカイブHM412070・重力より重い社畜の怨念と、カサレリアの甘い誘惑

宇宙世紀0155年。地球圏を包み込むかつてないほどの静かな停滞期の中にあっても、カサレリアの地は変わらず豊かな自然の生命力に満ちあふれていた。2年前のザンスカール帝国との最終決戦の傷跡など最初からなかったかのように、緑の梢が初夏の風にそよいでいる。

 

ウッソ・エヴィンとシャクティ・カリンの2人が暮らすその家の一角、かつてリガ・ミリティアが残した民間用の公衆データストレージ端末が設置された秘密基地のような部屋は、今や地球圏の生き残りやジャンク屋たちへ向けた、ささやかな日常を守るためのラジオ放送のスタジオと化していた。

 

15歳となり、身体的にも青年へと成長し、声変わりも終えたウッソは、かつてモビルスーツを駆って戦場を支配した最強の戦士としての冷静な分析力を発揮し、手際よく音響機材の配線をチェックしていた。しかし、そのすぐ隣に座るシャクティとの距離が、ほんの数センチメートル近づいただけで、彼の超一流の空間認識能力は瞬時にハングアップしてしまう。

 

シャクティがふわりと身を乗り出し、ウッソの覗き込むモニターを一緒に見つめた。ウッソの鼻腔に、彼女の髪から漂う野の花のような香りがダイレクトに届く。

 

「ねえ、ウッソ。今日のデータパケット、もう届いているのかしら?」

 

「う、うん! あ、あそこに……いや、カサレリア・ストレージの受信ポートにね、暗号化データパケットとして、さっき滑り込んできたんだよ、シャクティ!」

 

ウッソは裏返りそうになる声を必死に抑えながら、ミキサーのレベルメーターに視線を走らせた。メーターの針が激しくピンを振っている。

 

「なんだか、メーターがすごく赤くなっているわね。機械の調子が悪いの?」

 

「ち、違うんだ! これは僕の……じゃなくて、機機機機材のインプット感度が高すぎるだけで、つまり僕の心拍数が毎分150を突破しているようなエラー数値を示しているだけで、機材はいたって正常だよ!」

 

パニックを起こしてしどろもどろになるウッソを、シャクティは少し大人びた笑みを浮かべ、上目遣いで覗き込んできた。聖母のような包容力を漂わせながらも、ウッソが自分を意識して狼狽する姿を無自覚に楽しむ小悪魔的な一面が、15歳の彼女には開花しつつあった。

 

「ふふ、ウッソってば、私の顔がそんなに近くて緊張しているの?」

 

「そ、そんなことないよ! 僕はいつだって冷静にミノフスキー・ドライブの技術的数値だって計算できるし……!」

 

その時、防音ガラスの向こう側、サブと呼ばれる調整室に佇む構成作家のカティス・ロゥが、静かにスケッチブックを掲げた。30代後半から40歳前後の彼は、サングラスの奥の目をギラリと光らせ、一切の声を発することなく、無言のト書きのみでウッソにプレッシャーを与えてくる。

 

スケッチブックには、太いマジックで『ヘタレ禁止! 男なら肩を抱き寄せろ! そのまま本番スタートだ!』と過激なカンペが躍っていた。かつてキンケドゥから男の生き様を学び、自身も甘酸っぱい修羅場をくぐり抜けてきたカティスにとって、ウッソの純情すぎるヘタレ具合は見ていてじれったくて仕方がなかったのだ。カティスはニヤリと笑い、親指を立ててみせる。

 

「カ、カティスさん! そんな無茶苦茶なカンペ出さないでください!」

 

ウッソが顔を真っ赤にして叫んだ瞬間、本番のオンエアを示す赤いランプが点灯した。

 

「え、あー……! リスナーのみなさん、こんにちは! 『ウッソとシャクティのカサレリア・リミテッド・レディオ!』の時間です! パーソナリティのウッソ・エヴィンです!」

 

「みなさん、こんにちは。シャクティ・カリンです。今日もカサレリアの風に乗せて、私たちの声をお届けしますね」

 

シャクティが完璧なマイクパフォーマンスでウッソの動揺をフォローする。ウッソはゴホンと一つ咳払いをして、手元のデータ端末に意識を集中させた。

 

「さあ、今日も地球圏のジャンク屋や生き残りのみなさんからミノフスキー粒子による通信障害を潜り抜けて届いた、貴重なデータパケットを紹介するよ。今回、ネオ・ガンダム由来の精神感応型サイコフレームがサルベージした、公式正史に完全準拠した歴史の真実は……これだ。連邦軍極秘アーカイブ・コード:HM編番号412070、『旧アナハイム社遺品データパケット・識別名:機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる』だよ」

 

「宇宙世紀0010年……。私たちが生きている0155年から数えて、140年以上も昔の、宇宙世紀が始まってまだ間もない頃のお話なのね」

 

「うん。アナハイム・エレクトロニクス社が衰退してサナリィが台頭するよりもずっと前、人類が地球という実家から宇宙へ飛び出して、まだ10年しか経っていない時代の記録なんだ。それじゃあシャクティ、サイコフレームに手を重ねよう」

 

「ええ、ウッソ」

 

2人はデスクの中央に据えられた、かつてネオ・ガンダム2号機のコア・ファイター残骸から発掘されたサイコフレームの結晶体にそっと手を重ねた。

 

刹那、スタジオが淡い虹色の光に包まれる。安定したニュータイプ能力を持つ2人の精神がサイコフレームと同調し、隠蔽された史実が脳内へとダイレクトに流れ込んできた。それは映像として映るのではなく、当時の人々の感情や五感ごと追体験させる、圧倒的な精神感応だった。

 

――そこは、お世辞にもイケメンとは言えない不格好なアームを付けた作業ポッドが漂う、寒々とした宇宙空間だった。

 

「うわあ……! これは、すごく生々しいな……!」

 

ウッソはサイコフレームがもたらすビジョンの中で、思わず声を上げた。

 

語られるのは、巨大国家事業の末端の末端で、誰も見向きもしない宇宙の粗大ゴミを拾い集める不法投棄Gメンたちの、世知辛くも凄まじい労働の日々。

 

主人公の作業員は、毎月の請求書や家賃の督促状、そして重すぎる住宅ローンという現実から物理的に逃げ出すために、木星エネルギー公社(JMP)の木星船員選抜試験に挑み続けている。しかし、そのお上が作ったシステムの裏には、コネと金、そして都合のいい利権構造が渦巻いていた。

 

「現場で働く人たちは、お上の横暴や理不尽な格差に振り回されながらも、必死に生きているわ」

 

シャクティもまた、その過酷な労働環境と、彼らのルサンチマン全開の愚痴に触れて胸を痛めていた。

 

宇宙防衛戦線の残党がエリート候補生の乗る高級シャトルにゴミをぶつけようとするテロ騒ぎ、そして危険な核熱ロケット・エンジンの回収作業中に起きる、お上の『免責事項』という名の大嘘とトナーカートリッジのような使い捨ての扱い。

 

「すごいよ……テロリストの襲撃や冷却材の爆発大ピンチの連続なのに、ここの作業員の人たちは『俺の有給をこれ以上削る奴は容赦しねえ!』とか『俺の物欲よ、燃え上がれ!』ってマニピュレーターのレバーを限界までぶち回して、デブリをプロ野球のバッターみたいに弾き飛ばして解決していくんだ! 不合格の理由が『思想的粗大ゴミ』の付着だなんて理不尽だけど、その泥臭い執念と、どこか抱腹絶倒で大爆笑してしまうような掛け合いが、最高に熱いよ!」

 

ウッソは興奮気味に語る。シリアスな宇宙世紀の裏側で、全裸の殴り合い地獄のような一年戦争が始まる前の、人間のエネルギーが爆発している。

 

「それに、連邦政府のドス黒い支配の傷跡や、見えない境界線の話……。地球は宇宙から見れば国境線なんて一ミリも見えない美しい星なのに、人間のセコい憎しみがそれを塗りつぶしていく。でも、拾った『メルカリで売れそうな綺麗な石』を通じて語られる、どこの国の石かなんて決めるのは安全な部屋の机の上から動かない奴らだっていう言葉、すごく胸に刺さるわね。ネタバレになっちゃうから詳しい結末は言えないけれど、このお話はぜひ、以下のURLからジャンク屋のみなさんにも直接確かめてほしいな」

 

https://syosetu.org/novel/412070/

 

「うん、歴史の教科書には載らないけれど、確かにそこに生かった人たちの息遣いが聞こえる素晴らしい記録だったね。公式設定に完全準拠した、隠された名作データパケットだよ。みんなも絶対にアクセスしてみてね!」

 

サイコフレームの虹色の光が静かに収束し、2人はカサレリアのスタジオへと引き戻された。

 

歴史の重みと、そこに生きた人々の切実な願いに触れたウッソは、ふと、今こうしてシャクティと2人でいられるカサレリアの穏やかな日常が、どれほど奇跡的なものであるかを再確認していた。

 

「……あの時代の宇宙労働者たちは、毎月の請求書やローンに追われながら、いつかあの星に行けば救われるんじゃないかって木星を見つめていた。でも、僕たちのいるこのカサレリアこそが、きっと彼らが本当に探していた場所なんだよね。だから僕は、この場所を、シャクティとのこの時間を、絶対に守りたいんだ」

 

ウッソが真剣な目でポツリと独白した。そのあまりにも真っ直ぐな言葉に、シャクティは一瞬だけ驚いたように目を見張った。

 

しかし、すぐにその表情は、とろけるような甘い微笑みへと変わる。

 

「ウッソ……そんな風に私のこと、想ってくれていたのね」

 

シャクティは、パーソナリティとしての距離を完全に踏み越え、ウッソの座る丸椅子のすぐ隣へと、さらに距離を詰めてきた。ウッソの肩に、シャクティの柔らかい肩がピト、と触れ合う。

 

「わ、わ、シャクティ!? ちょっと近いよ! マイクが僕たちの衣擦れの音まで拾っちゃうから!」

 

「いいじゃない。カサレリアの平和をリスナーのみなさんにもお裾分けしましょう? ほら、ウッソの心拍数、またレベルメーターを突き抜けそうよ?」

 

いたずらっぽく微笑むシャクティの顔が、目と鼻の先にある。彼女の吐息がウッソの頬をかすめ、甘酸っぱいキュンキュンとした空気がスタジオを支配する。ウッソの脳内思考力は完全にゼロになり、顔から火が出そうなほど真っ赤になった。

 

サブのガラスの向こうでは、カティス・ロゥが『素晴らしい! そのまま押し通せ!』と言わんばかりに、激しくサングラスを直しながら、満面の笑みで両手の親指をグッと立てていた。

 

「う、うわあぁぁ! リ、リスナーのみなさん! 今回のお便りやデータ要求の送信先は、カサレリア・ストレージの旧民間公衆データ端末アドレスまでお願いします! それでは、お元気でー!」

 

パニックになったウッソが、勢い余ってマイクに手をぶつけ、そのままバランスを崩してシャクティのほうへと倒れ込んでしまう。

 

「きゃっ!?」

 

「うわっ、ごめんシャクティ……って、あれ? な、何これ、すごく柔らかいものが僕の手に……ひ、ひえええええ!?」

 

偶然の事故による特大のラッキースケベが発生し、ウッソの心拍数はついに限界数値を突破して機材のブレーカーを落とした。カサレリアのスタジオは、甘酸っぱい悲鳴と共に静かにフェードアウトしていった。

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