機動戦士ガンダム Vガンダム戦後、15歳になったウッソとシャクティのイチャイチャ深夜ラジオ。なお、裏で冷徹にラブコメのカンペを出している怪しい構成作家は、あの木星帰りの英雄(30代)な模様 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
朝露に濡れた草の海を渡る風が、カサレリアの小さな放送ブースの窓を優しく叩いていた。木製の机の上では、古びたミキサーのメーターが、まだ眠たげにゆらゆらと揺れている。
ウッソは、その針の動きを見つめながら、端末から受信したばかりのデータパケットを慎重に展開していた。
「……すごいな。こんなに圧縮されてるのに、ちゃんと復元できるんだ」
呟いた声は、少し低くなった。声変わりを終えたそれは、少年と青年の境界にいる証のようでもある。
その背後から、ふわりと香る草花の匂い。
「ウッソ、あまり難しい顔してると、リスナーに怖がられちゃうわよ?」
シャクティが、いつの間にかすぐ隣に立っていた。肩と肩の距離は、ほとんどゼロに近い。
「うわっ……え、ちょ、シャクティ、近いよ……!」
思わずミキサーに肘をぶつけ、レベルメーターが一瞬跳ね上がる。心拍数と同期するかのように、針が震えた。
「今の、完全にクリッピングしてるよ……僕の心臓が……!」
「ふふ、じゃあ少し調整してあげるわね」
そう言って、シャクティは自然すぎる動作でウッソの肩に手を添えた。逃げ場はない。
(抱きしめろ。男なら行け)
ガラス越し、カティスがゆっくりとスケッチブックを掲げる。無表情のまま、親指をぐっと立てた。
「だから無理ですって!!」
ウッソは小声で絶叫した。
「何が無理なの?」
「な、なんでもない、なんでもないよ!さあ、放送に入ろう!」
強引にスイッチを入れる。
カサレリア・リミテッド・レディオ、本日の放送が始まった。
軽いオープニングトークを終えた後、ウッソはデータパケットの一つを選び、慎重に読み上げる。
「今日の活動報告は……ちょっと特別だよ。完全に別の時代のものなのに、奇妙に繋がっているんだ」
シャクティが静かに頷き、彼の隣でサイコフレームに手を伸ばす。
虹色の光が、二人を包み込んだ。
視界の中に浮かび上がるのは、宇宙世紀0079。
サイド7の閉ざされた空間。警報音。誰かの息遣い。
「これは……連邦軍極秘アーカイブ・コード:HM編0079-S7……」
ウッソの声が震える。
「“受信機”。でも、ただの機械じゃない……これは、人の意識そのものを拾ってたんだよね……!」
戦場の記録の裏側で、確かに存在していたもう一つの声。公式には残されていない、しかし確実にあった“兆候”。
「隣にいるのに、届かない声……」
シャクティの瞳が揺れる。
「でも、それがあったから、未来に繋がったのよね……」
場面が跳ぶ。
次に現れたのは、宇宙世紀0010。
静かなオフィス。書類。端末。疲れ切った人々。
「……これが、宇宙世紀の初期だったんだよね……」
ウッソは息を呑む。
「旧連邦基幹データ・識別名:UC0010-LB……“住宅ローン”……」
そこには、戦場ではない別の重力が存在していた。
制度、生活、責任。
逃げられない現実。
「戦いじゃないのに……こんなに苦しいなんて……」
「でも、繋がってるのよ」
シャクティが優しく言う。
「さっきの声が、ここで形になってる。埋もれていたものが、日常になったの」
ウッソは静かに目を閉じた。
「戦場だけが、宇宙世紀じゃないんだよね……」
光が消える。
気が付けば、またカサレリアの放送ブースだった。
「……すごい活動報告だったね」
ウッソはマイクに向かって語る。
「あの二つは直接の続きじゃない。でも、確実に同じ世界の中にあった」
シャクティも頷く。
「見えなかったものが、少しずつ形になっていく。それが、歴史なのかもしれないわね」
そしてふっと、彼女が距離を縮めた。
「ウッソ」
「え?」
「私たちも、その一部なのよ?」
顔が、近い。近すぎる。
「い、いや、ちょっと、それは距離が近いっていうか」
「ドキドキしてるわね」
「してないよ!!してないってば!!」
ミキサーの針は完全に振り切れていた。
(今だ。キスしろ)
カティスのカンペ。
「できるかーーー!!」
ウッソの悲鳴がブースに響く。
シャクティは楽しそうに笑った。
「ふふ、ほんとにウッソは変わらないわね」
「シャクティが変わりすぎなんだよ……!」
「そうかしら?」
首を傾げ、そのまま肩に頭を預けてくる。
「……っ!」
完全に限界突破。
「本日の記録、いかがだったでしょうか」
ウッソは必死に平静を装う。
「皆さんからのデータパケット、引き続きお待ちしています」
シャクティが優しく続ける。
「宛先は、カサレリア・ストレージ。暗号化して送ってくださいね」
「それじゃあ、今日紹介した活動報告へのリンクも残しておくよ」
ウッソが端末を操作する。
― 二作品が一本の宇宙世紀史として繋がるということ ―
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341087&uid=504230
「次に繋がる声を、僕たちは待ってる」
「あなたの“記録”、聞かせてほしいわ」
窓の外、吹き抜ける風が草を揺らす。
戦いも、日常も、その中に溶け込んでいく。
そしてブースの中では、まだ一人の少年の心拍数だけが、収まる気配を見せていなかった。