機動戦士ガンダム ​Vガンダム戦後、15歳になったウッソとシャクティのイチャイチャ深夜ラジオ。なお、裏で冷徹にラブコメのカンペを出している怪しい構成作家は、あの木星帰りの英雄(30代)な模様   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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女帝の純情と名もなき遺児たち――暴かれる歪んだ愛のバトン

宇宙世紀0155年。

 

ザンスカール帝国とのあの激しかった最終決戦から2年が経過した世界。

 

地球連邦政府の形骸化はさらに進み、もはや地球圏全体の統治能力は完全に失われていた。しかし、ザンスカール帝国という巨大な共通の脅威が崩壊したため、地球圏はかつてないほどの静かな停滞期(エアポケット)を迎えている。大局的な戦争は終結したものの、各地には未だにザンスカール残党、連邦軍の軍閥、ジャンク屋、小規模な私設武装組織が乱立しており、小競り合いや情報統制、闇ルートでの物資やデータのやり取りが日常化していた。

 

ウッソとシャクティが暮らすカサレリアは、相変わらず宇宙世紀の喧騒から隔絶された、自然豊かな理想郷である。戦火の傷跡は自然の生命力によって少しずつ覆い隠され、2年前の戦いが嘘のような静けさを取り戻していた。ウッソたちは自給自足に近い生活を送りながら、リガ・ミリティアの残したコンテナを秘密基地のように扱い、このささやかな日常を守るためにラジオ放送を続けている。

 

ブースの向こう側、ガラスで仕切られた副調整室(サブ)には、色付きのメガネをかけた一人の男、構成作家のカティス・ロゥが、不敵な笑みを浮かべて椅子に深く腰掛けていた。彼の前には、手書きの赤字が無数に書き込まれた、今夜のための第19回ラジオ台本が置かれている。

 

チーン、というレトロなベルの音と共に、マイクの赤い「ON AIR」ランプが静かに点灯した。毎週のリスナーにお馴染みとなったオープニングジングルとして、アコースティックギターの爽やかな朝をイメージした音色が響き渡る。

 

「……えー、リスナーの皆さん、こんばんは。ウッソ・エヴィンです。カサレリア・リミテッド・レディオ、今夜で早くも第19回の配信になりました。いつも僕たちの放送を聴いてデータパケットを送ってくださる皆さん、本当にありがとうございます。……って、ちょっと待ってくださいカティスさん! 今日の台本、僕の最初のセリフの横に『※吐息交じりに、愛を囁くような低音ボイスで』って謎の指示があるんですけど!? 第19回目にして、なんで急にこんな恥ずかしい新演出が追加されてるんですか!? 僕は戦士として戦う訓練は受けましたけど、深夜ラジオのセクシーDJの訓練なんて受けてませんよ! 15歳になったからって、流石にこれは無理があります!」

 

ガラスの向こうのサブで、カティスは無言のまま、手元のスケッチブックに黒のマジックペンで太々と『19回もやっておいて色気が足りん! 15歳のフェロモンを電波に乗せろ! できないなら本当に来週からウッソの「ふんどし」回にするぞ』と書いたカンペをバッとガラスに貼り付けた。

 

「だから、ふんどし回って何ですか!? 誰が得するんですか、それ! 筋肉モリモリのザンスカール兵じゃないんだから、誰も15歳のふんどし姿なんて見たく……ってラジオじゃ見えないですよ!」

 

「ふふ、よくできました♪ こんばんは、シャクティ・カリンです。ウッソ、お耳まで真っ赤よ? カティスさんの際どい演出にそんなに全力で慌てちゃうなんて、19回目になってもウッソは相変わらず純気で可愛らしいわね」

 

「シャ、シャクティまで面白がらないでよ。ただでさえこのマイク、感度が良すぎて僕の困惑した息遣いまで全部拾っちゃいそうなのに……」

 

「うん、知ってるわ。ウッソのその困ったときの呼吸の乱れ、2年前の戦場でも、そしてこのラジオを始めてからもずっと隣で聞いていたもの。……でも、私の前では、そんなに肩肘を張らなくてもいいのよ? ほら、緊張で手元が震えているなら、この不思議な結晶(アンテナ)にいつもみたいに一緒に触れて、リラックスして?」

 

シャクティが、ミキサーの横に据えられた結晶混じりの奇妙な金属構造体に手を伸ばす。そして、その上にウッソの手を優しく包み込むように重ねた。15歳になった彼女の手は、2年前よりも少し大人びていて、ウッソは一瞬、心臓が跳ね上がるのを感じた。

 

「ひゃっ!? ……あ、いや、シャクティ、急に手を重ねられると、その、サイコミュの同調が強すぎてびっくりするっていうか……(汗)。……あ、ううん、そうじゃないんだ。その、手が、あったかいな、って思って……」

 

「ふふ、ありがとう。ウッソの手も、とっても大きくて温かいわ。……さあウッソ、皆さん待っているわ。毎週大好評をいただいている活動報告パケットの紹介だけど、今日も特別なデータが届いているのでしょう?」

 

「う、うん! ……えっと、リスナーの皆さん。僕たちが今、手を触れているこのサイコフレーム。U.C.0123年のシルエットフォーミュラ計画において、バズ・ガレムソン大佐が強奪・大破させたネオ・ガンダム2号機のコア・ファイター残骸に由来するものです。2年前の激戦の最中、軌道上でバラバラになったエンジェル・ハイロゥのデブリと共に、かつて宇宙へ投棄されていたこのサイコフレームが地球へ落下。カサレリアの地に引き寄せられるように墜落し、僕たちの手で直接発掘されたという不思議な因縁を持つ機材です。これに僕たちの意識を同調させることで、公式正史に完全準拠した歴史の裏の真実を、精神感応によって直接追体験できるんですが……本日もデータストレージに、とんでもなく興味深い活動報告パケットが届きました」

 

ウッソとシャクティが触れている金属結晶が、2人のニュータイプ能力に敏感に反応し、淡い、蛍のような虹色の輝きを放ち始める。

 

「今回届いた活動報告はね、僕たちがこの番組の過去の放送でそれぞれ別々にご紹介した、あの宇宙世紀の異なる焦点距離を見つめた連作……あの二つの記録が、なんと共に完全な編纂を終えたという公式の報告なんだよ。タイトルは――」

 

『ミハルの遺児たちは、閉ざされた部屋で心中を誓うとハマーン様、恋をするのつながりについて』

 

「というものです」

 

シャクティが興味深そうに目を見開いた。

 

「完結した2作のつながりについての記録……。以前にバラバラの回で触れたあのお話たちが、大きな歴史のうねりに翻弄された人たちの、深い感情のルーツとしてどう結びつくのか、すごく切ないお話の予感がするわね」

 

「うん、その通りだよ。活動報告パケットの原本のアドレスはこちらです」

 

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341058&uid=504230

 

「今回の活動報告はね、僕たちが過去回で読み解いたあの二つの物語が、直接的に同じ人物がバトンを渡していく続編関係というより、宇宙世紀という時代が、個人の孤独や愛情をどう押し潰していくのかという一点において、見事に地続きでつながっていたことを解説してくれているんだ。以前番組で紹介した一つ目の記録は、歴史の表側ではなく、そのたびに踏み潰され、置き去りにされ、それでも生きるしかなかった側の宇宙世紀を描いたドラマだったよね」

 

「ええ、よく覚えているわ。以前紹介したその一つ目の記録が――」

 

『機動戦士ガンダム ミハルの遺児たちは、閉ざされた部屋で心中を誓う カイ・シデンへの復讐と、透明な禁忌に溶ける僕たちの宇宙世紀』

 

「だったわね。一年戦争から始まる巨大な歴史のうねりの中で、英雄や大義や改革の言葉では決して救われない子どもたちがいて、その孤独がどこへ流れ着くのかを書いたお話。カイ・シデンという『正しさ』に近い位置にいる人物がいてもなお、救われきらない命の重みが、胸に突き刺さるような記録だったわ」

 

「うん。そして、それと対になる形で別の回に紹介した、歴史の中心に立つ側の宇宙世紀を描いた二つ目の記録が――」

 

『機動戦士ガンダム ハマーン様、恋をする 14歳の少女が、愛したクズ男に捨てられて、最強の女帝に覚醒するまでの4年間』

 

「なんだ。後に『最強の女帝』と呼ばれるハマーン・カーンが、まだ 14歳の少女だった時代から、シャア・アズナブルというどうしようもなく巨大で、どうしようもなく不誠実な存在に傷つきながら、ひとりの支配者へと変わっていくまでを書いたお話。アクシズ、デラーズ紛争、グリプス戦役、そして彼女の台頭へと至る空白を、ひとりの少女の感情から埋めていく、もの凄く濃密な精神史だったよね」

 

「ええ。今回の活動報告の最大のポイントはね、この2作のつながりが、宇宙世紀の出来事そのものだけではなく、その出来事の陰で、人がどう壊れ、どう歪み、どう生き延びるのかを見る視点にあると解き明かしていることなんだ。片方は歴史から零れ落ちた者たちの物語で、もう片方は歴史そのものを背負わされる者の物語。一見すると対極にあるようで、根っこにあるものは全く同じなのよね」

 

ウッソはサイコフレームの輝きの向こうに、大きな歴史に押し潰されていった者たちの孤独を幻視しながら、少し声を潜めた。

 

「『戦争の被害を受けた側の宇宙世紀』と『戦争を引き受けて怪物になっていく側の宇宙世紀』としてつながっている……。一年戦争の傷から第二次ネオ・ジオン抗争の時代までを見渡す遺児たちの物語と、その激動の裏で少女が女帝へと変質していく物語。二つの記録を並べて読むことで、宇宙世紀の表と裏、中心と周縁、英雄の側と取り残された側の輪郭が、これ以上ないほどはっきりと見えてくる構成になっているんだよ」

 

「大きな歴史はいつだって正しい顔をして進んでいくけれど、その足元には、名前の残らない孤独や、誰にも救われない感情が沈殿している……。以前に私たちの番組を聴いてどちらか片方だけを読んでくれたリスナーにとっても、まだ両方とも読んでいない人にとっても、いかに読みたくさせるかという熱量に溢れた、最高のガイドになっているわね。核心のネタバレを上手に避けつつ、公式設定の重力の中でこれだけの感情のミッシングリンクを示されると、今すぐにでも両方の記録を読み直したくなっちゃうわ」

 

「うん、僕も頭の中に流れ込んでくる記憶に鳥肌が立ったよ。作者さんがどんな視点で宇宙世紀の『光と影』を捉えていたのか、本当に、この世界を守れてよかったなって改めて思えるんだ」

 

「うん。ウッソが守ってくれたこの平和な世界だからこそ、私たちはこうして、隠されてしまった素敵な史実をみんなに届けることができるのよね。ウッソ、今日もこうして2人で新しい歴史の真実を見つけられて、私、とっても幸せよ」

 

シャクティが15歳らしい、少し大人びた、だけど心からの純粋な笑顔をウッソに向けながら、さらに距離を詰めてウッソの肩にコツンと頭を預ける。シャクティの髪から、カサレリアの野花のような甘い香りがふわりと漂った。

 

その瞬間、身を乗り出していたウッソの手が机の上の資料に引っかかり、慌ててバランスを取ろうとした拍子に、シャクティの手の上にウッソの手が綺麗に重なってしまった。それどころか、勢い余ってシャクティの太もものあたりにウッソの手が軽く触れてしまう。

 

「ひゃああっ!? ……あ、いや、シャクティ!? だから近いってば! 第19回目にしてその、色々と距離感が近すぎるよ! ほら、ミキサーのレベルメーターの針が、僕の心拍数でレッドゾーンに振り切れそうになってるから!」

 

「ふふ♪ ウッソって本当に退屈させない男の子ね。私、ウッソのそういう不器用なところも、すごく格好いいと思うわよ?」

 

上目遣いで微笑むシャクティの顔が、今度は数センチの距離にある。ウッソの脳内CPUは完全に熱暴走を起こした。

 

ガラスの向こうのサブで、カティスはウッソの本気で狼狽する姿に大爆笑しながら、新しくページをめくり、『19回目もごちそうまんでした! そのままホールドしろ!』と書いたカンペを勢いよくガラスに叩きつけた。

 

「カティスさんもサブからニヤニヤしながら変なカンペを出さないでください! 放送中! これ本番中ですからね!!」

 

サブのガラス越しに、カティスが『男なら行け!』と言わんばかりに、グッと立てた親指を突き出している。

 

「ふふ。15歳になっても、ウッソのそういう慌てちゃうところ、私は大好きよ♪」

 

「も、もう、シャクティったら……。ええと、とにかく! 今回は活動報告パケットとして、過去回でも特集し、このたび無事に完結を迎えた二つの物語の繋がりを解説した『ミハルの遺児たちは、閉ざされた部屋で心中を誓うとハマーン様、恋をするのつながりについて』をご紹介しました」

 

「それではリスナーの皆さん、またカサレリアの電波でお会いしましょう。それでは……」

 

「「おやすみなさい!」」

 

ウッソが慌ててマイクのスイッチを切る。しかし、サイコフレームの虹色の残響音が、2人の甘酸っぱい吐息をほんの数秒だけ、全宇宙の電波へと流し続けていた。

 

手作りのアコースティックな音色が、静かにカサレリアの夜へとフェードアウトしていった。ガラスの向こうから突き出された、カティスの最初のカンペの裏には、いつの間にか赤ペンで『次回予告:ウッソ、カサレリアの中心で愛を叫ぶ(強制)』と殴り書きされており、静まり返ったブースの中で、これからのさらなる修羅場を予感させるように妖しく浮き上がっていた。

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